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材料開発にかかる時間とコスト、人的リソースを大幅に削減
MI分野の注目ソリューション「Citrine Platform」


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近年、IoTの普及やEV(電気自動車)に代表されるモビリティの進化に合わせ、半導体や電池用途をはじめとした新材料の開発ニーズが急増しています。同時に各企業は、グローバル規模での企業間競争や厳しさを増す環境規制に対応することも求められるようになりました。こうした状況の中、いま大きな注目を集めているのが、機械学習やデータマイニングなどの技術で材料開発の効率化を図る「マテリアルズ・インフォマティクス(Materials Informatics:MI)」です。そこで今回は、MI分野のリーディングカンパニーであるCitrine Informatics社からJosh Green氏をお招きし、MIの概要とその効果および同社のソリューション「Citrine Platform」について、SCSKの担当者を交え、お話をうかがいます。

Citrine Informatics Director, Partnerships & Sales Enablement Executive Sponsor, APAC Josh Green氏

Citrine Informatics
Director, Partnerships &
Sales Enablement
Executive Sponsor,
APAC
Josh Green氏
SCSK株式会社 製造エンジニアリング事業本部 プロダクト推進部 第四課 課長 星 雅人

SCSK株式会社
製造エンジニアリング事業本部
プロダクト推進部 第四課
課長
星 雅人
SCSK株式会社 製造エンジニアリング事業本部 プロダクト推進部 第四課 金子 貴大

SCSK株式会社
製造エンジニアリング事業本部
プロダクト推進部 第四課
金子 貴大

今、材料開発に求められるのは開発時間の短縮

――まずは材料開発の現状を教えてください。

SCSK 星:これまでの材料開発といえば、大手企業も含め開発者個人の勘やノウハウに依存する属人性の高いものでした。ある特性を持つ新材料を開発しようとなった場合、開発者がこれまでの経験から可能性の高そうな物質とその配合を推定し、試作によってその出来を確かめるという具合です。従来そういった実験データは、開発者個人が独自のルールで管理しており、中にはノートやメモなどの紙ベースのものや、そもそも保存していない場合も多くありました。つまり、皆が共有できるかたちでデータが保管されていないため、結果として開発までの試行回数が多くなり、多額のコストや工数がかかっていました。

こうした状況の中、EVシフトが急激に進む自動車および関連メーカー、競争力の高い材料を求める化学系企業を中心に、材料開発にかかる時間を短縮する取り組みが加速しています。その背景には、激しさを増すグローバル規模での企業間競争、日を追って厳しくなる環境規制などがあります。例えば、家電業界の企業が自動車開発に乗り出して競争相手が増えたり、従来使えていた物質が規制の対象になり、含有率を抑えるあるいは一切含まれない材料が求められたりといったケースで、各企業はこうした課題へいち早く対応する必要があります。これは決して簡単なことではありませんが、実現すれば競争力の強化や収益率の向上につながりますので、多くの企業が既存の材料開発の進め方を見直すことを検討しています。そこで注目されているのがMIです。

材料開発を高速化する「マテリアルズ・インフォマティクス(Materials Informatics:MI)」とは

――そもそもMIとは何なのでしょうか。

SCSK 金子:MIは、機械学習やデータマイニングなどの情報科学の技術を用いて材料開発を高速化・効率化する技術です。この技術を活用し、データをベースとすることで属人化を防ぎ、人の経験や勘では対応しきれない多岐にわたる課題の解決に貢献することが期待できます。MIが世界的に注目されるようになったきっかけは、アメリカのオバマ大統領(当時)が2011年に発表した「Materials Genome Initiative(MGI)」です。MGIとは最新の情報科学や計算科学を駆使し、優れた新材料の発見から実用化までの期間を半分に短縮することを目的とした材料革新プロジェクトで、以後、米国を中心にMI分野のスタートアップ企業が続々と設立されます。MIの概念自体は以前よりあったと思いますが、MGIという米国の政策に加え、コンピューティングおよびAIの性能向上、クラウドサービスの普及など、ICTの進化が重なったことで、本格的な普及につながりました。

