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【導入事例】ADVENTUREClusterによる樹脂成形品の解析とボイド予測技術検討への活用


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エンジニアリングプラスチックは、半世紀以上にわたり金属と並んで工業用素材として利用されている高機能樹脂です。その優れた機械的強度、耐熱性、耐薬品性などにより、自動車、家電製品、電子デバイスから、航空機、最新型ロボット、身近な食品や医療品のパッケージまで、現代生活のあらゆるシーンで使われています。ポリプラスチックス株式会社様は、同素材の黎明期に設立された日本初の専業メーカーとして、素材の開発販売にとどまらず、素材を製品化するお客様企業に寄り添ったソリューション提供のため、長年CAEを活用した技術サービスに取り組まれています。その事例として、「ADVENTURECluster」による樹脂成形品の解析とボイド予測技術検討への活用」をご紹介いただきます。

ポリプラスチックス株式会社 研究開発本部 テクニカルソリューションセンター 小林 憲一郎 様

ポリプラスチックス株式会社
研究開発本部
テクニカルソリューションセンター
小林 憲一郎 様
ポリプラスチックス株式会社 研究開発本部 テクニカルソリューションセンター 味岡 英一郎 様

ポリプラスチックス株式会社
研究開発本部
テクニカルソリューションセンター
味岡 英一郎 様

お客様に寄り添ったソリューションを提供するポリプラスチックス株式会社様

ーー貴社の事業やご所属部門の業務について教えてください。

工業用プラスチックである粒状の樹脂材料として、ポリアセタール、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド、液晶ポリマー、環状オレフィン・コポリマー、ポリエチレンテレフタレート、長繊維強化熱可塑性樹脂などを製造販売しており、アジア圏を中心に欧州を含めた複数の工場で、各種樹脂材料の生産を行っています。私たちが所属する研究開発本部テクニカルソリューションセンターは材料開発部門とは異なり、お客様が当社材料を利用して最適な製品化を行うための技術提案を担当しています。ですから、お客様からお預かりした実際の設計データを解析して評価結果を報告させていただくことが多く、そこに樹脂流動解析や構造解析のソフトウェアを利用しています。今年のADVENTUREClusterユーザ会2022ではボイド予測技術について発表しましたが、その他にも静的強度における発生応力の確認や、長期的使用における破壊の可能性の判断などを行っています。構造解析ソフトウェアは他のツールも持っていますが、今はADVENTUREClusterの使用頻度がはるかに多くユーザーも増えてきています。

複数部品の接触を考慮した大規模構造解析の計算時間の短縮に成功

ーーADVENTUREClusterの導入経緯と、導入後の印象をお聞かせください。

近年は多機能化によって金属や樹脂を組み合わせる製品も増えており、部品同士の接触も考慮して解析する必要があります。すると解析は大規模になっていくため、計算時間の増加が課題となっていました。その希望にかなうソフトウェアがないかと探していたところ、ADVENTUREClusterを見つけ、すぐにトライアル利用を始めました。第一印象はプリプロセッサのBuilderが使いやすいということでした。ADVENTUREClusterはメッシュの切り方の試行錯誤はほとんど必要なく、そのまま計算ができることから、解析用モデル作成の時間を大幅に削減できました。以前なら数百万節点モデルを準備するのに、計算時間を考慮し形状編集やメッシュ削減で数週間要していたものを、1週間以内でモデル化から解析まで全てが終わる程の短縮効果を得られています。大規模が扱えて高速に処理できたという両方の感動があって、即導入に至りました。それから5年ほど利用していますが、最近は1000万節点規模以上のモデルを扱うことが多いため、導入して本当に良かったと感じています。また国産ということで、適切な日本語でメニューが構築されており、例えばアイコンにカーソルを置くとその説明が出るなど、あると嬉しい機能が備わっています。ユーザーインターフェイスが直感的で比較的早く操作に慣れたことも導入の後押しとなりました。

