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NVIDIA GTC 2025 Keynote(基調講演)レポート ~AIファクトリーとフィジカルAIで訪れるAI時代の転換点~


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こんにちは、ITPNAVIの加藤です。世界が注目する大企業NVIDIA社が主催するカンファレンス「NVIDIA GTC 2025」。昨年に引き続き、アメリカで開催されたこちらのイベントに参加して参りました。本レポートでは、CEOのジェンスン・フアン氏によるKeynote(基調講演)の内容を分かりやすく、現地の盛り上がりとともにお伝えします。

この記事を読んでわかること

  • AIの革命的な進歩:AIは単なるパターン認識を超えて生成AIとして進化し、マルチモーダルに対応。従来の検索型AIから生成AI、推論AI、エージェントAIへと移行している。
  • フィジカルAIで加速するロボティクス:自律的に問題を解決する推論能力に加え、物理的な現象を理解して実世界で動作するフィジカルAIによってロボティクスが加速する。
  • データセンターはAIファクトリーへ:AIの進化によってデータセンターの役割が変わり、AIによるトークン生成と情報を再構成するAIファクトリーという新しい形態が必要となっている。

【この記事を書いた人】ITPNAVI編集部 加藤優子

【この記事を書いた人】ITPNAVI編集部 加藤優子

ITPNAVI編集部の加藤です!
連載「カトウタイムズ」でさまざまなIT関連の最新情報を、
SCSK社員である私の視点で皆様にお届けしています。

そもそもGTCとは?

NVIDIA GTC 2025のGTCとは、GPU Technology Conferenceの略称で、NVIDA社が主催する年に一度のカンファレンスを指します。AIアプリケーションおよびソフトウェア開発者向けの技術的なカンファレンスとなっており、NVIDIA社内外のビジネスリーダーや専門家、開発者による講演や、企業によるブース展示などがあります。

前回に引き続き、今年もカリフォルニア州サンノゼのコンベンションセンターで開催されました。2025年3月17日(月)~21日(金)(米国時間)の会期中は、前回よりもさらに多い1,000を超えるセッションと約400社のブース展示がありました。
参加登録のペースも非常に早く、1か月前の時点で、現地パスはほぼ完売状態となっていました。実際、オンラインを含めた申込者は24万人を超え、現地にも過去最高となる2.5万人以上が訪れたそうです。今年もサンノゼのいたるところにGTCの垂れ幕やポスターが飾られ、街全体でGTCを後押ししていました。

サンノゼ市内のとある風景

サンノゼ市内のとある風景

GTCの一番の目玉は、NVIDIA社の創設者にしてCEOであるジェンスン・フアン氏のKeynote(基調講演)です。基調講演ではNVIDIA社の最新のソリューションや開発ロードマップが発表されるため、世界中が注目しています。
今年の基調講演は、会期2日目となる3月18日(火)10時(米国時間)からとなりました。会場はこれまた前回と同じく、メイン会場のサンノゼ コンベンションセンターから少し離れたSAPセンターで行われました。

基調講演の会場となったSAPセンターの正面

基調講演の会場となったSAPセンターの正面

Keynote(基調講演)が始まるまでの様子

8時前にはSAPセンターに到着しましたが、既に周辺は多くの人で埋め尽くされていました。行列も沢山できており、一番長いものは1km近くに達していたのではないかと思ったほどです。用意された1万人以上分の座席はあっという間に埋まってしまいましたが、筆者はなんとかステージ正面のアリーナ席に着くことができました。

開始時間前の演出も相変わらずのクオリティで、次から次へとスクリーンに綺麗な映像が映し出されます。下記はNVIDIA本社が映っているシーンなのですが、真っ暗な会場にライトアップされた本社が鮮明に浮かび上がり、まるでそこに建物が実在するようでした。

NVIDIA本社がすぐそこに

NVIDIA本社がすぐそこに

実際、ジェンスン・フアン氏は冒頭の挨拶で、「やっと皆さんをNVIDIA本社にお連れすることができました」と言っていましたが、それも納得のリアリティです。

NVIDIA GTC 2025の資料DL・お問い合わせはこちら

Keynote(基調講演)の4つのトピックス

ここからは、今回の基調講演の内容について、実際に現地で得られた内容をもとに、わかりやすく解説したいと思います。本当は最初から最後までくまなくお伝えしたいのですが、ここでは特に重要な4つのトピックス、次世代型のAI(生成AI)、フィジカルAI、AIファクトリー、NVIDIA社の新製品、に絞ってまとめます。

