AWS Summit Japan 2025イベントレポート~生成AIアプリ開発の内製化を支える最新のクラウド基盤~
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2025年6月、最先端のデータ基盤モデル「レイクハウス」分野のリーディングカンパニーとして知られるDatabricks社主催のイベント「Data + AI Summit 2025」がアメリカで開催されました。本サミットは同社最大の年次イベントとして注目され、世界中から多くのデータサイエンティストやビジネスユーザーが集まりました。
本レポートでは、現地参加したSCSK担当者による視点をもとに、イベントの雰囲気やKeynote(基調講演)のハイライト、国内事例などについて、注目ポイントをまとめてお伝えします。
目次
Databricks社は、ビッグデータ処理のための分散処理フレームワーク「Apache Spark」の開発者たちによって2013年に設立された、アメリカのテクノロジー企業です。「すべての人にデータインテリジェンスを」というビジョンのもと、同社の名前を冠した「Databricks」というレイクハウスソリューションを提供しています。
レイクハウスとは、簡単に言うと、1つのプラットフォームでデータとAIに関するあらゆるユースケースを実現できる技術です。レイクハウスは、その誕生以前から使われている「データレイク」と「データウェアハウス」を統合した次世代のデータ基盤モデルとして注目が高まっています(※)。
※レイクハウスとは、およびデータレイクとデータウェアハウスの関係性については、記事末尾の(参考)をご覧ください。
レイクハウスおよびDatabricksの代表的なユースケースとしては、以下のようなものがあります。
ユースケース | 具体例 |
---|---|
需要予測・レコメンデーション | 小売業や製造業での在庫管理・販売戦略の最適化 |
IoT×異常検知・予知保全 | センサーや工場データをもとに保全タイミングを予測 |
大規模データ分析 | 金融業での不正取引検知 |
顧客分析・パーソナライズ | マーケティング施策や顧客対応の個別最適化 |
Databricks社は、レイクハウス構想のリーディングカンパニーとして、企業のあらゆるユースケースに対応できる統合分析基盤を展開しています。特に、データ活用を一部の専門家のものだけにせず、業務担当者や意思決定者がデータとAIを使いこなすという思想が、世界中のユーザーに評価されている所以です。
Data + AI Summitは、Databricks社が主催する、世界最大級のデータとAIに関するカンファレンスです。
「Data + AI Summit 2025」は、2025年6月9日(月)から12日(木)までの4日間、アメリカ・サンフランシスコのモスコーンセンターで開催されました。今年のテーマは「Data Intelligence for All」。誰もがデータを活用して意思決定・課題解決ができる世界を目指すという理念のもと、データとAIの最新トレンド、技術、ベストプラクティスに関する700以上のセッション、ハンズオントレーニング、およびネットワーキングの機会が提供されました。現地には22,000人以上が参加し、180以上の企業が出展。日本からも約280人が現地入りしており、国内での影響度の高まりも感じました。
実は本イベントの1週間前には、データウェアハウス領域で競合するSnowflake社が同じ会場でイベントを実施しており、両社による世界へ向けたアピール合戦が行われています。
サミットの一日は朝食会場から始まります。
なんと朝6時には朝食が準備されており、早い時間にも関わらず多くの人が続々と集まってきます。日によって異なるメニューが振る舞われるので、かく言う筆者も思わず毎日通ってしまいました。気温は10度前半と寒い中ですが、参加者同士が談笑しながらサミットへ向けて動き始めます。
ここからは、大注目のKeynote(基調講演)の様子と内容についてお届けします。
基調講演は11日、12日と2回に分けて行われました。
会場はモスコーンセンターの地下に用意されており、6,000人以上が収まるほどの大きな規模です。
基調講演開始前の地下会場
7時の開場後、30分もせずに満席となるほどの大盛況でした。始まってからも、講演と言うよりは参加型のトークライブのような雰囲気で、新サービスが発表されるごとに会場全体が大きく盛り上がっていました。
基調講演終わりの様子
基調講演では、Databricks社の共同経営者兼CEO アリ・ゴディシ氏がMCを務め、イベントのテーマ「Data Intelligence for all」に沿ったデータとAI活用の民主化を推進する方向性と、Databricksの11の最新機能およびサービスが発表されました。ここからは、特に印象深かった3つの機能を中心に、基調講演のトピックスをご紹介します。
