NVIDIA GTC 2024イベントレポート ~Keynote(基調講演)から見る生成AIの世界~
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こんにちは、ITPNAVIの加藤です。世界が注目する大企業NVIDIA社が主催するカンファレンス「NVIDIA AI Summit Japan」。今回、東京で開催されたこちらのイベントにSCSKはスポンサーとして出展し、私も現地で参加して参りました。本レポートでは、CEOのジェンスン・フアン氏によるファイヤーサイドチャットを中心に、イベントの内容を分かりやすくご紹介します。
【この記事を書いた人】ITPNAVI編集部 加藤優子
ITPNAVI編集部の加藤です!
連載「カトウタイムズ」でさまざまなIT関連の最新情報を、
SCSK社員である私の視点で皆様にお届けしています。
目次
NVIDIA AI Summitとは、NVIDIA社が主催するコーポレートイベントで、NVIDIA社はもちろん、パートナー各社や専門家によるAIに関する最新技術や開発動向などの情報が発信される場です。2024年においては、6月に台湾、10月にワシントンD.C.およびインドでそれぞれ開催されています。
そして今回、日本でも、NVIDIA AI Summit Japanと題し、ザ・プリンス パークタワー東京にて、11月12日~13日の2日間に渡って開催されました。
コロナ禍もあり、NVIDIA社の主催による日本でのリアルイベントが開催されるのは2018年のGTC Japan(※)以来、実に6年ぶりです。今回は完全招待制であったものの、3,600名以上の事前登録者数がありました。目玉であるファイヤーサイドチャットのほか、生成AIやロボティクス、各業界の応用事例などをテーマにした60以上の個別セッションや、スポンサー各社によるブース展示があり、大盛況となりました。
(※)GTCとは、および最新のGTCについてはこれらの記事で詳しくご紹介しています。
1日目の11月12日は、NVIDIA Omniverse(後述)が採用するデータフォーマットのOpenUSDとLLMの構築に関するエンジニア向けのセッションのみで、ブース展示もなかったため、私は2日目の11月13日のみ参加しました。ここからは実際に私が参加した、大注目のファイヤーサイドチャットについて詳しくご紹介します。
ファイヤーサイドチャットは11月13日の10時~11時半にかけて行われました。席に限りがあるため早めに並ぶようにと関係者からアドバイスをもらっていた私は9時頃に会場へ向かいました。するとそこには既に、1,000人は軽く超えているであろう、開場を待つ人々の長い列が伸びていました。慌てて最後尾についた私の後ろにも続々と人がやってきます。かなり焦りましたが、無事ステージの正面近くに着席することができました。
ファイヤーサイドチャットの会場前に並ぶ人々
ファイヤーサイドチャットは2部構成となっており、前半はNVIDIA社の創業者/CEOであるジェンスン・フアン氏の講演、続く後半はソフトバンクグループ株式会社(以下、Softbank)の代表取締役 会長兼社長執行役員の孫正義氏も登壇され、二人の対談が繰り広げられました。
フアン氏の講演では、これまでのAIの発展を振り返りつつ、今後のAIの展望とそれに沿ったNVIDIA社の最新技術・戦略に関して発表されました。主なトピックスは以下の通りです。
従来の(AI)ソフトウェア開発というと、人がコーディングしたモデルをGPUで処理するというものでした。これを「Software 1.0」と呼びます。対して「Software 2.0」とは、人手によるコーディング・モデル作成の部分をAIによって置き換える(あるいは効率化する)という概念です。Software 2.0によって、従来は難しかった処理にも対応したソフトウェアを開発できたり、開発そのものを高速化できたりといったメリットがあります。そして何より異なるのは、AIモデルやGPUの性能が向上したことで、ソフトウェアによるアウトプットが単純な結果ではなく「Intelligence(知能)」に変わったということです。(※詳しくは後述)
Software 1.0とSoftware 2.0の違い
GPUに注目してみると、Software 1.0ではモデルを処理するためだけに使われていましたが、Software 2.0においては、人手に代わるコーディング部分を開発するためにも必要になります。NVIDIA社は、企業がSoftware 2.0に基づき、知的なアウトプットができるソフトウェア開発を行うため、必要なあらゆるリソースおよびサービスを提供すると言います。
そのためのリソースとなるのが、「NVIDIA Blackwell(※)」と呼ばれるプラットフォームです。NVIDIA社が提供する最も強力なAIプラットフォームとして、2つの巨大なGPUダイを高帯域幅メモリとネットワークで接続しており、圧倒的なパフォーマンスを実現します。
※NVIDIA Blackwell プラットフォームについてはこちらの記事で詳しくご紹介していますので、ここでは割愛いたします。