<図1>従来の開発フローとMIを使った開発フローの違い

<図1>従来の開発フローとMIを使った開発フローの違い

――機械学習というワードが出てきましたが、従来のAIとMIはどう違うのでしょうか。

SCSK 星:AI技術を材料開発に用いるという点で、MIとAIが全く別物という訳ではありません。ですが、従来のAIをそのまま材料開発に適用するには大きく2つの問題がありました。1つ目は少ないサンプル数です。前提として、AIでは学習させるデータ(サンプル)が足りないと、精度の高い予測結果は得られません。自動運転や画像解析、翻訳などではAIを活用した開発が進んでいますが、こうした分野は機械学習等に利用できるサンプルがとても多いという点があります。対して材料開発はというと、新材料の開発や環境規制に対応するための材料置換を目的に各社が独自で実験するためサンプル数が少なく、中でも失敗例が入手しにくいのです。つまりMIには、その限られたデータから最適な予測モデルを生成する特別な技術が求められます。

また2つ目に、高度な専門知識が必要という点が挙げられます。材料開発では既知の物理法則に加え、材料が持つ特性のバラつきや開発者の日頃のノウハウといった専門知識が求められますが、これらは通常のAIの学習モデルでは考慮されません。そのためMIでは、少ないサンプルから精度の高い予測モデルを導くためのAI応用力、材料に関する高度な知見、それらを踏まえてMIの運用を最適化する能力が求められます。

――これを聞くとMIの実用化は難しそうに聞こえるのですが、国内メーカーのMIへの取り組み、普及の度合いはどのような状況なのでしょうか。

SCSK 金子:これまで日本のメーカーは材料開発の分野で国際的にも高い競争力を誇ってきましたが、その背景には、大手企業が自社でプラットフォームを構築し、独自にMIへの取り組みを進めていたということがあるでしょう。ですが先ほども申し上げた通り、MIには通常のAIに加え材料に関する豊富な知識を持った専任者が必要なため、その確保と育成は大変です。また、自社のノウハウが結集したプラットフォームとなると、メンテナンスや改修も自分たちで行う必要があり、中長期的な運用や拡張性に問題があります。一方で、大手企業を取引先とする中堅メーカーの多くは、そうしたプラットフォームは持っておらず、従来通りの開発者の知見に基づく試作・実験の繰り返しが主流のようです。いずれにせよ、材料開発の期間を短縮するという命題に対し、MIへの期待が高まっていることは事実です。それと同時に、MIの導入および運用を独自に進めるには非常に労力がかかるため、それらを解決するツールやサービスが求められています。

MI分野のリーディングカンパニーCitrine Informaticsが提供する「Citrine Platform」

――まずはCitrine Informatics社について教えてください。

Citrine Green氏:2013年に米国で設立されたCitrine Informatics社(以下、Citrine)は、MI分野におけるリーディングカンパニーのひとつです。Panasonic、昭和電工、LyondellBasellなど、素材・化学業界で世界を代表する企業と提携しており、数多くの受賞歴も持っています。Citrineが提供するMIプラットフォーム「Citrine Platform」は、これまで世界中の100以上の材料開発プロジェクトで採用されてきました。

――グローバルで見たMIの状況はいかがしょうか。

Citrine Green氏:Citrineの設立当時は、MIを大規模に採用している企業はほとんどありませんでした。しかしここ数年で市場が一気に立ち上がり、今やほとんどの大手企業は何らかの形でMIを導入しています。グローバルでいえば中小企業(SMB)でもMIの利用が急拡大しており、数年後にはSMB層の多くでMIが材料開発ワークフローの一部になると思われます。

――「Citrine Platform」にはどのような特長があるのでしょうか。

Citrine Green氏:Citrineは100人以上の専門家チームを持っており、9年間かけてMI技術とアプローチを開発してきました。その成果が結実したのがデータドリブンな材料開発のためのMIプラットフォーム「Citrine Platform」です。これを導入すれば、新規に独自のMIプラットフォームを構築するのと比べて、時間、コスト、人的リソースを大幅に削減できます。

企業の材料開発では数十のデータしかない場合がほとんどですが、一般的なAIでは数千の学習データが必要です。一方Citrineのモデルは材料に特化しており、原子、分子、配合情報や、化学者が長年かけて開発した特性関係や分析式を使用することで、少ないデータでも精度の高い予測が可能です。さらに、Citrineが提案した候補材料に対して実際に実験し、その結果を学習データに逐次追加していくSequential Learning(SL)により、予測モデルの精度を改善させながら迅速に新材料の可能性を探索していくことが可能です。