検索型AIから生成型AIへ

生成AIの登場によって、AIの役割、そしてそれを実現するために必要なコンピューティングモデルも大きく変わりました。

従来のAIは、人間の要求に対して、事前に学習したデータの中から合致するものを見つけ出して回答する、言わば「検索型」AIでした。例えば、いろいろな動物の画像を学習した画像判別AIに猫の画像を与えると、それが猫だと判別できるイメージです。検索型AIは、学習したデータの範囲でしか回答ができない(オウム返しに過ぎない)ことや、シングルモーダルであることから、活用領域には限界があります。先の動物の画像判別AIの例で言うと、車の画像を見せても車だと判別できない、画像以外の言語や音声などのデータは処理できない、ということです。

しかし生成AIは違います。マルチモーダルにさまざまな種類のデータに対応しているうえ、私たちが求めていることを理解して要求を処理し、知らないことがあれば必要な情報を取りに行って、最適な回答を「生成」します。言い換えれば、問題解決のための方法を段階的に分割して「推論」し、「自律的」に動いてくれるのです。これらの特徴を持つ生成AIは、推論AI(Inference AI)や、エージェントAI(Agentic AI)とも呼ぶことができます。

AIをあらゆる産業に

AIをあらゆる産業に

生成AI、推論AI、エージェントAIのような新世代のAIは、従来の検索型AIと比べてそれだけ開発するのも大変です。そこでNVIDIA社は、これらのAIソフトウェア開発を支援するためのライブラリやフレームワークを「CUDA-X」によって提供しています。CUDA-Xに含まれているツールの一例として、「cuOpt」という経路最適化モデルがあります。これは、物流企業がリアルタイムに最適な輸送経路を決定するエージェントAIのベースとして利用できます。CUDA-Xには他にも、半導体チップの製造に関わる計算を高速化する「CuLitho」や、ゲノム解析向けのソフトウェアスイート「Parabricks」など、あらゆるユースケースを想定したライブラリが900以上も備わっています。企業は自社で一からAIを開発するのではなく、CUDA-Xから必要なものを選択する(そして組み合わせる)ことで、開発を効率化・高速化できるようになります。

フィジカルAIで加速するロボティクス

人手不足が深刻な問題となる中、NVIDIA社は未来の労働力となる汎用ロボットおよびヒューマノイドロボットの実用化にも注力しています。上述のAIの進歩により、AIは人間の意図を理解して自律的に推論し、デジタルにおける多くの問題に対処できるようになりました。しかしロボティクスを推し進めるにはそれだけでは足りません。デジタル上ではなく3Dの現実世界において、物理的に自らを制御し、動作できるような「フィジカルAI」が必要です。

フィジカルAIの開発に重要なのが、学習データ、ポリシーの策定、そして拡張性です。AIの精度に大きく影響する高品質で膨大な学習データをどのように用意するのか。ベースとなるポリシー(最適な行動を導くためのルール)をどう設計するのか。現実世界のあらゆる現象に対処できるような、実用性・汎用性をどう高めるか。これら3つの課題を解決するのが、「NVIDIA Omniverse(以下Omniverse(※))」と「NVIDIA Cosmos(以下Cosmos)」と呼ばれるプラットフォームです。

※Omniverseを詳しく知りたい方は、トヨタ自動車が鍛造ラインのロボットティーチングにOmniverseを活用したこちらの事例をご覧ください。

まず、現実世界のセンサーデータやデモデータをOmniverseに取り込み、デジタル空間に非常に高精度な3D環境を作成します。そして、フィジカルAIの開発に特化したCosmosを連携させ、Cosmos上で多様な環境の合成データを生成します。CosmosにはWorld Foundation Models(WFM:世界基盤モデル)という技術が備わっており、物理法則を踏まえて現実世界の現象をシミュレーションすることが可能です。こうすることで、デジタル上で高品質な学習データをどんどん増やすことができます。

