「With/Afterコロナに向けた企業システムを考える ~BRMSによる業務の変革~」セミナーイベントレポート
- イベントレポート
- BRMS
- 自動化
- ../../../article/2021/03/brms_seminar.html

大規模な業務アプリケーションや古くからのシステムを利用している企業にとって、保守・運用コストの高止まりとシステムのブラックボックス化が大きな課題となっています。これらの解決策として近年注目を集めているのが、BRMS(Business Rule Management System)とEAI(Enterprise Application Integration)です。BRMSでシステムの一部を切り離し、EAIで複数のシステムのデータをシームレスに連携・結合することによって、システムの効率化と保守・運用の柔軟性を高めることができます。
ニッセイ情報テクノロジー株式会社(以下、ニッセイ情報テクノロジー)は、本サービスの導入により、エンドユーザーである日本生命保険相互会社(以下、日本生命)のシステムの保守・運用コストの大幅低減とブラックボックスの解消を実現しました。今回は、BRMS×EAI導入による大規模システムの課題解決策について、ニッセイ情報テクノロジーの下鳥氏、佐伯氏とSCSKの担当者に伺いました。
目次
![]() ニッセイ情報テクノロジー株式会社 ビジネスソリューション事業部 業務第二ブロック 下鳥 遥祐 氏 |
![]() ニッセイ情報テクノロジー株式会社 ビジネスソリューション事業部 業務第二ブロック 佐伯 拓哉 氏 |
![]() SCSK株式会社 ITインフラサービス事業グループ ITインフラ・ソフトウェア事業本部 サーバ・ストレージ部 技術第二課 瀧島 慶子 |
―― BRMSとEAIを導入された背景について教えてください。貴社は業務システムにどのような課題を抱えていたのでしょうか?
下鳥氏 ニッセイ情報テクノロジーは、日本生命のIT戦略を担う企業として創業し、日本生命をはじめ「保険・共済」、「年金」、「ヘルスケア」業界の成長を推進しています。その中で私が所属するビジネスソリューション事業部は、販売業績管理、会計・経費精算、申請業務の電子化、事務効率化などのプロダクトとサービスを提供しています。
今回のシステム(詳しくは後述)は、当社が、日本生命の情報システム部門としての役割を担って、開発・運用に携わっているものです。従来から抱えていた課題として、大規模システムや古くからのシステムを利用している企業にありがちな課題が2点ありました。それは、システムの保守・運用コストの高止まりとブラックボックス化です。
1点目の保守・運用コストの高止まりの要因は、システム更新の際に、たとえ更新対象が一部に限られていても、それが全体にどんな影響を及ぼすかを検証しなければならないことにあります。検証範囲が広いだけでなく更新頻度も高いため、結果として毎回多くの工数とコストがかかっていました。
他にも、手間のかかる手作業が多く、業務が非効率であることも起因していました。例えば、日本生命の各拠点・支社のさまざまなデータを集約して対象システムに入力したり、逆にシステムからデータを出力する際には、適切な形式に変換してExcelファイルに転記したり、といった作業を手作業で行っていました。こうしたデータ収集・変換、システム連携にも多くの工数がかかっていたのです。
2点目のブラックボックス化の問題ですが、これはシステムがCOBOLなどの専門的なプログラミング言語で書かれていることが原因で、システムの内部構造や動作が一部の専門知識を持つ担当技術者にしか理解できない状態になっていました。1点目の課題にも関係しますが、システムの更新頻度が高い分、毎回プログラムの内容を確認して修正するのも大変ですし、修正が繰り返されるたびに複雑にもなります。
このため、他の技術者がシステムを理解し、適切に保守・運用を行うことが難しく、もしシステムに携わっている担当技術者が異動や退職してしまうと、システムを理解できる人がいなくなるリスクを伴っていました。
こうした背景から、シンプルで効率的なシステムへの刷新が必要となっていました。
大規模システムが抱える課題
①保守・運用コストの高止まり
頻繁な更新によって複雑化するシステム
②ブラックボックス化
専門的なプログラミング言語で書かれており、限られた担当者しか理解できない
―― BRMSおよびEAIとは、どのような技術なのでしょうか?