基調講演初日の冒頭で発表された「Agent Bricks」は、AIアプリケーションの構築・最適化・評価・運用を簡単に行える新しい仕組みです。ユーザーはまずユースケースを選択し、自然言語で「こういうアプリを作りたい」と指示するだけで、AIアプリを簡単に構築・デプロイできます。作った後もAIモデルの性能を継続的に監視できるので、改善サイクルを効率的に回すことが可能になります。AIアプリの開発から運用をサポートするAgent Bricksは、AIを活用する企業にとって、開発スピードと投資対効果を最大化するための強力な武器となりそうです。
Agent Bricksで用意されているユースケース
(出典:DAIS 2025 Japan Closing Session)
「Lakeflow Designer」は、データエンジニアリングの民主化を推し進めるためのETLパイプライン構築ツールです。特筆すべきはその完全なノーコードインターフェースであり、プログラミングの知識がないユーザーでも、直感的な操作で、データの構造を意識せずに加工・変換・結合を簡単に行えます。
自然言語でデータパイプラインの作成指示をしている様子
裏側ではDatabricksの強力なエンジンであるSpark(※)の宣言型パイプラインが稼働しており、 エンタープライズレベルのスケーラビリティとパフォーマンスが提供されます。これにより、データアナリストやビジネスユーザーなど、エンジニア以外のより多くのユーザーがデータエンジニアリングの恩恵を受けられるようになります。
※Sparkの主な特徴は、処理速度を高めるインメモリエンジンです。複数の並列処理中にメモリにデータをキャッシュするため、動作が非常に高速です。Lakeflow Designerは、ノーコードの操作性と、Sparkによる処理性能を両立していることで、非エンジニアでも安心して大規模データを扱えます。
「Lakebase」は、コンピューティングとストレージの分離を基盤としたデータベース構築のコンセプトです。それぞれを独立して拡張・管理することで、 コスト効率とパフォーマンスの柔軟性が大幅に向上します。アイドル時のコストが削減できるうえ、データ量の増加に対してストレージのみをスケールさせたり、高負荷時にはコンピューティングリソースを一時的に増強したりといった運用が可能になります。
月次レポート生成、日次データ集計バッチ、社内ツール、アーカイブデータの参照など、特定の時間に集中して実行されるものや、逆にほとんどアクセスされない期間があるようなワークロードに効果的なサービスとなります。Lakebaseは、大量のトランザクションデータを扱う現代のアプリケーションにとって、より効率的で信頼性の高い基盤になると考えられます。
基調講演で発表された、その他の主な新機能・サービスを簡単に紹介します 。
AIによってWebアプリをシンプルに素早く構築できる機能です。ユーザーの技術レベルを問わず、ノーコード・ローコードで素早くアプリ構築ができます。利用者がエンジニアに開発を依頼するのではなく、自身で構築に取り組めることで、認識の齟齬がなく望む形のアプリへとつながる一助となります。
Databricksのデータガバナンス機能「Unity Catalog」に新たに追加された、KPI(重要業績指標)管理のための機能です。全てのチームとワークロードに対して、共通のKPIを一貫して管理します。売上や顧客数などの定義を統一し、事業部門間の整合性を取ることで、正確で比較可能なインサイトを得られます。
これまでのDatabricks は、主にデータエンジニアやデータサイエンティスト向けの専門的なツールとして使われてきました。しかし「Databricks One」は、ビジネスユーザーにも直感的で、誰もが⾃信を持って使える新しい体験を提供します。「売上の推移を教えて」「この商品の需要予測は?」といった会話形式でデータにアクセスできるうえ、シンプルで迷わないUIによって簡単に操作できます。さらに、Power BIやTableauなどの外部ツールからDatabricksのデータに直接接続も可能となっており、ビジネスユーザーのDatabricks利用を大きく推進します。
既存のデータベースやデータウェアハウスから、Databricksのレイクハウス環境へスムーズに移行するためのツールキットです。もともとDatabricksへの移行ツールとして存在していた「Remorph」と「BladeBridge」が統合されて誕生しました。リレーショナルデータベースやデータウェアハウスで使われているSQLをDatabricks環境に合わせて簡単に変換・移行できるため、移行対象や対応範囲が広がり、より包括的な利用へと繋がります。
