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国際的に普及が進む、再エネ属性証書「I-REC」とは?

地球温暖化対策・脱炭素社会の実現に向け、多くの需要家企業が太陽光や風力といった再生可能エネルギー(再エネ)で発電された電力を使用し、事業活動で排出される温室効果ガスを削減しようとしています。そうした再エネ利用の普及・拡大に重要な役割を果たすのが、属性トラッキングによる、エネルギー属性証明書を管理する仕組みです。この記事では、日本でも利用可能になった再エネ属性証書「I-REC」について紹介します。

※本記事は、2022年12月9日に開催された「SDGs Week EXPO 2022 カンファレンス」でのセッション「再エネ属性トラッキング有用性と世界動向~企業の温暖化対策に新たなアプローチ手法を解説~」の内容を再構成したものです。登壇者の所属・役職は当時のものです。

再エネの「属性情報」を知る手段がない

2015年12月にパリ協定が採択されて以来、「温室効果ガス排出量実質ゼロ(ネットゼロ)」を目指す動きが世界中で盛り上がりを見せています。日本においても、2020年10月に当時の菅義偉首相が「2050年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロにする」と宣言したことで、多くの企業が脱炭素へ取り組むようになりました。

この脱炭素の実現に向けて欠かせないのが、再エネ発電による電力の利用です。「再エネ100%化」をコミットする大企業による国際的な協働イニシアチブ「RE100(Renewable Electricity 100%)」には、2022年11月現在で388社が加盟し、その中には日本企業が75社含まれています。

このように再エネの利用が大きな潮流となるなか、日本における再エネ電力の利用にはいくつかの課題があると指摘するのは、企業や自治体、投資家が環境影響を管理するための情報開示システムを運営する国際的な非営利組織、CDP Worldwide-Japan アソシエイトディレクター(当時)の高瀬香絵氏です。

「日本における再エネ利用の大きな課題は、自社がどのような再エネを使っているかを知る手段がないということです。再エネ電力の由来となる電源の種類や発電所といった属性情報を追跡できないのです。これでは、自社が利用する再エネ電力がRE100の基準に適合しているのかも分かりません。RE100参加社はもちろんのこと、多くの日本企業が『属性情報が明らかな再エネ電力を使いたい』という意思があるにもかかわらず、それが叶わないわけです。そのため、グローバルで事業展開する製造業のなかには『国内で信頼性の高い属性情報をもつ再エネ電力が入手できないのであれば、生産拠点を海外へ移転せざるを得ない』と考える企業も出始めています」(高瀬氏)

再エネ属性証明を巡る世界の動向

そうした課題を解決するのが、国際的な再エネ属性証明の仕組みです。北米の「REC(Renewable Energy Certificate)」、欧州の「GO(Guarantees of Origin)」、アジア・南米・アフリカなど50カ国以上で利用されている「I-REC(International REC)」がこれに当たります。

日本トラッキング協会の代表理事を務める京都大学大学院経済学研究科特任教授の内藤克彦氏は、再エネ属性証明や属性トラッキングの動向について次のように話します。

「北米で1990年代に、現物の電力取引とは別に再エネ電力価値を分離したRECという取引制度が整備されました。しかし、現物の電力と再エネ電力価値が切り離されると、二重使用(見せかけの再エネ利用)という不正も容易にできてしまい、カーボンニュートラルの実現も遠ざかってしまいます。その対策として考え出されたのが、属性トラッキングです」

属性トラッキングでは、「どの発電所で、いつ、何kWh(キロワット時)の電力が発電されたか」という属性情報を記録するとともに、その属性情報に基づく電力の利用工程の情報を正確に運用管理します。つまり、改ざんできない「唯一性」と、履歴を後追いできる「追跡性」を有しているわけです。

