JMAC Column 04

サプライチェーン可視化と
動的SCM確立の重要性

動的SCM確立の重要性

1. サプライチェーンを取り巻くリスク事象

近年、新興国の供給力向上や市場拡大、部品調達・製造・販売の世界規模での分業化推進により、更なるグローバル化を遂げたサプライチェーンは、伸長そして複雑化の傾向にある。 このトレンド下において、2019年に発生したコロナ禍はサプライチェーンの寸断をもたらし、需要と供給の両面に多大な影響を与えた。

需要面では、自動車を始めとする耐久消費財の需要が、中国や北米等の需要地における感染拡大にて急減し、国内を含む世界中の生産拠点で稼動停止となった。 供給面では、中国工場停止により住設機器が供給不足となり、日本国内の住宅の完工ができず引き渡し予定のずれ込みが発生した。 またマスクに関しては、中国製品の供給不足と世界中での需要急増という需給両面で影響を受け、在庫品価格の急騰や転売が社会問題にもなった。

無論サプライチェーン寸断はコロナ禍に限った話ではない。 記憶にも新しい2011年の東日本大震災においても、自動車に搭載するマイコン製造工場の被災に伴う自働車産業のサプライチェーンの寸断は経済新聞の一面でもクローズアップされた。

企業は、コロナ禍の様なパンデミックや自然災害等のランダム事象、政治的混乱や経済危機等の政治経済的事象、ストライキやテロ、サーバー攻撃等の人為的事象等の様々なリスクを孕んでいる。 今後どの様な想定外の事象が発生するかは誰も知りえない、そして数年に1度はサプライチェーン寸断が起こる環境下においては、サプライチェーンの寸断や変化を前提としたマネジメントを考えていく必要があるのではないか。

コロナでどんなことが起こったか

2. 代替性と柔軟性のある動的SCMの確立

①動的SCMとは

では、サプライチェーンの寸断や変化を前提としたマネジメントとは、どのようなマネジメント手法なのか。

従来のSCMでは、事業戦略やSCM戦略に基づいて、拠点立地やキャパシティ、輸配送ルート等のサプライチェーンの構造や能力と、生産配分や在庫配置等のルールを設計、 そして、それらが最適となる受発注や在庫管理等の業務や、情報システムや組織等のインフラを整備して固定してきた。 その固定化されたサプライチェーンにおいて、年次・月次計画サイクルを回すマネジメント手法にて高いレベルのQCDを実現してきた。 これは静的SCMと呼ばれ、平時では競争力があるマネジメント手法である

しかし、先が見通しにくく変動対応力が問われる昨今においては、固定化され柔軟性に乏しい静的SCMでは変動時の初動対応並びに代替対応に遅れを来たす。 そのため、代替性が高く柔軟性がある動的SCMが求められる。動的SCMとは、自社に与える変化点とその影響を常にモニタリングして、ルールや業務、事態に応じてサプライチェーンの構造や能力も最適化するマネジメント手法である。   

②動的SCM確立STEP

動的SCM確立には2つのSTEPがある。

初めのSTEPは「見える化」「最適化」「意思決定」の短サイクル化である。

「見える化」にて可視化されたサプライチェーンに対して、目的別に「最適化」された解を導くシミュレーションを実施。 そして、その結果より策定されたシナリオを基に「意思決定」を行う。このサイクルを短サイクル化して、高度化することが重要となる。

「見える化」「最適化」「意思決定」を順を追って説明する。

まず「見える化」とは、平時と異常時のサプライチェーンの状態を可視化してモニタリングすることである。 陥りがちな失敗例としては、目的が不明確のまま社内外のあらゆるデータを精緻に連携したために、意思決定に向けた要点が曖昧になる、 情報システム構築に膨大な時間的・金銭的コストが発生する等の例がある。 事前準備として、自社の戦略に基づく想定シナリオを描き、可視化すべき情報とデータ粒度の定義付けが必要となる。

次に「最適化」とは、制約条件と特性に応じて、目的別に最適化計算を実施することである。複雑化したサプライチェーンにおける最適化計算は人の手では難しいため、サプライチェーンシミュレーションソフト導入が一般的である。

最後に「意思決定」とは、最適化計算にて策定された複数シナリオに対して意思決定をすることである。その際、意思決定基準が重要となる。状況判断や意思決定の関連項目を事前に「見える化」項目として、そして基準値をサプライヤーを含むサプライチェーン間でグリップすることが重要である。

先が見通しづらい中で何をすべきか


次のSTEPは、意思決定のオプション増加である。

オプション検討には、集約と分散、シェアリング等が考えられるが、昨今のサステナビリティ・SDGsの機運の高まりにより、 企業は経済性だけではなく社会・環境性の観点も含めてオプション案を検討しないといけなくなってきた。 そのためには社会・環境面、つまり非財務情報の収集が必要で情報システム構築の重要性は益々増してきている。

冒頭でも述べたコロナ禍は影響が長引いている。感染拡大や終息のタイミングでの意思決定には、データによる現状の可視化とモニタリング、 そして制約条件や特性を加味した上で目的に応じた最適解を常にシミュレート出来ることが重要となる。

繰り返しとなるが、変動の激しいVUCAと呼ばれる時代においては、意思決定の仕組みを構築する上でのインフラ、特に情報システムの見直しは必要不可欠なのである。

執筆
  • 株式会社日本能率協会コンサルティング
  • 生産コンサルティング事業本部 サプライチェーン革新センター
  • コンサルタント 河合友貴
全体監修
  • 株式会社日本能率協会コンサルティング
  • 生産コンサルティング事業本部 サプライチェーン革新センター長
  • シニア・コンサルタント 茂木龍哉