AIエージェントとは?生成AIとの違いや特徴、活用事例などをわかりやすく解説
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「フィジカル AI」という言葉を、ニュースや業界レポートで目にする機会が増えているのではないでしょうか。
これは「デジタル空間」の分析や予測にとどまっていたAIが、「現実世界」を理解して動き出す、次世代の技術トレンドです。製造業、物流、医療、自動運転など、さまざまな分野で導入が進むフィジカル AIは、単なる技術革新ではなく、産業構造そのものを変える可能性を秘めています。
本記事では、フィジカル AIの定義や仕組み、従来のAIとの違い、国内外の活用事例などを分かりやすく解説。フィジカル AIの本質を理解し、自社の事業戦略に活かすための具体的なヒントをお届けします。
目次
【監修者】高橋 想 (たかはし そう)氏

NVIDIA合同会社 エンタープライズ事業本部
Professional Visualization Business Development Manager
【経歴】
大学で中国語を専攻後、国内商社での法人営業、外資系ワークステーションメーカーでの市場開発を経て、2020年よりNVIDIAにてプロフェッショナルビジュアライゼーション製品の市場開発に従事。
まずはフィジカル AIの概念・定義について、従来のAIと比較しながら説明します。
フィジカル AI(Physical AI)とは、現実世界の物理法則を理解し、自ら判断して物理的な行動を起こすAIのことです。これまでのAIが主にデジタル空間でのデータ処理や分析に特化していたのに対し、フィジカル AIは現実世界で具体的な作業を実行できる点が最大の特徴です。
この概念を広く知らしめたのは、2025年のCESでNVIDIA社のCEO ジェンスン・フアン氏が提唱した「AIの進化の4段階」─知覚AI → 生成AI → AIエージェント(またはエージェント型AI)→ フィジカル AIという流れです。NVIDIA社は、フィジカル AIを “physical AI, AI that can proceed, reason, plan and act (※1).”, “AI that understands the world(※2).” つまり、「現実世界で知覚し、推論し、計画し、行動するAI」と定義し、これを次世代のAIの中心的な潮流と位置づけています(出典:※1NVIDIA公式ブログ, ※2NVIDIA公式ブログ)。

(出典)NVIDIA
重要なのは、フィジカル AIが必ずしも「身体」を持つ必要はないという点です。ヒューマノイドロボットを例にとると、ロボットという身体を持ったそれ自身がフィジカル AIであり、ロボットの頭脳として組み込まれたAIモデルもフィジカル AIと言えます。ちなみに、似たような概念として「エンボディドAI(Embodied AI)」があります。こちらは名前の通り身体性を持つAIとしてフィジカル AIの一部であり、より広義の概念がフィジカル AIと言えます。
近年の世界的な労働力不足や技術の進歩を背景に、急激に注目度を高めています。

フィジカル AIと従来のAI(デジタルAI)との違いは、その活動領域と世界との関わり方にあります。
従来のAIはクラウドやサーバー上で動作し、膨大なデータを処理・分析することで、予測や意思決定を支援する「頭脳」の役割を果たしてきました。たとえば、チャットボットがユーザーの質問に答えたり、画像認識AIが写真から物体を識別したりするように、デジタル空間内で完結するタスクに特化していました。
一方、フィジカル AIは、現実世界の物理空間に直接作用するAIです。センサーを使って周囲の状況を認識し、AIがその情報を処理・判断したうえで、モーターやアームなどのアクチュエーターを動かして実際に「行動」します。つまり、フィジカル AIは「頭脳」に加えて「手足」を動かす能力を持ち、自律的に動く(あるいは動かす)ことができるAIなのです。
さらに、学習方法にも違いがあります。デジタルAIは、過去のデータを大量に収集し、それをもとにパターンを学習する「教師あり学習」が主流です。これに対してフィジカル AIは、現実世界での試行錯誤を通じて最適な行動を見つけ出す「強化学習」など、環境とのインタラクションを重視した学習手法が用いられます。
このように、フィジカル AIは、現実世界における認識・判断・行動の一連のプロセスを自律的に実行できる点で、従来のAIとは本質的に異なる存在です。デジタルAIがデータの世界で情報を処理する頭脳であるならば、フィジカル AIは現実世界で行動する手足を持った頭脳と言えます。この革新性こそが、製造業や物流、医療、自動運転など、物理的な作業が求められる分野での活用を加速させている理由です。
| フィジカル AI | 従来のAI(デジタルAI) | |
|---|---|---|
| 活動領域 | 現実の物理空間 | デジタル空間、データ上 |
| 相互作用の方法 | センサーやモーター等を通じて物理的に作用 | ソフトウェアやAPIを通じてデータを入出力 |
| 学習方法 | 実世界での試行錯誤(強化学習など) | 大規模なデータセットからの学習 |
| 主な目的 | 定物理的なタスクの実行、自動化 | データ分析、予測、意思決定支援 |
| 具体例 | 自動運転車、自律型ロボット | チャットボット、画像認識、需要予測 |
フィジカル AIは、現実世界で自律的に行動するために、人間のように「見て・考え・動く」ことができます。このプロセスは、NVIDIAが定義する「知覚(Perception)・推論(Reasoning)・計画(Planning)・行動(Action)」という4つのステップに対応しており、フィジカル AIが物理環境に適応するための基本構造となっています。
この章では、フィジカル AIを構成する3つの要素と、4段階の動作サイクルについて解説します。

