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技術情報コラム

時間がかかる解析の効果を短時間で出すためのAI活用法

第四回:不確かさの定量化

時間がかかる解析の効果を短時間で出すためのAI活用法 第四回:不確かさの定量化

解析・設計における「不確かさ」

流体力学をはじめとした物理現象は、無数の物理要因が複雑に絡み合って発生します。しかし、実在する物理要因がすべて明らかになっている訳ではなく、その一部には理論の欠如や計測の不足から来る「不確かさ」が存在します。物理現象の再現を目的とした数値解析は通常、こういった不確かさの存在を無視して単純化されることが多く、その結果は実現象とかけ離れたものとなることがあります。また工学設計においても、形状のばらつきや環境の揺らぎなどの不確かさが存在し、設計対象とする製品の品質、すなわち設計の信頼性に大きく影響します。よって、不確かさを考慮した解析および設計は、複雑な物理現象の正しい理解および実用に耐えうる工学製品の創出に繋がります。

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不確かさの定量化(UQ)とは?

通常の最適化は、不確かさのない理想的環境下で、単純に目的関数f(x)が最小となる(すなわち「最適性」に優れた)解を求めます(これを「決定論的最適化」とも呼びます)。ここで、実世界に現れる不確かさを確率変数tokushu-01として表すと、tokushu-01の影響がf(x)のばらつき(すなわちf(tokushu-01))として現れます。この時、最適性だけに優れた決定論的最適解では、f(tokushu-01)が大きくばらつき、当初の最小値から大きく変化し、場合によっては許容範囲を逸脱する危険性もあります。これでは、信頼性・安全性を担保できない「設計の失敗」と言えます。

一方、最適性だけでなく、f(tokushu-01)のばらつきが最小となる(すなわち「ロバスト性」に優れた)解を求めた方が、実用的な設計として通用します(これを「ロバスト最適化」とも呼びます)。このロバスト性のように、不確かさを有する入力条件tokushu-01が出力解f(tokushu-01)に及ぼす影響を定量的に評価することを「不確かさの定量化(Uncertainty Quantification: UQ)」と呼びます。

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UQの手法

UQを行う最も単純な手法は、tokushu-01をある確率密度分布に従って変化させ、それに対応するf(tokushu-01)を多数サンプルする方法です。「モンテカルロ法」はその代表格であり、f(tokushu-01)をサンプルする条件を乱数ベースで生成しますが、ブラックボックスなf(tokushu-01)の確率的挙動を正確に捉えるためには莫大なサンプル点数が必要となるため、計算コストの観点から実用的な手法とは言えません。そこで近年では、f(tokushu-01)の応答を近似するサロゲートモデル(例えば、後述する応用事例においては、「テーラー展開近似」[1]、「多項式カオス展開」[2]、「Kriging」[3])を構築した上で、f(tokushu-01)の確率的挙動を近似モデルベースで推定する方法が主流となっています。

UQの応用事例

ここでは、著者らがこれまでに取り組んだUQの応用事例を紹介します。

火星探査航空機の翼形状最適化

火星大気には、偏西風の季節的・日的変化や、偏西風と地形の干渉により、地球に比べて大きな気流変動が現れます。そこで著者らは、火星大気中を安定して飛行しながら火星を探査するミッションを成し遂げる航空機を実現するために、気流速度や気流角度の不確かさを考慮した翼形状の最適化を実施しました。例えば、気流速度(飛行マッハ数)の変動に対する空力性能(揚力と抗力の比)のロバスト性について最適化された形状(ロバスト最適解)では、気流変動を考慮せずに最適化された形状(決定論的最適解)に比べて、翼の上反りを小さくすることで衝撃波の成長を抑えることを明らかにしました [1]。

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ソニックブーム伝播解析

上空を超音速で飛行する航空機から発生する衝撃波が地上で生み出す爆発音「ソニックブーム」の強度は、衝撃波が伝播する大気状態によって変化します。そこで著者らは、ソニックブーム伝播解析において、高度に依存する大気物性値(温度・湿度・風速)の不確かさに対するソニックブーム強度の統計量(平均・標準偏差)を求めました。その結果、瞬間的な爆発音を生み出す圧力の立ち上がり時刻の前後において、ソニックブーム強度が大気物性値の変動に対して敏感に変化することを明らかにしました。さらに、サロゲートモデルである多項式カオス展開を用いることで、モンテカルロ法と同等の結果をわずか0.35%の計算コストで近似予測することができました [2]。

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大気圏再突入軌道解析

宇宙空間から帰還する飛翔体は、大気圏に再突入する際、崩壊する可能性があります。よって、崩壊後の飛翔体について、再突入の開始条件が不確かさに変化し、飛翔体の地上到達速度が非線形に変化します。そこで著者らは、飛翔体の大気圏再突入軌道解析において、再突入の開始条件(高度・速度・角速度・質量・姿勢など)の不確かさに対する地上到達速度の確率密度分布を求めました。その結果、地上到達速度には2つの発生ピークが存在し(特に、地上到達速度の速い方のピークを予測できることは、安全評価の観点から重要)、どちらのピークに至るかは初期角速度によって決まることを明らかにしました。さらに、サロゲートモデルであるKrigingを用いることで、モンテカルロ法と同等の結果をわずか2%の計算コストで近似予測することができました [3]。

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*SCSKの関連UQ・最適化ソリューション:pSeven

参考文献

  • [1] Shimoyama, K., Oyama, A., Fujii, K., Development of multi-objective six-sigma approach for robust design optimization,” Journal of Aerospace Computing, Information, and Communication, 5(8): 215–233 (2008).https://doi.org/10.2514/1.30310
  • [2] Shimoyama, K., Inoue, A., Uncertainty quantification by the nonintrusive polynomial chaos expansion with an adjustment strategy, AIAA Journal, 54(10): 3107–3116 (2016). https://doi.org/10.2514/1.J054359
  • [3] Tokunaga, A., Sotoguchi, A., Shimoyama, K., Fujimoto, K., Stochastic re-entry trajectory analysis with uncertain initial conditions for safety assessment, 2019 AIAA Science and Technology Forum and Exposition (AIAA SciTech 2019): AIAA–2019–2235 (2019).https://doi.org/10.2514/6.2019-2235

著者紹介
九州大学
工学研究院 機械工学部門 教授
下山幸治 先生

*SCSKの最適化ソリューション:pSeven, Toffee-X

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