RPAを活用して業務効率化の効果を最大限得る方法とは?
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プロセスマイニングとは、業務プロセスを可視化・分析することで現状を把握し、改善すべきポイントを洗い出すための技術です。業務の自動化・効率化といった業務改革に取り組む企業が増えている一方で、どこから着手すべきかわからないというケースも少なくありません。そんな中、オペレーションの無駄や非効率性などのボトルネックをデータに基づき正確かつ効率よく発見し、組織をあるべき姿へと変革させるためのプロセスマイニングが注目されています。
この記事では、プロセスマイニングの概念やメリットと限界、具体的な活用事例からツールまで詳しく紹介します。
【この記事の監修者】田中 洋介(たなか ようすけ)
SCSK株式会社 ITインフラ・ソフトウェア事業本部 データ・ミドルウェア部
【主な活動】
・「自動化」および「データ利活用」領域で活躍している販売エキスパート
・プロセスマイニングをベースとした販売体制およびソリューションの構築
・お客様の業務効率の向上と新たなビジネスチャンスの創出を支援
目次
プロセスマイニングとは、さまざまなシステムやアプリケーションのログをもとに、業務プロセスを可視化・分析する技術です。具体的には、システムやアプリケーションのイベント発生の度に記録されるログを収集することで、現状の業務プロセスを正確に把握します。さらに分析することでボトルネックなどの問題がスピーディーに洗い出され、業務改善に活用できます。
近年、人材不足やコスト上昇などを背景に、企業では業務の自動化・効率化をはじめとする業務改善が迫られています。その一方で、日本は諸外国と比べて労働生産性が低いことが深刻な問題となっています。時間当たりの労働生産性を見ると、日本は主要先進国(G7)の中で1970年から現在にかけて最下位の状態が続いており、またOECD加盟国においても38か国中30位(2022年)という結果が出ています。
(出典)「労働生産性の国際比較2023」公益財団法人 日本生産性本部
そんな中、業務効率化の代表的なツールとして、ソフトウェアロボットによって業務を自動化するRPA(Robotic Process Automation) が使われてきました。しかし、そもそもどの業務を自動化すべきか分からない、分かっていても対象の業務プロセスが正しく把握できていないなどの理由で、RPAを効果的に導入できないという課題がありました。実際、プロセスマイニングが登場する以前は、現状を把握し課題を特定するために、対象者にインタビューをしたり人手で作業書をまとめたりといった時間のかかる作業が必要でした。また改善すべき業務が複数ある場合、どれから着手すれば効果が高いかを予測するのも大変です。
プロセスマイニングではこれらをシステムによってデジタル化し、現状の業務プロセスをデータから客観的に評価することで、効率的な業務改善と、より効果的なRPAの活用などに役立てられると期待されています。
プロセスマイニングはどのように業務プロセスを可視化し、改善点を特定するのでしょうか。ここではその仕組みを4つのステップに沿って解説します。
まずはシステム側で日々蓄積されるトランザクションデータ(データの追加/更新/削除の履歴)を「イベントログ」に変換する作業が必要です。イベントログとは、プロセスマイニングが扱うデータ形式で、最低限、以下の3つの情報を含むものを指します。
これらの必須項目以外にも、分析の材料となるデータ項目がプロセスに応じて付加されます。例えば、アクティビティを実行したユーザーやアセットを表すリソースがしばしば用いられます。
<イベントログのイメージ>
代表的なプロセスマイニングツールでは、SAPやMicrosoft Dynamics 365といったメジャーなシステムのトランザクションデータを収集しイベントログに変換するコネクターが備わっています。一方、ユーザーが独自開発したツールやレガシーシステムなどコネクターが対応していないものについては、連携するための環境を個別に開発する必要があります。
こうして収集したイベントログをもとに、プロセスグラフ(プロセス図)を作成します。プロセスグラフとは全体の業務フローをチャート形式でわかりやすく可視化したものです。個々のプロセスがどんな順番で発生しているのか、どれくらい時間がかかっているのか、イレギュラーなプロセスの有無などを瞬時に把握できます。
<プロセスグラフのイメージ>
続いてはコンフォーマンス(適合性)チェックです。理想とする状態と現状を比較し、両者がどれくらい合致しているのか、逆に乖離しているのかを分析します。プロセスマイニングツールには適合性チェック機能が搭載されているものもあり、理想のプロセスを実行するために必要な処理を自動で通知したり、最も時間がかかっている箇所やエラーが発生している箇所などを影響度が高い順に表示したりといったことが可能です。
