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鋳造CAEと最適化ソフトウェアの連携による高圧ダイカスト条件の効率的な探索

​ 鋳造CAEは、方案検討や品質改善に欠かせない技術として活用が進んでいます。一方で、設計変数や目的関数が増えるほど解析回数は増加し、限られた開発期間内で十分な探索を行うことが難しくなります。本記事では、鋳造解析ソフトウェア「MAGMASOFT」と最適化ソフトウェア「pSeven Desktop」を連携し、高圧ダイカスト条件の最適化を効率的に進めるワークフローと、その適用結果を紹介します。

1.はじめに:鋳造CAEにおける最適化の課題

鋳造CAE(Computer Aided Engineering)の技術は近年格段に進化し、開発現場・生産現場を問わず広く活用されるようになっています。例えば、砂型鋳鉄品の引け巣予測、ギガキャスト製品の大規模湯流れ解析、鋳鋼品の偏析予測、鋳造品の変形予測、残留応力の予測、熱処理時の変形予測などが挙げられます[1][2]。こうした解析結果を活用し、方案検討や現場で発生する不具合の改善などが行われています。

しかし、方案設計においては、熟練者の過去の知見や勘・コツ・経験をもとに数個の方案を解析で検証し、その中から最適なものを決定している場合があります。この場合、得られる解は限られた範囲内での最適解であり、大域的な最適解とは限りません。また、仮に最適化を実施する場合でも、設計変数と目的関数が増えるほどCAEの試行回数は大幅に増加し、それに伴って計算時間も増大します。例えば、遺伝的アルゴリズムであるNSGA-IIを用いて、設計変数が8個、目的関数が5個ある場合、パレート解に到達するためには150~200個の計算を400~500世代繰り返す必要があり、その総計算回数は60,000~100,000回となります。仮に、一つの解析の計算時間が8コアで1時間かかり、32コアのワークステーションで4つの計算を並列に実行できたとしても、すべての計算が完了するまでには625~1,041日(約2~3年)を要します。これは一般的な開発期間を大幅に超過しており、このような計算を実施することは現実的ではありません。そのため、限られた開発期間の中で最適解を決定するためには、より少ない実行回数で最適解を見いだせる手法が必要となります。

本記事では、鋳造解析ソフトとしてMAGMASOFT、最適化ツールとしてpSeven Desktopを用い、少ない試行回数で最適解に到達するための手法・ワークフローを構築し、実際の製品形状で試行した内容を報告します。

2.MAGMASOFTとpSeven Desktopを連携するワークフロー

最適化を実施するうえで、鋳造解析ソフトとしてMAGMA GmbH社製「MAGMASOFT V6.0」[3]を使用しました。また、最適化ソフトとしてpSeven SAS社製「pSeven Desktop」[4]を用いました。MAGMASOFTは、砂型鋳鉄・鋳鋼、高圧ダイカスト、低圧鋳造、傾斜鋳造といったさまざまな鋳造プロセスを高精度かつ高速に解析できるソフトウェアです。一例として、今回対象とする高圧ダイカスト品の湯流れ時の温度分布および空気巻き込み分布を示します。そのほかの解析事例やユーザーインタビューについては、SCSKの製品ページを参照ください[5][6]。

pSeven Desktopは、機械学習を用いた高精度なサロゲートモデル(予測モデル)の構築に強みを持つ、エアバス社由来の最適化プラットフォームです。専門知識がなくてもAIが適切なアルゴリズムを自動選択する機能により、少ない試行回数で効率的に最適解を導き出せます。また、複数のCADソフトおよびCAEソフトとのダイレクトインターフェースが用意されており、比較的容易に自動化や最適化のワークフローを構築できます。

この二つのソフトウェアをつなぐインターフェースとして、SCSKとMAGMA社はSCSK Simulation Assistant Tool(以降、Assistant Toolと呼称)を開発しました。

図1 SCSK Simulation Assistant Toolの概要
図1 SCSK Simulation Assistant Toolの概要

Assistant Toolは、ExcelにCADへのパス情報、メッシュ設定、各種解析設定を入力することで解析モデルを自動で構築し、そのままボタン一つで解析を実行できるツールです。また、Excel上での操作はコマンド操作にも対応しており、コマンドプロンプトから操作することも可能です。つまり、GUIを介さずに、解析設定から解析実行までのプロセスを実行できます(図1)。さらに、Assistant Toolには解析結果の3DデータをCSVとして出力する機能が付加されており、Pythonなどのプログラムを用いて最適化の結果処理がしやすい形式に変換したり、AIの学習データとして利用したりできます。

Assistant ToolをMAGMASOFTとpSeven Desktopの連携ハブとすることで、以下のワークフローを構築しました。

図2 MAGMASOFTとpSeven Desktopを連携した最適化ワークフロー
図2 MAGMASOFTとpSeven Desktopを連携した最適化ワークフロー