樹脂流動解析と連成させて行う熱応力解析において、高い精度での予測を実現

ーーでは、解析事例をご紹介いただけますか。

ADVENTUREClusterは、他の解析ソフトウェアと連携しやすいため、流動解析と連成させて熱応力解析を実施することが多いです。例えば、ガラス強化材を使用した製品では、繊維配向による異方性があるため、これを考慮して構造解析を行う必要があります。そこで、樹脂流動解析結果の繊維配向情報をADVENTUREClusterモデルにマッピングして熱応力解析を行うことで、材料特性の異方性を考慮した応力や変形を評価しています(図1)。同様の手法で、金属をガラス強化材に挿入した部品で行った事例が図2です。こちらは、高温での焼きなまし処理では割れが生じないものの、極低温環境ではクラックが発生しました。これも解析では最大応力位置で再現されており、高い予測精度が確認できたため、お客様の製品に対する解析サポートに活用しています。

図1 樹脂部の繊維配向を考慮した熱応力解析の結果

図1 樹脂部の繊維配向を考慮した熱応力解析の結果
図2 解析による最大応力位置からクラック発生を確認

図2 解析による最大応力位置からクラック発生を確認

画像処理では発見できなかった樹脂成形品の小さなボイドの形成/発生位置の事前予測が可能に

ーーボイド予測技術の検討について詳しくご紹介ください。

樹脂成形品は成形条件や製品形状によって、厚肉部位の近傍に空隙(ボイド)が形成されることがあります。これは樹脂が冷却され、肉厚方向に弾性率の勾配ができ、溶融状態の樹脂に引張力が加わる事で、応力集中が発生し開裂するからです(図3)。また、このボイドは時間の経過とともに、形状や材料の剛性に応じて大きくなります。

図3 ボイド発生のメカニズムの予測

図3 ボイド発生のメカニズムの予測

近年ではX線CT等の非破壊観察装置の普及によって、以前は観察できなかったボイドの発見が容易となり、小さいボイドも解析で事前予測したいという要求が高まってきました。これまでは、樹脂流動解析結果の温度分布や収縮率から、大体の発生位置を推定していましたが、十分な精度の結果を得ることが出来ていませんでした。ADVENTUREClusterの導入によって、樹脂流動解析と構造解析を連成させ、より精度の良い結果を得ることができ、見たいサイズのボイドを予測することができるようになりました。

この解析では、樹脂流動解析で型内の温度や圧力分布を計算した後に、それをもとに収縮率や弾性率などの物性値に変換し、構造解析用の入力データを生成します。ここからADVENTUREClusterで体積ひずみ分布を算出し、独自に設定したひずみの基準値分布からボイド発生位置を解析しました。この結果は実サンプルの結果に十分近く、発生位置の精度はかなり高いため、成形条件の依存性などの違いを確認できます(図4)。今回の技術構築にあたっては、ボイドの基礎的な発生機構を実験で試しながら、温度条件や成形上の圧力条件、時間的な因子などを考えなければならず、年単位の検討を要しましたが、実用化レベルにまでにもってくることができました。

図4 ボイド解析と実サンプルとの比

図4 ボイド解析と実サンプルとの比

カーボンニュートラルへの対応に向けて、構造解析・位相最適化に注目

ーー今後取り組みたい解析や将来的なビジョンについて教えてください。

位相最適化機能は、他のソフトウェアとも比較したのですが、ADVENTUREClusterは境界が比較的はっきりしており、随分良い印象です。私たちは、お客様に形状提案や材料提案なども行いますので、その技術支援のための一つのツールとして位相最適化の使用頻度を今後増やしてきたいと考えています。また、バイオマス材料の開発や最適に材料を減らし軽量化するなどカーボンニュートラルへの対応は今後重要になりますので、ADVENTUREClusterの構造解析や位相最適化には注目しています。

お客様紹介:
ポリプラスチックス株式会社
設立:1964年5月
事業目的: 各種ポリマー及びプラスチック等の製造販売
取扱製品: ポリアセタール (POM)、ポリブチレンテレフタレート (PBT)、ポリエチレンテレフタレート (PET)、液晶ポリマー (LCP)、ポリフェニレンサルファイド (PPS)、環状オレフィン・コポリマー (COC)
https://www.polyplastics-global.com/jp/

記事制作(取材日:2022年11月16日)

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