Q2B 2025 Tokyoイベントレポート~量子コンピューティングの最前線!2030年には日本の1,000万人がユーザーに?~
- イベントレポート
- 量子コンピューティング
- Quemix
- ../../../article/2025/07/q2b.html
こんにちは、ITPNAVIの加藤です!量子技術の基礎研究からビジネス応用・社会実装までをつなぐ国際カンファレンス「Q2B 2026 Tokyo」に今年も参加してきました。
昨年のQ2B 2025 Tokyoでは、2030年までに国内の量子技術利用者を1,000万人にするという政府目標など、量子技術の普及や、社会や産業にもたらす可能性に注目が集まりました。一方、今回のQ2B 2026 Tokyoで印象的だったのは、そうした期待や構想がさらに一歩進み、量子技術を実際の産業システムにどう組み込むかという議論が中心になっていた点です。
本レポートでは、Q2B 2026 Tokyoで見えた量子技術の最新動向を、ITインフラの視点から振り返ります。特に、HPC-QCハイブリッド、Early-FTQC、ミドルウェア・オーケストレーション、データセンター実装、そしてSCSKとQuemixの取り組みに焦点を当て、量子コンピューティングの産業利用がどこまで進んでいるのかを分かりやすくお伝えします。
【この記事を書いた人】ITPNAVI編集部 加藤優子

ITPNAVI編集部の加藤です!
連載「カトウタイムズ」でさまざまなIT関連の最新情報を、
SCSK社員である私の視点で皆様にお届けしています。
目次

(写真提供:Jun Takagi)
Q2B 2026 Tokyoは、量子コンピューティングのビジネス応用をテーマとする国際カンファレンスです。発祥はアメリカのシリコンバレーですが、2026年は東京のほか、コペンハーゲン(9月)とシカゴ(12月)の3か国で開催される予定です。ここ、東京会場はQC WareとQuemixが主催し、量子技術に関する最新の研究成果、企業事例、技術課題を共有する場として開催されました。
今年のQ2B 2026 Tokyo全体を通じて強く感じたのは、量子技術が基礎研究フェーズから、産業化・実用化に向けた議論へ明確に移行しつつあることです。量子アルゴリズムやユースケースの実証実験は飛躍的に進んでおり、量子コンピュータや周辺装置の高度化だけでなく、一般ユーザーがどのように量子技術を利用できる環境を構築するかという観点のセッションも多く見られました。会場には過去最大となる800名を超える参加者が訪れたことからも、量子技術への関心と期待の大きさが伺えます。
(参考)昨年のQ2B 2025 Tokyoのイベントレポートもぜひご参考ください。
Q2B 2025 Tokyoイベントレポート~量子コンピューティングの最前線!2030年には日本の1,000万人がユーザーに?~

今回特に重要だったのは、量子コンピュータを単体の計算機としてではなく、HPCやGPU、ネットワーク、ミドルウェアと統合されたインフラとして捉える視点です。現在の量子コンピュータは、まだ研究の真っ只中です。ノイズやエラー、使用できる量子ビット数、回路深さなどの制約がある中で、実用的な価値を出すには、従来の計算基盤との適切な役割分担が欠かせません。つまり量子コンピュータは、既存のHPCを置き換えるものではなく、HPCと並ぶ新たな計算資源として位置づけられ始めています。
国立研究開発法人理化学研究所(理研)の発表では、「JHPC-quantumプロジェクト」と呼ばれる、スパコン「富岳」と量子コンピュータを連携させるハイブリッド計算基盤の研究状況が報告されました。これは、大規模な計算全体をHPCが担当し、その中で量子コンピュータが得意な部分だけをQPU(量子プロセッサ)へ渡して計算する仕組みです。例えば、創薬や材料開発では、数千から数万原子規模の分子や材料全体のシミュレーションを行う必要がありますが、それらを全て量子コンピュータで扱うのは現実的ではありません。一方で、化学反応における重要な電子状態の計算など、量子力学的な振る舞いが鍵となる計算については量子コンピュータが力を発揮します。このように、HPCが全体を処理し、量子コンピュータが計算負荷の高い一部を担当する「適材適所」のアーキテクチャが現実的な選択肢として期待されています。

