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設計を変える「寄与度」の正体~CAEとAIで探る、本当に効くパラメータの見つけ方~

「この製品の性能、どの設計パラメータが一番効いているんだろう?」
「試作回数を減らしたいけど、どこから手をつければいいか分からない…」

製造業の設計開発の現場では、日々このような課題に直面しているのではないでしょうか。限られた時間の中で最適な設計を見つけ出すには、長年の「勘と経験」が頼りになる一方で、無数のパラメータの組み合わせを前に、それだけでは糸口がつかめない、あるいは辿り着いた答えに確信が持てないこともあるはずです。

もし、その「勘」を裏付け、未知の重要パラメータを発見できる「科学的な方法」があるとしたらどうでしょう。
今回は、その強力な武器となるSobol(ソボル)感度分析について、AI(サロゲートモデル)との連携も視野に入れながら、設計者の皆様が明日から使える知識を3つのポイントで解説します。

そもそもSobol感度分析とは?

一言でいうと、Sobol感度分析は「製品性能の"ばらつき"が、どの設計パラメータの"ばらつき"から来ているのかを定量化する手法」です。

CAE解析や実験で得られる性能値(強度、燃費、流量など)が、様々な設計パラメータ(寸法、材質、温度など)のわずかな変化によって、どれくらい影響を受けるか。その寄与度を「Sobol指数」という0から1の間の数値で示してくれます。

特に重要なのが「トータルSobol指数」です。これは、あるパラメータが単独で性能に与える影響だけでなく、他のパラメータとの相乗効果(合わせ技)まで含めた総合的な影響度を示します。トータルSobol指数が高いパラメータこそ、私たちが本当に注目すべき「効くパラメータ」なのです。

図:Sobol感度分析のイメージ

【ポイント1】最も重要!「分析する範囲」が結果を決める

結論:Sobol指数は、あなたが「定義した設計パラメータの変動範囲」の中で計算されます。

これはどういうことでしょうか。例えば、あなたが板厚と材質という2つのパラメータを評価したいとします。

パラメータA(板厚)の分析範囲: 10mm ± 2mm (比較的大きく変動させる)
パラメータB(材質の密度)の分析範囲: 7850 kg/m³ ± 10 kg/m³ (ごくわずかに変動させる)

この設定で分析すれば、たとえ材質の方が製品性能により影響を与えるパラメータであったとしても、分析上は「板厚」の寄与度が非常に高く計算されるでしょう。なぜなら、あなたが「板厚を大きく動かしたときの影響を見たい」と機械に指示したからです。

これは間違いではありません。Sobol分析は、分析者が設定した不確実性のシナリオにおいて、何が一番の変動要因かを正直に教えてくれるのです。

☑設計者のアクション

分析を始める前に、チームで問いかけましょう。「この製品の性能ばらつきを考える上で、各パラメータは物理的にどのくらいの幅で変動しうるか?」「あるいは、設計としてどの範囲を探求したいのか?」この範囲設定こそが、分析の質を決定づけるのです。

  

【ポイント2】計算の相棒「AIサロゲートモデル」との賢い付き合い方

Sobol分析は非常に強力ですが、何千回、何万回という膨大な計算が必要です。1回の計算に数時間かかるCAE解析でこれを実行するのは現実的ではありません。

そこで登場するのがAI(機械学習)を用いた「サロゲートモデル」です。これは、本物のCAEシミュレーションの「代理(Surrogate)」として、入力(設計パラメータ)に対して瞬時に出力(性能値)を予測してくれる軽量なAIモデルです。
このサロゲートモデルを使えば、これまで数週間かかっていたSobol分析が、わずか数分で完了することもあります。

ここで、少し専門的な話をします。実は、サロゲートモデルとして使われるAIの中には、より賢く学習するために、入力された設計パラメータの数値を内部で自動的に変換(スケーリング)しているものがあります。

☑設計者のアクション

この「内部的なスケーリング」は、AIが学習しやすくするための工夫であり、設計者が気にする必要はありません。重要なのは、AIの内部処理がどうであれ、Sobol分析の結果は、あくまで私たちが最初に設定した「物理的な意味を持つ設計範囲」に基づいて計算されるということです。設計者は複雑なAIの仕組みを意識することなく、安心して物理現象に集中できます。

【ポイント3】Sobol分析は「ブラックボックス案内人」

サロゲートモデルや、そもそも複雑なCAEシミュレーションは、設計者から見れば一種の「ブラックボックス」に見えるかもしれません。パラメータを入れると答えは出てくるけれど、中の計算は複雑でよく分からない…、と。

Sobol分析は、このブラックボックスの「案内人」です。
この案内人(Sobol分析)は、箱の中身がどうなっているかを一切知らなくても、「どの入力スロット(設計パラメータ)を操作すると、中の歯車が一番大きく動いて、出力(性能)が大きく変わるか」を正確に教えてくれます。

☑設計者のアクション

複雑な数式やAIのアルゴリズムを完全に理解する必要はありません。この案内人が指し示してくれた「トータルSobol指数が高いパラメータ」こそが、あなたの設計課題を解決する鍵です。そのパラメータに集中して対策を検討することで、効率的に設計を最適化し、手戻りを劇的に減らすことができるのです。

まとめ:勘と経験に「データの裏付け」を

この記事では、Sobol感度分析を使いこなすための3つのポイントを解説しました。 分析範囲の定義が肝心。 まずは評価したいパラメータの物理的な変動幅を決めましょう。 AIサロゲートモデルで計算を高速化。 これまで諦めていた多パラメータの評価が現実的になります。ブラックボックスの案内人として活用。 モデルの中身を知らなくても、重要なパラメータに当たりをつけられます。設計者の皆様が持つ素晴らしい「勘と経験」に、Sobol分析という「データの裏付け」を加えること。それが、開発リードタイムを短縮し、より革新的な製品を生み出すための次の一歩となるはずです。

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著者情報
SCSK株式会社 デジタルエンジニアリング事業本部 セールスエンジニア 山田悠太

SCSK株式会社で製造業向けCAEおよび関連ソフトウェアソリューションのテクニカルセールスエンジニアを務めています。2019年よりSCSKに入社し、製造業のお客様に合わせた技術営業・サポートサービスの提供に尽力。2022年秋、自動車メーカーに一時出向し、デジタルトランスフォーメーションの取り組みに従事。2023年10月よりSCSKに復帰し、製造業向けCAEおよび関連ソフトウェアの技術営業・サポートを中心に携わっています。

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