JMAC Column 01

『SX時代の生産管理とは』 ~これからの生産管理システムに求められる要件~

『SX時代の生産管理とは』~これからの生産管理システムに求められる要件~

1. 近年の外部環境の変化

① 激変するマクロ外部環境の変化

2020年に感染拡大したコロナ禍に代表されるように、先行き不透明な社会情勢を指してVUCA(ブーカ)という言葉が使われるようになってきた。VUCAとは、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字を取った言葉で、過去の延長線で将来を語れない、異次元のスピードで激変する時代を表現した言葉である。

確かに世を見渡せば、企業の将来業績に大きなインパクトを与えうるマクロトレンドが多数存在し、うごめいている。たとえば、地球環境面では気候変動、資源枯渇、生物多様性の喪失など、社会・経済面では途上国の人口増加、先進国の少子高齢化、戦争・内戦・政治不安定などがある。このマクロ外部環境である社会環境の変化により、新たな社会課題が発生している。

② サステナビリティ経営への変革の必要性

新たな社会課題は、企業を取り巻くミクロ外部環境である市場や業界にも影響を与えている。市場でいえば、消費者は環境や人権に対して十分に配慮された商品やサービスを選択して買い求めるエシカル消費傾向に、業界でいえば国際社会からはSDGsへの貢献や法規制への対応、取引先からは各種認定取得、投資家からはESG視点での企業評価などがある。

これまでの企業経営では、QCDを競争力として売上高や利益など経済的価値向上に主眼が置かれていた。しかし、これからの企業経営では、長期志向に基づく事業を通じた社会課題の解決、つまり経済的価値と社会的価値を両立して持続成長を目指すサステナビリティ経営が求められている。

1. 近年の外部環境の変化

2. SX時代における生産管理機能

① これまでの生産管理とは

事業目標達成の重要な手段として、生産管理機能がある。生産管理とは「経営目的の実現に向けて、時間軸を基軸に、経営資源(人・物・金・設備)を有効活用する計画を立て、実施・統制を行うこと」である。これまでの生産管理機能では、諸種の生産資源の総合的調整により企業全体の生産力を最高度に発揮させることが主な機能であった。

しかし、サステナビリティへの変革であるSX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)時代においては、企業の目的・存在意義が、事業を通じた社会課題の解決となる。そのため、生産力を主とした現在の生産管理機能だけでは不十分といえる。

② 複雑化/高度化する生産管理への
対応

では、SX時代における生産管理とは、どのような機能が必要になるのだろうか。

SX時代では、QCDの経済的価値の管理項目にサステナビリティ要素(環境的価値や社会的価値)のSを加えたQCD+Sで管理する必要がある。つまり、管理対象として先述の経営資源に、エネルギーや資源使用量、廃棄物処分量等の環境性や、サプライヤー倫理行動規範や従業員満足度等の倫理性や道徳性を加える必要がある。また管理範囲が広範化する一方で、管理単位は製品や工程単位から作業単位へと細かくなる。

カーボンニュートラル実現を目指す企業では、サプライチェーン全体でのCO2排出量の算出(GHGプロトコル スコープ1,2,3)は必須である。人の手による算出も可能だが、算出工数削減並びに算定後の削減活動に必要なデータ取得という点からもシステム導入や連携が有効である。例えば、スコープ3の中で算出が大変なカテゴリ1「購入した製品・サービス」では、材料マスタ、生産計画・製造実績データ、部品構成表(BOM)を連携することでCO2排出量を自動算出することが出来る。具体的に説明すると、まずサプライヤーでの製造並びに調達物流時のCO2排出量の原単位を自社のBOMに材料マスタに登録を行う。次に製造実行システム(MES)による製造実績データをキーとして、使用材料量にマスタ登録した材料別排出原単位を掛けることで工程別材料別CO2排出の実績を算出できる。また、生産計画データと連携すれば排出量の予実管理も可能となる。

2. SX時代における生産管理機能

サーキュラーエコノミー(循環型経済)の観点では、リユース・リサイクルに向けた個体管理や資源ロスの可視化が必要となる。資源ロスの可視化では、投入された原材料(マテリアル)やエネルギーを工程ごとにロスを算出するマテリアルフローコスト会計(MFCA)が有効である。環境会計の1つでもあるMFCAを仕組みとして取り入れ、マテリアルやエネルギーのロス情報を含むBOMを自動作成してMESやIoT連携することで、リアルタイムで工程別資源別ロス量の可視化が可能となる。

このように複雑化や高度化する生産管理の実務を行うには、これまでのシステムやExcel管理では難しく、DXを活用した取り組みが必要となる。デジタルを活用した業務変革であるDXをきっかけにサステナビリティ経営への変革を実現してみてはいかがだろうか。

執筆
株式会社日本能率協会コンサルティング
生産コンサルティング事業本部 サプライチェーン革新センター
コンサルタント 河合友貴
全体監修
株式会社日本能率協会コンサルティング
生産コンサルティング事業本部 サプライチェーン革新センター長
シニア・コンサルタント 茂木龍哉