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NVIDIA GTC 2024イベントレポート Part 2【セッション編】~GPUによる最新テクノロジーを深掘り~


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こんにちは、ITPNAVIの加藤です。世界が注目する大企業NVIDIA社が主催するカンファレンス「NVIDIA GTC 2024」。今回、アメリカで開催されたこちらのイベントに参加して参りました。前回は同社のCEOジェンスン・ファンの基調講演を中心にレポートをお届けしましたが、今回はその他のセッションからピックアップして、注目の内容を深掘りしていきたいと思います。基調講演で触れられたテーマをさらに掘り下げるセッションや、新たなトピックスを盛りだくさんでお届けします。

この記事を読んでわかること

  • OpenAI社が考える生成AIの今後。キーワードは「生成AIの民主化」
  • NVIDIA Omniverseはロボット開発のプラットフォームとしてあらゆる機能を提供
  • AI時代のサイバーセキュリティを考える。内部からの情報漏洩を防ぎ生成AIの活用を加速

【この記事を書いた人】ITPNAVI編集部 加藤優子

【この記事を書いた人】ITPNAVI編集部 加藤優子

ITPNAVI編集部の加藤です!
連載「カトウタイムズ」でさまざまなIT関連の最新情報を、
SCSK社員である私の視点で皆様にお届けしています。

そもそもGTCとは?基調講演の内容は?を詳しく知りたい方は前回のレポートをご覧ください:

NVIDIA GTC 2024イベントレポート ~Keynote(基調講演)から見る生成AIの世界~|SCSK IT Platform Navigator

会場の雰囲気

前回ご紹介した基調講演以外にも、GTCではAIおよびGPUに関わる最新技術を紹介する数多くのセッションが開催されました。4日間の会期を通したセッションの総数はなんと900を超えます。メイン会場となったサンノゼ マッケンナリー コンベンションセンター以外に、隣接するサンノゼ マリオットとヒルトン サンノゼの2つのホテルのイベント会場も貸し切り、朝から晩まで続きました。

1日中会場に缶詰めに…。筆者を含むそんな来場者に向けて、会場のいたるところでドリンクや食事、電源タップつきのワークスペースが無料で提供されました。熱々のコーヒーを飲みながらセッションを見たり、(しぶしぶ)仕事をしたりもできました。ぎちぎちなスケジュールの中、こういったサービスがとても助かりました。

かわいい家の形をしたワークスペースは大人気!

かわいい家の形をしたワークスペースは大人気!

数が膨大な分、興味のあるセッションが別々の会場で同じ時間帯に開催されていることも多くなります。筆者は一緒に出張した他のメンバーと手分けをし、できる限り多くのセッションに参加することを目指しました。自分が参加したセッションの内容は、後日メンバー同士で共有する作戦です。

それでも、会場がとてつもなく広いので、セッションが終わったらすぐ次のセッションに向けて急いで移動する、の繰り返しでした。同じような考えの人が多いのか、会場中を常に多くの人が行き交っていました。

GTC専用アプリの実際の画面。登録したセッションのスケジュールやマップを一目で確認でき便利

GTC専用アプリの実際の画面。登録したセッションのスケジュールやマップを一目で確認でき便利

そんな来場者を助けるGTC専用アプリもあります!登録したセッションのスケジュールやマップを確認できる優れものです。

セッションの全体像

セッションは、NVIDIA社内外の世界をリードするビジネスリーダー、研究者、開発者によって行われました。複数名のスペシャリストによる対談形式のものや来場者が手を動かすワークショップもありました。また発表中には多くの質問が活発に飛び交い、非常にインタラクティブです。

発表内容は多岐にわたりますが、全体的なテーマをまとめると以下の6つがありました。

1. アクセラレーテッドコンピューティング

  1. アクセラレーテッドコンピューティングを加速する新技術
  2. アクセラレーテッドコンピューティングの実現手法

2. AI開発と実用化

  1. ディープラーニング、強化学習、連合学習などの学習手法
  2. 会話型AI(LLM、自然言語処理モデルなど)
  3. 生成AI(信頼性のあるAI開発に向けて、画像生成/ビデオ生成などのモーダル別セッション)
  4. MLOps

