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基礎から学ぶマルチクラウドとハイブリッドクラウド

基礎から学ぶマルチクラウドとハイブリッドクラウド

クラウドは現代ビジネスに不可欠となり、マルチクラウドやハイブリッドクラウドなど多様な活用形態が広がっています。しかし、それぞれの特長や活用方法、ネットワークの重要性を正しく理解するのは簡単ではありません。本コラムでは、これらのクラウド戦略や考慮すべきポイントについて、基礎から分かりやすく解説します。

現代のビジネスにおいて、クラウドはもはや不可欠な存在です。しかし、複数のパブリッククラウドを組み合わせる「マルチクラウド」や、自社オンプレミス環境(プライベートクラウド含む)とパブリッククラウドを連携させる「ハイブリッドクラウド」といった多様な利用形態が登場し、その違いや最適な活用法を理解することは、容易ではありません。

本コラムでは、これら複雑に感じられる二つのクラウド戦略について、その基礎から分かりやすく解説します。
それぞれの特長や違い、そして各環境をスムーズに繋ぐネットワークの重要性までを紐解き、皆様のクラウド活用に役立つ情報を解説します。

1.マルチクラウドとは

まず、「マルチクラウド」とはどのような概念なのでしょうか。これはAmazon Web Services (AWS)、Microsoft Azure(Azure)、Oracle Cloud Infrastructure (OCI) など、複数の異なるパブリッククラウド(以降、クラウドと記載します)を組み合わせて利用するITインフラの考え方、またはその構築方法を指します。

つまり、単一の「クラウドサービスプロバイダー」(クラウドサービス提供企業)に限定せず、複数企業提供するクラウドを並行して利用するのが、マルチクラウドの大きな特長です。

この利用形態を選ぶ主な目的は、大きく分けて次の2点にあります。

1.1.各ワークロードに最適なクラウドサービスの利用

マルチクラウドの第一のメリットは、各システムやアプリケーション(「ワークロード」と呼びます)の要件に合わせて、最適なクラウドサービスを自由に選択・活用できる点です。

一つのクラウド(シングルクラウド)だけでは、すべてのワークロードに対して、常に最高のパフォーマンスやコスト効率、最新の機能を提供できるとは限りません。マルチクラウドであれば、複数クラウドサービスプロバイダーのパブリッククラウドがそれぞれ持つ独自の強みや、特定の用途に特化したサービスをワークロードの要件に合わせて最適かつ柔軟に組み合わせることが可能になります。

例えば、「AI/機械学習サービスはA社のクラウドが優れているが、データベースはB社のクラウドの方が高性能で自社の用途に適しており、クラウド型オフィスソフトはC社のものを使いたい」という場合、各社のクラウドを組み合わせてマルチクラウド化することで、システム全体のパフォーマンスや効率を最大化することができます。

シングルクラウドとマルチクラウド
図1:シングルクラウドとマルチクラウドの違い

1.2. クラウドロックインの回避

第二のメリットは、特定クラウドサービスプロバイダーへの依存を避ける「クラウドロックインの回避」です。

「クラウドロックイン」とは、特定のクラウドサービスプロバイダーが提供するサービスや技術に深く依存してしまい、他クラウドを含めた他環境への移行が、技術的または費用的に困難になる状態を指します。クラウドではデータの取り込み(データインポート)が無料または低コストであることが多い一方、データを外部に取り出す(データエクスポート)際には高額なデータ転送費用がかかる場合があり、これがクラウドロックインからの脱出をさらに難しくしています。

この課題に対し、マルチクラウドは有効な戦略となります。複数クラウドを意図的に組み合わせて利用することで、特定クラウドへの依存度を低減し、その技術や料金体系に過度に縛られるリスクを避けることができるのです。

例えば、重要なワークロードを複数の異なるクラウドへ分散配置や、バックアップデータを複数のクラウドに分けて保存するといった設計があります。これにより、将来的にプラットフォームの変更や、より最適なサービスへの移行が必要になった際にも、シングルクラウドと比較して、マルチクラウドはより高い柔軟性と選択の自由度を確保できます。

クラウドロックインの回避
図2:クラウドロックインの回避

2.ハイブリッドクラウドとは

マルチクラウドが複数のクラウドサービスプロバイダーを組み合わせる戦略である一方、「ハイブリッドクラウド」は少し異なるアプローチを取ります。

「ハイブリッドクラウド」とは、組織が自社で管理・運用する「オンプレミス」(自社データセンター内のサーバーやネットワーク機器、または自社専用のプライベートクラウドなど)と、クラウドを組み合わせ、あたかも一体のシステムのように運用する形を指します。オンプレミスとクラウド、両方の利点を組み合わせて活用できる点が、ハイブリッドクラウドの大きな特長です。

