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複合領域の最適化を実現するためのAI・最適化技術

​ 「複合領域の最適化を実現するためのAI・最適化技術とデジタルプラットフォームの活用」と題し、pSeven Desktopの概要と活用事例を紹介します。複合領域の最適化について、前提条件となる情報の整理と課題を技術的な視点で紹介します。

複合領域の最適化とは

製造業を取り巻く状況

製造業を取り巻く環境は、環境問題、労働環境の変化、市場競争の加速化といった要因により、大きく変化しています。そのため、より効率的なものづくり体制の構築が求められています。環境問題に関しては、脱炭素や省資源をテーマに、約60〜80%の企業が新規領域に取り組んでいます。従来の単純な性能評価だけでなく、複数の観点からの評価や、新たな領域における評価基準の確立が必要とされています。
また、労働環境に目を向けると、労働人口の加速度的な減少は避けられず、各企業において人材の確保がこれまで以上に困難になっています。その結果、従来のように人的リソースを多く投入する労働集約型の働き方は、今後ますます実現が難しくなるでしょう。これに対応するためには、デジタル技術やAIの活用を進め、効率性の高いものづくり体制と連携させていくことが不可欠です。

【効率性が高いモノづくり】並行開発で求められる相互作用の評価

効率性が高いものづくりとは、並行開発や複合領域の最適化を取り入れることを指します。特に、並行開発が求められる総合作用の評価が重要になります。例えば、バッテリー1つをとっても、劣化シナリオの予測、熱挙動の解析、制御側へのフィードバックなど、多岐にわたる観点での評価が必要です。さらに、これ以外にもさまざまな視点からの検討が求められます。このような状況下では、各コンポーネントやセクションを並行して開発することが不可欠です。それぞれの領域の総合作用を考慮しながら、高性能な製品を短期間で実現することが求められています。その結果、複合領域の最適化がますます注目を集めるようになっています。

「横断」によるデジタルエンジニアリングの高度化

並行開発・複合領域の考慮を業務に適用する動き

近年、航空宇宙分野を中心に、デジタル技術の進歩に伴い、多変数・複数領域を同時に考慮した取り組みが活発化しています。継承範囲に対する検証時間の短縮や、ワークステーションやPC上でも十分な解析が可能になることで、現実的な計算時間内でシミュレーションできる環境が整ってきています。
複合領域の最適化において、特に注目されるのが航空宇宙分野です。先進性が求められる領域では、単一領域のみの最適化では実現が難しく、複数領域の限界点が設計の制約となるケースも少なくありません。一方、自動車分野ではMBD(モデルベース開発)を中心に、1D CAEの活用によるデジタル検証領域の拡大が進んでいます。これにより、各コンポーネントの詳細度を適切に調整しながら、複数領域を前倒しで検証し、領域横断的な高精度な分析と設計を実現しています。

並行開発・複合領域の考慮を業務に適用する動き

複合領域最適化の課題

複合領域の最適化には多くのメリットがありますが、同時に大きな課題も存在します。この課題を「技術」と「運用」の二つの観点から整理し、それぞれの対応策を紹介します。前半では、技術的な課題に焦点を当て、pSeven Desktopを中心に紹介します。解析業務においてよく挙げられる課題として、計算速度、分析・可視化、最適化の計算回数が挙げられます。

計算速度の課題

複数の領域を解析するためには複数のソルバーが必要となり、計算時間の長期化が避けられません。近年では、AIサロゲートモデルを活用し、次元削減や近似モデルによる高速化が進んでいます。

分析・可視化の課題

変数の増加や複雑な相互関係により、設計空間が可視化しづらくなる問題があります。これに対し、AIサロゲートモデルを用いた挙動の可視化や、ガウシアンプロセスベースを活用した不確実性の考慮が有効な手段として挙げられます。

最適化の計算回数の課題

設計空間が広大になると、従来の最適化アルゴリズムでは収束に膨大な計算回数が必要になります。この課題に対し、AIベースの最適化手法(ベイズ最適化、サロゲートモデルの活用)、進化アルゴリズム(遺伝的アルゴリズム)を組み合わせることで、計算の高速化を実現できます。また、計算インフラやツールの強化も一つの解決策となります。一方で、運用面においても重要な課題が存在します。特に、複合領域を担当する技術者や部署が異なるケースが多く、組織横断での連携が大きな課題となっています。

組織間の情報連携

各部門で使用するソフトウェアやドメイン知識が異なるため、情報共有に多くの手間がかかります。近年では、スクリプトを活用したデータ連携の取り組みが増えていますが、従来の自動最適化ソフトウェアを活用し、よりシームレスに連携する動きも進んでいます。

