現場にもマネジメントにも絶大な効果を発揮!
ヤマハ発動機株式会社
RPA導入プロジェクト責任者
生産本部 生産戦略統括部 生産管理部長 田代 哲哉 氏(右)
RPA導入プロジェクト担当者
生産本部 生産戦略統括部 生産管理部 管理グループ 統括管理グループ 村松 克二 氏(左)
生産本部 生産戦略統括部 生産管理部 管理グループ 統括管理グループ
(本籍:ヤマハ発動機ビズパートナーより派遣就業) 柴山 智子 氏(中央)
ヤマハ発動機は、世界30か国・地域のグループ140社を通じた開発・生産・販売活動を行い、企業目的である「感動創造企業」の実現に取り組んでいるグローバル企業だ。今や、同社の製品は180 を超える国・地域の顧客に提供され、連結売上高の約9 割を海外で占めるに至っているという。
パワートレイン技術、車体艇体技術、制御技術、生産技術を核とし、二輪車や四輪バギー、電動アシスト自転車などのランドモビリティ事業、ボート、船外機などのマリン事業、サーフェスマウンターやドローンなどのロボティクス事業、さらには、ファイナンス事業など、多軸に事業を展開している同社がRPAを導入することによって実現させた、マネジメントサイクルの高速化は同社にどのような成果をもたらしたのか。その実態に迫る。
※ 2019年12月末時点における定量数値です
RPA導入のきっかけ
田代 当社がRPAを検討し始めたのは、経営層から『マネジメントサイクルを上げ、人を含めた効率を上げていく』という方針が示されたことがきっかけです。われわれ間接部門としてもスタッフの効率を上げ、よりクリエイティブな仕事に労力を向けられるよう取り組むことになりました。
村松 当社の方針を実現できる良いツールがないかとSCSKさんに相談して紹介されたのがWinActorです。その後、間接部門の職員に対し、RPAとはこういうものだという概要を紹介する説明会を3回、ロボットの作り方を説明する説明会を3回開催しました。
村松 現場への理解を深めていくと同時に経営層にもその必要性を提案し、最終的にわれわれ生産本部内でRPAを導入、推進していくことが決定し各部門長を通じて号令がかかったのです。
村松 こうしてRPA導入プロジェクトは、2018年7月われわれ生産管理部を事務局とし、全社タスクとして発足しました。
RPA導入時の体制
村松 最初に全体の方針を決めて周知し、具体的な展開方法は各部門に任せる方針をとりました。部門ごとに任命された担当者が、われわれ事務局とコミュニケーションしながら展開を進めていくかたちです。
村松 こうしてすべての部門が一斉に業務のRPA化に取り組むわけですから、統制が重要です。部門ごとの取組みが重複しないよう情報共有を活発に行い、さまざまな調整を図りながら、効率を重視して展開を推し進めていきました。
村松 全社への展開が始まった後の全体的な流れとしては、まず事務局でWinActorを導入する部隊に説明会を開催し、その後ユーザ自身でロボットを作り始めてもらい、困ったことや分からないことがあれば柴山さんにサポートを仰いで完成させていくというものでした。
村松 そうはいっても、われわれ事務局もRPAは初めてでした。今でこそWinActorの有識者として社内の展開支援やサポート、人材育成に活躍いただている柴山さんも、当初はWinActor知識の習得に大変だったろうと思います。
柴山 そうですね、大変だったところも勿論ありました。ですが、私はRPAを担当するまでは社内向けにパソコンのインストラクターをしており、その頃から事務作業でのデータの加工、集計に有効なツールとしてエクセルマクロをレクチャーしていました。ですから、RPAとしても、ツールとしてのWinActorも初めてではありましたが、エクセルマクロと目的は同じなので、親しみやすかったです。
RPA導入時のポイント
柴山 WinActorの先生として私が特に意識したことは、ユーザの立場に立って考えることでした。例えば、業務をRPA化するからには完全自動化を目指したいところですが、WinActorの起動とロボットの実行は通常は手動で行います。これはユーザからすると非常に面倒です。
柴山 思案した結果、WinActorを操作するコマンドをバッチファイル化して、Windowsのタスクスケジューラで時間起動できるようにしてユーザに提供しました。バッチファイル化することで非常に便利にWinActorを操作できるようになります。
柴山 しかし、バッチファイルは一般のユーザには難しく、気軽に操作できるものではありません。そのため、時間起動以外にも好きなタイミングで実行できるよう、エクセルから起動できるようにも工夫し、ユーザの不便さ解消に努めました。
柴山 こういったITの専門知識を駆使するのは私の役割として、一方、ロボットを作成するということではユーザみなさんが私と同じようになっていただく必要があります。最初の説明会だけでなく、まずは簡単なロボットを自分自身で作れるようになるまでマンツーマンで説明し、作ってもらうといった取り組みも行いました。
田代 ただRPA化を押し付けるのではなく、ユーザがRPA化に安心して取り組めるよう、寄り添ってサポートできたことは、RPAを定着させる意味で非常に大きかったと思います。
RPAを導入したことの成果
田代 会社には膨大な情報が日々蓄積されています。さまざまなシステムにそれぞれ違った形式でデータが存在し、われわれは日々必死に探し当て、そのデータを利用してマネジメントしています。非常に大変な作業です。