ハイブリッドクラウド
図3:ハイブリッドクラウド

このハイブリッドクラウドを選択するメリットとしては、次の点があります。

2.1. データ主権や法規制への対応

組織によっては、特定の機密性の高いデータや個人情報、知的財産について、データ主権(データが保存されている国の法律や規制が適用されるという考え方)に関する厳格な内部ポリシーや、各国の固有の規制要件により、オンプレミスでの保持を選択する場合があります。

ハイブリッドクラウドは、このような重要なデータを自社環境で厳重に管理しながら、それ以外の柔軟性が必要なデータやアプリケーションをクラウドで運用することを可能にします。これにより、データ所在地やアクセスに対する厳密な統制を維持しつつ、クラウドの利点も享受できます。

2.2.既存IT資産の有効活用

多くの企業は、これまでのIT投資によって構築されたインフラとして、多大な資産(サーバー、ストレージ、ネットワーク機器、そして、そこで稼働するアプリケーション)を保有しています。ハイブリッドクラウドは、これらの既存IT資産を無駄にせず、有効に活用しながら、クラウドのメリットも取り入れたい場合に非常に有効です。

例えば、法規制や内部ポリシーに基づき基幹データベースをオンプレミスで管理し、そのデータの一部をクラウド上の分析ツールで処理するケースが挙げられます。あるいは、既存のオンプレミス認証システムと連携させながら、Webサイトのフロントエンドやトラフィックが変動しやすいアプリケーションはクラウド上で稼働させるといったケースです。このように、用途や要件に応じてオンプレミスとクラウド、それぞれの強みを活かした最適なシステム構成を柔軟に選択・構築することができるのです。

3.マルチクラウドとハイブリッドクラウドの違い

ここまでで、マルチクラウドとハイブリッドクラウドそれぞれの概念と目的を見てきました。では、両者は具体的に何が違うのでしょうか?

マルチクラウドとハイブリッドクラウドは、どちらも複数のIT環境を組み合わせて利用する点で共通していますが、その構成要素、メリット、そしてシステム間の連携の度合い等において明確な違いがあります。

両者の違いをより明確に理解していただくため、まずは以下の比較表をご覧ください。

比較項目
マルチクラウド
ハイブリッドクラウド
構成要素
複数の異なるクラウド
オンプレミスと一つ以上のクラウド
メリット
「ベンダーロックインの回避」
各クラウドの最適なクラウドサービス利用
既存IT資産の活用
データ主権・法規対応
管理対象
複数の異なるパブリッククラウド
オンプレミスとパブリッククラウドの両方
データ所在地
複数のクラウドサービスプロバイダーのデータセンターに分散
オンプレミスに機密データを保持し、一部をパブリッククラウドに配置
連携度合い
各クラウド間は独立しているが、各クラウド間のデータを密接に連携
オンプレミスとパブリッククラウドが密接に連携し、一体的に機能

この表は、両者の違いを示しており、最も本質的な違いは「何を組み合わせるか」という「構成要素」にあります。マルチクラウドが複数のパブリッククラウド間での最適なリソース配分とリスク分散を追求するのに対し、ハイブリッドクラウドは、自社のオンプレミス環境とクラウドを連携させることで、既存資産の有効活用や特定のデータ保護要件への対応を目指すという点で、大きく異なりますが、どちらも環境間のデータ連携は密接に行われ、まるで一つのシステムであるかのように機能することが求められます。

4.クラウド間ネットワークの重要性

マルチクラウドやハイブリッドクラウドは、複数の環境を連携させ、それぞれの強みを最大限に活かすアプローチです。こうした環境を円滑に統合するためには、ネットワークの品質が非常に重要です。クラウド同士、あるいはオンプレミスとクラウド間でデータや処理をやり取りする際には、高速で遅延の少ない通信が求められます。ネットワークが不十分な場合、ワークロード処理が遅延し、全体のパフォーマンスが低下してしまいます。そのため、複数の環境を一体のシステムとして機能させるためには、クラウド間を結ぶ高品質で安定したネットワークが不可欠です。

4.1.なぜ、ネットワークが重要なのか?

