行員のアイデアから生まれた「ATM振り込め詐欺対策」
内製したシステムの全店舗展開を目指し運用を拡大
株式会社四国銀行
システム部 開発グループ 上席調査役
株式会社四国銀行
システム部 開発グループ
株式会社四国銀行
システム部 開発グループ
「SCSKからご提示をいただいた『内製化』という選択肢は、これまで外注中心だった当行が、
新たな視点を獲得する転機となりました」
四国銀行 システム部 開発グループ
厚海悠貴 氏
四国銀行は高知県内63店舗、県外46店舗、インターネット専用支店1店舗を展開する地方銀行で、地域の多様なニーズに応え社会・産業の発展に貢献することを目指している。また経営層から一般行員まで全員で「挑戦できる風土づくり」に取り組み、行員発のアイデアを積極的に実用化し、経営に取り入れている。
2023年度には行内で生成AI活用アイデアコンテストを実施し、特別賞を受賞したのが「ATM振り込め詐欺対策」だった。全国で特殊詐欺被害が増加し、高知県でも深刻な状況だ。高知県警察の資料によると、2024年の特殊詐欺被害は認知件数54件、被害総額2億3,000万円に上るという。同行 システム部 開発グループ 上席調査役の井口信也氏は「ATMやインターネットバンキングなどの非対面取引が詐欺で悪用されるケースが最も多く、当行としても重要な課題です」と語る。
こうして同行は、上述のATM振り込め詐欺対策のアイデアを実用化すべく、システム部のメンバーによるシステム構築を開始した。そして、同行が内製でシステム構築を行う一連の取り組みを支えたのがSCSKである。
同行では、2023年の開発案件において、ベンダが構築するAWS上のシステムと行内環境を接続する要件が発生した。「当初は中継ゲートウェイ構築を外部委託する予定でいたものの、要件に合致するベンダ選定が難航していました。そんな折に出会ったSCSKからご提示いただいたのが『内製化』という選択肢です。これまで外注中心だった当行が、新たな視点を獲得する転機となりました」と、同行 システム部 開発グループの厚海悠貴氏は振り返る。
中継ゲートウェイの内製化を決意し、SCSKの伴走型内製化支援サービス「テクニカルエスコート」契約を締結した同行は、まずSCSKの支援技術者によるAWS基礎講座からAWSサービスに関する知識を習得することから始め、当初の目的であった中継ゲートウェイ構築を無事完遂。この取り組みを通して同行は内製化の第一歩を獲得した。
同行とSCSKの共創による「ATM振り込め詐欺対策」内製化は、2つのフェーズで進められた。
フェーズ1は概念実証で、画像認識AIを用いた人物の動作解析の実効性を簡素なコンセプトモデルで検証した。「検知精度」「セキュリティ」「コスト」の3点を評価ポイントとして掲げ、検知精度では、通報の全体件数のうち通報無用な状況で誤って通報した件数の割合である「誤検知率」、通報すべき事象の件数に対して通報されなかった事象の件数の割合である「未検知率」の計測を行った。
「主に行ったのは、AWSのAI画像分析サービス『Amazon Rekognition』と生成AIサービス『Amazon Bedrock』の比較検証です。Amazon Rekognitionではラベル検出と顔分析機能を利用して判定処理を作り込みました。一方のAmazon Bedrockでは画像に対して通話動作を判定するプロンプトを調整しました。また、AIが解析しやすい画像に近づけるため、画質や撮影時の高さなどについても検証を行っています」(厚海氏)
結果として、同行は「状況の検知精度」「誤検知の抑制」の観点から優位性を確認できたAmazon Bedrockを選択した。
図:「Amazon Rekognition」と「Amazon Bedrock」での比較検証を行い、通話している状況の検知精度や、誤検知抑制という観点から優位であった、「Amazon Bedrock」を選択
さらなる検証の中で、以下のような取り組みが精度向上の鍵となった。
フェーズ2の実店舗での試行では、ある支店のATMコーナーにカメラを設置し、振り込め詐欺と疑われる動作を生成AIが検知したら、営業店に設置した専用端末での警告音と警告画面から行員へ通報し、利用者への声掛けを行うまでの一連のアクションを検証した。
図:ATMの利用状況をキャプチャし、画像分析を行い、通話動作を検知した場合はアラートを出す
「誤検知については手の動きや持ち物の誤認、未検知については通話操作の見落としについて評価を行いました。お客様を映した画像を低解像度にすることで、プライバシー保護も徹底しています」(厚海氏)