また、こうしたHPCと量子コンピュータ(QC)を連携させる「HPC-QCハイブリッド」を実現するためには、計算資源同士をいかに効率的に制御するかも重要になります。従来のように、クラウドAPIを通じて古典コンピュータと量子コンピュータを繋ぎ、量子回路を送信して秒単位で応答を待つ方式では、FTQC(※)や高度な量子制御に必要なリアルタイム性に対応できません。そんな中、量子制御プラットフォームを提供するQuantum Machinesからは、CPU・GPU・QPUをマイクロ秒単位の低遅延で密結合させるアーキテクチャが紹介され、注目を集めていました。
※FTQC:Fault-Tolerant Quantum Computingの略。いわゆる誤り耐性量子コンピュータとして、ノイズやエラーの影響を大幅に低減し、長時間の複雑な計算を安定して実行できる

量子コンピュータの産業利用を進めるうえで、ハードウェアの進化と同じくらい重要になっているのが、ミドルウェアやオーケストレーション層です。量子ハードウェアは、方式ごとに制御方法やノイズ特性、エラーの出方が異なります。その複雑さをエンドユーザーが直接扱うのではなく、ミドルウェアやソフトウェア側で吸収し、業務アプリケーションやHPCワークフローから利用できる形に整える必要があり、この領域に関する発表も数多く見られました。

例えばQEDMAは、量子コンピュータの最大の課題である「ノイズ」に着目したソリューションを提供しています。現在の量子コンピュータは、計算規模が大きくなるほどノイズの影響によって計算結果の信頼性が低下します。QEDMAの「QESEM」は、対象となるQPUや量子回路の特性を分析してノイズモデルを構築し、それに基づいて回路の再構成や実行結果の補正を行うことで、既存の量子ハードウェアからより高い精度を引き出す技術です。言い換えると、ハードウェアを作り直すのではなく、ソフトウェアによって量子コンピュータの実効性能を向上させるアプローチと言えます。

また、Classiqが取り組んでいるのは、「量子プログラムをどう作るか」という課題です。従来の量子アルゴリズム開発では、開発者が量子ゲートレベルまで意識しながら回路を設計する必要がありました。そこでClassiqは、アルゴリズムモデルと実行回路を分離し、自然言語による指示から量子回路を自動生成・最適化する仕組みを提供しています。これにより、利用者は量子ハードウェアの詳細を意識せずにアプリケーション開発へ集中できるようになります。クラウド利用者がサーバーやネットワーク機器の構成を直接意識しないのと同様に、量子コンピューティングにおいても抽象化レイヤーが整いつつあることを感じさせる発表でした。

さらにQC Designは、FTQC時代を見据えた設計自動化に取り組んでいます。特に興味深かったのは、AIエージェントを活用してより効率的な誤り訂正方式を探索・設計する研究です。現在の半導体業界ではEDAツール(半導体チップの設計支援ソフトウェア)が不可欠な存在となっていますが、量子コンピュータ開発においても同様に、設計自動化ツールが重要な役割を担う可能性が見えてきました。
これらの取り組みは非常に重要な変化です。量子技術が商用利用へ近づくほど、利用者は量子ハードウェアそのものではなく、その上で提供されるプラットフォームやサービスを利用するようになります。現在のクラウドがそうであるように、量子コンピューティングも、ミドルウェアやオーケストレーションによって抽象化された「量子プラットフォーム」として提供され始めています。
量子コンピュータをクラウド経由で利用するだけでなく、データセンターへ導入し、既存のHPCやネットワークと統合するという議論も複数見られました。
その一つが、フィンランドの量子コンピュータベンダーIQMです。IQMは超伝導方式の量子コンピュータを開発しており、日本国内では東陽テクニカとの協業により、商用量子コンピュータシステムをデータセンターに導入する計画を発表しました。年内のシステム導入とその後のサービス開始が予定されており、国内の量子コンピュータ基盤も拡充しつつあります。

