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第三回:『セットベースデザイン』選好度セットベース設計(PSD)の適用

​ セットベースデザインを「科学、シミュレーション、設計」の三回シリーズで解説します。

第二回で説明したPSD(選好度(Preference)セットベース設計)手法のこれまでの適用事例の一部を表1に対象とした性能数と設計変数(影響因子)数とともに示します。

1.PSD手法の適用概要と事例

前回(第二回)で説明したPSD(選好度(Preference)セットベース設計)手法のこれまでの適用事例の一部を表1 に対象とした性能数と設計変数(影響因子)数とともに示します。

表1 PSD手法の適用例
表1 PSD手法の適用例
表1には、構造系の(a)自動車の触媒マフラーから(l)アンケート調査設計という社会心理学の分野での統計学を駆使した設計対象までをあげています。ここでは、 自動車の触媒マフラーの例を紹介します(1)


2.触媒マフラー設計へのPSDの適用

排気ガスの横入れ横出しの新型マフラーを対象にしていますが、環境対策上、触媒機構を有するマフラーです。構造は3D-CAD(CATIA)で構成し、排気ガス相当の流体の流れの制御(SCRYU/Tetraによる)を目的にした設計です。

図1 触媒マフラーの設計変数
図1 触媒マフラーの設計変数
目標性能はパンチングパイプ(図1参照)を通過した直後の流体の流れに関する(1)軸方向率、(2)流速一様度、(3)圧力損失の3性能です。設計変数は図1の左図(パンチングパイプを展開した図)にある孔の位置、サイズ、間隔、および右下図のパイプ径、触媒前面までの距離に関するA~Fまでの6変数であり、性能と設計変数の関係はL27直交表を用いた実験計画法により求めた2次多項式を用います。

以上の3D-CADによるモデリング, 流体解析シミュレーション、セットベース設計システムを組み合わせた全体のアルゴリズムは図2になります。


図2 3D-CADによるモデリング、流体解析シミュレーション、セットベース設計システムを組み合わせた全体のアルゴリズム
図2 全体のアルゴリズム

3.PSD適用結果と同時満足解

また設計変数の選好度分布はいずれの場合も初期範囲全体においてその傾向性は未知であったため、1で一定とし、性能の選好度分布の一例(軸方向率)は適用結果を示した図(図3)の青線のように右上がりの分布としました(軸方向率が大きいほどよい)。
PSD手法を適用した結果について、性能と設計変数のそれぞれ一例を図3と図4に示しています。

図3 性能変数(例:軸方向率) 図4 設計変数(例:空孔直径)
いずれも赤線で囲まれた範囲が絞込み結果です。つまり各設計変数の赤線範囲内の任意の点の組合せで、3性能のそれぞれを評価するといずれもPSD手法で得られた赤線範囲内の性能値(図3が軸方向率の例)が同時に求められることになります。つまり3性能のそれぞれの目標範囲を同時に満足する6設計変数範囲を求めることができたことになります。


4.孔配置領域を含む拡張設計

以上の場合の例題の設計変数は、図1の左図のパンチングパイプにおける孔の位置や大きさに関する変数とパイプ径と触媒までの距離が設計変数でした。このような場合とは異なり、設計変数の取り方によってはパンチングパイプに導入した孔の配置領域を含む検討を行うこともできます(図5)。

この場合は図5に表現された8個の変数を設計変数としています。これらの設計変数が取り得る値の範囲を工夫すると、図6のように3種類の配置領域形状(4辺形、5角形、6角形))が検討対象になり得ます。
文献(2)では、性能は最初の例と同じ3性能変数とし、図5の設計変数、図6のそれぞれの配置領域を用いて、3性能の同時満足解範囲を求める8設計変数の範囲を求めています。

図5 孔の配置領域を決める設計変数 図6 孔の3種の配置領域形状
以上より、流体解析を伴う設計問題において、3性能を同時に満足する8設計変数の多目的満足解集合をPSD手法で導出することができたことになります。


5.PSD手法の効果

今回紹介した事例を含めて表1のすべての事例はPSD手法で処理する部分の処理時間は通常のパソコンで、平均して数分程度以下であり、PSD手法の提案の元来の目標である製品開発の期間減少、工数削減が可能であるといえます。

文献
(1)岸、井上、石川、戸部、樋口、山根、セットベース設計手法による触媒マフラーの最適構造設計、自動車技術会論文集、43 巻 2 号(2012年) p. 363-368.
(2)岸亮介、セットベース設計手法による触媒マフラーの位相構造設計、電気通信大学修士論文、平成23年度.

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著者情報
特定非営利活動法人 セットベースデザイン研究会 石川 晴雄様

1977年電気通信大学助手に着任し、1992年教授昇任。一貫して設計工学に関する教育研究に従事。その間に、デラウエア大学(米国)、航空宇宙技術研究所、ワシントン大学(米国)にて客員研究員、同済大学(中国)顧問教授を兼務。また日本機械学会、自動車技術会等の学会、また国土交通省にて委員会委員長等を歴任。その後、2014年電気通信大学特任教授に就任。現在は、同大学名誉教授、NPO法人セットベースデザイン研究会理事長およびJAXAハンドブック標準化WGサブリーダ(セットベース設計担当)。セットベース設計に関する研究は2000年代初頭の理論研究から始め、プログラム開発、様々な工学分野への適用を実施、最近は社会心理学等への展開や使いやすいアプリの開発などに従事。

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