計算ソルバーとしてMAGMASOFTを、計算の自動実行や結果評価にpSeven Desktopを用いました。また、最適化手法として、Surrogate Based Optimization(SBO)を用いました。SBOは以下のプロセスで探索を実施し、より少ない探索数で最適解に到達できる手法です。

1.計算モデルで計算した値をもとにサロゲートモデルを構築
2.設計空間から最適解が導出可能な見込みが高い領域を特定
3.有望な領域・設計のみを計算し、効率的に最適解を導出

3.最適化対象と設計変数・目的関数

最適化の対象として、高圧ダイカストで製造される図3の形状を選定しました。溶湯材料はADC12です。製品サイズは150mm×105mm×50mm、ゲート幅22mm×2.5mm、ビスケットサイズが径55mm×厚み15mmです。

図3 最適化対象とした高圧ダイカスト品の形状
図3 最適化対象とした高圧ダイカスト品の形状
また、設計変数と目的関数は表1、表2の通りです。
表1 設計変数一覧
表1 設計変数一覧
表2 目的関数一覧
表2 目的関数一覧
今回の最適化では、ゲート形状やオーバーフロー配置などの形状に起因する設計変数は省き、射出ストロークやプランジャー速度といった鋳造条件に関わるプロセス変数のみを設計変数として取り扱います。形状に関わる設計変数(形状変数)を対象とした事例は現在構築中であり、今後公開予定です。

4.最適化結果:少ない探索回数で得られたパレート解

図4に各目的関数の探索履歴を示します。横軸が探索数、縦軸が各目的関数です。

図4 各目的関数の探索履歴
図4 各目的関数の探索履歴
5つの目的関数のうち、増圧後巻き込み巣、引け巣、巻き込み空気量については、おおむね300回程度の探索数で最適解に達していることが確認できます。これに対して、充填時点温度および空気接触時間は最適な方向に収束せず、探索が停滞していることがわかります。

各目的関数が両立した解を得られているかを確認するため、横軸に増圧後巻き込み巣、縦軸にその他の目的関数の結果をグラフ化した散布図を図5に示します。
図5 増圧後巻き込み巣に対する各目的関数の解分布
図5 増圧後巻き込み巣に対する各目的関数の解分布
左二つのグラフから、増圧後巻き込み巣、引け巣、巻き込み空気量については両立した解群(パレート解)が得られていることがわかります。また、得られている解の分布から、大域的に一様な探索を行うのではなく、有望な解が得られる領域を集中的に探索するというSBOの特性が適切に機能していることも確認できます。これに対して、右二つのグラフから、充填時点温度と空気接触時間については増圧後巻き込み巣とのパレート解が得られておらず、その探索指向も解が両立する方向とは異なる方向に集中していることが確認できます。この原因については、以降の章でpSeven Desktopの機能を活用して説明します。

5.pSeven Desktopを活用した結果分析

5-1. 3つの目的関数で最適解を両立する結果の考察

3つの目的関数(増圧後巻き込み巣、引け巣、巻き込み空気量)について、両立する解が得られることがわかりました。この探索解群の中で、上記3つの目的関数が両立するケース(図6緑矢印)の結果を図7に示します。また、結果の比較対象として、充填時点温度と空気接触時間が最適となるケース(図6赤矢印)の結果を図8に示します。

図6 3つの目的関数が両立した解(緑矢印)と、充填時点温度・空気接触時間が良好な解(赤矢印)の比較
図6 3つの目的関数が両立した解(緑矢印)と、充填時点温度・空気接触時間が良好な解(赤矢印)の比較
図7 増圧後巻き込み巣・引け巣・巻き込み空気量が両立したケースの解析結果 図8 充填時点温度・空気接触時間が良好なケースの解析結果
図7 増圧後巻き込み巣・引け巣・巻き込み空気量が両立したケースの解析結果(左)
図8 充填時点温度・空気接触時間が良好なケースの解析結果(右)
図7と図8を比較すると、(1)増圧後巻き込み巣、(2)巻き込み空気量、(3)引け巣の予測結果については、図7の方が全体的な分布が小さくなっていることが確認できます。巻き込み空気量については、図7の方がオーバーフローでの空気量が多いものの、図8では図中赤丸で示した部分にコンター上限値以上の空気塊が残っていることから、総合的には図7の方が良好な結果であると考えられます。一方、(4)充填時点温度、(5)空気接触時間の結果については、図8の方が良好な結果を得られています。これらの結果のうち、特に巻き込み空気量と増圧後巻き込み巣が最適解となっていることについて、プランジャー前進直後からキャビティに湯が入るまでの溶湯温度分布(図9)およびこの条件での各設計変数の値を用いて説明します。