瀧島 BRMS(Business Rule Management System)とEAI(Enterprise Application Integration)は、全く異なる技術ですが、それぞれのアプローチで企業の情報システムを効率化し、運用の柔軟性を高めることができます。
まずBRMSとは、システムの中にある業務ロジックやデータベースに点在しているビジネスルールを切り出し、一元的に登録・管理・実行するシステムです。
ビジネスルールとは、企業が業務を遂行する際に従うべきガイドラインや規則のことを指します。通常、これらのルールはシステムに組み込まれることが多いですが、BRMSはビジネスルールを取り出してシステム外で管理し、変更が必要な場合にはBRMSだけを使用し更新することが可能になります。複雑な業務処理をBRMSに移譲することで、処理・コードを簡素化するイメージです。
これにより、システムの更新に関する影響度を極小化し、保守コストを低減します。また、ブラックボックスだった業務を共通の言語・ツールで管理してシステム化、自動化することで運用が容易になります。担当者の負荷やミスを軽減でき、さらに担当技術者でなくても更新を行う事ができるようになります。
※BRMSについては、こちらの記事もご覧ください。
「With/Afterコロナに向けた企業システムを考える ~BRMSによる業務の変革~」セミナーイベントレポート|SCSK IT Platform Navigator
続いてEAIとは、いろいろなシステムを繋いでデータをやりとりするためのハブのようなもので、異なるシステム間でのデータの統合と自動化を促進するツールです。
多くの企業では、販売、在庫、顧客管理など異なる目的で多様なシステムが使用されていますが、これらのシステム間で情報がスムーズに流れるようにするのがEAIの役割です。
EAIはハブとして機能し、各システムからのデータを受け取り、必要に応じて適切な形式に変換して他のシステムへと送信します。これにより、システム間の互換性の問題を解決し、データの一貫性とアクセス効率を大幅に改善します。自動データ変換・連携によりコストが低減でき、保守・運用コストの高止まりの課題解決へつながります。
―― BRMS×EAIに注目した理由について教えてください。
下鳥氏 もともとはメインフレームシステムの簡素化・効率化の検討をしていたのですが、既存のCOBOLやJCLでの開発には限界があると分かり、他の解決策を模索していました。そんな時、全ての課題を解決できるBRMS×EAIを知り、レガシーシステムを抱える企業が直面する経済的負担を軽減し、持続可能なIT運用を実現するための重要なツールだと注目しました。
BRMSは、直感的なインターフェースによって専門家でなくてもシステムのビジネスルールを簡単に一元管理したり変更したりできるので、スピードと効率が上がり、システムの透明性も向上できます。ビジネスルールの変更によるシステム全体への影響を把握しやすくなり、エラーのリスクを減少しながら、更新作業の時間とコストを低減できる点も魅力です。
システムへのデータ連携および外部へのデータ出力に工数がかかっていた課題については、EAIによる自動データ変換・連携による解決が期待できました。ノーコードでデータ連携が可能なため、BRMS同様、プログラミングの知識がなくても、視覚的に設定しデータ連携できる点が最大の魅力でした。
結果として、BRMS×EAIの導入により、ブラックボックス化されたシステムをより柔軟でアクセスしやすいものに変え、当社の保守・運用効率を大幅に改善するという大きなメリットに惹かれました。
―― その中でもInnoRulesとASTERIA Warpを選んだ理由を教えてください。
佐伯氏 まず、BRMSツールの「InnoRules」を選んだ理由については、Microsoft OfficeのようなUIにより直感的なルール記述が可能なことや、多様なルールテンプレートが用意されており、用途、好みに応じて使い分けできるので、開発しやすいと考えたからです。また、独自のアルゴリズムを使用することにより、高い処理速度を保てる点も魅力に感じました。
InnoRulesの操作画面
業界用語をルール内でそのまま使用できるため、非常に使い勝手が良いです。またルールの関連構造から全体像を可視化でき、システムの影響範囲を把握できるだけでなく、ルール変更が正しく機能するかを簡単にシミュレーションもできるので運用効率が向上します。大手金融系企業で多くの実績があることも安心材料であり、ASTERIA Warpとの互換性も評価しました。最終的には、開発未経験者でも開発しやすい点や、低コストという点が決め手になりました。
EAIツールとして「ASTERIA Warp」 を選んだ理由は、国内シェアNo.1という実績に加え、低コストで導入可能である点を魅力に感じたからです。InnoRulesとのAPIによる連携が前提だったので、REST APIの機能も必須の条件でした。
開発未経験者でも扱いやすく、新規要員を雇うことなく既存のスタッフで開発を進められることや、コストを抑えながら効率的にシステム刷新を行えること、ユーザビリティが非常に高く開発しやすいことなども選定理由でした。特にユーザビリティにおいて、他ツールも含めたハンズオンを行う中で、ASTERIA Warpが一番使いやすいとの実感がありました。
―― 開発の対象となったシステムについて詳しく教えてください。
佐伯氏 「グランプリ表彰システム」という、日本生命の業績評価を行うためのシステムです。
日本生命本部が設定する評価規程に対し、優秀な営業成績を収めた営業拠点・支社を表彰するグランプリ表彰規程に即して拠点・支社の評価を行う「拠点支社グランプリシステム」と、営業職員の評価を行う「営業職員表彰システム」がありますが、第一弾として拠点支社グランプリシステムの開発を行いました。
拠点支社グランプリシステムでは、主に以下をバッチ処理していました。
システム概要図
毎年、グランプリ表彰規程の改正に合わせて評価方法が変わるため、システムもそれに応じて大幅に改修する必要があり、設計・製造・検証フェーズの作業負荷が非常に高く、膨大なコストが生じていた訳です。また、必要なデータを各拠点から集め、集計結果をExcelファイルに出力するのですが、これらが全て手作業で骨の折れる作業でした。
さらに、全国の拠点・支社向けに、年度表彰に向けた中間(現況)情報を通達するための各種成績データも作成して提供しており、更新データの確認作業などを含む運用の非効率性も課題でした。
―― システムに対してどのようにInnoRulesとASTERIA Warpを導入したのですか?