マルチクラウドやハイブリッドクラウドのパフォーマンスや信頼性は、ネットワークの品質に大きく左右されます。例えば、大量のデータを高速で通信させたい場合や、リアルタイムに近い速度でのシステム連携が必要な場合、あるいは分散されたアプリケーションがAPI(データのやり取りをするための窓口)を使って連携する場合など、いずれにおいても「高速」かつ「遅延の少ない」ネットワークが求められます。

しかし、一般的なインターネット接続では、データのやり取りに時間がかかりシステムの反応が遅れる「通信遅延(レイテンシ)」が発生したり、通信速度が安定せず混雑時には遅くなる「帯域幅の変動」が起きたりする課題があります。さらに、どこを経由してデータが送られるかが分かりにくく、セキュリティや安定性に不安が残る「ネットワーク経路の非公開性」も懸念材料です。これらの課題は、複雑なクラウド環境の運用において、パフォーマンス低下やセキュリティリスクにつながる可能性があります。

4.2.「クラウド接続サービス」が課題を解決する

複数クラウドの利用やオンプレミスとの連携において、ネットワークは複雑になりがちです。こうした課題を解決する有効な選択肢が「クラウド接続サービス」です。

SCSKのマルチクラウド接続サービス「SCNX(エスシーネックス)」は、AWS、Azure、OCIといった主要なクラウドのPoP(接続ポイント)をサービス提供拠点内に備えている国内唯一のサービスです。この強みを活かし、複数クラウドを安全かつ効率的に接続できます。

SCNXの特長
図4:SCNXの特長

クラウドのPoPは、高速道路のインターチェンジに例えられます。インターチェンジが近ければ目的地に早く着けるように、PoPが近いほどクラウドとの通信は速く、安定します。SCNXは、AWS、Azure、OCIのPoPをサービス拠点内に持つことで、物理的な距離を最小化し、通信遅延を抑え、スムーズな接続を実現しています。

この仕組みにより、複雑になりがちな複数クラウドへのネットワークを効率的に一元管理し、運用を簡素化できます。さらに、自社オンプレミス環境からクラウドへ閉域網接続できるため、ハイブリッドクラウドにおけるオンプレミスとクラウド間のデータ連携も強化されます。

シングルクラウドとマルチクラウド
図5:マルチクラウド接続サービスのメリット

専用の接続経路を利用することで、高い通信速度と低遅延、そして安定したパフォーマンスが実現されます。これはクラウド間のデータ連携やアプリケーション連携を支える強固な基盤となり、結果としてベンダーロックインを避けながら、複数クラウドやオンプレミス環境を安全かつ途切れなく連携させ、それぞれの利点を最大限に引き出すことが可能になります。

5.まとめ

これまで、現代のIT環境における重要なテーマである「マルチクラウド」と「ハイブリッドクラウド」について、その基礎から特長、目的、そして両者の違いを深く掘り下げてきました。最終章となる本章では、これまで解説してきた複雑に感じられがちな概念の要点を改めて整理します。

5.1.クラウド活用の二つの主要戦略

「マルチクラウド」とは、AWSやAzure、OCIといった複数のパブリッククラウドを組み合わせて利用する戦略です。これにより、各ワークロードに最適なサービスを選び、特定クラウドプロバイダーへのクラウドロックインを回避することで、システムに柔軟性とリスク分散をもたらします。

一方、「ハイブリッドクラウド」は、自社のオンプレミス環境と一つ以上のパブリッククラウドを連携させるアプローチです。これは、既存のIT資産を有効活用しながら、パブリッククラウドが持つ柔軟性・拡張性を取り入れることを目的としています。特に、データ主権や法規制により機密データをオンプレミスに保持する必要がある場合に、ハイブリッドクラウドは有効な選択肢となります。

5.2.マルチクラウドとハイブリッドクラウドの本質的な違い

両者の最も大きな違いは、その「構成要素」にあります。マルチクラウドが「複数のパブリッククラウド」のみを組み合わせるのに対し、ハイブリッドクラウドは「オンプレミス環境(プライベートクラウド含む)とパブリッククラウド」を連携させます。目的も異なり、マルチクラウドは最適なサービス選択とベンダーロックイン回避を目指す一方、ハイブリッドクラウドは既存資産の活用、データ保護、そして段階的なクラウド移行に重点を置いています。

5.3.ネットワークの重要性

これらのクラウド戦略が真価を発揮するには、異なる環境間を円滑に連携させる「ネットワーク」が不可欠です。高速かつ安定した接続がなければ、データ転送の遅延やパフォーマンス低下を招いてしまいます。この課題を解決するのが「クラウド接続サービス」です。専用の経路を通じてセキュリティを確保しつつ、高帯域幅と低遅延で複数のクラウドやオンプレミス環境を統合的に運用することが可能になります。

本コラムを通じて、マルチクラウドとハイブリッドクラウドへの理解が深まり、最適なクラウド戦略の指針となりましたでしょうか。それぞれのクラウドの特性を理解し、皆様のビジネスに最適なクラウド環境を構築していきましょう。

SCSKはマルチクラウド接続の
実績と知見が豊富です。
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