表3では、溶湯初期温度分布が低く、チャンバー滞留時間が長くなっていることから、プランジャー前進時の温度が低くなっていることが期待できます。実際に、ほとんどの溶湯の温度が液相線以下まで下がっていることがわかります。つまり、溶湯が高粘度の状態となっており、プランジャー前進中の溶湯のばたつきが少ない状態になっているといえます。これによって巻き込み空気量が小さくなり、それに伴って増圧後巻き込み巣も小さくなったと考えられます。
表3 3つの目的関数が両立したケースにおける設計変数の値
表3 3つの目的関数が両立したケースにおける設計変数の値

図9 表3の条件におけるプランジャー前進後の溶湯温度分布
図9 表3の条件におけるプランジャー前進後の溶湯温度分布

5-2. 各目的関数の相関

各目的関数について、pSeven Desktopの機能を用いて相関を確認しました(図10)。増圧後巻き込み巣、引け巣、巻き込み空気量については、それぞれ強い正の相関を持ちますが、充填時点温度および空気接触時間については、前述の3つの目的関数に対して弱い正の相関または負の相関を持ちます。つまり、これら5つの目的関数を同時に満足する設計変数を探索することは非常に難しいことがわかります。そのため、探索解においては前述の3つの目的関数を最適化しようとするアルゴリズムが優位に働いたことで、充填時点温度と空気接触時間も満足する解の探索が滞ったと考えられます。

図10 目的関数間の相関
図10 目的関数間の相関

5-3. 設計変数と目的関数の相関

得られた解群の中で、3つの目的関数が両立する設計変数の一例を表3に示しました。しかし、実際の鋳造ではある程度のばらつきが生じます。そのため、各設計変数と目的関数の相関を確認することで、大小どちらの方向に設計変数を調整すればよいかを事前に把握しておくことも重要です。そこで、図11に一例として、増圧後巻き込み巣と充填時点温度に対する各設計変数の相関係数を示します。図から、増圧後巻き込み巣は垂れ込み量と射出ストロークに対して強い負の相関を持っていることがわかります。つまり、増圧後巻き込み巣を小さくするためには、垂れ込み量と射出ストロークを大きくすればよいといえます。一方、充填時点温度については、第一速度が正の相関、垂れ込み量が負の相関を持っています。ここから、充填時点温度を高く保つには、第一速度を大きく、垂れ込み量を小さくする必要があることがわかります。ここでも、増圧後巻き込み巣と充填時点温度が設計変数を通して逆の傾向を示すことから、これらの解を両立することは難しいと考えられます。

図11 設計変数と目的関数の相関
図11 設計変数と目的関数の相関

6.まとめと今後の展望

本記事では、鋳造CAEと最適化ソフトの連携を取り上げ、鋳造解析ソフトとしてMAGMASOFT、最適化ソフトとしてpSeven Desktopを選択し、それらを連携した事例を紹介しました。記事内では、連携のインターフェースとしてSCSK Simulation Assistant Toolを活用したワークフローを構築し、複数の設計変数と目的関数に対して、最適解を両立する解を探索する手法を報告しました。また、構築した手法を実際の形状に適用し、最適化条件を選定しました。増圧後巻き込み巣、引け巣、巻き込み空気量については最適解を両立できる変数を探索できましたが、空気接触時間、充填時点温度を含めた最適化は完了できませんでした。その要因について、各目的関数の相関をpSeven Desktopの機能を用いて分析し、考察しました。

今後は、構築したワークフローを応用し、形状の設計因子を導入したうえで、例えば製品配置とゲート位置の最適化などを実行していく予定です。

※本記事は、公開論文 「MAGMA 多変数多目的パラメトリック最適化による高圧ダイカストの鋳造条件選定」の内容を基に、解説や図表の再構成を行い、Webコンテンツ向けに編集・再構成しています。

参考文献

pSeven Enterprise

鋳造プロセスシミュレーションソフトウェア MAGMASOFT

MAGMASOFTは、幅広い鋳造プロセスに対応した鋳造プロセスシミュレーションソフトです。湯流れ・凝固から熱処理や残留応力・変形などの解析・評価できるハイエンドな機能を取り揃えており、使いやすいGUIや結果評価機能、標準搭載の最適化機能により、鋳造課題の見える化を実現します。

pSeven Desktop

最適化/機械学習による設計空間探索ソフトウエア pSeven Desktop

pSeven Desktopであらゆる設計リードタイムを短縮。煩わしい作業を削減し、CAD・CAE・データとプロセスを自動化します。pSeven Desktop独自のAIと強力な自動化エンジンによって、最適な設計条件を効率的に発見が可能です。

著者情報
SCSK株式会社 デジタルエンジニアリング事業本部 セールスエンジニア 野川理尚

SCSK株式会社で製造業向けCAEおよび関連ソフトウェアソリューションのテクニカルセールスエンジニアを務めています。2022年よりSCSKに中途入社し、製造業、主に鋳造領域のお客様に合わせた技術営業・サポートサービスの提供に尽力。近年はCAEと周辺ソリューション(汎用構造解析ソフト、最適化ソリューション)などとの連携ソリューション開発にも携わっています。