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技術情報コラム

時間がかかる解析の効果を短時間で出すためのAI活用法

第三回:ベイズ最適化の応用事例

時間がかかる解析の効果を短時間で出すためのAI活用法 第三回:ベイズ最適化の応用事例

ベイズ最適化は、形が未知(ブラックボックス)である目的関数や制約条件関数を、既知(ホワイトボックス)の代数式として代替(サロゲート)近似したモデル上で、モデルの推定誤差を加味しながら大域的最適解を高速に探索する「データ駆動型」のアプローチです。サロゲートモデル上で大域的最適解が存在すると期待される場所において目的関数・制約条件関数の真値を評価し、これらをモデル構築のためのサンプルデータに適宜追加していくことで、モデルの正確性を上げながら大域的最適解の発見に繋げます。よって、流体力学や構造力学などの大規模数値解析によって性能を評価する実設計問題において、ベイズ最適化は必要最小限の関数評価回数をもって(すなわち、現実的な時間内で)最適な設計を発見できる有効な設計ツールとなります。

ここでは、著者らがこれまでに取り組んだベイズ最適化の応用事例を紹介します。

静粛超音速旅客機の形状最適化

上空を超音速で飛行する機体の各所から「衝撃波」と呼ばれる強い圧力変動が発生し、それらが下方に伝播する間に整理統合されて、地上では「ソニックブーム」と呼ばれる爆発音が発生することがあります。ソニックブームは地上環境に悪影響を及ぼすため、コンコルド(2003年退役)をはじめとした超音速旅客機は大陸上空における超音速飛行が許可されておらず、航路が洋上に限定されていました。よって、次世代の超音速旅客機の開発においては機体の静粛化が求められています。

そこで著者らは、超音速旅客機の抵抗係数の最小化、地上騒音レベルの最小化、翼曲げモーメントの最小化の3つの目的関数を設定し、機体胴体および翼平面の各形状(6〜22個の設計変数で表現)のベイズ最適化を実施しました。その結果、3つの目的関数の間に強い相反関係(トレードオフ)が存在することが分かり、各目的についての最適形状および特徴的な物理現象を比較・分析することで、設計要求トレードオフの構造を明らかにしました。さらに、このトレードオフ構造に基づき、既存設計に比べて、3つすべての目的関数についてバランス良く優れた性能を発揮できる中立的な最適形状を提示することに成功しました [1, 2]。

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カーエアコン用送風機の形状最適化

ハイブリッド車や電気自動車の台頭により、走行時のパワーユニット系から発生する騒音が小さくなる傾向にあり、運転中の快適性を向上させるために車室内の静粛化のニーズが高まっています。車室内の温度を調節し快適性を保つために、カーエアコンは欠かせない主要部品ですが、カーエアコンにも静粛性が求められるようになりました。しかし、車内温度を調整するためだけでなく、運転者に直接空気を当て体温を調節する役割もあることから、高い風量を送り出す性能が求められています。加えて、歩行者保護のための衝撃吸収構造の採用や足踏みペダルの操作空間確保など、カーエアコンのための空間は減少する傾向にあります。

そこで著者らは、カーエアコン用送風機の全圧効率の最大化と騒音レベルの最小化の2つの目的関数を設定し、多翼ファン(作動空気に運動エネルギーを与え風を送り出す)とスクロール(運動エネルギーを圧力に変換する)の各形状(15個の設計変数で表現)のベイズ最適化を実施しました。その結果、最適化前の現行設計に比べて、2つの目的関数について優れた最適形状を探索し、多翼ファンでの流れの剥離が抑えられることが明らかとなりました。さらに、ベイズ最適化により得られた最適形状を実作し性能を実測したところ、効率・騒音ともに改善効果を実証しました [3]。

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ヒートシンクのトポロジー最適化

従来の設計問題において最適化の対象とされるものは、寸法や形状などの「外形」が大半でした。しかし、昨今の3Dプリンタなどを用いた積層造形技術の登場により、外形だけでなく「内部構造」にも自由度を持たせて成形できるようになってきました。この内部構造のように、設計の「トポロジー(位相)」を最適化する取り組みが近年注目を浴びています。しかし、形状だけを表現する場合に比べて、トポロジーを表現するために必要となる設計変数の数が圧倒的に多くなるため、最適化問題としての難易度も格段に上がります。

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著者らは、CPUなどの高温デバイスからの排熱に用いられるヒートシンクについて、その構造のトポロジーをベイズ最適化により改良しました。従来のヒートシンクは単純な構造(ピンフィン型など)に限られていますが、ここでは最新の積層造形で成形できるラティス型構造の設計に挑みました。排熱性能の最大化とヒートシンク体積(すなわち材料コスト)の最小化の2つの目的関数を設定し、ラティス構造(68個の設計変数で表現)のベイズ最適化を実施しました。その結果、既存のピンフィン構造に比べて、材料コストを保ちつつ、高い排熱性能を実現できる世界唯一のラティス構造を創出することに成功しました。さらに、最適化されたラティス構造が生み出す、理想的な熱流体現象を明らかにしました[4]。

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*SCSKのベイズ最適化対応ソリューション pSeven, Citrine Platform

参考文献

  • [1] Jim, T.M.S., Faza, G.A., Palar, P.S., Shimoyama, K., Bayesian optimization of a low-boom supersonic wing planform, AIAA Journal, 59(11): 4514–4529 (2021). https://doi.org/10.2514/1.J060225
  • [2] Jim, T.M.S, Faza, G.A., Palar, P.S., Shimoyama, K., A multiobjective surrogate-assisted optimisation and exploration of low-boom supersonic transport planforms, Aerospace Science and Technology, 128: Article 107747 (2022). https://doi.org/10.1016/j.ast.2022.107747
  • [3] Kamada, M., Shimoyama, K., Sato, F., Washiashi, J., Konishi, Y., Multi-objective design optimization of a high efficiency and low noise blower unit of a car air-conditioner, Proceedings of the Institution of Mechanical Engineers, Part D: Journal of Automobile Engineering, 233(13): 3493–3503 (2019). https://doi.org/10.1177/0954407019827131
  • [4] Shimoyama, K., Komiya, A., Multi-objective Bayesian topology optimization of a lattice-structured heat sink in natural convection, Structural and Multidisciplinary Optimization, 65: Article No. 1 (2022). https://doi.org/10.1007/s00158-021-03092-x

著者紹介
九州大学
工学研究院 機械工学部門 教授
下山幸治 先生

*SCSKの最適化ソリューション pSeven, Toffee-X

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