共通基盤の構築

今後、最も加速的にニーズが高まると予測されるのが、共通のデジタルエンジニアリング基盤の構築です。複合領域の最適化を進める上で、この基盤をどのように構築・運用していくかが重要なテーマとなっています。
しかし、これらの基盤を構築・運用するには高度な技術要件を満たす必要があり、そのスキルを網羅的に備えた人材は極めて少ないのが現状です。そのため、人材確保や予算確保といった新たな課題も生じています。こうした技術的課題・運用上の課題に対し、各製品がどのように対応できるのかを具体的に紹介していきます。

【複合領域の考慮・最適化】pSeven Desktopの機能から考える「技術の観点」

pSeven プロダクトライン

各課題の対応方法を説明する前に、pSevenのプロダクトラインについて紹介します。
pSevenの開発元はフランスに拠点を置くpSeven社であり、同社はAirbus社および大学の研究部門と共同で、最適化や機械学習アルゴリズムの研究開発を進めてきました。その成果をもとに、Pythonライブラリとして商用化を開始したのがpSevenのスタートです。しかし、アルゴリズム単体では使いこなすのが難しいため、ローカル環境で直感的に操作できるGUIを備えたpSeven Desktopが開発されました。

【複合領域の考慮・最適化の課題】技術の観点

技術的な課題として、複数の領域を計算する際の計算時間の増大が挙げられます。横軸に項目名、縦軸に計算時間をとった場合、必要な最適化の総計算時間は、各ブロックごとの一回あたりの計算時間の合計となります。しかし、ピンクの線で示した使用可能工数の上限を超えてしまうため、複合領域での最適化を試みると計算負荷が大きくなり、実施が難しくなるケースが多く見られます。特に、変数の数が増えると、それに比例して理論上の計算回数も増大します。その結果、計算負荷の高さから最適化を諦めてしまう、あるいは手作業で進めざるを得ない状況が発生します。
この課題に対するアプローチとして、以下の二つの方法が考えられます。

アプローチA:一回あたりの計算時間を短縮する

計算速度を向上させることで、使用可能工数の上限内で必要な反復回数を確保し、要求される設計リードタイム内で解決を図る方法です。

アプローチB:反復回数を削減する

CAEの最適化を行い、限られた計算回数の中で最適解を導き出す方法です。計算回数を抑えながらも、要求を満たす最適化を実現することが求められます。 これら両方のアプローチを支援する手法として、サロゲートモデルを活用したアプローチが注目されています。今回、この二つのアプローチ(アプローチA、アプローチB)について、pSeven Desktopの機能を通じて具体的に紹介します。



【複合領域の考慮・最適化の課題】技術の観点

AIベース最適化による探索の加速化(アプローチA)

アプローチA:事前構築したサロゲートモデルを活用した最適化

このアプローチでは、サロゲートモデルやAIモデルを用いて最適化を行います。サロゲートモデルの大きな利点は、実行時間が非常に短く、数秒で処理が完了するため、十分な反復回数を確保できる点です。弊社で取り扱っているNeural Concept Studioも、このアプローチを支援する製品の一つです。
Neural Concept Studioでは、サロゲートモデルを活用し、遺伝的アルゴリズムを組み合わせることで形状最適化を効率的に実行できます。遺伝的アルゴリズムと進化アルゴリズムを組み合わせることで、より強力な最適化が可能になっています。
ただし、CAEほどの高精度には至らないものの、ある程度の設計要件を満たす精度が求められます。また、この手法の適用には深層学習や高度なデータサイエンススキルが必要となるため、モデルの構築やサンプルデータの収集が課題となる場合があります。特に、十分なデータを用意する必要があるため、CAEの工夫によって計算時間を短縮し、その結果をもとに効率的なデータ収集を行うことが、アプローチAの重要な要素となります。

【事前構築したサロゲートモデルで最適化】複数プロジェクトの同時最適化(アプローチA)

アプローチAの具体的な進め方は、基本的に、複数のプロジェクト間でサロゲートモデルを構築し、それを活用して最適化を進めることで、効率的な計算プロセスを実現します。このアプローチを取ることで、個々のプロジェクトが連携しやすくなり、全体の最適化をスムーズに進めることが可能になります。
実際の事例では、まず各プロジェクトで実験計画法(DoE)を活用し、必要なデータを収集します。その後、それぞれのプロジェクトごとにサロゲートモデルを構築し、精度を十分に確認した上で、これらのサロゲートモデルを連携させます。こうすることで、同時に最適化を進めることができ、例えば30分間で2,000回以上の計算を実行することも可能になります。このように、個別のサロゲートモデルを活用しながら、プロジェクト間の連携を強化することで、最適化プロセスを大幅に効率化できるのが、アプローチAの基本的な考え方・方針となります。

