JMAC Column 02

サービス化推進による
新たな収益源創出への
IoT活用

サービス化推進による新たな収益源創出へのIoT活用

製造業のサービス化がこの20年ほどで急速に広がっている。「モノ売り」から「コト売り」へ、「モノ+サービス」で勝負、など表現はいろいろあるが、要するに製品自体の価値に加えて、製品を使用する段階において顧客へどのような体験価値を提供できるか、が製造業に問われる時代になったのだ。そして、このサービス化の推進にはIoT技術活用が鍵を握っている。

本コラムでは、製造業のサービス化の潮流の解説と、その推進にあたっての課題、IoTの役割について解説していきたい。

1. 製造業のサービス化とは

製造業のサービス化については、「製造業企業が、モノの製造・販売だけでなく、サービスの提供を付加することにより、モノの価値の向上やモノの拡販を図ること」 (株式会社東レ経営研究所 増田貴司 2017)という定義がある。

新興国の台頭やIT技術の発達によって、後発の新興国メーカーでも製品・技術の模倣が容易になった結果、製品自体のコモディティ化が一気に進んで差別化が困難になり、価格競争に陥りやすくなった。このような状況において、「モノを通してどのような体験価値を得られるか」という視点へと顧客ニーズが変化した。

製造業のサービス化とは
サービス化のメリット

サービス化による最も大きいメリットは、製品のコモディティ化・価格競争の回避が見込めるということだ。製品に加え顧客情報などに基づくサービスが付随することで、他社からの参入や模倣対策となる。また、顧客別にサービスの提供内容をカスタマイズできるため、それに伴って価格設定の自由度を確保することができる。そして、サービス側の対象範囲を広げることで顧客の裾野拡大にも繋がる。

サービス化の分類

製造業のサービス化には、大きく分けて「モノ起点のサービス化」と「サービス事業化(ビジネスモデルチェンジ)」の2種類がある。

「モノ起点のサービス化」では顧客の課金対象は従来通り製品だが、それに付随する保守サービスや製品の活用法の提案などによって、顧客へ付加価値を提供する形態である。

一方、「サービス事業化(ビジネスモデルチェンジ)」は、顧客の課金対象が製品ではなくサービスとなる。身近な例で言えば、家庭用ゲームが非常にわかりやすい。従来はゲームソフトのカセットやディスクを“売りっぱなし”だったが、近年はゲームをネットと接続することで、ゲーム内で使うアイテムを追加購入できるなど、サービス側での課金を促す形態が出来ている。

どちらのサービス化がより良いということではなく、共通して重要なことは、売りっぱなしにせずに顧客との接点=“価値共創”の場をいかに設け、そして顧客にどんな“体験価値”を提供できるか、ということだ。

2. 製造業のサービス化推進への
課題

サービス化の推進には、顧客との接点=価値共創の場を設けることが重要と述べたが、これについて製造業では様々なハードルが存在している。

まず大きいのが、量的・物理的なハードルだ。製造業は日々大量の製品を生産し、多くの顧客へと提供している。さらにその製品が実際に使用される場は生産側とは物理的に距離がある。このような条件のもと、製造業側が全ての顧客から情報収集をしたり、体験価値を模索する場を設けたりすることは難しい。

そして、顧客の求めるものは千差万別であり、それを企業側がどこまで事前把握できるか、どこまで柔軟な拡張性をもって対応ができるか。体験価値模索の場が無いことが、この問題を更に難しいものにする。

このようなハードルにより、製造業側では、顧客情報が担当者レベルで止まってしまい集約されないなど、サービス化に不可欠な情報収集と集約、それによる顧客分析が進まないというのが実態だ。

これらの課題を打破するために、IoT技術の適用が非常に有効な手段になっている。

3. サービス化推進事例

IoT技術によってサービス化を推進した例をご紹介したい。世界最大手のタイヤメーカーであるブリヂストンの「Tirematics」の取り組みだ。トラックやバスのタイヤに設置したセンサーにより、タイヤの空気圧や温度をリアルタイムに計測してクラウド上のサーバーに情報を送信し、タイヤの状態異常を発見すると車両の持ち主に自動で通知が送られる仕組みだ。これにより、人手をかけていた点検の工数削減や、人の判断によるミスの排除ができ、効率的なメンテナンスにつながるなど、顧客側のメリットは多い。そしてもちろん、タイヤから得られるデータはブリヂストン側にも大きなメリットをもたらす。例えば、走行の情報を取得・管理することでタイヤのライフサイクルを的確に捉えて効率的な営業活動を行うことができる。さらにトラックの最適な運送ソリューションの提供という新たな商品の展開にもつながっている。

日本企業では、IoTは業務の効率化、コスト削減などのツールというイメージが未だ根強く、サービス化推進による新たな収益源創出へのIoT活用を意識している割合が低いのが実情だ。ブリヂストンの例でも“効率化”、“工数削減”という効果も出てはいるが、主目的はあくまでサービス化の推進による新たなビジネスモデル・収益源創出である。

4. サービス化と自社の価値

IoT技術の発展は、製造業のサービス化を進めるためのベースではあるが、自社のサービス化の方向性を検討する時点ではIoT導入ありきではなく、まずはゼロベースで自社の理念・戦略について立ち戻ることから始める。社会や顧客のニーズはどう変化しているのか、自社の事業で今後実現したいことは何か、これから顧客に提供していきたい価値とは何か。これらを既存ビジネスの枠を越えて発想し、戦略を立てることが肝要だ。そして、その戦略に対してIoTツールをどう活用できるか、と検討を進めていく。冒頭で述べたように、これからはハード(モノ)だけでなく、ソフト・サービスを含めた総合力が問われる。ある意味では、顧客のニーズをしっかり捉えてそれをサービス側で補完できれば、高品質なモノを作る技術力のない企業でも生き残っていける時代なのだ。この環境変化を好機と捉え、製造業としての新たな価値創造へと繋げていただきたい。

参考文献
  • 『IoTで加速する製造業のサービス化 ―データ主役時代の企業戦略―』(日本総研 成瀬道紀 2020)
  • TBR産業経済の論点『なぜ「製造業のサービス化」が進んでいるのか ~IoT・デジタル化の進展が後押し、素材メーカーも無縁ではない~』(増田 貴司 2017)
執筆
  • 株式会社日本能率協会コンサルティング
  • 生産コンサルティング事業本部 サプライチェーン革新センター
  • コンサルタント 篠原暁
全体監修
  • 株式会社日本能率協会コンサルティング
  • 生産コンサルティング事業本部 サプライチェーン革新センター長
  • シニア・コンサルタント 茂木龍哉