フィジカル AIのシステムは、大きく分けて3つの要素で構成されています。これらを人間の「五感」「脳」「身体」に例えると、非常に分かりやすくなります。それぞれの要素が連携することで、現実世界での自律的な行動を可能にしています。
| 役割 | フィジカル AIの構成要素 | 具体的な技術例 | 人間の部位 |
|---|---|---|---|
| 五感(入力) | センサー | カメラ、LiDAR、マイク、触覚センサー | 目、耳、皮膚 |
| 脳(処理) | AI | 機械学習、深層学習、強化学習アルゴリズム | 脳 |
| 身体(出力) | アクチュエーター | ロボットアーム、モーター、車輪 | 手、足、筋肉 |

フィジカル AIは以下の4つのステップを絶えず繰り返すことで、環境の変化に対応しながらタスクを実行します。このサイクルを通じて現実世界から得られた結果をもとに、徐々に行動の精度を高めていくのが特徴です。特に、試行錯誤を通じて最適な行動を見つけ出す強化学習が、このサイクルにおいて重要な役割を果たしています。
センサーを使い、周囲の状況を「見る・聞く・感じる」段階です。
カメラで物体の形や色を認識し、LiDARで距離を測定するなどして、現実世界の情報をデータ化します。
集めたデータをAIが分析し、状況を「理解する」段階です。
例えば、「目の前にあるのはリンゴで、距離は50cm」といったように、データの意味を解釈します。
理解した状況に基づいて、次に取るべき最適な行動を「決める」段階です。
「リンゴを掴むために、アームを50 cm伸ばし、ハンドを開く」といった具体的な行動計画を立てます。
アクチュエーターを動かし、計画した通りに実際に「動く」段階です。
モーターが作動してロボットアームが伸び、リンゴを掴みます。

フィジカル AIの開発と社会実装を加速させているのが、NVIDIA社の先進的なAIプラットフォームです。同社は、AIの頭脳となるGPUだけでなく、現実世界で行動するAIを仮想空間で安全かつ効率的に学習・訓練できる開発環境を提供しています。ここでは、フィジカル AIの実現に不可欠な前提条件とも言える技術について、その背景と役割を解説します。
フィジカル AIの開発には、以下のような現実的な課題が伴います:
こうした課題を解決するために、仮想空間での事前学習とシミュレーションが不可欠なのです。NVIDIA社はこの領域において、以下の2つの中核技術を提供しています。
「NVIDIA Cosmos™」は、物理世界の法則をAIに学習させるための基盤となるプラットフォームです。
重力や摩擦といった現実世界のルールをまとめたライブラリ「World Foundation Models(WFM:世界基盤モデル)」が使用されており、AIは単なるデータ処理ではなく、物理環境に即した推論と計画が可能になります。人間が「柔らかい物は慎重に扱う」「滑る床では転びやすい」といった経験則を持っているように、AIにも空間・動作・力学・接触などの物理法則を事前に教えるための仕組みです。
たとえば、ロボットが物体を持ち上げる際に、重さや硬さ、摩擦を考慮した動作を選択できるようになるなど、現実的な判断力を仮想空間で獲得できます。