【事前構築したサロゲートモデルで最適化】複数プロジェクトの同時最適化

データ収集・設計空間の構築(アプローチA)

データ収集からスタートする必要がありますが、pSeven Desktopは新規データ収集において、多様な実験計画法(DoE)と強力な自動化機能を提供し、業務の効率化をサポートする製品です。これにより、データ収集のプロセスを円滑に進めることができ、最適化のための準備が整います。

【機能紹介】外部ソフトウェアとの連携機能(アプローチA)

自動化の方法として、pSeven Desktopは各ソフトウェアとダイレクトにインターフェースを提供しています。汎用的に使用できるジェネラルインターフェースを備えており、コマンドやスクリプトを手動で記述する必要はなく、マウス操作だけで簡単に連携することができます。これにより、外部ソフトウェアともスムーズに連携でき、業務の効率化が図れます。

 

【機能紹介】強力なワークフローエンジンの搭載(アプローチA)

自動化のワークフローエンジンは、形状を変えてCAEを実行するシンプルな自動化設定はもちろん、複雑な最適化問題にも対応できます。例えば、流体と構造の最適化アルゴリズムを別々に実行しながら、全体の最適化を進めるという、ネストされた二重ループのような複雑なワークフローもそのまま組み込むことができます。このように、あらゆるシチュエーションに対応可能な柔軟なワークフローエンジンが提供されており、複雑な最適化プロセスを効率的に管理することができます。

【機能紹介】強力なワークフローエンジンの搭載

【機能紹介】多様なDoE(実験計画法)手法による効率的なデータ収集(アプローチA)

このようなワークフローが構築できれば、実験計画法(DoE)を適用することが可能になります。pSeven Desktopは特にデジタル連携時に頻繁に使用されるラテン超方格法(LHS)をはじめ、データが不足している場合には、既存のデータの中から足りないポイントや、より重点的に確認すべき箇所をAIやアルゴリズムが判断し、追加すべきデータを選択するアダプティブDoE手法も搭載しています。このように、あらゆる状況に柔軟に対応しながら効率的にデータを収集できる体制を提供しています。

【機能紹介】多様なDoE(実験計画法)手法による効率的なデータ収集

【機能紹介】Smart SelectionによるAIモデルの自動構築(アプローチA)

集めたデータはAIモデルに変換し、可視化されます。pSeven Desktopは、高度なAIベースのモデリング、可視化、分析ツールを一貫して提供しています。アルゴリズムの適用に関しては、スマートセレクション機能により、データをインポートするだけで自動的に手法の選択、パラメーターの調整、精度の比較を繰り返し、最適な手法とパラメーターを1つのモデルとして自動構築する機能を提供しています。さらに、手法やパラメーターの調整は、各出力変数ごとに行われるため、例えば変数が3つある場合、それぞれに異なる手法が選ばれることもあります。これにより、非常にユーザビリティの高い自動化が実現できます。

【機能紹介】AIモデルによる非線形と不確かさを考慮した分析

作成したAIモデルの振る舞いや、変数間の関係を見る機能も提供されています。これらの可視化では、横軸に設計変数、縦軸に出力変数や目的変数が設定されており、非線形の関係であっても直感的にわかりやすく表示されます。線に対して少しエリアが広がっているように見える部分は、予測が不確かであり、自信がない箇所を示しており、不確かさも合わせて可視化されています。このように、数値だけでなく、グラフの形でモデルの信頼性を確認できます。また、各変数間でどの変数が最も寄与しているかは、図に示されているようにバーグラフで確認でき、意思決定をサポートします。このように、AIモデルのデータ収集から構築、分析までを一貫して1つのソフトウェアで行えることが、pSeven Desktopの強力な機能です。

【機能紹介】AIモデルによる非線形と不確かさを考慮した分析

AIベース最適化による探索の加速化(アプローチB)

複数のサロゲートモデルを作成し、必要な反復回数を実行するアプローチAを紹介しましたが、アプローチBでは、AIベースの最適化における反復回数そのものを提案し、最適化の観点について紹介します。


AIベース最適化による探索の加速化(アプローチB)

AIベースの最適化は、探索の加速化と計算モデルの計算回数を最小限に抑えつつ、大域的な最適解を導出する手法です。一般的に、ベイズ最適化やブラックボックス最適化、逐次最適化(サロゲートモデル最適化)などとして知られています。なぜ計算回数を抑えられるのかというと、その主な要因は確率的な要素を考慮できることにあります。設計空間から、最適解が得られる可能性が高い領域を特定し、その有望な領域でのみ計算を行うことで、最短のルートで最適解を見つけることができます。これにより、計算効率が大幅に向上します。注目を集めている手法の一つです。


