AWS・クラウド内製化は小さく始めるのが正解
─外部に頼りすぎない体制づくり入門

1997年にラムナト・チェラッパ氏がクラウドコンピューティングの提唱を行ってから、30年が過ぎようとしています。「クラウド」は今や当たり前の存在になり、電子メールやファイル保管、会計・人事システムなど、私たちの業務や生活に深く浸透してきました。
一方で、企業は長年にわたりDX・IT・クラウド人材の不足に悩まされているのが現状です。
• AWSは導入したが、設計や運用は外部に任せている
• クラウド担当者が限られており、属人化している
• 人材不足のため、システム変更や改善に時間がかかり、DXが進まない
このように、「クラウドは使っているが、使いこなせていない」状態で課題を感じている企業は多いのではないでしょうか。
なぜ今「クラウド内製化」が注目されるのか
近年は生成AIの精度向上により、人材不足の解決策として新たな光明が見え始めています。
生成AI機能やAIエージェント構築サービスが各クラウドベンダーから提供され、これらを活用することで業務効率化や省力化の可能性が広がっています。
しかしながら、AIは、導入すればすぐに価値を生むものではありません。どのデータを使うのか、どこまで自動化するのか、セキュリティやガバナンスをどう担保するのか、クラウドでどう構築するのか。これらを判断し、継続的に運用していくには、依然としてIT・クラウド、さらにはAIに関する基礎的な理解が不可欠なのです。
AI活用さえも「あたりまえ」になりつつある今、注目されるのは「クラウド内製化」です。技術の進化スピードが加速し続けるこれからの時代において、外部に任せきりの体制では変化に追いつくことが難しくなるからです。
エンジニアか非エンジニアかを問わず、自社内で人材を育成・リスキリングし、ナレッジやノウハウを蓄積、次の世代へとつないでいく。この組織的な取り組みこそが、クラウド内製化なのです。
クラウド内製化のメリット
クラウド内製化の最大のメリットは、「やりたいことを、やりたいタイミングで、やりたいように、やりたい人が実行できる」点にあります。外部中心の場合、ちょっとした設定変更や改善であっても、見積・調整・作業待ちといったプロセスが発生し、時間とコストがかかります。
内製化が進めば、現場をよく知るエンジニアが現場判断で、かつ現場主導で迅速に対応できるようになります。その結果、事業スピードそのものを向上させることができるのです。
また、長期的には以下のような効果も期待できます。
• 運用コストの最適化・削減
• 自社要件に最適化されたアーキテクチャ設計
• 自社内にナレッジが蓄積され、クラウド利用の標準化が促進される
内製化が進んだ企業では、「すべてを自社で作る」だけではなく、「自ら考え、選択し、改善できる力」を組織として持つことがゴールになります。設計や構成の妥当性を自分たちで判断でき、コストやセキュリティについて社内で説明できる状態は、AI活用や新サービス検証を進めるうえでの大きな強みとなります。
クラウド内製化のデメリット
内製化のデメリットとして挙げられるのは、やはり時間がかかることです。これは内製化における避けられないトレードオフと言えるでしょう。
メンバーの主要技術に関する習熟度や知識レベルが低い場合、すでに十分なスキルを持つメンバーを集めた場合と比べて、プロジェクトの立ち上がりに時間を要します。そのため、直近でシステムリリースが求められている状況で内製化チームを立ち上げても、まずはメンバーへの教育から始める必要があるため、スケジュールに影響を及ぼす可能性があります。
こうした課題に対しては、内製化支援サービスをうまく活用することが有効です。
教育プログラムの提供はもちろん、AWSの設計に悩んだ際や、構築時のエラー対応などについても、すぐに相談できるパートナーがいることで、内製化に伴う時間的ロスを最小限に抑えることができます。
つまずきやすいポイント
さて、さっそく内製化を進めよう!と考え、いきなりあらゆる業務を内製化に切り替えてしまうと、つまずきやすくなります。なぜなら、クラウド内製化に向いている領域と外部委託が向いている領域が異なるからです。
内製化に向いていない領域の代表例として、24/365の監視や一次対応が挙げられます。これらは即時対応や交代制が求められ、少人数の内製チームで担うと負荷が高く、結果として疲弊や属人化を招きやすいためです。このような領域は、専門の外部サービスを活用する方が、安定性・継続性の観点で適しているケースが多くあります。
また、クラウド内製化を進める中でよくある誤解の一つが、「クラウドに移行すれば、すぐにコストが下がる」という考え方です。
クラウド移行は、移せば終わりではありません。特に、そのまま移す移行(いわゆるリフト&シフト)は、必ずしもコスト削減に繋がらないことがあります。オンプレミスと同じサイズ感で動かし続ければ、使っていない時間も課金が発生し、むしろ割高になるケースもあるからです。
現実的には、
①まずは移行して動かす(リフト&シフト)
②次に使い方に合わせてサイジングや運用を最適化する
③最後に再設計して効果を最大化する(クラウドネイティブ化)
という3段階で捉えるとクラウド移行や内製化のメリットを享受することができます。