ロボットがパンをトースターに入れる様子(出典:NVIDIA)
「NVIDIA Omniverse™」は、現実世界をデジタル空間に忠実に再現するデジタルツインプラットフォームです。
開発者はこの仮想空間内で、ロボットや自動運転車などのフィジカル AIを、物理的な制約や危険なしに何度もテストし、訓練させることができます。
天候の変化や予期せぬ障害物など、現実では再現が難しい状況もシミュレーションできるため、実際の世界で起こりうるあらゆるケースに対応できるAIの汎用性と安全性を大幅に向上させることが可能です。

さまざまな種類の床材とフォークリフトの合成画像(出典:NVIDIA)
(参考)NVIDIA CosmosとNVIDIA Omniverseについて詳しく知りたい方は、これらの記事もご覧ください。
NVIDIA GTC 2025 Keynote(基調講演)レポート ~AIファクトリーとフィジカル AIで訪れるAI時代の転換点~|SCSK IT Platform Navigator
工場の「デジタルツイン」で働き方を変える。トヨタ自動車が目指す魅力的な職場づくり|SCSK IT Platform Navigator
フィジカル AIは、すでに私たちの社会の様々な場面で活躍を始めています。特に、人手不足が深刻な製造業や物流業界、そして高度な精度と安全性が求められる自動車業界や医療分野で、その導入が急速に進んでいます。
ここでは、国内外の先進的な企業がどのようにフィジカル AIを活用しているのか、具体的な事例を見ていきましょう。
| 業界 | 主な用途 | 具体的な企業・製品例 |
|---|---|---|
| 製造業 | 製品の組み立て、品質検査、部品のピッキング | Foxconnのスマートファクトリー(参考:お客様事例|NVIDIA) |
| 物流 | 倉庫内でのピッキング、仕分け、配送 | Amazonの倉庫ロボット「Proteus」(参考:お客様事例|NVIDIA) |
| 自動車 | 完全自動運転、運転支援システム | Waymoの自動運転タクシー(参考:Waymo公式ブログ) |
| 医療 | 手術支援、リハビリ支援、遠隔医療 | Intuitive Surgical社の手術支援ロボット「Da Vinci」(参考:NVIDIA公式ブログ) |
| その他 | 災害救助、建設作業、インフラ点検 | Boston Dynamics社の四足歩行ロボット「Spot」、人型ロボット「Atlas」(参考:Boston Dynamics公式) |
製造業では、AIを搭載したロボットや自律システムの導入により、生産ラインの自動化が進み、生産性の向上と品質の安定化が実現されています。
Foxconnでは、NVIDIA Omniverseを活用し、仮想空間でのシミュレーションを通じて、現実の工場設計やロボット動作の最適化を行っています。これにより、汎用的なマニピュレータ(ロボットアーム)やAMR(Autonomous Mobile Robot)の開発、工場立ち上げ期間の短縮が可能となっています。

マニピュレータやAMRの開発の様子(出典:NVIDIA)
また、ヒューマノイドロボットの実用化が進むことで、将来的には工場内の単純作業を人間から引き継ぐことが期待されており、フィジカル AIによる「人と協働する工場」の実現が現実味を帯びてきています。
物流業界では、Amazonが自律走行ロボット「Proteus」倉庫内に大規模導入し、商品ピッキングや仕分け作業を自動化。これにより、注文から発送までのリードタイムを大幅に短縮し、人的リソースの最適化と安全性の向上を両立しています。
自動車業界では、フィジカル AIが完全自動運転技術の中核を担っています。
自動運転車は、カメラ、LiDAR、レーダーなどのセンサーを用いて周囲の状況を360度認識し、AIがその情報をもとにリアルタイムで推論・計画・行動を行います。たとえば、交差点で歩行者が横断しようとしている状況では、AIはその動きを予測し、減速や停止といった最適な運転操作を自律的に判断・実行します。このように、現実世界の物理環境に即した判断と行動を繰り返すプロセスは、まさにフィジカル AIの仕組みと同じです。
医療分野では、手術支援ロボット「Da Vinci」が有名です。医師がコントローラーを操作すると、ロボットアームがその動きをミリ単位で精密に再現し、人間の手では困難な繊細な手術を可能にします。これにより、患者の体への負担を最小限に抑える低侵襲手術の普及や術後回復の短縮が期待されています。
その他にも、災害救助やインフラ点検、建設現場など、人間が立ち入りにくい環境での作業を代替するロボットが登場しており、Boston Dynamicsの「Spot」や「Atlas」などがその代表例です。これらのロボットは、フィジカル AIによって現場の状況を自律的に判断し、行動する能力を備えています。