またAtom ComputingやPasqalといった中性原子方式の量子コンピュータを開発するベンダーは、均一な量子ビットを大量に配置しやすい拡張性(スケーラビリティ)を強みとして、FTQCを見据えたロードマップを示していました。Atom Computingは、Microsoftとの協業やオンプレミス提供にも触れ、量子コンピュータを地域や企業独自の環境で利用したいというニーズに応じた技術開発を行っています。一方のPasqalは、極低温の冷却設備を必要としない中性原子方式の特長を活かし、データセンター導入を見据えた構想を紹介しました。またFTQCに先駆け、NISQ(※)での民間企業での導入事例も発表していました。
※NISQ:Noisy Intermediate-Scale Quantumの略。ノイズが多くエラー訂正が機能しない量子コンピュータ
こうした動きと並行して進んでいるのが、量子コンピュータ同士をネットワークで接続する取り組みです。単一の量子コンピュータでは難しい大規模計算を複数のシステムへ分散して実行できるようになるほか、誤り訂正に大量の量子ビットが必要になるFTQCの実装基盤としても期待されています。
IonQは、複数の量子コンピュータを接続する「QCインターコネクト」のロードマップを発表しました。2026年にはデータセンター内での接続、2027年には都市間接続、2028年以降には100kmを超える距離での接続を視野に入れています。

これらの発表からは、量子コンピュータが研究機関向けの特殊な装置から、企業のデータセンターや計算基盤の一部へと変わり始めていることが感じられました。さらに、その先には複数の量子コンピュータがネットワークで接続され、計算資源として利用される「量子データセンター」の世界が見え始めています。

Q2B 2026 Tokyoの共同主催者であるQuemixは、SCSKと資本業務提携を締結している量子ソフトウェアベンダーであり、量子科学計算や材料計算、量子機械学習といった分野において、Early-FTQC時代を見据えたアルゴリズム開発を進めています。
Quemixはオープニングセッションやクロージングセッションを含め、多数の講演・発表を行い、イベント全体を通じて重要な役割を果たしていました。特に印象的だったのは、ホンダ、デンソー、日産自動車、三井金属、住友ゴム工業(ダンロップ)、SCSKといった企業との共同研究成果が多数紹介されていたことです。研究開発にとどまらず、量子技術を実際の産業課題へ適用する取り組みが着実に進んでいます。
Quemixの取り組みで特徴的なのは、量子コンピュータがまだ十分に大規模化していない中でも、アルゴリズムや読み出し技術の改良、HPCとの連携などによって、実用化を前倒ししようとしている点です。
例えば本田技研工業株式会社(ホンダ)との共同研究では、材料開発で広く利用されるDFT(密度汎関数理論)に対して、量子コンピュータによる指数関数的な高速化を実現する新しい量子アルゴリズムが紹介されました。従来、DFTは量子コンピュータとの相性が悪いと考えられていましたが、ハリス汎関数や断熱時間発展法といった新たな手法を導入することで、そのボトルネックを回避するスキームを構築しています。材料探索に必要となる電子状態計算の高速化が期待されており、次世代電池材料や機能性材料の研究開発期間短縮への応用が期待されています。

また三井金属株式会社との共同発表にある、QAVG(QPE Averaged over Variable Grids)にも注目です。これは、人間の目が低解像度の情報から全体像を補完する「超視力」という仕組みに着想を得た技術で、量子コンピュータ上では粗いスペクトルデータを複数回取得し、古典コンピュータ側で後処理することで高解像度な結果を再構成するものです。従来は高精度な結果を得るために膨大な量子リソースが必要でしたが、この手法によって計算コストを大幅に抑えながら高精度解析が可能になることが示されました。量子コンピュータ単体で完璧な結果を得るのではなく、古典コンピュータとの組み合わせによって精度を高めるアプローチは、まさに今回のQ2Bで繰り返し語られていた「ハイブリッド」の考え方そのものと言えるでしょう。
さらに日産自動車との共同研究では、自動車開発に欠かせない空力シミュレーション(CAE)への適用事例も紹介されました。自動車や航空機の設計で利用される流体シミュレーションは計算規模が非常に大きく、そのまま量子コンピュータへ適用することは現実的ではありません。Quemixと日産自動車は、アルゴリズムの改良によって必要な量子回路の深さを大幅に削減しつつ、実用的な解析精度を維持することに成功しました。量子技術の適用範囲が量子化学だけでなく工学シミュレーション全般へ広がりつつあることを感じさせる発表でした。

