材料設計を加速させるAIプラットフォーム Citrine Platform

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技術情報コラム

Citrine Platform技術情報コラム第二回

マテリアルズ・インフォマティクス(MI)の電池材料開発への適用

Citrine Platform技術情報コラム第二回

本記事はCitrine Platform製品紹介セミナー第二回 電池材料編のダイジェスト版です。

1. 電池材料開発における課題とAI

昨今のカーボンニュートラル社会実現への機運が高まる中、自動車の電動化はそのカギを握る注目の取り組みです。そして、電気自動車の中核である車載用バッテリーの需要は加速しており、電池材料開発における期待は日に日に高まってきています。現在車載用では、エネルギー密度の高さからリチウムイオン電池が主流となっていますが、コストや安全性の面では課題も残されており、リチウムイオン電池のさらなる性能向上や、全固体電池などの新たな二次電池の開発に各国の産業界がしのぎを削っています。

今回は、電池材料開発の課題についてリチウムイオン電池を例に考えてみましょう。リチウムイオン電池は、充電と放電を繰り返して使用できる化学電池のひとつで、近年は前述のような大容量で安全性が求められる車載用バッテリーや小型化する電子機器など、幅広い製品に利用されています。構成としては、負極材、正極材、セパレータ、電解液など、複数の部品が相互作用しているため、それぞれに材料開発の課題が存在しています。例えば、負極材、正極材では、活物質とバインダーの種類や充填率・粒子径などによって充電性能が変わるため、材料コストとのトレードオフを考慮しながらそれらを選定する必要があります。また、セパレータも材料の種類・細孔形状・厚みなどによる電気絶縁性、イオン伝導率などの性能や強度等を検討しなければなりません。

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また、電池材料の試験時にも様々な課題があります。例えば、使用用途が多岐にわたる電池のサイクル寿命の性能テストには、高価な試験装置の導入や、温度特性試験、安全性試験など要求の厳しい条件下での試験を数多くこなす必要もあり、高サイクルになればなるほど膨大な時間とコストがかかります。もし、このような試験を実行せずに、電池のパフォーマンスを予測することができれば、電池材料の研究開発を⼤幅に加速することができます。

それらの研究開発の課題を解決する革新的な技術として、近年大きな期待が寄せられているのがAIです。AIは、高次元の探索空間を高速かつ効率的に探索し、人間の直感よりも多くの入力を考慮し追跡することを可能とする技術です。電池材料のより多くの組成を考慮し、差別化された新規材料の発見や複数の要件を同時に最適化することも可能です。また、サイクル寿命などの電池性能の予測試験の代替えとしても活用できます。具体的にサイクル寿命予測への適用を例に挙げると、100サイクルでの放電率の測定データから、AIで1000サイクルでの放電率を予測し、それをもとに目標を満たす放電率を達成できそうな電池構成のみを実際に試験するというような方法です。これにより、膨大な試験工数を短縮化し研究開発を高速化することができるようになります。これは一例ですが、電池材料の研究開発においてAIを活用できるテーマは多く存在します。

しかしここで注意が必要なのが、電池材料などの材料開発におけるAI活用は、一般的なAIと異なる独自の特徴があるという点です。ここからは一般的なAIとの違いを比較しながら、材料開発に特化したAIについてマテリアルズ・インフォマティクス(MI)ソリューションCitrine Platformの機能紹介も交えて説明します。

2. 一般のAIとCitrine Platformの材料開発に特化したAIの違い

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2-1 データ量の違い

一般的なAIの場合、データ量は大きく高密度という前提が多いですが、材料開発では、そのデータを多く用意するために膨大な実験が必要となるため、実際はデータ量が小さくまばらであることがほとんどです。Citrine Platformには、そのような小さくまばらなデータに対応するための複数の手法が用意されています。そのひとつは、前回の技術情報コラム第一回にてご紹介したシーケンシャル・ラーニング(逐次学習)です。今回は、別の手法としてトランスファー・ラーニング(転移学習)をご説明します。なお、転移学習にもいつくかのパターンがありますが、ここではあるタスクにおいて有効な仮説を効率的に見つけ出すために、1つ以上の別のタスクで学習された知識を保持・適用する手法をご紹介します。