ロボットが自動で縫合する様子(出典:NVIDIA)

AIが現実世界で「動く」時代の到来により、フィジカル AIは今後の社会や産業構造を大きく変える可能性を秘めた技術として注目を集めています。本章では、フィジカル AIの今後と、その一方でささやかれる課題について説明します。
フィジカル AIの代表例であるヒューマノイドロボットの市場規模は、2024年の148億ドルから、2030年には683億ドルに達するという予測(参考:市場調査レポート: 人工知能(AI)ロボットの世界市場|株式会社グローバルインフォメーション)もあり、ヒューマノイドロボットを開発するスタートアップへの投資も拡大するなど、市場は急成長しています。
さらにジェンスン・フアン氏は、フィジカル AIが今後50兆ドル規模の市場になるとも発言しており、特定の業界に限らずあらゆる産業がAIによって変革される可能性を示唆しています。
一方で、フィジカル AIの開発や導入には以下のような課題も存在します。
| 技術的課題 | 予測不能な現実世界の複雑さへの対応、より高度な認識・判断能力の実現 |
|---|---|
| コスト | 高額な開発・導入・運用コスト。特に中小企業にとっての導入ハードル |
| 倫理・法的課題 | AIによる事故の責任所在、自動化による雇用の喪失、個人情報保護など、社会的な法整備が追い付いていない |
| 人材不足 | AI・ロボティクスに精通した技術者の育成 |
これらの課題に対しては、企業が個別に取り組めるレベルではないため、政府の支援や産業界の連携による標準化・精度の構築が求められています。

本記事では、フィジカル AIの定義から仕組み、具体的な活用事例、そして市場の将来性と課題について解説しました。
フィジカル AIは、AIが現実世界で「知覚し、推論し、計画し、行動する」能力を持つことで、産業や社会の在り方を根本から変える可能性を秘めた技術です。この新しい技術の波に乗り遅れないためには、従来の延長線上で物事を考えるのではなく、自社のビジネスプロセスやサービスがAIによってどう変わりうるかを積極的に構想する必要があります。技術の進歩が目まぐるしい中、まずは情報収集を始めることが重要です。そして、アプリケーション開発基盤の整備だけでなく、アジャイル開発やDevOpsといった新しい技術を構築する際に必要な考え方を組織文化として取り入れる意識改革も不可欠となります。
フィジカル AIの導入に関して課題をお持ちの方、または新たなビジネスの可能性を模索されている方は、ぜひ一度SCSKにご相談ください。ご紹介したNVIDIA CosmosおよびNVIDIA Omniverseを含むNVIDIA社の代理店として、これまでの知見と実績をもとにお客様をサポートいたします。

A. フィジカル AIとは、「見て・考えて・動く」能力を持って現実世界の物理法則を理解し、環境と相互作用するAIのことです。
センサーで周囲の状況を認識し、AIが判断して、ロボットアームや車輪などを動かして実際に行動します。自動運転車や手術支援ロボットなどが代表的な例です。
A. ロボットは「身体(ハードウェア)」のみを指し、フィジカル AIはその中で動く「頭脳(ソフトウェア)」です。(および、頭脳を伴って動くロボットを含めてフィジカル AIといえる)
ロボット単体では自律的に動けませんが、フィジカル AIが搭載されることで、環境を理解し、自分で判断して動けるようになります。つまり、フィジカル AIはロボットを賢く動かすための中枢です。
A. 製造業、物流、医療、自動車、建設、災害対応など、人手不足や安全性が課題となる現場で幅広く活用されています。
たとえば、工場の組み立てを担うロボット、自動倉庫で荷物を運ぶロボット、自動運転車、手術支援ロボット、インフラ点検用の四足歩行ロボットなどが実用化されています。