そして、Omniverseと連携してクラウドで提供される「NVIDIA Isaac Lab」というロボット学習フレームワークを使って、ヒューマノイドロボットやマニピュレーターをはじめ、幅広い種類のロボットのポリシーを構築します。例えばヒューマノイドロボットの基盤モデルとなる「NVIDIA Isaac Groot N1」には、遅い思考システムと早い思考システムの2つが組み込まれています。遅い思考システムでは、ロボットが周囲の環境と命令を認識し、理由付けをして推論し、取るべき最適な行動を計画するためのポリシーの作成を支援します。一方、速い思考システムは、計画した動作を正確かつ連続的な動作でこなす制御モデルをサポートするものです。そして訓練したモデルをCosmosによってスコアリングすることで、複雑なシナリオに対応したロバストなモデルが完成します。

最後は現実世界への適用です。実際にロボットを動かして得られるデータをさらにOmniverseに取り込み、いわゆるデジタルツインを作成します。そして上記の手順を繰り返すことで、デジタル上のシミュレーションと物理的な世界とのギャップが解消され、フィジカルAIの性能が高まり、あらゆる場面で活躍するロボットが開発できます。

(出典)NVIDIA

AIファクトリー|データを製造する工場

AIの進化とニーズの高まりによって、データセンターの「AIファクトリー」化が求められています。

検索型AIから生成AIなどの次世代AIへと進化する中で、AIの効果を最大限に引き出すには、データセンターやコンピューティングモデルもそれに適応させる必要があります。従来のデータセンターは、データを探索する(検索型AIの)ソフトウェアを実行するための場所でした。しかし生成AIのソフトウェアはファイルを探索するだけでなく、データ(トークン:AI推論の最小ステップ)を生成します。1つの処理(問題解決)を実行する場合、AIはそれを段階的に分割して推論を進めます。まずステップ1のトークンを生成、推論。ステップ2ではステップ1のトークンを入力に加え、さらにトークンを生成、推論。ステップ3では…と繰り返すことで、性能・解決力は格段に向上する反面、トークン数はあっという間に100倍にも膨れ上がってしまいます。このような情報の再編成と膨大なトークン生成を支えるためのインフラがAIファクトリーです。

結婚式の席次を決めてと指示すると、最適解を教えてくれる代わりにトークン数が爆増

結婚式の席次を決めてと指示すると、最適解を教えてくれる代わりにトークン数が爆増
(出典)NVIDIA

これまで工場(ファクトリー)と言うと物理的な製品を製造するための拠点でした。しかし今後は、AIによって駆動される数学的なプロセス・データを生み出すための工場、つまりAIファクトリーも必要です。

そこでNVIDIA社は「NVIDIA Dynamo(以下Dynamo)」というAIファクトリーのためのオペレーティングシステムを発表しました。Dynamoは、トレードオフに見えるトークン数の増大と応答時間の短縮、これら両方を最適化します。同時に電力効率の向上とAIソフトウェアのパフォーマンスを改善して、AIファクトリーを支えます。

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NVIDIA Vera Rubinをはじめとする新たな製品群

最後に、NVIDIA社の新製品と今後の開発ロードマップについてお伝えします。

NVIDIA DGX Spark

大規模AI向けのスーパーコンピュータである「NVIDIA DGX(※)」シリーズに、新しく「NVIDIA DGX Spark(以下DGX Spark)」が登場しました。(これは2025年1月に開催されたCESにおいて「Project DIGITS」として発表されたものです。)従来スーパーコンピュータというと、ラックの数ユニット分を占領し、サーバールームに設置するような大型なものでした。一方DGX Sparkは下記の画像の通り超小型で、パーソナルAIコンピュータと位置づけられています。それでも1ペタフロップスというAI演算性能を誇っているから驚きです。ジェンスン・フアン氏によると「クリスマスプレゼントにもぴったり」とのことです。

NVIDIA DGX Sparkを片手に

NVIDIA DGX Sparkを片手に

※NVIDIA DGXを詳しく知りたい方は、こちらの記事もご覧ください。

NVIDIA Blackwell Ultra

前回のGTCで発表されたGPUアーキテクチャ「NVIDIA Blackwell(以下Blackwell)」に、早速アップデートがありました。それが「Blackwell Ultra」です。Blackwell Ultra は、AIモデルのトレーニングと推論時の処理能力を強化し、エージェントAIやフィジカルAI などのソフトウェア開発をますます加速します。発売は2025年下期を予定しています。

