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時間がかかる解析の効果を短時間で出すためのAI活用法

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​ 「サロゲートモデル」は、限られた入力条件に対して評価された出力をサンプル(教師)データとして、入力に対する出力の応答を代数式に近似することで、未知の入力条件に対する出力を瞬時に予測できるモデルです。特に、多数の設計候補について性能を評価・比較しながら進める工学設計において、サロゲートモデルの利用は時間短縮のために必要不可欠となっています。

一般的に、複雑な応答を近似するためには、サロゲートモデルの表現自由度を上げることが望まれます。そのためには、モデルを記述するパラメーターを増やすことが必要となりますが、パラメーターの調整すなわちサロゲートモデルの構築に要する時間が長大化することに繋がり、時間短縮を目的としたサロゲートモデル本来の効果が薄れてしまいます。また、従来のサロゲートモデルのように、1つの関数で表現できる応答には限度があるため、低自由度(スカラー)の応答の予測に限られていました。

そこで近年、関数を何層にも入れ子状に組み合わせた複合関数を用いて任意の連続応答を近似できる万能性(万能近似定理)[1]を唱った「ニューラルネットワーク(Neural Network: NN)」など、「機械学習」をベースとしたサロゲートモデルが注目を浴びています。特に、流体力学をはじめとした物理現象など、高自由度(ベクトル)の応答の予測モデルとして有力視されています。機械学習をはじめとしたAIの活用については、既に筆者の技術コラム [時間がかかる解析の効果を短時間で出すためのAI活用法 第五回:ビジネスへの適用の話 これからのAI活用]で簡単に紹介しました。ここでは、機械学習モデルの利用方法について、これまでに筆者らが取り組んできた研究を交えて紹介します。

1.機械学習モデルにおける教師データの削減方法

画像認識の分野で利用される「畳み込みニューラルネットワーク(Convolutional Neural Network: CNN)」[2]を用いて、翼型形状周りの流れ場を予測する事例を紹介します。

CNNの入力は対象形状の符号付き距離関数(形状表面から画像内の各ピクセルまでの最短距離、形状表面および形状内部では0で統一)、出力は形状周りの流れ場(速度および圧力)とします。入力側のエンコーダーでは、入力画像サイズを畳み込み層やプーリング層を用いて小さくしていき、それと同時に画像のチャンネル数(奥行き方向における枚数)を増やします。このように、入力画像の情報量を削減しながら入力画像の特徴量(潜在変数) を抽出します。出力側のデコーダーでは、削減された情報量に畳み込み層やプーリング層の逆の操作を施すことで、画像サイズを拡大し入力画像と同じサイズに戻します。

一般的に、CNNは大量の教師データを必要とすることが往々にしてあり[3]、予測モデルの構築に膨大な計算コストを要します。そこで筆者らは、必要最小限の教師データでCNNを有効活用するために、「変分オートエンコーダー(Variational Autoencoder: VAE)」[4]を併用して教師データを適宜選定する手法を検討しました。VAEの入力は対象形状の符号付き距離関数であり、入力側のエンコーダー(畳み込み層)は先述のCNNと共通のものを使用します。出力側のデコーダーでは先述のCNNと異なり全結合層が用いられ、エンコーダーから抽出された潜在変数によって復元された形状座標をVAEの出力とします。
最初に、すべての教師データ(ここでは100形状)を用いて、VAEを構築します。VAEの損失関数は、教師データとして与えた形状座標の正解とVAEが出力する形状座標の誤差とします。次に、VAEのエンコーダをCNNに再利用した上で、CNNのデコーダを構築します。CNNの損失関数は、教師データとして与えた流れ場の正解(ここでは、数値流体力学(Computational Fluid Dynamics: CFD)による予測)とCNNが出力する流れ場の誤差とします。ここでは、CNNの教師データとして、100形状すべてを用いた場合と、100形状からVAEが抽出した潜在変数(ここでは2次元)空間上で近接する20形状を削除した(すなわち、80形状を用いた)場合を比較します。

教師データとは別の形状についてCNNが予測した流れ場を比較すると、すべての教師データを使用した場合には、流れの一部が翼型内部に入り込んでしまうという、非物理的な予測結果が得られました。一方、VAEにより類似する教師データを削除した場合には、正解との平均二乗誤差がより小さい、物理的に正しい予測結果が得られました。以上より、教師データに類似したものが含まれることはCNNの予測精度に逆効果であり、教師データのサイズを犠牲にしてでもデータの一様性を確保する方がCNNの予測精度の改善に効果的であることが示されました。さらに、他の形状についてもCNNの予測精度の改善効果が確認され、教師データの一様性を確保することがCNNの汎化性能にとって重要であることも示されました[5]。

2.物理情報に基づく機械学習モデルにおける学習の適合化手法

先述のCNNを含む一般的な機械学習モデルは、教師データを必要とします。流れ場予測に応用する多くの場合、CNNの教師データはCFDによって作成されます。しかし、CFDの計算コストは往々にして高いため、教師データの作成は容易ではありません。また、離散化解法であるCFDの精度を教師データを介して受け継ぐため、CNNによる予測結果はCFDの離散化誤差を間接的に含んでしまいます。

そこで、教師データを必要としない画期的な機械学習モデルとして提案された「物理情報に基づくニューラルネットワーク(Physics-Informed Neural Network: PINN)」[6]に注目します。PINNは、解析領域内の任意の座標における流体物理量を予測するNNを、流れ場が満たすべき支配方程式(Navier–Stokes方程式など)の残差および境界条件(壁面で滑りなし、など)の残差の最小化を損失関数とすることで構築したものです。支配方程式に含まれる微分項は、NNの出力を入力で自動微分(NNの各経路に沿って連鎖的に微分)することで解析的に求まるため、PINNは原理的には離散化に依らない流れ場の予測を可能としています。