結果として同行は、フェーズ2を終えた段階で誤検知率と未検知率が共に0%、つまり100%の検知精度を確認できた。
さらに特筆すべきが、コスト削減に向けた取り組みである。「今回構築したシステムの構成面のポイントとして、Amazon DynamoDB、Amazon SQS、AWS Lambdaなどサーバレスアーキテクチャを採用していることが挙げられます。当初は高性能な生成AIモデルのみで判定していたのを、安価な画像判定モデルを組み合わせた複合評価に変更することで、精度を維持しつつ、生成AIモデルの利用頻度を下げています。SCSKのサポートと共に大幅なコスト削減を達成でき、フェーズ1ではATM1台/1日あたり3,000円かかっていたランニングコストが、フェーズ2では27円まで削減され、全店舗展開の目途が立ちました」(厚海氏)
こうして、IT組織力強化・人財育成および内製開発による低コスト実現の両面で成果を上げることができたのだ。
今後に向けて同行では、振り込め詐欺検知システムの本格展開を見据えて導入店舗を拡大し、試行を継続していく構えだ。
「実店舗での試行スピード感を優先するために今回は、有人ATMの営業時間内をスコープとして、振り込め詐欺検知を行い、お声がけを行う運用としていますが、今後の課題として無人のATMでの通報方法を検討する必要があります。」(井口氏)
現在、段階的な解決アプローチを計画しており、店舗内ATMへの展開を優先的に進めた後、店舗外ATMや営業時間外の運用について検討する予定だ。内製化を進めるうえで、現実的な範囲で着実に試行・評価しながら、課題を段階的に解決していくことが重要である。
一方で目指しているのが、内製システムの拡大と高度化である。
「行内では特にWebアプリケーションの需要が高まっており、多様な業務ニーズに応えられるフロントエンドの品質向上のため、開発メンバーを対象とした学習計画を立てています。また、行内向けシステムへの機能拡張の一環として、生成AI利用環境へRAG(Retrieval-Augmented Generation:検索拡張生成)機能の実装も検討中です」と、同行 システム部 開発グループの植田悠斗氏は語る。
同行はSCSKとの連携をさらに深めつつ、新たな内製システムの開発にも積極的にチャレンジしていく考えだ。
今回のプロジェクトでは、主にAWSサーバレスアーキテクチャの実装面で支援担当をさせていただきました。わずかなアドバイスから実践的なプラクティスに発展させた、四国銀行様の向上心と勤勉さに感銘を受けました。今後も四国銀行様のさらなる内製化力向上に貢献できるよう、我々も技術研鑽を継続してまいります。
広野 祐司
四国銀行の皆様はメイン業務と並行して開発時間を捻出され、AWS開発標準策定などの行内体制整備から、初の内製プロジェクトである中継ゲートウェイ構築まで完遂されました。内製化を必ず実現するという、メンバー・経営層一体となった強い意志の重要性をあらためて実感しております。今回の「振り込め詐欺検知システム」開発完遂というさらなる実績を積み重ねられ、担当者として大変嬉しく思っております。今後も四国銀行様の挑戦を全力でサポートいたします。
貝塚 広行
四国銀行様と当社の共創の第一歩を踏み出せたことを大変嬉しく思います。内製化支援「テクニカルエスコートサービス」の活動コンセプトに、お客様の一員となり一緒に考える、というものがあります。支援活動においては信頼関係の構築が最も重要です。お互いに悩みやノウハウを隠すことなく、率直な情報交換をしたことが理解を深め合い、成果につながりました。今後の四国銀行様のチャレンジに対して、さらに我々も尽力し、互いに成長してまいります。
寺内 康之
本店所在地:高知県高知市南はりまや町1丁目1番1号
設 立:1878年10月17日
U R L:
https://www.shikokubank.co.jp/
高知県高知市に本店を構え、高知県内63店舗のほか、徳島県23店舗、香川県7店舗、愛媛県6店舗、本州10店舗、インターネット支店1店舗を展開している。人口減少や少子高齢化に伴う後継者不足、デジタル化やカーボンニュートラルへの対応など、銀行に求められる役割がこれまで以上に多様化・高度化する中で、従来からの預金と融資だけでなく、コンサルティング機能を発揮して、地域に欠かせない金融機関になることを目指している。
2025年9月初版