• トポロジー最適化
  • CAE
  • 製造業
  • モノづくり

トポロジー最適化ソリューションToffeeXが実現する冷却構造部品の設計革新


                                                                        toffeex_article.webp

スーパーコンピュータや電気自動車、半導体など、最先端技術の性能を最大限に引き出すには、発生する熱を効率的に除去する冷却構造部品が不可欠です。例えば、近年普及が進む電気自動車では、従来のガソリン車と比べてバッテリーやモーターといった熱管理を必要とするパーツが増えています。高性能の冷却構造部品を組み込み、放熱性を高めることで、バッテリー寿命の延伸や走行距離の改善を実現できます。

そのような中で、冷却構造部品の有効な設計手法の一つとして近年実用化され始めているのが、冷却水の流れや熱伝達を考慮し、冷却効率の高い形状を見つけ出すことができる「熱流体トポロジー最適化」です。しかし、熱流体トポロジー最適化には、「計算に時間がかかる」、「実際に作るには難しい形状が生成されることがある」といった課題もあります。このような課題を解決するのが、ToffeeXです。高度な計算アルゴリズムや多目的最適化、製造制約条件を用いて、短期間で最適な形状を導き出すことができます。

SCSKは、11月20日~21日にAIやデジタルツインなど製造業の最新技術に関するセミナーや講演を取り揃えたデジタルエンジニアリングフォーラムを開催しました。トポロジー最適化やToffeeXについてもセミナーを実施しています。今回は、その中から注目のセミナーを2つピックアップし、冷却構造部品の設計におけるトポロジー最適化やToffeeXの機能・特徴について解説します。さらに、クーリングプレートのユーザー事例を通じてToffeeXを活用した具体的な設計の流れをご紹介しますので、ぜひ最後までご覧ください。

ToffeeXの詳しい製品情報についてはこちら

ToffeeXの詳しい製品情報についてはこちら

【セミナー1】熱マネジメントにおける構造設計支援CAE :ToffeeX

【講演者】澤田 健

【講演者】澤田 健

SCSK株式会社
デジタルエンジニアリング事業本部
プロダクト技術部

トポロジー最適化とToffeeXとは

トポロジー最適化とは、目的関数や製造制約条件を満たしながら、設計空間にどのように材料を配置すれば最適な形状となるのかを明らかにする手法を指します。冷却構造部品の設計においては、熱伝達や冷却水(熱流体)の流れを考慮し、発生した熱を効果的に逃がす形状を導き出すものです。

ToffeeXは、このような熱流体解析をベースとしたトポロジー最適化を実現するCAEです。設計工程の初期段階にて利用し、新しい形状設計のコンセプト・構造のアイデアを導き出す用途が主になります。目的関数として圧力損失や熱伝達、制約条件として固体割合や最小部材寸法・流路幅を設定することができ、それらを満たす最適化形状を生成します。PC・サーバーの冷却に使用するヒートシンクや、自動車バッテリーの熱管理に用いられるクーリングプレートなどの設計に活用されています。

【トポロジー最適化とToffeeXを利用するフェーズ】

【トポロジー最適化とToffeeXを利用するフェーズ】

【特徴1】独自のアルゴリズムで競合の最大1000倍の高速計算を実現

ToffeeXの大きな強みは、独自の高速計算アルゴリズムを実装していることです。熱流体トポロジー最適化の課題として、流体解析をベースとしているため、計算時間が非常に長く、実用化が難しい点がありますが、ToffeeXは競合ソフトウェアの従来手法と比較して、10倍から1000倍の高速計算を実現します。また、並列計算能力も高く、コア数を増やすことでさらなる計算時間の短縮が可能です。

【ToffeeXと競合ソフトウェアの計算時間の比較】

【ToffeeXと競合ソフトウェアの計算時間の比較】

【特徴2】複数の目的関数を組み合わせ、要件に適した形状を生成

ToffeeXでは、目的関数として圧力損失や熱伝達、温度、流速を設定することができます。これらはトレードオフの関係にあるため、それぞれにウェイト(重み)を指定することで重視する目的関数を決定します。

例えば、下記の図はガスタービンプレートを対象に、圧力損失の最小化と熱伝達の最大化を目的関数として設定したものです。右側のグラフは青が圧力損失、オレンジが熱伝達を示しています。熱伝達を重視するように設定しており、高い熱伝達を達成しつつ、圧力損失をできるだけ小さくするように設計されています。

【ガスタービンプレートの形状最適化】

【ガスタービンプレートの形状最適化】

圧力損失の目的関数に温度最小化を組み合わせることも可能です。下記の図は、バッテリー冷却プレートにおいて、圧力損失の最小化と温度の最小化を目的関数として設定し、重みを振りました。上が圧力損失重視、下が温度重視の結果です。圧力損失を重視した場合は、大きな流路が作成され、圧力損失は小さい一方で、温度が高いままの部分もあります。