――SLについて、もう少し詳しく教えてください。

Citrine Green氏:一般的なAIによる開発では、モデル学習の際に毎回ゼロからモデルを構築します。一方SLは、AIモデル構築から候補材料のスコアリング、検証実験までのサイクルを反復的に行い、最新の実験データを順次追加してAIモデルを更新し、予測精度を向上させることで、最も効果的かつ効率的にプロジェクトを進めることが可能です。これにより、より良い結果を50~75%少ない実験回数で得ることができるため、優れた製品を迅速に開発し、市場へ投入することが可能になります。

<図2>Sequential Learning(SL)を使ったMI

<図2>Sequential Learning(SL)を使ったMI

――Citrine Platform活用には他にどのようなメリットがあるのでしょうか。
Citrine Platformは1つのプロジェクトで得たノウハウを、すべてのプロジェクトで活用できるようにするプラットフォームです。開発者は、他の人が構築したものを容易に自分のプロジェクトへ取り入れることが可能なので、研究開発の成果予測や新プロジェクトの立ち上げにかかる時間を大幅に短縮することができます。さらにUIも優れているため、多くのトレーニングやサポートなしで使いこなすことが可能です。

Citrine Platformを活用した電池材料開発の事例

――Citrine Platformを活用することで大きな成果を挙げている事例があればご紹介ください。

Citrine Green氏: 今回は、特に最近ニーズの多いEV向け電池を対象に、Citrine Platformを使った開発事例をご紹介します。Morrow Batteries社は、コバルトフリーな正極材(LNMO)を使用したサステナブルな次世代電池の開発を行うノルウェーの会社です。新しい電池を開発する際は、充放電サイクル試験、温度特性試験、安全性試験など、数多くの試験をクリアしなければなりません。そのテストには時間がかかり、多くのコストや人的リソースも必要です。そこでMorrow Batteries社は、Citrine PlatformのMI技術を活用してAI駆動のバッテリー開発を行いました。結果として、より少ない実験回数で、希少な物質をなるべく使わず安価で豊富に採れる物質を使い、高寿命で安全性の高い高品質な電池を開発することに成功しました。

<図3>Citrine PlatformによるMIが高品質で費用対効果の高い材料開発を実現

<図3>Citrine PlatformによるMIが高品質で費用対効果の高い材料開発を実現

材料開発のさらなる高速化に向けたSCSKの取り込み

――Citrine Platformの代理店としてSCSKが提供するソリューションの強みを教えてください。

SCSK 星:海外の製品、特に新しい分野の製品・サービスを日本のお客様が利用する際には、言語をはじめとし数々の問題があります。SCSKは、お客様とCitrineとの橋渡しを行うとともに、委託解析・委託作業、日本語対応、トレーニングなど充実したサポートを提供します。さらに、ものづくりに関する豊富な知見を有するとともに、CAE製品も数多く取り扱っているため、Citrine Platformと連携した総合的なソリューションの提供が可能です。例えば、材料のミクロな特性をシミュレーションするGeoDictと、その材料によって作られた製品のマクロな特性をシミュレーションするADVENTUREClusterとの連成を検討しています。実際の実験結果ではなく、それらのシミュレーション結果をCitrineの学習データとして活用することで、より高速にSLのサイクルを回し、材料開発を高速化できると考えています。

<図4>他CAE製品とCitrineの連成でより高速な材料開発を実現

<図4>他CAE製品とCitrineの連成でより高速な材料開発を実現

――2022年7月からCitrine Platformの取り扱いが始まりましたが、お客様の反応はいかがでしょうか。

SCSK 星:材料、化学、自動車など、幅広い業界から引き合いをいただいています。オンラインでのハンズオンセミナーなども定期的に実施していますが、参加される方も多く、注目度の高さを感じます。材料開発のプロセスに即した使い勝手の良いインターフェイスを評価されるお客様が多いですね。今後もセミナーを開催していく予定ですので、ご興味のある方は、どうぞお気軽にSCSKまでお問い合わせください。

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