ここでは、PINNを用いて、平板の前縁から発達する層流境界層を有する流れ場を予測する事例を紹介します。PINNの損失関数は、解析領域内で無数の点をサンプルし、各サンプル点で算出される残差をすべての点で足し合わせたものとします。PINNで使用するサンプルの点数やネットワーク規模が十分に大きくないと、PINNで流れ場の特徴を正確に捉えられません[7]。これは同時に、PINNの学習時間の長大化を引き起こします。また、PINNの予測結果はサンプルの密度に対して敏感に変化し、淀み点や境界層など局所的かつ急激に物理量が変化する領域においてはサンプルを細かく配置する必要があります[8]。
そこで筆者らは、損失関数を評価するサンプル点の総数を保ったまま、サンプルを解析領域内に適合的に配置する手法「空間適合サンプリング」を検討しました。最初に、解析領域内にサンプルをランダムに配置し、サンプルの各点でPINNの出力に対する支配方程式の残差を計算します。次に、算出された残差がある閾値を超えたサンプル点の周辺(最も近くにある他のサンプル点までの距離を半径とした球内でランダム)に、新たなサンプル点を追加します。さらに、サンプル点の総数を一定に保つために、追加したサンプル点と同数のサンプル点を解析領域全体からランダムに削除します。これにより、PINNの予測精度が怪しい領域に重点的にサンプルを配置することが可能となり、PINNの予測精度の改善が期待されます。また筆者らは、PINNの学習過程での反復(エポック)の度に算出される支配方程式および境界条件の各残差の大きさに応じて、各残差の最小化を適合的に重み付ける手法「エポック適合重み付け」も検討しました。

一様サンプルを用いた通常のPINNによる予測では、淀み点が前縁から離脱し、境界層が厚くなるなど、平板近傍で発生する流体物理量の急激な変化を正確に捉えられません。次に、「空間適合サンプリング」の後に「エポック適合重み付け」を適用したPINNでは、淀み点の位置は前縁に近付きましたが、依然として境界層を厚く予測します。その一方で、適合の順番を変えて、「エポック適合重み付け」の後に「空間適合サンプリング」を適用したPINNでは、物理的に正しい流れ場を予測できました。「空間適合サンプリング」は局所情報に基づく適合処理である一方、「エポック適合重み付け」は損失関数の解析領域全体の情報に基づく大域的な適合処理であると言えます。よって、大域的適合を施してから局所的適合に移行した方が、学習の停滞(損失関数の局所最小解)を効果的に避けられると推測されます[9]。

参考文献

  • [1] Cybenko, G.: Approximation by superpositions of a sigmoidal function. Mathematics of Control, Signals and Systems, 2: 303–314 (1989).
    https://doi.org/10.1007/BF02551274
  • [2] Fukami, K., Nabae, Y., Kawai, K., Fukagata, K.: Synthetic turbulent inflow generator using machine learning. Physical Review Fluids, 4: 064603 (2019).
    https://doi.org/10.1103/PhysRevFluids.4.064603
  • [3] Guo, X., Li, W., Iorio, F.: Convolutional neural networks for steady flow approximation. Proceedings of the 22nd ACM SIGKDD International Conference on Knowledge Discovery and Data Mining: 481–490 (2016).
  • [4] 谷口真潮,新谷浩平,小野寺啓祥,大塚紀子,勝原忠典: VAEを用いた3次元形状生成技術の開発およびCAE解析への適用.自動車技術会論文集,54 (5): 1074–1079 (2023).
    https://doi.org/10.11351/jsaeronbun.54.1074
  • [5] Saito, R., Shimoyama, K.: Influence of training data on the accuracy of flow field predicted by a supervised neural network model. 11th JSME-KSME Thermal and Fluids Engineering Conference (2025).
  • [6] Raissi, M., Perdikaris, P., Karniadakis, G.E.: Physics-informed neural networks: A deep learning framework for solving forward and inverse problems involving nonlinear partial differential equations. Journal of Computational Physics, 378: 686–707 (2019).
    https://doi.org/10.1016/j.jcp.2018.10.045
  • [7] Ang, E., Ng, B.F.: Physics-informed neural networks for flow around airfoil. 2022 AIAA Science and Technology Forum and Exposition (AIAA SciTech 2022): AIAA 2022-0187 (2022).
    https://doi.org/10.2514/6.2022-0187
  • [8] 山岡嵩明, 奥原景太, 下山幸治: 物理情報に基づく領域分割型マルチニューラルネットワークを用いた流体解析手法の提案.日本流体力学会年会2024 (2024).
  • [9] Yoshida, S., Shimoyama, K.: Improving the accuracy of flow field prediction by a physics-informed neural network with space-adaptive sampling and epoch-adaptive weighting. 11th JSME-KSME Thermal and Fluids Engineering Conference (2025).
著者紹介
九州大学 大学院工学研究院 機械工学部門 教授  下山 幸治 様

九州大学大学院工学研究院機械工学部門教授。日本機械学会フェロー。日本機械学会計算力学部門「数理から知的活動に繋げる代替モデリング研究会」主査。
米国スタンフォード大学、仏国エコール・サントラル・リヨンで在外研究を経験。インドネシア・バンドン工科大学Adjunct Professor。
東北大学流体科学研究所助教・准教授を経て2023年より現職。専門は流体工学、設計工学、航空宇宙工学、データ科学。趣味はスキー。

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