フアン氏によると、GPUやAIに関する技術の進歩に伴い、現在(および近い将来)のAIは、大きく2種類に分けられます。それは、エージェントAIとフィジカルAIです。
エージェントAIのイメージ
エージェントAIとは、知能を持ったAIであり、いわゆるデジタルワーカーです。ChatGPTのような生成AIをイメージするとよいでしょう。人間が出した指示やデータなどの入力情報をもとに、AI自らが考え、より人間に近い知的な答えを返してくれます。文章や画像、音声などのあらゆる種類のデータの意味を理解し、生み出された知能(知恵)を適切なかたちで人間に与えてくれます。
もう一つのフィジカルAIとは、AIによって物理的に動作するロボットです。特定の作業を行うアーム型のロボットや、人型のヒューマノイドロボットなどがこれに該当します。身の回りの環境を把握し、与えられたタスクをこなすものです。
Foxconnの工場で使われるアーム型のロボット
この二つは全くの別物というわけではなく、密接に関係しています。というのも、エージェントAIを組み込んだフィジカルAIは、知的・自律的な動作を可能とするため、今後、あらゆる場面で活用が期待されているのです。従来のフィジカルAIの代表的なものに、製造業で使われる各種のロボットが挙げられます。例えば部品を搬送するロボット、塗装するロボット、組み立てるロボットなどです。こうしたロボットは、対象となる部品や動作について事前にしっかりと訓練されているため、教わった通りにしか動かず、特定のタスクにしか従事できません。つまり、新しい部品や製造ラインで稼働させたい場合は、その都度、再学習させなければなりません。そのためこれまでのフィジカルAIは、同じ部品を組み立て続けるような、大量生産の製造業に使われることが主流でした。
しかしエージェントAIによって、ロボットが周囲の状況を判断してすべきことを考え、正しく実行するまでを自律的にできるようになったらどうでしょう。従来のような、特定の作業や繰り返しの作業といった制約に囚われず、あらゆる業界・用途でフィジカルAIが活躍するようになります。
こうした次世代のフィジカルAIの開発を支援するためにNVIDIA社が提供しているソリューションが「NVIDIA Omniverse(以下、Omniverse(※))」です。Omniverseはデジタルツインを構築するためのアプリケーション開発プラットフォームであり、デジタルツインの仮想世界でフィジカルAIを開発し、現実世界のロボットに組み込む、といった使い方ができます。
※Omniverseを詳しく知りたい方は、トヨタ自動車が鍛造ラインのロボットティーチングにOmniverseを活用したこちらの事例をご覧ください。
加えて、Omniverse上で提供される「Isaac Lab」という新しいフレームワークを使えば、強化学習をベースに、適用力の高いマルチタスクなフィジカルAIを高速に開発することが可能です。
Isaac Labを活用したデジタルツインで、さまざまな環境を再現しロボットをトレーニングする
NVIDIA社はこうしたソフトウェアだけでなく、その計算基盤となるDGX(※)やロボット側での処理を担うAGXといったハードウェアも含め、ロボティクスの発展に必要なソリューションを強化しています。
※DGXについてはこちらの記事で詳しくご紹介しています。
ここまでの話を聞くと、AIはその進歩に伴い、活用場面がどんどん広がっていることが分かります。ということは、AIによって人間の役割(仕事)も奪われてしまうのでしょうか?答えは「NO」です。
フアン氏はこう述べました。「人間の仕事の50%をAIが置き換えてしまう(50%の人間が不要になる)、ということではありません。AIは100%の人々のために、50%の仕事を効率化(一人ひとりを支援)してくれるのです。」
AIは人間にとって代わるものというより、より良い世界を実現するために人間を支えてくれるもの、というイメージですね。AIにできることが増えれば、それだけ多くの人々が助かるということです。
AI Factoryのイメージ
前半の最後に紹介されたのが、NVIDIA社とSoftbankが連携して建設を進めている日本最大のAIインフラ「AI Factory」です。
AI Factoryには、前述のNVIDIA Blackwell プラットフォームによるAIスーパーコンピュータが構築されています。さらに「NVIDIA AI Aerial」の技術を活用することで、「AI-RAN」と呼ばれる、AIワークロードを5G通信で処理できるネットワークを提供。これらの上で高速かつ安全なAIマーケットプレイスを展開し、日本の企業におけるAI開発および利活用の加速を目指しています。
ハグする二人
続く後半では孫正義氏が登場しました。熱烈なハグと嬉しそうな二人の様子から、ビジネスパートナーとしてだけでなく、友人としても本当に仲が良いのだなと感じられます。
対談は、フアン氏が孫氏に対して質問を投げかけるかたちで進みました。中でも印象に残っているやりとりが、日本にとってのAIのインパクトと、AIの未来についてです。
これまでのデジタル化の歴史において、Eメールやインターネット、SNSなどのあらゆる技術が登場し、その都度、社会にとっての変化(波)がやってきました。そんな中、今私たちが経験しているAIの波は過去最大の革命であると言います。市場規模の大きさはもちろん、何より全ての業界(人々)が影響を受けるということがそのゆえんです。