3. コンピュータビジョンと画像処理

  1. 3Dビジュアライゼーション、AR/VR技術
  2. 画像/ビデオの検出や分析
  3. レイトレーシング、レンダリングなどの処理技術

4. シミュレーション/モデリングと制御

  1. 自律型ロボット(AMR)やマニピュレータの開発と合成データ
  2. メタバース/デジタルツイン
  3. 天文学・創薬・科学・力学などでのシミュレーション
  4. エッジコンピューティング/IoT
  5. データサイエンス(バイオ/ゲノム領域などでのビッグデータ活用)

5. サイバーセキュリティ

  1. AIセキュリティ
  2. ゼロトラストセキュリティ

6. クラウドとネットワーク

  1. データセンター/クラウドのインフラ基盤とソフトウェアデファインド技術
  2. データセンター/クラウドのネットワークアーキテクチャ
  3. ネットワークセキュリティ

トレンドを押さえる!注目のセッションをご紹介

そんな盛りだくさんなセッションの中から、実際に現地で得られた内容をもとに、選りすぐりのものを紹介します。

①生成AIの今後(What’s Next in Generative AI)

OpenAI社のCOO Brad Lightcap氏と、NVIDIA社のエンタープライズ部門のバイスプレジデント Manuvir Das氏による対談形式のセッションです。現在の生成AIの使われ方と、OpenAI社のビジョンも含めた今後の生成AIの可能性について語られました。

遠くに見えるのがDas氏(左手)とLightcap氏(右手)

遠くに見えるのがDas氏(左手)とLightcap氏(右手)

OpenAI社はChatGPTを開発し、2023年にはMicrosoft社が100億ドルの巨額出資をしたことで、大注目の企業となっています。本セッションも開始前から大行列で、軽く見積もって1000名以上が押しかけたため、入場に時間がかかり開始が遅れたほどでした。

そんなOpneAI社はChatGPT以外にも画像生成アプリなどの多様な生成AIサービスを提供しています。Lightcap氏によると、現在(2024/3時点)、Fortune500の9割を超える企業が実業務において生成AIを活用しています。用途は作業の自動化や効率化、データ分析が中心で、ChatGPTをはじめとする生成AIサービスをそのまま利用する企業がある一方、目的によってはユーザーが独自に追加開発をしなければならない場合もまだまだあるのが現状です。

そこでOpenAI社が目指すのは、生成AIの民主化(=Democratization)です。民主化とは、開発エンジニアでなくても(開発を必要とせず)、すべてのユーザーがやりたいことをすぐに生成AIによって実現できる状態を指します。

近い将来、ここで提示されたサービスが実現することになるでしょう。その際には開発の手間がかからないという特徴以外にも、現行のチャットツールを超えた、より使いやすく選択肢のあるインターフェース(※)・推論性能の向上・ユーザーの指示を超えた自律的な動作といったさまざまな進化が期待されます。

※2024/5/14に発表されたGPTの最新モデルである「GPT-4o」では、テキスト以外に音声にも対応しています。OpenAI社の公式サイトで公開されているデモ動画を見ると、人間同士で会話するのと全く同じ感覚で、人間とGPTが自然な会話を通して依頼や質問をやりとりしています。Lightcap氏はこの時すでに、GPT-4oを念頭にお話しされていたのだなと思いました。

②合成データによる人とロボットのナビゲーション シミュレーション
(People and Robot Navigation Simulation for Synthetic Data Generation)

続いてはNVIDIA社のセッションです。「Omniverse(※)」による合成データを活用したAMR(自律走行型ロボット)の開発技術について発表されました。

Omniverseについて詳しく知りたい方は以下の記事もご覧ください

メタバースで製造業が変わる!NVIDIA Omniverseセミナー

工場や倉庫といった作業現場の安全性と効率性を高めるため、AMRの活躍が期待されています。AMRはセンサーなどで周囲の環境を把握し、目的地までの最適なルートを算出しながら自動で動くロボットです。しかしAMRの開発には、学習データの準備とAIモデルのトレーニングという2つの面で困難があります。

まず学習データについてです。動く作業員や荷物で塞がれた道、倒れてきた段ボールなどをリアルタイムで認識し、正確に回避できるようなロボットナビゲーションのAIモデルを開発するには、さまざまなケースを想定した膨大な学習データが必要です。特に人のデータとなるとプライバシーの問題もあり、企業が準備するには限界があります。またAIモデルをトレーニングする際も、AMRの検証のためだけに実稼働している工場を止めるわけにはいきません。とはいえ、いきなり現場で動かして事故があっても大問題です。