実際には、目的関数の重みづけを変化させながら、複数の形状を生成し、最も要件に合ったものを選択する使い方が想定されています。これらも高速計算アルゴリズムによって、複数の形状案を高速に算出することができるため、ユーザーの負担にはなりません。

【バッテリー冷却プレートの形状最適化】

【バッテリー冷却プレートの形状最適化】

【特徴3】製造制約条件を設定し、実際に製造可能な形状を生成

ToffeeXなどのトポロジー最適化ツールを使用する際に、よく課題として挙げられるのが「生成された形状が複雑すぎて実際に作れない」という点です。このような懸念についても、ToffeeXで製造制約条件を設定することでより現実に近い要件を加味して計算できます。具体的には、製造制約条件として最小流路寸法や最小部材寸法を定義することで、3Dプリンターで製造できない形状の生成を避けることが可能です。

【製造制約条件で最小流路寸法・最小部材寸法を定義した場合】

【製造制約条件で最小流路寸法・最小部材寸法を定義した場合】

また、オーバーハングのコントロールも可能です。オーバーハングとは、3Dプリンターの造形物において宙に浮いている部分を指します。宙に浮いているオーバーハングがたわんでしまう場合は、その部分を支えるサポート材が必要となります。しかし、サポート材を使用すると、剥がす際に接触面が荒れたり、そもそもサポート材自体が余分なコストとなったりという課題があります。その場合、オーバーハングの角度を任意の角度以下となるように制約条件を定義することで、サポート材が不要となるようにコントロールできます。

【製造制約条件でオーバーハングコントロールを行った場合】

【製造制約条件でオーバーハングコントロールを行った場合】

【特徴4】WEBブラウザで簡単操作、CAE未経験でも使いやすいGUI

ToffeeXは、クラウドサービス(SaaS)による提供で、WEBブラウザ上で簡単に利用することができます。CAE未経験でも使いやすい設計になっており、入力するパラメータもトポロジー最適化に特化したものに絞られているため、20~30項目の入力で計算が可能です。また、専用のワークステーション(一般的なPCより高性能な業務用コンピュータ)は不要で、ネットワーク環境とノートPCがあれば利用できます。

【ToffeeXの実際の操作画面】

【ToffeeXの実際の操作画面】

まとめ

テクノロジーの進化に伴い、それを支える冷却構造部品も複雑化しており、設計には大きな手間と時間がかかります。ToffeeXの高速計算アルゴリズムやCAE未経験でも使いやすいGUIにより、設計時間を大幅に短縮することができます。さらに、複数の目的関数や製造制約条件を設定することで、より要件に合った形状を短期間で導き出すことが可能です。

ToffeeXについて詳しく知りたい方は、こちらの製品サイトもご覧ください。

トポロジー最適化ソフトウェア ToffeeX | SCSK株式会社

【セミナー2】SOLIZE社事例:クーリングプレートの熱流体トポロジー最適化と3Dプリンティング技術

【講演者】塩田 直輝 様

【講演者】塩田 直輝 様

SOLIZE株式会社
デジタルドリブンエンジニアリング事業部
デジタルサイエンス部

SOLIZE社は、3Dプリンターを使用した試作や最終製品製作など、お客様のデジタルものづくりをサポートする企業です。今回、同社ではクーリングプレートの設計にToffeeXを活用し、冷却性能を向上させることに成功しました。ここでは、ToffeeXを活用したクーリングプレートの設計から造形に至る一連のプロセスをご紹介します。

ToffeeXを活用したクーリングプレートの構造設計

クーリングプレートとは、電子機器を冷却するための部材で、発生した熱を効率的に冷却水に移動させることで、製品性能を安定させます。電気自動車のバッテリーや半導体製造装置の冷却、太陽光発電パネルの温度調節など、各産業で利用されています。

今回ご紹介する事例では、ToffeeXの多目的最適化とSOLIZE社の3Dプリンティングノウハウを組み合わせ、クーリングプレートの設計から実機評価までを一気通貫で行います。最適化前の形状では、下記の図のようにクーリングプレートの内部には特別な構造がなく、冷却水が中央に集中し、辺縁部が十分に冷却されていない状態でした。そこで、今回の最適化では、圧力損失を最小限に抑えつつ、内部に構造を追加して均一に温度減少させていくことを目的としています。

ToffeeXを活用したクーリングプレートの構造設計

ToffeeXでの形状検討

まず、最適化後に残る固体部分の体積割合を指定し、目的関数として圧力損失の最小化と温度の最小化を設定しました。目的関数のウェイトを変えながら、最適化を繰り返し、複数の形状を生成します。