ここまでで見つかった改善点の実行状態をモニタリングし、どの程度効果があるのかを確認するフェーズです。プロセスマイニングを継続することで、改善前と後とでプロセスがどう変化したか、理想のプロセス通りに実行できているかを監視し、その結果どのような効果があったのかを、データに基づいて正確に測定できます。常に最新の業務プロセスを把握しておくことで、新たな業務改善案に繋げることができます。
<プロセスマイニングのPDCA>
この4つのステップをPDCAで回すことにより、効果的かつ継続的な業務改善を実現できます。
プロセスマイニングを導入することでさまざまなメリットが期待できます。
従来、業務プロセスを可視化するとなると、各業務の担当者へのヒアリングが必要でした。しかしヒアリングは時間がかかるうえ、方法や回答は人に依存するため主観的になってしまい、業務全体を正しく網羅的に捉えることは難しくなります。さらに専門の業務コンサルタントに依頼する場合はコストの問題も発生します。
プロセスマイニングではイベントログを活用することで業務プロセスを抜け漏れなく整理し、可視化にかかる時間を大きく短縮できます。また場合によりますが、内製化によってコストも比較的小さく抑えられます。業務プロセスの可視化に関わるこれらのパフォーマンスが高まることで、圧倒的な効率化を実現します。
プロセスマイニングではデータ(イベントログ)という定量的かつ客観的な情報に基づき、論理的な意思決定ができます。なんとなくここが問題だろうという感覚ではなく、どういったエラーがプロセス全体にどの程度影響を及ぼしているのかといったデータから、真の問題や対策の重要度合いを特定できます。関係者が納得して改善を進められることで、より高い有効性も期待できます。
業務改善は一度で終わりではありません。今回の改善策は実際どの程度効果があったのかを測定し、次の改善策を立案・実行することが求められます。上で述べた従来手法に則ると、改善前後の業務プロセスの変化を再びヒアリングする必要があり、時間も労力もかかってしまいます。
プロセスマイニングによって一連の施策をシステム化することで、継続的な業務改善に取り組めます。
<プロセスマイニングのメリットまとめ>
従来の手法 | プロセスマイニング | |
---|---|---|
可視化の手法 | 担当者依存で主観的 | データに基づき客観的 |
リソース | 外部依存 | 内製化可能 |
可視化の範囲 | 限定的 | 網羅的 |
作業時間 | 長い | 短い |
改善の継続性 | 一回限り | 継続的 |
ここまでプロセスマイニングでできることやメリットを紹介してきましたが、プロセスマイニングは業務改善に万能というわけではなく限界もあります。
プロセスマイニングはデータが起点となっているため、データに問題があると可視化される業務プロセスが不正確なものになり、誤った改善策に繋がりかねません。そこでいかに正確で高品質なデータを収集できるかが重要です。企業が持つ膨大なデータからプロセスマイニングに使用するデータを適切に選別するには、データアナリストのような専門知識を有する人材が必要です。
上で述べた通り、プロセスマイニングでは各システムのトランザクションデータを収集しイベントログに変換する作業が発生します。メジャーなシステムであればプロセスマイニングツールが搭載しているコネクターによってスムーズに連携できますが、企業が独自で開発した業務システムなどに対するコネクターはありません。この場合、コネクターに代わる仕組みを新たに構築しなければならず、対象となるシステムが増えるほど工数もかかってしまいます。
そもそもトランザクションデータを生成しない、あるいは外部に出力できないシステムや業務にはプロセスマイニングは適用できません。具体的には、紙を用いるアナログ作業のほか、プライバシーやセキュリティの観点でログ生成を無効にしているシステムなどが該当します。
プロセスマイニングはさまざまな場面で活用されています。ここでは代表的な活用事例を紹介します。
営業プロセスは、本人や顧客の性格、相性といった属人的な側面や、その時々の事情に左右されるため、どうしても標準化が難しいものです。仮にトップ営業マンのプロセスをそのまま真似したとして、全ての営業が同様の売上を立てられるわけではありません。
ですが、売上の高い営業(部署)の業務を分析することで、受注率に影響するポイントを特定し、適切なタイミングでそのポイントを実行できるように支援するということがプロセスマイニングによって可能になります。
例えば売上が高いA部署では見積書の提出から商談まで3営業日しかかかっていないのに対し、売上が低いB部署では10日もかかっているという結果が出た場合、そこがボトルネックになっている可能性が高いと考えられます。そこで、なぜB部署では時間がかかるのか、より詳細なプロセスを分析して原因を特定したり、3営業日たっても商談に移っていないプロセスを検知すると担当者にアラートをあげたりといった自動化によって、営業プロセスの効率化を支援します。