AIベース最適化による探索の加速化
AIベース最適化による探索の加速化

【機能紹介】pSeven Desktopサロゲートベース最適化(SBO)の特徴(アプローチB)


pSeven Desktopに搭載されているサロゲートベースの最適化手法も同様の機能を提供しています。自社開発のDoE戦略とアルゴリズムを活用することで、問題の実現可能領域を特定し、それを有効活用することができます。また、与えた予算や計算回数に対して、解導出時間を大幅にスピードアップできます。さらに、独自のガウシアンプロセス(GP)実装により、大規模な問題も効率的に解決できます。基本的に、ベイズ最適化の手法では変数の数が20個でも大規模な問題ですが、pSeven Desktopでより多くの変数を対応でき、広範囲の問題を解決することが可能です。


【比較】高コストな問題に対する各アルゴリズムの比較(アプローチB)


実際、高コストな問題に対して、各アルゴリズムの比較を行った結果、pSeven Desktopとオープンソースで展開されている手法を比較したグラフが示されています。横軸はパフォーマンスレートで、値が小さいほど最適化に導出する時間が短く、高効率で解けていることを示します。縦軸は解けた問題の数を示しており、左上に位置するほど多くの問題を対応できることを意味します。pSeven Desktopは、どの手法に対しても優れており、計算回数に制限がある高コストの最適化にも適しています。このような領域横断や、計算時間がかかる流体解析など、一つのソルバーで複雑な最適化を行う場面においても非常に適した手法です。


【比較】高コストな問題に対する各アルゴリズムの比較(アプローチB)
【比較】高コストな問題に対する各アルゴリズムの比較(アプローチB)

【機能紹介】Smart Selectionによる最適化手法の自動選択(アプローチB)


スマートセレクションと呼ばれる機能にはアシスト機能があり、最適化アルゴリズムや実験計画法、どの手法を選べばよいかという課題に直面することがあると思いますが、pSeven Desktopでは問題定義を簡単に設定することで、自動的に最適な手法と内部パラメーターの調整が行われます。この仕組みにより、ユーザーは問題に注力するだけで、十分な解を得ることができます。


【活用例】過去の実験・収集データを効率的に利用(アプローチB)


また、遂次最適化やAIベースの最適化について、過去の実験データや収集したデータを効率的に活用できるかという質問をよくいただきますが、実際にpSeven Desktopではそれが可能です。例えば、事前にDoEで集めた実験データを次の最適化のワークフローにそのまま渡し、最適化計算に必要な回数を削減することができます。事前の結果から内部のサロゲートモデルを構築し、探索効率を向上させることで、アクティブラーニングや遂次最適化を実現します。また、マテリアルインフォマティクスにおいても、ベイズ最適化を活用し、材料開発の実験で既存データから1回目の計算をスタートできる取り扱い方が可能です。


【活用例】過去の実験・収集データを効率的に利用(アプローチB)
【活用例】過去の実験・収集データを効率的に利用(アプローチB)

【GeoDict】リチウムイオン二次電池性能における多目的最適化問題


弊社が取り扱うGeoDictという材料開発製品と連携した事例があります。アプローチとしては、まず初めに設計変数29個と出力に対して、実験計画法(DoE)でデータを収集し、モデルや変数の問題を確認します。その後、サロゲートベース最適化を進め、総計算200回の中で127個のパレートフロント、パレート解を獲得しました。このようなアプローチは汎用的に活用でき、効率的な最適化が可能です。


【GeoDict】リチウムイオン二次電池性能における多目的最適化問題
【GeoDict】リチウムイオン二次電池性能における多目的最適化問題


pSeven Desktop

最適化/機械学習による設計空間探索ソフトウエア pSeven Desktop

pSeven Desktopであらゆる設計リードタイムを短縮。煩わしい作業を削減し、CAD・CAE・データとプロセスを自動化します。pSeven Desktop独自のAIと強力な自動化エンジンによって、最適な設計条件を効率的に発見が可能です。

著者情報
SCSK株式会社 デジタルエンジニアリング事業本部 セールスエンジニア 山田悠太

SCSK株式会社で製造業向けCAEおよび関連ソフトウェアソリューションのテクニカルセールスエンジニアを務めています。2019年よりSCSKに入社し、製造業のお客様に合わせた技術営業・サポートサービスの提供に尽力。2022年秋、自動車メーカーに一時出向し、デジタルトランスフォーメーションの取り組みに従事。2023年10月よりSCSKに復帰し、製造業向けCAEおよび関連ソフトウェアの技術営業・サポートを中心に携わっています。

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