再エネ属性証明の2つのポイント

「属性トラッキングは2000年代に欧州でも導入され、北米のRECを参考にしたGOが確立されました。さらに北米・欧州以外の国際的な再エネ属性証明制度としてつくられたのがI-RECです」(内藤氏)

I-RECは、I-REC規格財団(The International REC Standard Foundation)が規定する「ルールブック群、およびそれに基づく電子的なトラッキングシステム」により認証・発行されるもので、再エネ属性情報登録時、取引による所有権の移転発生時、所有権行使時に利用します。もちろん、RE100、CDP、SBT(パリ協定が求める⽔準と整合した、企業が設定する温室効果ガス排出削減⽬標)といった国際イニシアチブに利用することが可能です。

I-RECの3つの役割

日本の非化石証書にはない、I-RECのメリット

そんなI-RECの再エネ属性証明が、いよいよ日本でも使えるようになりました。I-RECには制度運営を担当し、再エネ属性証明の発行主体となる「イシュア」と呼ばれる第三者機関が存在しており、日本のイシュアとして活動しているのがローカルグッド創成支援機構です。

同機構は、I-REC規格財団が一国一機関のみ認定するイシュアとして、I-RECレジストリに登録された再エネ属性情報や発電量を認証して、I-RECを発行する役割を担っています。2021年7月からは、日本国内においてI-REC導入に向けた実証実験を開始しました。2022年9月には環境省が脱炭素先行地域に指定する鳥取県米子市、高知県梼原町の実証プロジェクト、東日本大震災被災地の福島県葛尾村で進められている復興プロジェクトにおいて、I-RECの再エネ属性証明を日本で初めて発行するといった取り組みを行ってきました。

同機構の事務局長である稲垣憲治氏は、I-RECの再エネ属性証明によって、需要家企業は「再エネが選びやすくなる」というメリットがあると強調します。
「再エネと言っても、山林を切り拓いてつくられたメガソーラー発電所もあれば、行政主導により地産地消を目指す発電所もあるといったように千差万別です。I-RECの再エネ属性証明は、そうした多種多様な再エネ電力のなかから『どの地域のどの発電所でつくられた再エネ電力なのか』を証明します。これにより需要家企業は、自社が使いたい再エネ電力を安心して購入できるようになります」(稲垣氏)

また、再エネ事業者にとってもメリットがあります。多くの需要家企業から選ばれることで、新たな設備投資をしやすくなるからです。このことは「追加性」と呼ばれており、再エネ発電施設の拡大など、より広い意味でのネットゼロ実現にも寄与します。

ところで、日本には以前から非化石価値取引市場で売買可能な「トラッキング付非化石証書」という再エネ証書があります。このトラッキング付非化石証書とI-RECの違いについて、稲垣氏は次のように指摘します。

「トラッキング付非化石証書は、そもそも環境価値の由来をトラッキングするものであり、産地などの情報は証明対象となっていません。したがって非化石証書単独では再エネ属性を証明できず、I-RECのような国際的な再エネ属性証明とは乖離があります。日本の需要家企業が自社の求める再エネ電力を選ぶには、I-RECの再エネ属性証明を利用することが最適解だと考えています」(稲垣氏)

では需要家企業は、実際にどのようにしてI-RECを運用すればよいのでしょうか。直接レジストリオペレーター(属性情報を管理する機関)とやり取りして、属性登録・移転・償却の申請や、証明を受けることもできなくはありませんが、そのやり取りは煩雑なものになります。それをより簡便にするのが、プラットフォームオペレーターです。

プラットフォームオペレーターであるSCSKでは、再エネ発電者や需要家企業がより効率的にI-RECを利用できるサービス「EneTrack」を提供しています。EneTrackは、再エネ属性証書の取引(発行、移転、償却)サービスをWebで提供することで、再エネ発電者と需要家企業とのマッチングを容易にし、手軽に取引できるようにします。

プラットフォームオペレーターの役割


※I-REC規格財団は、「I-Tracking規格財団」に名称変更しました。

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