企業がビジネスを拡大するほど、全ての顧客に一貫した高水準なサービスを提供することは難しくなってきます。拠点や担当者によってサービス内容にばらつきがあるうえ、それらを全て調査し、指導を徹底することは現実的ではないからです。しかし、プロセスマイニングを活用すれば、例えば顧客からの問い合わせに対して最終的なクロージングまでかかった日数や顧客満足度などの指標から推奨プロセスを策定し、各担当者がどの程度推奨プロセスに沿っているかをモニタリングすることが可能です。ばらつきによる非効率性を削減し、最適なプロセスを確立することで、より良いサービスを素早く提供できるようになります。
プロセスマイニングによって不正取引などのルールから逸脱した処理を予防・検知することで、コンプライアンスの強化にも繋がります。従来の技術では、不正が起こる際の特徴を盛り込んだシナリオを予め設定し、それに該当するものを検知するという手法を取っていました。しかしシナリオはワンパターンではないため設定が難しいことと、シナリオに合致しないものは見逃してしまうという問題がありました。プロセスマイニングを使って通常の業務プロセスを把握したうえで、例外処理を抽出することで、不正な作業をより高精度に検知することができます。法的に不正なものはもちろん、企業が内部で定めたルールに則っているかも同様に監視できます。
このように、業務プロセスを正しく整理して問題点を抽出し、改善策を実施する支援まで可能なプロセスマイニングは、上記以外にもさまざまな場面での活用が期待されています。
具体的にどんなプロセスマイニングツールがあるのでしょうか。ここでは代表的な2つのツールを紹介します。
2011年にドイツで設立されたCelonis社が提供するプロセスマイニングツールです。世界シェアはNo.1で、現在は1,450社以上が利用しています。2019年には日本法人も設立され、KDDIや豊田通商、日立システムズをはじめとする日本企業でも導入されています。
SAPやSalesforce、ServiceNowなどのメジャーなシステムとのコネクター、および分析のためのダッシュボードのテンプレートが初めから実装されているため、スムーズなシステム連携および導入ができます。さらに、AIの一種である大規模言語モデル(LLM)を活用したProcess Copilotを搭載しており、チャットで質問するだけで欲しいデータを抽出したり、グラフを作成したりといったことも可能です。
RPAのリーディングカンパニーとして知られるUiPath社が提供するプロセスマイニングツールです。2005年にルーマニアで創業した後、2019年にプロセスマイニングベンダーのProcessGold社を買収したことで、同ツールの提供を開始しました。
RPAの知見を活かし、プロセスマイニングで業務を可視化してからRPAで自動化するまでを一気通貫でサポートしてくれる点が特徴です。利用形態としてはSaaSのほか、ハイブリッドクラウドや プライベートクラウドにも環境を構築できるため、ニーズに応じた柔軟性と高い拡張性も備えています。
RPAツールとしてのUiPath
UiPathはスモールスタートから大規模運用まで幅広く対応できるRPAツールです。実行環境はデスクトップ型/サーバ型の両方に対応し、豊富なアプリケーション機能によってOfficeアプリケーションなどの操作を正確に記録することができます。
SCSKはUiPath社のリセラーの中で、「より高い技術力、サポート力を有し、UiPath製品の導入実績、販売実績の豊富なパートナーが認定される 」プラチナパートナーに選ばれています。教育研修やPOC、各種サポートなどさまざまなサービスをご提供しております。業務効率化でお悩みの方はまずご相談ください。
上で述べた通り、プロセスマイニングはイベントログの収集からスタートするため、業務で利用するシステムのデータをイベントログに変換できることが必要な条件となります。プロセスマイニングツールによっては各システムとの連携コネクターが用意されているので、自社で使っているシステムが対応しているかどうか確認すると良いでしょう。
また自社内にデータアナリストのようなデータ分析の専門家がいない場合は、外部の支援も必要です。メーカーや代理店から導入前後にどういった支援およびサービスが受けられるかも合わせて確認することをおすすめします。
本記事では、プロセスマイニングとは何か、メリットと限界、活用事例などについて解説しました。
労働生産性の低さが問題視される中、業務の自動化・効率化といった業務改善を実現することが企業にとって急務となっています。プロセスマイニングを導入することで、常に最新の業務プロセスを把握し、改善策を実行し、効果測定を行うという一連の作業を効率化できるうえ、継続的な業務改善に取り組むことができます。今後の業務改革の一手段として、プロセスマイニングを参考にしてみてください。