コスト最適化は、移行後の継続的な改善で少しずつ効果が表れてくるものです。
そして、この「最適化」「再設計」を進める局面でこそ、内製化の価値が出ます。外部に任せきりだと、改善のたびに調整や作業待ちが発生し、スピードが落ちます。一方で、社内に判断力と実行力があれば、状況に応じて小さく改善し続けられます。
もう一つのつまずきやすいポイントとして、各部署が好き勝手に内製化を進めてしまっているケースがあります。このようなケースだと、セキュリティやコンプライアンスが部署ごとでバラバラになり、統制が効かなくなります。企業が内製化を行う上で大切なのは、チーム・部署・全社が一体となって進め、ノウハウを広く蓄積し、標準化していくことです。
内製化を成功させる"3つの原則"
私たちが長年にわたり内製化支援を行ってきた中で見えてきた、成功のための原則は以下の3つです。
1.内製化推進に対する経営層の協力
2.キーマンの擁立と失敗を許容する文化の醸成
3.小さなものから内製化を始める
1.内製化推進に対する経営層の協力
内製化を推進するためには、外部をうまく活用しながら、社内に判断の中枢を育てていくことが成功の近道になります。
そのために経営層が最初に決めるべきなのは、次の3点です。
• 目的: 何のために内製化するのか
(スピード/コスト削減/セキュリティ統制/新規施策の立ち上げなど)
• 範囲: どこまでを社内で内製化を行い、どこから外部に任せるのか
• 社内体制: 誰が責任を持ち、どの部署がどう関わるのか
この線引きが曖昧だと、現場は「どこまでやっていいのか分からない」状態になり、内製化が停滞してしまいます。逆に、目的と範囲が明確なら、現場は安心して挑戦できますし、外部との役割分担もスムーズになります。ここで重要なのは、「内製化=いきなりすべてを自社でやる」ではない、という点です。内製をスモールスタートし、中枢が育っていくとともに範囲を少しずつ拡大していくことが、時間はかかりますが成功の秘訣となります。
もう一点、経営層の皆様にご理解いただきたいのが、内製化に必要な工数の確保です。
内製化専任体制でスタートできるケースは多くありません。多くの企業では、通常業務と並行して内製化を進めています。しかし、通常業務を継続しながら、さらに+αで内製化を進めると、現場は疲弊し、内製化に対するモチベーションも低下してしまいます。
経営層の皆様にとっては判断が難しい点かもしれませんが、私たちがこれまで多くの企業を見てきた経験から言えば、通常業務を一部減らし、その分の工数を内製化推進に充てることが、内製化を成功させるうえで非常に重要です。
2.キーマンの擁立と失敗を許容する文化の醸成
経営層の意思決定ができたら、次に重要なのは人です。技術に好奇心を持ち、「内製化に挑戦してみたい」と思うエンジニアが中心となるチームを立ち上げる必要があります。このエンジニアがキーマンとなりますが、キーマンはヒーローではなく、知見を広げる推進役です。
技術力が突出しているエース一人で内製化を回せれば、短期的には最小人数・最小コストで進むこともありますが、異動や退職が起きた瞬間に内製化が止まってしまいます。決して、強い個人を作るのではなく、学びが組織に残る状態を目指します。
キーマンによるチーム運営で欠かせないのが、失敗を恐れず、恥ずかしがらず、学びとして受け止める文化です。クラウドをゼロから学び、実際にシステムを作り上げる過程では、試行錯誤と失敗の連続になります。その積み重ねこそが、自社の貴重なナレッジとなり、将来の財産となります。
3.小さなものから内製化を始める
内製化は、いきなり大規模に始めるほど失敗しやすくなります。関係者調整が増え、リスク管理も重くなり、手が止まりがちになるからです。先にお伝えしたとおり、最初は小さいシステムや検証から始めるのが秘訣となります。
例えば、自社ネットワークとクラウドを接続してみる、といった一歩でも十分です。ネットワークがうまく繋がり、pingが返ってきた瞬間の達成感は、多くのエンジニアにとって忘れがたい体験となるでしょう。この達成感や感動が、次の内製化のモチベーションに繋がります。
ただし、本当に重要なのは「小さく始めること」そのものではありません。
重要なのは、そこで得た成功体験や学びを標準化にして、横へ広げていくことです。
小さく作り、うまくいったポイント・つまずいたポイントを言語化する、次の案件で改善しノウハウを蓄積するサイクルを回していきます。
この流れが回り始めると、内製化は「一部の人が頑張る活動」から「組織の力」へ変わっていきます。
今日から始められる「内製化の最初の一歩」
本コラムをお読みの経営層の皆さまには、「クラウドやAIを活用したい」という思いを、ぜひ中長期の人材投資として捉えていただきたいと思います。内製化は現場任せにするものではなく、経営と現場が一体となって進める取り組みです。
エンジニアの皆さまには、日々の業務の中で「ここはクラウド化できないか」「AIで負荷を下げられないか」といった小さな気づきを大切にしてほしいと思います。アイディアベースで構いません。まずは小規模なワークロードの実証実験や、AWSのセキュリティ・コンプライアンスの基本実装から始めてみてはいかがでしょうか。
そして、内製化を本格的に進める方針が経営層・現場の間で見えてきたら、外部の専門家の伴走を活用するのも有効です。
SCSKのクラウド内製化支援
SCSKの伴走型AWS内製化支援(テクニカルエスコート)では、 AWSで課題に直面されているお客様に、AWS認定資格を持つ専門家がチームに加わり、課題解決をサポートします。
AWS導入検討段階から、アーキテクチャ設計レビュー、構築方法のレクチャー、運用改善、さらには生成AI活用まで、お客様の状況に応じて柔軟に支援・教育を行います。
(SCSKは、「内製化支援推進AWSパートナー」であり、さらに「内製化における生成AI活用支援サービスオファリング」として認められています。)

内製化支援において最も重要なのは信頼関係です。悩みや課題、ノウハウを隠さず共有できる関係性が、理解を深め、成果につながります。これまで多くの企業の皆さまと信頼関係を築き、内製化を成功させてきた実績がSCSKにはあります。
「内製化の最初の一歩」を踏み出したいと考えている皆さまは、ぜひSCSKのテクニカルエスコートをご活用ください。