グローバル企業を中心に再エネ利用を推進する動きが活発化しています。それに呼応するように、自社で使用する電力の生産地や生産方法をトラッキングする再エネ属性証明は、世界ではあたり前になっています。2023年4月に開催された再エネ属性証明に関する世界会議「REC Market Meeting 2023」では、次のステップに向けた議論が行われました。ここでは世界会議への参加を通して得られた、再エネ属性証明をめぐる世界の動向を紹介します。
再エネ属性証書の利用は、世界の「あたり前」
2023年4月、オランダ・アムステルダムで再エネ属性証明に関する世界会議「REC Market Meeting 2023(RECMM)」が開催されました。今年で11回目となるこの会議には、世界各国の規制当局、電力事業者、システム運用事業者(プラットフォームオペレーター)、トレーダー、バイヤー、需要家企業など、再エネ属性証明の関係者550人以上が集まりました。
このRECMMで印象的だったのは、温室効果ガス(GHG)排出量を把握・報告する手段としてI-RECなどの再エネ属性証書の利用が「当たり前」として話が進んでいるということです。その前提のうえで、利用範囲の広がりや、より細かい粒度での管理が求められるようになった再エネ属性証明の在り方についての議論が活発に交わされました。
Scope3のGHG排出量を把握する
特に注目されていたのが、自社の枠を越えて「サプライチェーン全体のGHG排出量を把握すること」です。サプライチェーン全体のGHG排出量については、GHG排出量の算定と報告に関する国際的な基準「GHGプロトコル」で規定されています。
- Scope1:事業者自らによる温室効果ガスの直接排出(燃料の燃焼、工業プロセス)
- Scope2:他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出
- Scope3:Scope1、Scope2以外の間接排出(事業者の活動に関連する他社の排出)
Scope1、Scope2に目途がついた企業が、自社の排出量と比較して非常に多いScope3の排出量をいかに削減するかといったテーマに焦点があたりました。すでにAppleやBT、IKEAといった海外の先進的な企業は、サプライヤーにGHG排出量の報告を求め、サプライヤーのGHG排出量削減を支援しています。RECMMではScope3の排出量把握にI-RECのような再エネ属性証書が有効なツールとなり得るといった議論がなされました。サプライヤーの立場からすると、自社の脱炭素に向けた取り組みを、取引先からも求められる時代になってきたということです。
また、EUでは「CBAM(Carbon Border Adjustment Mechanism:炭素国境調整メカニズム)」という新たな制度も始まろうとしています。これは、EUのGHG削減規制の “抜け穴”となり得る輸入品に対して炭素関税を課すという措置のことです。“抜け穴”とは、厳しい環境規制があるEUから規制が緩い国や地域へ産業が移転し、結果的に全体としての温室効果ガスの排出量が減らない、あるいは増える現象を指します。CBAMでは、EU域外からの輸入品について、その製造に関連する炭素排出量に対する課税や規制を導入します。これにより、EU域内で厳格な環境規制によるコスト負担を抱える企業と、EU域外の環境規制が緩い地域で製造される輸入品との間の競争力の不均衡を是正しようとしています。
このCBAMも、サプライチェーンの排出量を把握する流れを促します。これにより、輸入者は輸入品の生産過程で排出された炭素量を把握しようとし、EU域外のサプライヤーは排出量の報告を余儀なくされるのです。
RECMMでは「その地域の電力系統全体の平均排出係数で算出する“ロケーションベース”か、その企業が購入した電力の排出係数である“マーケットベース”か」「企業単位か、納品する製品単位か」といった「報告のあり方」について具体的な議論が交わされました。今日のサプライチェーンは全世界に広がっており、その国・地域の状況も異なるため見解を統一するのは容易ではありません。しかし、「サプライチェーンの排出量を把握し対策をとる」ことが、世界の潮流になっていくことは確実といえます。グローバル企業のサプライチェーンを担っている日本企業にとって、自社の直接的・間接的なGHG排出量を正しく把握し報告することは必須となるでしょう。
24時間365日、再エネ使用の可視化へ
もう一つ、RECMMのなかで重要なテーマとして扱われていたのが「24/7カーボンフリー電力(24/7Carbon Free Energy、以下24/7CFE)」です。24/7CFEとは、電力の発電と消費の実態を1時間単位で把握し、24時間365日いつでもどこでも再エネを使用する環境をつくろうという考え方です。
太陽光や風力といった自然の力によって発電される再エネは、当然のことながら電力を供給できない時間帯があります。現時点において、そうした時間帯で必要とされる電力は、原子力や火力といった別の手段で発電された電力で賄われています。
1カ月や数カ月の単位で発電した電力量とその期間の消費量を紐づけて再エネの割り当てを行う現状の仕組みでは、原子力や火力で賄われている事実を明確に認識・把握できず、蓄電などのイノベーションを起こすことも困難です。そうした課題を解決するために登場したのが、24/7CFEという考え方です。
24/7CFEの考え方はもともとGoogleのGHG排出量削減の取り組みの中で生まれました。その後、国連の主導によりこの考え方の普及・啓蒙活動が始まり、現在は「24/7 Carbon-free Energy Compact」という国際イニシアチブへと発展し、賛同企業が続々と増えています。
RECMMでは、既存の再エネ属性証書よりも細かい粒度で状況を把握できる24/7CFEという考え方への挑戦についての議論が交わされました。I-REC規格財団からは南米チリで24/7CFEの実証実験を行ったという報告がありました。財団としては24/7CFEの重要性を認識しつつも、現状の再エネ属性証書に代替できるツールになり得るかどうかを慎重に検討している段階だとしています。
このように使用電力に関する報告の必要性が高まれば、必然的に再エネ属性証書の発行量は増加することになります。実際に、成熟期を迎えている北米のREC、欧州のGOも発行量が増えており、アジアを中心に広がっているI-RECが急速に発行量を伸ばしているのが現状です。
世界はScope3へ、日本はまずScope2の属性証明をあたり前に
脱炭素社会の実現に向けた企業の取り組みは多岐にわたり、再エネ電力を使用することもそうした取り組みの一つです。ここまで述べてきたように、世界では企業がScope2の報告に再エネ属性証書の利用があたり前となり、自社のGHG排出量だけでなく、サプライチェーンからの調達も含めたScope3の実現に向け、具体的な取り組みが動き出しています。
日本においても、既にグローバルでビジネスを展開する企業は、再エネ属性証書の重要性を認識しています。また、グローバル企業のサプライチェーンの一部を担っている日本のサプライヤーにも、脱炭素に向けてどのような取り組みを行っているのか、正確な報告と実行が問われる時期にきています。
世界では、Scope3に向けた取り組みが進んでいます。その一方で、再エネ電力の正しい属性を把握できていない日本。今回のRECMMへの参加を通じて、日本では属性証明があたり前ではないことへの危機感を強く覚えました。日本企業においては、まずScope2の属性証明つまり自社のGHG排出量の正しい把握から、早急な着手が必要だと認識したのです。
※I-REC規格財団は、「I-Tracking規格財団」に名称変更しました。