NVIDIA Vera Rubin

続く2026年下期に登場する「NVIDIA Vera Rubin(以下Vera Rubin)」は、Blackwellの後継となる全く新しいアーキテクチャです。GPUがBlackwellからRubinに進化するだけでなく、一緒に使用されるCPUもVeraに刷新され、併せてVera Rubinという基盤を構成します。さらに2027年下期には「Vera Rubin Ultra」が控えます。

HopperとBlackwellとRubinの比較(出典)NVIDIA

HopperとBlackwellとRubinの比較
(出典)NVIDIA

GPUアーキテクチャはHopper、Blackwell、Rubinの順にアップデートされます。Hopperを基準に1としたとき、AI処理性能(フロップス)を見ると、Blackwellは68倍、Rubinはなんと900倍にも及びます。また、Rubinのエネルギーコストは0.03と大幅に抑えられます。

NVIDIA Spectrum-XとNVIDIA Quantum-X

ここまではAIサーバ1台あたりのパフォーマンスを向上するスケールアップのお話をしてきました。NVIDIA社はさらに大規模なAIシステムを構築するため、複数台のAIサーバを接続するスケールアウトの技術も追及しています。具体的には、ネットワークスイッチである、イーサネットの「NVIDIA Spectrum-X」と、InfiniBandの「NVIDIA Quantum-X」を発表しました。

これらはシリコンフォトニクスを採用した超高速のネットワークスイッチです。シリコンフォトニクス、つまり光信号を使ったデータ輸送技術は、通信速度を上げられる反面、膨大なエネルギーを消費するという課題がありました。しかしNVIDIA社は従来の方法と比較して3.5倍の電力効率を実現し、さらに世界初の1.6TB/秒という高速な通信を実現することに成功しました。

スケールアップとスケールアウトの両方で、消費電力を抑えつつAI演算処理のパフォーマンスを高めるという、NVIDIA社の高い技術力が伺える新製品のラインナップでした。

これらのNVIDIA社を中心とした研究開発以外に、あらゆる業界(企業)とのパートナーシップに関するアナウンスもありました。例えばGeneral Motorsの自動運転車「フリート」の開発における協業や、Disney ResearchおよびGoogle DeepMindと共同開発した物理エンジン「Newton」などもお披露目されました。

Keynote(基調講演)を終えて

今年もかわいいブルーが登場

今年もかわいいブルーが登場

GTCの盛り上がりはすさまじく、昨年はAIのウッドストック、今年はAIのスーパーボウルと形容されるほどです。それに対しジェンスン・フアン氏は、「スーパーボウルと違うのは、みんなが勝者であることだ」と言っていました。つまり、生成AIや推論AI、フィジカルAIのような新たなAIによって、全ての産業に革命が起こるということです。

NVIDIA社は、みんなが勝者になる、つまり世界中の人々がAIの恩恵を受けられる、そんな未来を目指していることが伝わってくる基調講演でした。

なお、基調講演のフルバージョンはYouTubeで公開されています。現地の盛り上がりをぜひ体感してみてください。:ご視聴はこちら

まとめ

AIの進化はシステム全体に大きな変化をもたらしています。プロセッサーが変わり、オペレーティングシステムが変わり、そのうえで実行されるアプリケーションも変わり、それをオーケストレーションする方法やデータアクセス方法も変わります。生成AIをはじめとする推論ベースのAIによって演算量が増大し、またフィジカルAIなどの実用化でAIの使用場面が増える中、これらに対応できるプラットフォームが必要です。

NVIDIA社はそのプラットフォームを提供します。インフラ面では、GPUアーキテクチャのRubin、ミドルウェアとしてのDynamoによってAIファクトリーの構築を支援します。ソフトウェアでは、CUDA-XやOmniverse、CosmosがAI開発を加速します。AI時代をけん引するNVIDIA社の今後には目が離せません。

※出展の無い画像は筆者撮影

NVIDIA社の製品情報はこちら

NVIDIA社が提供する革新的なGPUソリューション

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デジタルツインアプリケーションを作成・運用できるプラットフォームNVIDIA Omniverse」

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