田代 RPA化した今では、WinActorが自動的にデータを集めてグラフ化までして見せてくれます。これまでのようにデータのすべてを見なくても、注目したい項目だけを見られるようにもなりました。非常に仕事が楽になりましたし、従来は大変な作業なので月に1回だったのが、いまはデイリーでチェックできるようになりました。これは非常に大きな変化でした。
田代 チェックが月に1回だった頃は、問題は月末になって初めて発覚していましたが、今はもっと早く問題に気づけ、即対処し、月末にはもう解決できていることもあります。これは、マネジメントする立場にとっても、事業にとっても大きな成果でした。
村松 あと、高い効果を実感しているのがアラーム機能の実装です。もともとRPAでの自動化は業務効率を上げるため、作業時間を短縮するために導入したのですが、自動化した後、次のステップとしてわれわれはアラーム機能を設け管理機能を強化したのです。
村松 アラーム機能の使い方としては、例えば本部内の経費が計画に対して上振れしていないかをデイリーでチェックして、上振れするとメールで通知するといったことです。計画に対して上振れした状況をすぐ部門に確認できるので、上振れ要因が早く把握でき、対策できるようになりました。
村松 経費だけでなく、海外生産拠点の進捗もデイリーでチェックしてアラームを上げています。計画に対して閾値を設け、閾値から一定の差異が出るとメールで通知されます。
田代 データは過去からずっとあったのです。各製造現場、各部門の職場単位でデータはやまほどありました。それを皆が一生懸命現場で探して加工して可視化して、それを見ながら対策を練っていたのが、今では既に可視化されたものをすぐ見ることができる。本当に素晴らしい変化です。
利用が拡大しているポイント
田代 生産本部全体での共通の取り組みとしたところが順調に拡大させることができた大きな要因だと思います。各部門がそれぞれ異なる取組みをしていたらここまで広がらなかったのではないでしょうか。
田代 共通の取組みとしたことで結果的にWinActorを使って業務を自動化することに長けた人材を、短期間に多く育成することができました。現場では、WinActorを使いこなせる人が先生となって、また新しい先生を作っていくという良い流れができています。
村松 WinActorを扱える人が生産本部と異なる本部に異動し、その異動した先で広めてくれるといった流れもあります。あと、生産本部の本部長が、その成果を他の本部長に宣伝してくれていることも生産本部以外にも広がっている一つの要因かもしれません。
村松 そういえば最近ではインドネシアなどの駐在員がRPAの取組みを聞きにきたりもしていますね。
田代 異動といえば、当社は異動がとても多く短期間で担当する業務が変わることもめずらしくありません。異動して間がなく、業務が把握できていない頃にこのようなRPAがあると作業を滞らせることもないので、そういったことでも非常に助かっています。
WinActorに期待すること
柴山 画像判定の機能向上です。 Windows7からWindows10へのバージョンアップを行った際、画像マッチングに利用している画面キャプチャの差し替えをしなければならないものがありました。当社の場合まだWinActorを導入して日が浅かったので影響は少なかったのですが、今後のバージョンアップ対応時に一定のメンテナンス負荷がかかることが予想されます。
柴山 WinActorのバージョンが上がるにつれ、画像マッチングの判定精度が上がってきている実感はありますが、それでもOSのバージョンアップなどの大きな変更やWEBサイトのレイアウト変更が発生した際などへの影響は依然あると思います。
柴山 もちろんExcelや画像マッチングに頼らず自動化できるシステムもたくさんあります。ですが、一部の社内システムや構造解析できないWEBサイトなどでは、画像マッチングを多用せざるをえない現実もあります。画像判定の課題はWinActorに限らず、すべてのRPA製品共通の課題だと思いますが、その中でWinActorは先陣を切って向上してほしいですね。
今後の取組み
田代 当社では近年、『理論値生産』に取り組んでいます。これは、生産におけるさまざまな作業を分析し、本当に価値を生む作業だけを『価値作業』として、現状をそこに到達させるための努力を永遠に続けていく生産効率化手法です。2008年から10年以上に渡り取組み続けておりますが、その成果が現れ始め、それに伴い現場も変わってきました。
田代 現在では、『理論値生産』を応用した理論値思考をもとに、さまざまな分野に取り組みを拡大しています。『理論値エナジー』や『理論値物流』、そしてわれわれの部門では『理論値間接』です。
田代 つまり、間接スタッフの生産性向上を理論値思考で取り組むということですが、私はムダな時間を削減、効率化するという『時間』という軸だけでなく、仕事の『価値』という軸も重要だと考えます。時間を短くしなくても、同じ時間でより多くの成果を出すことができればその仕事の価値は上がります。『価値』と『時間』、この2つの掛け算でスタッフの生産性をあげていきたいと考えています。
田代 もうひとつ、生産性を向上させるためには、3つの重要なポイントがあります。それは、作業の質を変えること、業務そのものを変えること、そして組織を変えることです。
田代 こういった理論値間接を進めている中のひとつの取組みがRPAです。RPA化することで業務の質を変えたり、また無くすことができたものもありました。
田代 グループ全体で見るとまだWinActorを導入できていない部門もあります。グループ内のパイオニアとして今後は海外、子会社含めサポート、教育を行っていき、グループ全体の業務効率化を推進していく予定です。