今回の基調講演では、Databricksの革新的な新機能やサービスが多角的に発表され、多様なユーザー層や現場課題に応じた幅広い進化が印象的でした。これらの新機能は、データ活用の可能性を広げ、組織内の様々な部門や人材がより柔軟に、確かなデータ・インサイトを手にできる未来を示唆しています。
今回のサミットでは、複数の日本企業がDatabricksを活用した取り組みを発表しました。ここでは、自動車会社・電子機器メーカー・メガバンクの3社の事例をご紹介します。
大手自動車メーカーより、コネクテッドカーのデータ活用において、プライバシー保護とガバナンス(管理体制)をどう両立させるかの取り組みが紹介されました。
1.ガバナンス強化と規制対応
2.パフォーマンスとコストの最適化
3.リアルタイムなデータ活用
電子機器のアクセサリー事業において、需要予測と販売計画の自動化を目的にDatabricksを導入しました。その結果、担当者の作業負荷が大幅に軽減され、予測精度の向上、および業務全体の効率化が実現されました。
1.作業時間の大幅削減
2. 予測精度の向上
3. システムの信頼性と拡張性
大手メガバンクでは、Databricksの生成AI機能を活用し、ガバナンスの取れたデータプラットフォームを構築しています。
1.最新のデータ基盤を構築
2.AI・生成AIによる自動化と高度分析
ここまでの事例からも分かる通り、レイクハウスによるデータとAIの活用は企業競争力の源泉となっています。SCSKではこの流れに対応するため、Databricksの取り扱いを開始するとともに、2025年6月に「NebulaShift di」をリリースしました。
NebulaShift diは、クラウドネイティブに基づくお客様の環境に合わせた柔軟なデータ統合により、データドリブンな意思決定を支援するサービスです。企業内外に散在するデータやアプリケーションをつなぎ、データ分析や機械学習・生成AI(LLM)活用までを一気通貫で実現します。
このNebulaShift diの中核を担うのが、Databricksのレイクハウス基盤です。Databricks単体でのご利用から、ETL・BI・AI活用を含めた一体のオファリング提案もお任せください。
Data + AI Summit 2025を通して、世界中でデータとAI利用のスピードが加速している現実を強く感じました。特に印象的だったのは、「データ・AIの民主化」というキーワードに象徴されるように、専門家だけでなく、ビジネスユーザーを含む幅広い層を対象に、この分野が進化していることです。一方で、日本では依然として専門のエンジニアが必要とされる状態にあり、「誰もがデータを使える」状態になるにはまだ距離があると感じます。このギャップを埋めることが、今後の競争力を左右する重要なポイントになるでしょう。
Databricksはレイクハウスを基盤にAIや生成AIを組み込んだ最新機能を次々と発表し、データ活用のハードルを下げる進化を続けています。SCSKはDatabricksとともに、「データを貯める」から「価値を生み出す」これからの日本を支えます。
なお、基調講演のフルバージョンはYouTubeで公開されているほか、一部の事例はオンデマンド登録により現在もご覧いただけます。従来のデータレイクおよびデータウェアハウスと比較した、Databricksに代表されるレイクハウスの最大の特徴は、AIや機械学習によってデータ活用に最適化されているという点です。またレイクハウスは、データレイクの柔軟性とデータウェアハウスの整然さというメリットを兼ね備えており、両者を束ねる一番大きな概念と言えます。
特徴 | |
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データレイク | 生データをそのまま保存するための基盤。どんなデータでも柔軟に蓄積できる一方、整備されていないため活用・分析には専門知識が必要となる。 |
データウェアハウス | データウェアハウス 構造化データを整理して保存し、データ分析によってBIやレポートなどに使われる。現場でも使いやすい一方、データの種類が限られるため柔軟性に欠ける |
レイクハウス | レイクハウス 構造化・非構造化データの両方に対応しているうえ、AIや機械学習によって高度なデータ分析も可能。 |
例えるなら、レイクハウスという部屋に、あらゆる物が投げ入れられた押し入れ(データレイク)と、おもちゃならおもちゃ箱、本なら本棚と、綺麗に整理整頓されたスペース(データウェアハウス)があるイメージです。さらにその部屋にはAIロボットも存在し、住人が何かをお願いすれば、すべてを把握しているロボットが動いて対応してくれます。