1962年の創業以来、金型技術を用いた「ものづくり」を重視してきた精密部品メーカー。海外拠点とのネットワークを活用することで高品質、低コストの量産体制を確立しつつ、「パワー半導体用リードフレーム」「オプトデバイス」「コネクタ」を3本の柱とした経営を進めている。独自の技術を用いた長寿命金型や、開発から量産まで一貫したサポート体制などを提供することで、国内外のさまざまな企業活動を支えている。
エノモトがERPを導入したのは20 年ほど前のこと。青柳氏は「当時導入したのは海外製のパッケージ型ERP で、材料を購入して生産、出荷するという一連の流れを管理することに限定して利用してきました」と語り、当時抱えていた課題として「効率化や自動化のための機能追加の難しさ」と「高額なサポート費用」を挙げた。
当時のERPにカスタマイズが必要になったときはベンダーや業者に依頼することになり、時間もコストも余計にかかってしまう。さらに使い勝手にも不満があった。
「以前のERPは所要量などを計算する機能が使いにくく、結局は別の表計算ソフトを使って各工場が個別に対応していました。これでは手動でやるようなものですから、作業に遅れが生じ、計算に時間がかかってしまいます」(青柳氏)
そのほかワークフローはERPとは別のシステムを導入していたため、ひとつのシステムですべてを一元管理したいという考えもあった。
その上で、ERPリプレースの大きなきっかけとなったのが、年間数千万円もの保守やライセンスにかかる費用だった。「2019年ごろに上長から費用を削減できないかという相談がありました。ちょうどERPのサーバーのサポート期限の時期と重なっていたこともあり、そろそろリプレースやDXへの移行について具体的に考えなくてはと思っていたときに、タイミングよくSCSKのatWill担当者から電話があったのです」と青柳氏は振り返る。
SCSKのatWill は主要な機能を業務テンプレートとして提供する生産管理システムだ。また、高速開発ツールatWill Platformが標準で搭載されており、カスタマイズや機能追加も効率良く実現できる。
「atWillは主要な機能はすでに用意されているので短期間、かつ安価に構築できます。必要な機能だけをセレクトする形でも導入できるのでコストも抑えられ、足りない機能のカスタマイズや追加開発も容易でした」(青柳氏)
また、atWill Platformを使って、自分たちでも簡単に機能を追加、修正できる点も評価された。帳票や画面構成などは、従業員の意見を聞きながら自分たちで変更することも可能だ。
開発にかかるコストが、パッケージ版を提案してきた業者よりも半分以下、保守費用も以前に比べて約3分の1に抑えられる点も決定を後押ししたという。
何より魅力的に映ったのは、SCSK が自社開発した製品である点だ。
「やはり開発元の社員が構築プロジェクトに入り、サポートもしてくれるという安心、信頼感が、決定する上で大きなポイントとなりました。SIerと製品ベンダーが異なると、問い合わせをしても回答までにタイムラグが生じますが、SCSKは質問したその場で答えてもらえることもありました」(青柳氏)
数社の提案を比較検討した上で、2020 年8月atWillの採用が決定し、構築プロジェクトが動き出した。
構築フェーズにおいて、現場部門の意見を集約し情報システム室やSCSKにつなぐのが企画管理部 企画管理課 第1係 主任の大島絵美氏だった。システム開発に関わるのは初めてという大島氏だったが、「SCSKとうまく役割を分担し、連携しながら進められた」と述べる。
「簡単に対応できるものは情報システム室がatWill Platformを使って対応し、ちょっと難しそうなものはSCSKに相談するというように柔軟に進めていきました。atWillであれば高速開発ツールを使って実際に動作するところを現場の人に見せられるので、すぐに意見を拾えますし、調整を依頼してから反映されるまでの過程も非常にスムーズでした」(大島氏)
「昔から使ってきた帳票の形式には、今後も継承したいものもあります。しかしエノモト流の帳票の作り方をSCSKに伝えて開発してもらうより、自分たちが望む形式の帳票を自分たちで作るほうがスピーディーですし、コストも抑えられます」(青柳氏)
両社が連携して新たな機能を開発するケースもあった。IoT を用いて工場内の生産設備からデータを自動的にatWillに連携する機能は、IoTデータと作業者の実績を紐づける部分を情報システム室が開発し、IoT機器との連携とデータを受け取ってからの処理はSCSK が開発している。このような共同作業もatWill Platformをうまく活用した例である。
2022年4月atWillのシステムは完成し、本番稼働を迎えた。atWill がカバーする領域は、販売管理、生産計画/製番管理、金型管理、製造管理、購買管理、在庫管理、品質管理、原価管理など、ものづくりのあらゆる場面にまたがっている。生産工程の状況や納期の可視化によって生産計画立案の自動化や製造工程管理の効率化も進んだ。利用ユーザー数も約200名から約500名に増え、全社でのシステム活用が進んでいる。
新たに導入したIoTやタブレットの活用は、ものづくりの精度向上やDXに寄与すると期待されている。以前は、工場で紙の帳票に記入し、それを受け取った入力オペレーターがERPに入力していたので、情報にタイムラグが発生していた。 現在は、工場などでの仕事内容をその場でタブレットを使ってatWillに登録される。リアルタイムに情報が更新されるので、情報の鮮度は大きく向上した。
「検査結果も出荷状況、売上状況などが常に見られる点は、管理側には大きなメリットです。いつでも最新のデータを確認して、何らかの異常発生にも気づきやすくなっています」(大島氏)
また製造に使用する金型やパーツは長年使いつづけると摩耗するので、劣化したタイミングで修理する必要がある。これも生産設備にIoT 機器を取り付け、プレス回数などを正確に記録し、部品の摩耗や故障の検知、予見につなげようとしている。
購買EDIもワークフローと組み合わせて双方向にやり取りできるようにした。旧システムでは発注を目的とした一方通行だったが、双方向にしたことで取引先からの返答である納期などもatWill の画面上でわかるようになった。納期を正確に把握することで、過剰在庫を防ぐことも期待できる。
(右から)株式会社エノモト 青柳 正美 氏
株式会社エノモト 大島 絵美 氏
SCSK株式会社 澤入 明奈
両氏はatWillへの移行によって大きく変わりつつあるのは「従業員の意識」だと感じている。
「昔は、誰かに依頼しないと資料が見られない、資料ができあがるまで待たなければいけない状況がありました。例えば原価管理の表は毎月1回作成していましたので、見られるのは月次データでした。しかし、いまではデータがリアルタイムで蓄積され、いつでも日次の最新データにアクセスできます。誰かに依頼しなくても、いつでも自分で操作して最新データを見ることが浸透していけば、働く意識も変わってくるのではないでしょうか」(大島氏)
国内拠点のERPをatWillに切り替えたエノモトが取り組んでいるのは、海外拠点への展開だ。手始めに2023年5月を目処として、フィリピンにある生産拠点のERPを、atWillへ切り替える取り組みを進めている。
「海外を含めた全拠点のERPをatWillに統一することで、海外を含めたオール・エノモトのデータをリアルタイムに共有したいですね。それによって、利便性や競争力が高まることを期待しています」(青柳氏)