電池材料開発における転移学習を例にご説明しましょう。ここでは、目的を500サイクル時の容量維持率を予測するものとします。前述のとおり、500サイクルのような高サイクルの測定は時間とリソースを要するため、AIによる予測が効果的です。過去の知見から、容量維持率の性能予測には最初のサイクルロスが重要であることが分かっているとすると、既存のデータから1サイクルでのサイクルロスを予測する機械学習モデルを前もって構築し、その予測値を潜在変数として500サイクルの容量維持率を予測するための機械学習モデルへの入力として利用することができます。このような手法をCitrine Informatics社は転移学習と呼んでおり、材料開発のようにデータ量が少ない場合において非常に強力な方法です。

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2-2 データの特徴量化とドメイン知識の確立

一般的なAIの場合、データの特徴量化はアルゴリズムで最適化できる場合が多く、ドメイン知識を確立するために、高度な知識が必要となることはありません。(ドメイン知識:研究者が蓄積してきた直感やノウハウ、すでにわかっている物理的な関係性など)しかし、電池材料をはじめとする材料開発に特化したAIでは、深いドメイン知識が必要となり、素材・化学をよく理解していることが求められます。

電池材料開発におけるデータはさまざまな形式で提供されますが、当初は機械学習で扱えない形式であることがほとんどです。これらのデータをそのまま見て、何らかの計算をすることは不可能であり、追加の前処理が必須となります。また、AIでの予測にあたっては日頃の研究者の方のノウハウを特徴量に落とし込むことが必要不可欠です。そこで、ここではそれらに対応するためにCitrine Platformに搭載されている優れたドメイン知識実装機能をご紹介します。

  • ■ Featurizer
    化学式・分子構造などの専門データを、SMILES(スマイルス)記法と呼ばれる機械学習に利用できる形式に変換します。さらに、これらのデータから追加で分子量やイオン化エネルギーなどの関連する100以上の特徴量を算出できます。
  • ■ Expression
    特徴量に独自の計算式を追加することができます。研究者の日ごろの知見や既知の関係式を反映できる機能で、モデリングワークフローにこのような数式を組み込むことで機械学習アルゴリズムで関係式の再学習が不要となり、効率的に材料開発を進めることができます。
  • ■ データ構造管理機能
    電池材料では、操作順序や個々の処理工程が非常に重要ですが、ほとんどのデータベースはデータの順序を考慮せず管理しています。Citrine Platformに取り込まれたデータは、Citrine Informatics社によって開発された独自のデータ形式を使用しており、正極活物質、導電性カーボンなどの素材、一連の製造プロセスのデータを関連付けて保持することが可能です。

2-3 データおよびモデルの不確実性、解釈性

不確実性の定量化は、一般的なAIでは通常重視されないものですが、材料開発に特化したAIでは重要です。Citrine Platformでは、特性値の予測に不確実性も考慮しており、主に候補材料の選定に利用されます。また、候補材料の選定には、「活用(Exploit)」と「探索(Explore)」のバランスが重要です。「活用」とは、過去に良かった行動を続けて行うことであり、「探索」とはもっと他にいい行動があるのではないか、と不確実性の高い別の行動をとることです。「活用」に重きを置き過ぎると同じような材料で実験を行い続けてしまうことなりますし、反対に「探索」に重きを置き過ぎると性能の悪い材料を多く調べてしまうことになり非効率です。Citrine Platformの候補材料選定には、推測された不確実性に基づき、「活用(Exploit)」と「探索(Explore)」のバランスの異なる3つの手法を利用し、目的に合わせて柔軟に材料選定を行うことが可能です。

AIは、電池材料の研究開発において、コスト削減、顧客対応力の向上、持続的な目標達成を実現する可能性を持っています。しかし、電池材料の研究開発の問題には独特の特徴があるため、ドメインに特化したアプローチをAIに適用することが重要です。Citrine Platformは、そのような電池材料特有のドメインにも対応したAIアプローチを提供できるプラットフォームです。

より詳しい情報は、Citrine Platform製品紹介セミナー第二回 電池材料編にて事例やデモンストレーションを交えてご覧いただけます。セミナーの見逃し配信をSCSK動画配信サイトで行っておりますので、ぜひこの機会にご視聴下さい。

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