ウェイトは、複数の目的関数に対して重視の度合いを設定するパラメータです。圧力損失の最小化と温度の最小化のどちらかを重視するかを変更できます。ウェイトが小さい場合は圧力損失を重視した形状になるため、左下の図のように流路内に大きな固体が配置されます。一方で、ウェイトが大きい場合は熱交換量を重視し、右下の図のように比較的小さい固体が形成されることになります。

このような複数の形状案から、要件に合った形状を探すために右のグラフを作成しました。このグラフでは、棒グラフで圧力損失、折れ線グラフでヒーターの平均温度と最大温度を示しています。圧力損失と熱交換の性能はトレードオフの関係にあります。そのため今回は圧力損失と熱交換量のバランスの取れた「ウェイト中」を選択しました。

【ToffeeXを活用した複数の形状案の生成】

【ToffeeXを活用した複数の形状案の生成】

熱流体解析による性能確認と基本構造の調整

上記の「ウェイト中」の図に対し、熱流体解析で詳細な分析を行い、性能を確認。最適化した形状では、クーリングプレートの平均温度が56.9度から47.9度へと大幅に改善しました。しかし、右下の図のように温度分布のばらつきが依然として大きく、基本構造を調整することで、さらなる改善を図りました。

【熱流体解析による性能確認結果】

【熱流体解析による性能確認結果】

ここで言う基本構造とは、ToffeeXで最適化を行う前の初期形状に追加する構造のことです。冷却水の流れを広範囲に広げるために、下記の左の図に示されている黄色の部分で、厚みを冷却水が流れる方向にしたがって徐々に薄くなるように設計を変更。熱流体解析を再度実施した結果、右の図のように温度のばらつきが少なくなり、平均温度も47.9度から44.8度に改善されました。

【基本構造調整後の熱流体解析結果】

【基本構造調整後の熱流体解析結果】

ToffeeXについて詳しく知りたい方は、こちらの製品サイトもご覧ください。

トポロジー最適化ソフトウェア ToffeeX | SCSK株式会社

3Dプリンターによる積層造形

ToffeeXで最適化した形状をSOLIZE社の積層造形(金属粉末の層を積み重ねて製造する手法)の技術で実際に製造していきます。まず、ToffeeXで出力した形状をCADデータに組み込みました。また、造形後に金属粉末が詰まることを防ぐために、微細な穴やくぼみを併せて造形します。

次に、クーリングプレートの外側にサポート構造(造形物を支えて型崩れや反りを防ぐもの)を追加します。そして、3Dプリンターの中の適した位置にモデルを配置し、実際に造形を行います。こういったサポート構造やモデルの配置などに、SOLIZE社の造形ノウハウが生かされています。

実際に造形した写真が下記です。金属造形だと内部構造が視認できないため、冷却水の流れが見える透明樹脂でも同様の造形を行いました。

【3Dプリンターによる積層造形の流れ】

【3Dプリンターによる積層造形の流れ】

最適化形状の効果測定

最後に、造形したクーリングプレートに実際に冷却水を流し、温度測定を実施しました。サーモグラフィカメラで表面温度を測定したところ、オリジナルと記載されている初期形状から、9.6度の温度低下を確認することができました。

また、「オリジナル(初期形状)」、「最適化のみ」、「最適化+基本構造調整」の3つのモデルを作成して比較。結果として、最適化のみを行った場合が4.9度、さらに基本構造の調整を行うと4.7度の低下が見られ、熱流体解析で予測していた基本構造の調整による性能向上が実機でも確認できました。

【サーモグラフィカメラによる温度測定】

【サーモグラフィカメラによる温度測定】

【オリジナル、最適化のみ、最適化+基本構造調整のモデルの比較】

【オリジナル、最適化のみ、最適化+基本構造調整のモデルの比較】

まとめ

ToffeeXのトポロジー最適化計算と3Dプリンターを活用することで、最適化条件の設定から複数形状案の生成、形状案の解析、実機評価までのプロセスを迅速に行うことできます。また、圧力損失の最小化や熱交換量最大化などの目的関数のウェイトを調整し、要件に合った形状を生成することが可能です。さらに性能を向上させるためには、同時に基本構造設計の見直しを図ることが必要になります。

SOLIZE社についてはこちらもぜひご覧ください。

SOLIZEウェブサイト
3Dプリント試作品製作 | SOLIZE

ToffeeXの製品情報はこちら

トポロジー最適化ソフトウェア ToffeeX | SCSK株式会社

トポロジー最適化ソフトウェア ToffeeX | SCSK株式会社

実際にToffeeXの操作を体験できるハンズオンセミナーも開催中!
申込はこちら

最新情報などをメールでお届けします。
メールマガジン登録

×