SCSKとQuemixは共同で「工学シミュレーションを加速する量子コンピュータ技術」と題したセッションを実施し、量子CAEの産業実装に向けた研究成果を発表しました。Quemix研究開発部部長の西氏とSCSK担当者が登壇し、量子コンピュータを活用した工学シミュレーションの実用化に向けた課題と、その解決アプローチが紹介されました。
セッションの中で特に興味深かったのは、量子CAEのボトルネックは、計算そのものよりも、計算結果を高精度に取得するための「読み出し(Readout)」にある、という指摘です。量子コンピュータは計算結果を確率分布として出力するため、高精度な結果を得るには同じ計算を何度も繰り返し実行し、統計的に結果を取得する必要があります。ところが、CAEのような大規模シミュレーションでは、この測定回数が膨大になり、量子計算自体よりも測定工程が実用化の壁になるケースがあります。つまり、量子回路を高速化しても、結果を取り出すコストが大きければ全体としては十分な性能向上が得られません。
そこでSCSKとQuemixは、CAEで必要となる情報に特化した「PODリードアウト」(特許出願中)を開発しました。コンピュータからすべての情報を取得するのではなく、量子コンピュータが得意な計算部分と、古典コンピュータやHPCが担う後処理部分を適切に分担してシミュレーションに必要な情報だけを効率的に抽出するアプローチです。CFD(数値流体力学)をベンチマークとした検証では、測定回数を従来比で最大1,000分の1まで削減できる可能性が示されました。これは量子CAEの実用化に向けた大きな前進と言えるでしょう。

量子コンピュータの価値は単純な計算速度だけで決まるわけではありません。実際の工学シミュレーションでは、入力データの準備、量子回路の生成、計算結果の測定、HPCによる後処理、可視化まで含めて初めて業務で利用できます。そのため、量子技術を産業利用するには、量子アルゴリズムだけでなく、その周辺にあるデータ処理や実行基盤まで含めた最適化が必要になります。
量子コンピュータの性能向上を待つだけでなく、アルゴリズムや読み出し技術、古典コンピュータとの連携を工夫することで実用化を前倒しする。こうしたアプローチは、本章で紹介したホンダ、三井金属、日産自動車との共同研究にも共通する特徴であり、今回のQ2B全体を象徴するテーマの一つだったように感じます。
(参考)SCSKとQuemixの共同研究については、こちらのプレスリリースもご参考ください。
量子計算のボトルネックである“測定”に新たなアプローチ
Q2B 2026 Tokyoに参加したSCSK社員の目線でイベントのトピックスをわかりやすくまとめた資料のDL、
量子コンピュータに関するご質問・ご相談はこちらから!

(写真提供:Jun Takagi)
Q2B 2026 Tokyoは、量子コンピューティングが研究テーマから産業実装へ向かう転換点であることを強く感じさせるイベントでした。量子アルゴリズムやユースケースの進化はもちろん、HPC-QCハイブリッド、ミドルウェア、オーケストレーション、データセンター導入といったインフラ面の議論が大きく前進。量子技術の競争軸は単なる計算性能から、いかに既存のITインフラと接続し、産業利用できる形に実装できるかへと移りつつあります。
特に、2030年前後に見込まれるEarly-FTQC時代に向けて、企業は「量子コンピュータが使えるようになったら考える」のではなく、今から量子Readyな状態を作っていく必要があります。そのためには、どのユースケースに量子技術を適用するのかだけでなく、HPCや既存クラウドなどとどう連携させるのかを考えることが重要です。これは、量子コンピュータを導入するかどうかではなく、「量子コンピューティングを前提に計算基盤をどう設計するか」という段階に入っていることを意味しています。
SCSKはQuemixやグループ各社と連携し、量子技術のビジネス導入を加速する研究を進めています。量子インフラについてご相談のある方はぜひお気軽にお問合せください。