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第1回:『CAEとAIの組み合わせ』AI時代に求められる人材とは

​ CAEとAIの組み合わせの3回シリーズで解説します。第1回目では、AI時代に求められる人材についてお話します。

1.はじめに

コンピュータを活用した製品設計・プロセス開発といえば、力学・熱・流体・電磁場などの物理現象をシミュレーションするCAE(Computer Aided Engineering)がまず思い当たるでしょう。しかし最近は、AIやデータの活用も重要な技術・スキルとして欠かせない時代となってきました。CAE、AIともに、発展が著しく、技術更新が非常に早く、細分化・専門化も進んでいるため、ますます全体像をつかみにくくなっています。ましてや両者を組み合わせるようなアプローチは、非常に複雑な建付けとなりがちです。

このような時代に向けて、全3回の本技術コラムでは、まず動機づけとして、AI時代に求められる人材についてお話します。次に、CAEとAI(なかでも機械学習)の対比から両者の特徴を掴みます。最後に、CAEとAIを組み合わせた建付けについて議論し、整理したいと思います。

図1 CAEとAIの組み合わせ

2.AI活用・データ活用とは

さて読者の皆さんは、「AI」と言われて何を思い浮かべるでしょうか。数年前までは、某ネコ型ロボットのような人工知能や将棋や囲碁のAIという回答が多かったですが、最近は大規模言語モデルを基盤としたAIアシスタントを思い浮かべるでしょう。このような時代の急速な変化によって、「AI活用」「データ活用」という言葉には、2つの意味が含まれるようになってしまい、両者は混同されがちですので、注意が必要です。

一つ目の意味は自前データの活用です。AIを用いて自前のデータを解析して、有用な法則・情報を得て、自身の課題解決に繋げます。ここでのデータは、自身で収集したデータの場合も公開データセットの場合もありますが、いずれにしても自身でデータをハンドリングし、元となるデータの中身は把握しています(ローカル知)。

二つ目の意味はAIアシスタントです。プログラミングを含む文章作業の支援・自動化にはじまり、最近では設計図や仕様の作成といった専門性の高い作業も可能になりつつあります。このAIの元となっているデータは大規模データの集合知(クローバル知)で、我々にはその中身は把握しきれません。

すなわち、「AI活用」「データ活用」と言った時の「データ」には、ローカル知とグローバル知の2種類があり、その違いによって活用の目的もできることも異なりますので注意が必要です。逆に言うと、この違いを意識することで、複雑なAI活用・データ活用の建付けの大元を押さえることができます。

繰り返しになりますが、重要なのは道具ではなく、そのアウトプット(示唆・提示・判断・意思決定など)の元になったデータが何か、ローカル知であるか、グローバル知であるかです。たとえば、AIアシスタントを使う場合でも、自前データを与えて解析させることは前者の意味になります。

本コラムでは、一つ目の意味でのAI活用・データ活用を議論します。自前データ(ローカル知)をうまく活用するための方法・建付けです。CAEを用いた製品開発フローの中でAIアシスタントをうまく活用するといった話ではありませんので、そのような話を期待された方は別のコラムをお読みください。

図2 ローカル知・グローバル知

3.AI時代に求められる人材とは

AI活用について、私が最もよく受ける質問が「どのくらいデータが必要ですか?」です(そして多くの場合、「うちにはデータが少ししかないから。。。」と続きます)。今あるデータでできることから考えることは、AI活用の建付けを作る一つの方法ですが、課題解決にはつながらないこともあり、あまりおすすめはしません(AI技術に慣れるという目的では大いにおすすめします)。

先の質問に私は、「解決したいことは何ですか」と聞き返すようにしています。今直面している課題からAI活用の建付けを考えることが、目的達成に対して結局は早道だと思います。

このことを別の視点から説明したものが下図です。AIを活用した課題解決のためには、まず具体的な課題を機械学習や最適化の問題に焼き直す「問題設定」が必要です。(機械学習や最適化の特徴は第2回でお話します。)課題解決のためにどのようなデータを揃えるか、最適化の目的関数は何にするか、どのような制約を与えるかといった設定がまず必要です。次に、データが揃えば機械学習モデルを作成し、目的関数に従って最適化を行います。これは与えられた問題を解く、「問題解答」に相当します。

問題解答については、多くの教科書もあり、参考となる情報がWebにもあり、AIアシスタントの助けも借りながら、比較的スムーズに解決できる時代になってきていると思います。一方で、問題設定はローカル知を持つエンジニアが行う必要があります。グローバル知には含まれていないため(逆に企業の機微データがグローバル知に含まれていたら問題です)、この作業そのものをAIアシスタントが細かく行うことはAIがいくら発展しようとも難しいでしょう。作業そのものという意味は、AIアシスタントが行う場合も、いわゆるプロンプトエンジニアリングによってエンジニアがローカル知を教え込む必要があり、エンジニアが問題設定を行うことと同様な作業が必要になるという意味です。

つまり、AI時代に求められる人材は、AI活用の問題設定(建付け)ができる人材です。そのためには、ローカル知を持つことと、AI活用の大枠を掴むことが大切です。(もちろんAIの細かい技術や手法を知っていることに越したことはありませんが、それらはAI専門家に任せることもできますし、AIアシスタントで補うこともできます。)本コラムの第2回、第3回ではAI活用の大枠を掴むのに参考となる話をしたいと思います。


本コラムの内容は拙著「AI開発力を鍛える!機械学習と最適化による問題解決講座」(翔泳社、2025年)の一部をもとに、再執筆したものです。詳しくは同書をご覧ください。

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著者情報
名古屋大学 未来材料・システム研究所 准教授 沓掛 健太朗 様

名古屋大学未来材料・システム研究所准教授。産業技術総合研究所先端半導体研究センタークロスアポイントメントフェロー。理化学研究所革新知能統合研究センター客員研究員。応用物理学会インフォマティクス応用研究会代表。アイクリスタル株式会社技術顧問。一般社団法人製造業AI普及協会理事。東北大学金属材料研究所助教、名古屋大学未来社会創造機構特任講師、理化学研究所革新知能統合研究センター研究員などを経て2024年より現職。専門は結晶工学と応用情報科学。趣味はマラソンと日本城めぐり。