JMAC Column 07

Fit to Standardを実現するための
生産管理業務の改革

需要予測高度化時代における生産計画の在り方

1.製造業における基幹システム導入の変遷

様々な場面で、DX(デジタルトランスフォーメーション)が叫ばれる中、製造業においては、生産管理を中心とした情報システムの再構築のニーズが高まっています。

2000年代に起きたERPブームにより、大企業を中心にERPパッケージの導入が進みました。そこから、10~20年を経過して、様々なテクノロジーが進化したDX時代において、改めて情報システム再構築が求められています。

また一方で、このタイミングで情報システム再構築を行わなかった大企業や、中堅・中小企業もいます。それらの企業も、DX時代において、いよいよ情報システムの再構築や導入を行わないと、事業競争力の向上や業務の高度化が図れないという状況になってきており、情報システム再構築のニーズが旺盛になっているのです。

製造業における基幹システム導入の変遷

では、こうした状況の中で、どのように生産管理システム導入をしていけば良いのでしょうか?ここでは、過去の失敗を振り返ることが有効です。

2.ERP導入時の過去の失敗事例

前述したERPブームにおいて、日本企業で大きな成果を上げられた企業は多くないと言われています。失敗の理由としては、以下のような内容が挙げられます。

  • 既存業務の移し替えによる莫大なアドオン開発
  • 業務を知らないメンバーが主導した使えないシステム
  • 標準化のし過ぎによる企業競争力の弱体化

そもそもERPは、Enterprise Resource Planningの略で、日本語では「企業資源計画」と訳されますが、改めて本来の定義を確認すると以下のようになります。

「企業の事業運営における購買、生産、販売、会計、人事など、顧客に価値を提供する価値連鎖を構成するビジネス・プロセスを部門や組織をまたがって横断的に把握して、価値連鎖全体での経営資源の活用を最適化する計画、管理のための経営概念である。」

つまり、情報システムのパッケージのことではなく、マネジメントの考え方であり、企業全体のリソース(経営資源)をいかに繋げて、全体最適を目指すのかを考える(改革する)ことが重要な概念だとわかります。

それに対して、過去の日本企業においては、既存業務の移し替えや、業務のことを理解しないままの導入、業務の特性を理解しないままの標準化の取り組みといった形で、本来ERPで検討すべき内容ができておらず、失敗に繋がったものと考えられます。

3.Fit to Standardの基本的な考え方

では、過去の失敗を教訓として、どのようにシステム導入を進めていけばよいでしょうか。それは、BPR(Business Process Re-engineering)を前提とした「Fit to Standard」の取り組みになります。よくシステム導入の際にパッケージソフトとの「Fit & Gap」という言葉を耳にすることがあると思いますが、その反対の概念だと考えるとよいと思います。Fit & Gapでは、Gapを見つけて、その部分についてはカスタマイズやアドオン開発を実施することが多いですが、カスタマイズやアドオンにより、費用や時間が多くかかるというのはよくある事例です。

Fit to Standardの考え方では、あらかじめ企業としてのあるべき姿を描き、現状の業務にとらわれず、あるべき姿に業務改革していきます。その際には、システム化を見据えて、標準的にはどのようなシステムが存在するのかを広く情報収集して、一つのシステムだけではなく、複数のシステムを連携させながら、あるべき姿を実現していくことが重要です。

ERPでは、購買、生産、販売、会計、人事などの様々な機能が存在しますが、業務によりあるべき姿の考え方が異なります。

会計や、それに関わる売上・購買・在庫などの情報、人事・労務などについては、業界に関わらず、財務諸表や決算書、源泉徴収票など、求められるアウトプットの標準が決まっており、そのためのシステムを構築していくことなります。これは「Horizontal(共通業務)」と言うことができます。

一方で、販売や生産といったフロントオフィス系の仕事については、企業が属している業界の特性によって決まってくる部分(「Vertical(業界特化業務)」)と、その企業独自で目指したい部分が出てきます。

生産管理業務において、具体的に例を挙げると、業界の特性によって決まってくる部分としては、「見込み生産」なのか「受注生産」なのかと言った部分や、「加工組立系」なのか「プロセス系」なのかと言った基本的な違いがあります。このあたりは、システムを選定するときに、「Vertical」の考え方で、業界ごとにFitしたパッケージを選定することで解決できる部分です。

4.企業ごとに発生するニーズに柔軟に対応するためには

一方で、「生産計画の精度を向上するために、日別ではなく、時間帯別の計画立案をしていきたい」といった、あるべき姿を描いた際には、ERPパッケージや生産管理システムパッケージといった基幹システムをカスタマイズして対応しようとすると、費用も時間もかかります。そこで、別システムとして、「生産スケジューラ」と言われるソフトを導入し、基幹システムと連携させながら計画立案を実施していくという形が考えられます。

製造業における基幹システム導入の変遷

また、「品質管理の強化に向けて、工程内不具合の発生状況を現場から品質管理部門に報告し、再発防止に向けた協議を実施したうえで、報告書として取りまとめたい」といったニーズがあったとします。これらを同じように、基幹システム側で実施するのはもったいないので、近年注目されているローコード・ノーコード開発ツールを用いて、ワークフローや報告フォーマットを作成して管理していく形が考えられます。

これまで例に挙げた生産スケジューラと基幹システムの連携、ローコード・ノーコード開発ツールの活用といった部分は、企業によって異なるニーズがあり、また事業環境によって変化する部分でもあるので、変化に対して柔軟性を持てるように、連携基盤としての「Platform」を構築しておくことが重要となります。

5.終わりに

以上のように、Fit to Standard実現に向けては、BPRを前提として改革を進めるとともに、システムの開発を一緒くたに考えず、「Horizontal」、「Vertical」、「Platform」に分けて検討していくことが重要です。

そのため、システム選定においても、共通的に持つべき機能が備わっているか、業界にFitしたパッケージになっているか、他システムとの連携がしやすい構造になっているかを、評価基準としながら検討していけると良いでしょう。

上記に留意しながら、システム構築を実施していくことで、DX時代に合った情報システムを確立していきましょう。

執筆者
  • 株式会社日本能率協会コンサルティング
  • シニア・コンサルタント
  • 武田 啓史