この課題を解決するのが、Omniverseと「Isaac Replicator」です。Isaac Replicatorは、AI学習用の仮想のデータ(=合成データ)を生成するツールです。非常にリアルな、まるで実在するかのようなデータを生成できるため、懸念となっていたデータ量とプライバシーの問題をクリアし、必要な学習データを確保できます。さらにOmniverseによって工場のあらゆる環境をデジタルツインで再現し、その中でAMRが正しく動作するようトレーニングすることも可能なため、AMRの開発を全てデジタル上で完結させることができます。

Omniverseによるデジタルツインの事例は以下の記事もご覧ください

トヨタ自動車が取り組むOmniverseを使ったデジタルツインの事例

OmniverseとIsaac Replicatorの機能についてより詳しく知りたい方は以下の製品サイトもご覧ください

仮想空間でリアルを超えるメタバースプラットフォーム 『 Omniverse 』

③AIとセキュリティの交錯:サイバーセキュリティリーダーが知っておくべきこと
(The Intersection of AI and Security: What Cybersecurity Leaders Need to Know)

AI Security : Strategy

(出典:NVIDIA)

こちらもNVIDIA社によるセッションです。すさまじいスピードで進化するテクノロジーは、利便性を高めると同時にサイバーセキュリティ(以下セキュリティ)のリスクも増大させます。特に生成AIの活用にあたって知っておくべきセキュリティの懸念とその対応について、NVIDIA社の戦略が紹介されました。

IoTの普及によりあらゆるデバイスがインターネットに繋がることで、セキュリティリスクにさらされるデータは爆発的に増加しています。リスクをさらに高める要因として、そして一見真逆の、新たなセキュリティ対応策としても注目されているのが生成AIです。(後述)

ChatGPTに代表される会話型生成AIを活用すれば、誰もがプログラマーになれます。例えば認証ログを調査する際、従来は専門スキルのある担当者がコマンドラインインターフェース(CLI)上でクエリを書かなければなりませんでした。一方生成AIでは、ヒューマンランゲージインターフェース(HLI)、つまり自然言語によって「認証ログを見せて」と指示するだけでよいのです。これは、誰もがセキュリティ担当者になれると同時に、悪意のある指示をすれば攻撃者にもなれることを意味しています。

生成AI自身がデータを合成・生成するにあたって、どのユーザーにどのデータへのアクセスを許可するかというアクセス制御もセキュリティ上の厄介なポイントです。これまでアクセス制御というと、例えばフォルダやドキュメントといったファイルに対して行うものでした。一方で生成AIは、ドキュメント内の一部の文章を切り取って、あるいはそれをもとに新しい文章を生成し、ユーザーの指示に対してその都度答えを表示します。つまり、アクセス制御の対象はファイル全体ではなくファイル内の一部分であり、ユーザーではなく指示(文脈)によって変わります。その結果、勝手に機微なデータを利用(回答)されるのではという懸念が、企業の生成AI活用を阻む壁となっています。

この課題に対しNVIDIA社は「Context-Based Access Control(CBAC)」、つまりコンテキスト(=文脈)に基づいたアクセス制御を紹介しました。企業内部からの情報漏洩リスクを抑えることで、セキュリティを含むあらゆるビジネスにおける生成AIの利活用を促進します。

カンファレンスを終えて

4日間にわたる会期において、これら以外にも、基調講演でお披露目されたBlackwellプラットフォームに関するものやAIおよびGPUに関するさまざまな事例および最新の研究動向などが発表されました。

NVIDIA社のプロフェッショナルはもちろんのこと、ご紹介したOpenAI社をはじめAI業界を牽引するリーダーのビジョンを直接聞き、さらには議論までできる大変貴重な機会でした。基調講演に引けを取らない熱気が会場にあふれており、NVIDIA社のますますの躍進をひしひしと感じたカンファレンスでした。

セッションはNVIDIA GTC 2024の公式HPで公開されています。全編が気になった方はぜひご覧ください。:ご視聴はこちら

まとめ

この記事では、NVIDIA GTC 2024の会場の様子と、注目のセッションをピックアップしてご紹介しました。

  1. OpenAI社が考える生成AIの今後。キーワードは「生成AIの民主化」
  2. NVIDIA Omniverseはロボット開発のプラットフォームとしてあらゆる機能を提供
  3. AI時代のサイバーセキュリティを考える。内部からの情報漏洩を防ぎ生成AIの活用を加速

※出典の無い画像は著者撮影

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NVIDIA社が提供する革新的なGPUソリューション

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仮想空間でリアルを超えるメタバースプラットフォーム 『 Omniverse 』

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