これまでの日本はデジタル化の波に乗れず、世界に後れをとってきました。というのも日本はものづくり大国であり、実際に目に見えるもの、かたちあるものを生み出すことに注力してきました。その反面、デジタル技術やソフトウェアといったバーチャルなものが軽視されてしまったのです。結果として、これまでのデジタル化に対応できず、いわゆる失われた30年を歩んできました。
しかし、これまでと毛色の異なるAI革命によって過去がリセットされると孫氏は言います。諸外国ではAIに関する規制が進むところもある一方、幸いにも日本政府は規制に動いていない背景もあり、ものづくりのプロフェッショナルの技術やノウハウをAIと掛け合わせることによって、これからの日本にはまだまだ未来があると考えています。
前半のセッションでも話があったように、エージェントAIによってIntelligence(知能)が生み出されるようになりました。この知能に価値があるのは言うまでもありませんが、とすると、知能を生み出すために必要となるデータも同じくらい重要と言えます。それだけ貴重なデータおよび知能を安心安全に活用するためには、日本国内でAI開発・利活用を完結できる仕組みが必要です。(このような地産地消のAI版ともいえる概念をソブリンAIと呼びます)これが、AI Factory構想にも繋がっています。
未来の日本において、AI FactoryのようなAIインフラが普及し、より身近になるAI像について、フアン氏は「自分自身のデジタルツイン」、孫氏は「パーソナルなAI」と表現しました。今や一人に1台のスマートフォンが欠かせないのと同じように、一人ひとりのエージェントAIが当たり前になる時代が来るでしょう。デジタルネイティブならぬ、生まれたときからAIと一緒に過ごすAIネイティブとなる未来の世代はどんな生活を送るのでしょうか。自分の全てを知っているもう一人の自分と過ごす未来が楽しみです。
ファイヤーサイドチャットの同日、11月13日は、スポンサー各社によるブース展示もありました。NVIDIA社のエリアが一番広く、次いでAI Factoryを紹介するSoftbankのブースも注目されていました。
そんな中で当社は、エージェントAIとフィジカルAIの開発を支援するトータルソリューションとして、Omniverseを中心としたデジタルツインサービスと、クラウドネイティブパッケージ「NebulaShift」の2つを展示しました。
SCSKのブース
製造業における労働力不足の課題に対応するべく、デジタルツインを通した省人化・無人化・自動化を推進するための各種サービスを提供します。
前述の通り、Omniverseはデジタルツインによって(フィジカル)AIを開発するためのプラットフォームです。しかし実際に活用しようとすると、製造現場の知見はもちろん、AIに関する専門知識も必要なため、企業によっては難しいと感じられる場合も多いのが現状です。そこで、これまで当社が培ってきた豊富なエンジニアリング経験と、それを基に独自開発したライブラリを組み合わせることによって、企業の課題に最適化されたデジタルツインを構築します。
NebulaShiftは、アジャイル開発の伴走型技術支援、アプリケーションのモダナイズ支援、インフラ環境のマネージドサービスを統合した、クラウドネイティブ領域に関する当社オリジナルのサービスブランドです。
AI開発において重要な精度向上のためには、膨大なデータを処理できる計算リソースと、企業に固有の機密データを扱うにあたってのセキュリティが同時に求められます。つまり、パブリッククラウド、オンプレミス、ハイブリッドクラウドを組み合わせた柔軟な基盤=クラウドネイティブ化が必要です。当社はNebulaShiftを通し、企業のニーズに沿ったクラウドネイティブ化を実現します。
NVIDIA社は現在(2024年11月時点)時価総額が世界1位ということで、イベントには非常に多くのプレス関係者も参加しており、改めて注目度の大きさを感じました。
2024年3月に開催されたGTCでキーワードとなっていた生成AIやデジタルツインが今回も引き継がれ、NVIDIA社の方針を再確認できました。
そういえばファイヤーサイドチャットの冒頭でフアン氏は「NVIDIA社はタイムマシンを作っている」と言っていました。AIによって過去を再現できる+未来を予測できるという意味だとその時は解釈したのですが、それだけでなく、これからどんな新技術が発表されるのか、どんな未来が待っているのか、といった興奮を提供してくれる点も、タイムマシンに似ているなと思いました。AI産業が過去をリセットし、AIが全ての人に欠かせない存在になることで訪れる全く新しい将来に心が躍りますね!
なお、ファイヤーサイドチャットのフルバージョンはYouTubeで公開されています。現地の盛り上がりをぜひ体感してみてください。:ご視聴はこちら
この記事では、NVIDIA AI Summit Japanのファイヤーサイドチャットの内容を中心に、イベントの様子を詳しくレポートしました。
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