JMAC Column 03

需要予測高度化時代における
生産計画の在り方

需要予測高度化時代における生産計画の在り方

1. 需要予測の目的

需要予測とは、「生産対象としての製品が販売される地域での総需要量を予測すること」を指す。 需要予測は、事業計画など長期的なビジネスプランニングや、在庫の補充計画など短期的なスケジューリングに至るまで、あらゆる計画の基点となるが、今回は主たる目的の一つである「生産計画」に着目したい。

生産計画のための需要予測という観点でみると、計画へ及ぼす影響が大きい対象の予測精度を高め、欠品と過剰在庫を防ぐことが重視される。 ここでいう「影響が大きい対象」とは、すなわち一般的に「Aランク品」といわれる、販売量(生産量)の多い順に品目を並べたときに、上位70~80%を占める製品である。

では「予測精度を高める」ためには、具体的にどういったことが必要なのだろうか。生産計画の実務を想定しながら、大きく2つのテーマに分けて述べていく。

      

①当初計画を立案するために、過去の情報から将来の需要を予測する
②直近の需要変動に応じて計画変更で対応するために、能動的・受動的な需要の変動要因を捉える   

2. 生産計画のための需要予測高度化

①過去の情報から将来の需要を予測する

一般的な需要予測の手法としては、同一製品または類似製品の過去需要から予測する時系列モデルや、需要量に影響を与える複数の要因から予測する多変量モデル(重回帰分析)がある。

従来、どの予測モデルが適用できるかは、予測に用いるデータの取得可否や精度を踏まえて人が選択していた。しかし、近年ではビッグデータとAI(人工知能)を活用し、複数の予測方式を組み合わせて精度の高い予測モデルを作り上げることが可能になってきている。   

一方で、AI自身が自律的に学習する「深層学習(ディープラーニング)」型AIの場合、AIが予測値を算出するに至るプロセスや根拠が「ブラックボックス化」してしまう課題がある。

それに対し、「ホワイトボックス型」といわれるAIが注目されはじめている。ホワイトボックス型AIは、予測精度は深層学習型のAIに劣るものの、結果に至る根拠の説明が可能である点が特長だ。 需要予測は、生産計画をはじめ調達、配車など、あらゆる計画の基となっており、製造・調達・物流など各部門のオペレーションは予測結果に大きく左右される。そのため、予測値の根拠を説明できるホワイトボックス型AIの方が望ましい。

ここでいう「ホワイトボックス化」とは、具体的には需要量を結果(目的変数)としたときの、要因(説明変数)が何かを明らかにすることである。

需要量に影響を与える要因は、図1に示すように自社製品を展開する流通・販売チャネルによって異なる。 各店舗やECサイトで行われるセールや広告への掲載状況といった要素と、それらが自社製品の需要量に影響を与える度合を明らかにできることが望ましい。

流通・販売チャネル別の直接要因例
図1 流通・販売チャネル別の直接要因例


また、需要量は製品のライフサイクルによっても大きく左右される。図2に示すように、ライフサイクルには大きくスタイル、ファッション、ファッドの3つのパターンが存在する。 市場の動向や自社製品の特性を踏まえて、各製品がどのパターンに当てはまるかを把握し、需要量が増減するタイミングを見極めることが重要である。

ライフサイクルの3パターン
図2 ライフサイクルの3パターン
②能動的あるいは受動的な需要の変動要因を捉える

需要量は、ここまでに述べた自社主体の販促活動や、製品自体の特性に紐づく直接的な要因に加え、図3に示すように能動・受動的な間接要因によっても変化する。

能動的要因の代表例は、テレビCMや記事広告、キャンペーンなどの販促活動である。こうした自社主体で行う施策によって需要がどの程度伸びるのか、過去の実績から見込んで、増産や在庫の積み増しといった計画変更に備えておくことが望ましい。

また、季節や気候の影響、またYouTubeやSNSをはじめとしたインターネット上での話題性など、自社主体ではない受動的な要因によって需要が変動することもある。突発的な需要の増減にいち早く対応できるよう、気象情報、SNSや検索エンジンのトレンドなど、消費動向に影響を与えうる対象を常にモニタリングしておくことが求められる。

更に近年では、各企業がマーケティングにおいて、SNSを戦略的に活用するような取り組みがなされている。日清食品のマーケティング戦略が「バズるマーケ」として話題だが、今後SNSの積極活用が進み、「バズり」は受動的な要因ではなく、能動的な需要創造と捉えられる時代になっていくのではないか。

需要変動の間接的要因例
図3 需要変動の間接的要因例

3.需要予測高度化時代の生産計画に求められること

これからの時代は、需要予測領域におけるビッグデータやAIの活用が進展し、予測精度は更に高まっていく。しかし、予測自体の精度が上がっても、それだけで欠品の防止や過剰在庫の削減といった、経営成果に直結するとは言い難い。

例えば、予測期間と比べて生産計画の立案期間が長い、ということが起きていないだろうか。計画サイクルが長ければ長いほど、精度が低い時点の予測値を参照することになってしまい、予測精度を高めた恩恵を得られない。

また、手間をかけて高精度で需要を予測し、短サイクルで計画を見直す対象の製品は適切だろうか。販売量が少ない製品も含め、全てに適用しても、かえって手間が増えるだけ、ということになり得る。


需要予測の高度化に取り組む際は、これを契機として、いま一度自社の生産計画を見直してみてはいかがだろうか。

執筆
  • 株式会社日本能率協会コンサルティング
  • 生産コンサルティング事業本部 サプライチェーン革新センター
  • コンサルタント 千葉 大志
全体監修
  • 株式会社日本能率協会コンサルティング
  • 生産コンサルティング事業本部 サプライチェーン革新センター長
  • シニア・コンサルタント 茂木龍哉