下鳥氏 InnoRulesについては、SE経験6年目までの若手職員と中堅社員の5~6名のチームで開発を担当したのですが、たった10~15時間程度の研修を受講しただけで、基礎的な開発を実装できるレベルまで到達できました。
まずメインフレームシステムに組み込んでいた拠点支社グランプリシステムにあるビジネスロジックを300程度のルールで作り、InnoRules上で管理できるようにしました。これによって、これまで規程改正の度にCOBOLで行っていた複雑な修正が簡単にできるようになりました。
InnoRulesはルール単位での即時検証が可能なので、テスト準備工数を低減できました。ルールを保存する時に、参照する下位ルールの名称に不備があればルール保存の時点でエラーが上がるため、実装不備を早期検知しやすく、今回のように平易なロジックを大量導入する際に適していましたね。
ルールを出来るだけ細分化して疎結合に管理することで保守性を高め、「説明」エリアにルールやドメイン値の概要を記載して可読性も高めました。
またシステム間との連携のためにASTERIA Warpを導入しました。具体的には、評価計算に必要な各拠点・支社からのデータを拠点支社グランプリシステムへ取り込むプロセスと、評価結果をCSVに変換し、Excelファイルで関係者に展開するプロセスを、ASTERIA Warpによってシームレスに繋いで自動化させました。
InnoRulesとASTERIA Warpとの連携
さらに、ブラックボックスの解消のため、InnoRulesとASTERIA Warpのどちらにもなるべくコメントを入れ、開発者以外の要員が見ても分かりやすい処理にできるようにこだわりました。
SCSKはInnoRulesとASTERIA Warpのどちらも取り扱っており、両方の支援が得られたことは大きかったです。BRMS領域に関しては10年以上の実績から豊富なノウハウを活かして、システムに最適な提案をしていただきました。実際、未経験の若手・中堅社員が初期開発を担当しましたが、SCSKのサポートをしっかり受けられたので、素早くスムーズに開発技術を習得できました。運用の土台をしっかりと固めたおかげで、評価規程改正に伴う保守開発は完全に内製で実現できています。
―― InnoRulesとASTERIA Warpの導入によって、どのような効果が得られましたか?
下鳥氏 導入効果は予想以上で、非常に高く評価しています。
直接的な開発の効果としては、一番の課題だった保守・運用コストが年間30%程度も削減できる見込みです。従来のメインフレームシステムを更新する場合、継ぎ足しで作成されたロジックで既に使われていない不要なものやバグ等を解析しながらプログラムを実装することになるため、解析と検証作業に膨大な時間と工数を必要としていました。一方、新たにInnoRulesでビジネスルールをまとめる際は現在の業務で必要なロジックのみを再設計すればよいので、はるかに効率的です。以前と比較してかなり短期間で安価に開発ができたと感じています。
収集したデータを手作業で集計・加工・Excelファイルへ転記するために要していた工数についても、ASTERIA Warpによるデータ連携およびファイル生成の自動化で、担当者の手作業は月20時間削減し、担当者の人件費圧縮にも大きく寄与できました。
間接的な効果としては、システム保守に伴う担当者間での作業引継ぎコストが低減したことや、システム側でプログラムを直接改修するのと比べて開発要員も調達しやすくなった側面があります。
従来の開発と比較すると、プログラム設計書を割愛し、テストもしやすくなりました。迅速かつ柔軟に開発に取り組めるようになったことで、生産性向上にも繋がり、我々の心理的負担も軽減できたと感じています。
―― 今後のビジョンについて教えてください。
佐伯氏 今回、拠点支社グランプリシステムでの開発が成功したので、もう一方の、COBOLベースで実装されている営業職員表彰システムを順次InnoRulesとASTERIA Warpへ移行しています。今後も引き続き、両者の活用範囲を積極的に拡大し、さらなる業務・システムの合理化に向けたDX推進に取り組んでいきたいですね。
瀧島 SCSKではBRMSおよびEAIそれぞれで複数のソリューションを取り扱っていますので、今回のようにお客様の要件に応じて最適な組み合わせで提案が可能です。同領域における実績も厚いので、さらなるサポートをお任せいただきたいです!