EDIの2024年問題を契機に業務とシステムをアウトソース
保守・運用負担を軽減し、IT人材を創造的な業務にシフト
「DXの推進には社内のIT人材を創造的な業務にシフトさせることが大切です。
その戦略を遂行するうえでEDIをSCSKにアウトソースできた意義は大きいと感じています」
代表取締役専務執行役員 エネルギー事業本部長
吉田 恵一 氏
1955年創業の日本瓦斯株式会社(以下、ニチガス)は、創業以来の事業であるLPガスの小売販売に加えて、都市ガスや電気も取り扱う総合エネルギー企業だ。1997年のエネルギー自由化に伴い業容を拡大させ、この20年間で顧客数と売上げを3倍近く伸ばしている。
この躍進に大きく貢献したのが、ITの戦略活用であり、デジタルトランスフォーメーション(DX)だ。具体的には、エネルギー事業のあらゆる業務をリアルタイムで一元管理・処理できるフルクラウド基幹システム「雲の宇宙船」をはじめ、1時間ごとにガスボンベの使用量が把握できるIoT装置(スマートメーター)「スペース蛍」、24時間365日無人で稼働する世界最大規模のLPガスハブ充填基地「夢の絆・川崎」などを開発/構築し、仮想空間上で容器・ガスの配送・消費の動きを再現/可視化するニチガス版デジタルツインをつくり上げた。それを、ボンベ交換やボンベ配送の最適化、ひいてはCO2削減などに役立てている。
こうした取り組みが評価され、同社は経済産業省と東京証券取引所が展開している「DX銘柄(*1)」の2022年版において、エネルギー業界の企業としては初となるグランプリを獲得している。
「DXは、当社の事業戦略における重要な柱であり、今後も強化を図ります。例えば、『スペース蛍』の次の展開として各家庭に向けたエネルギーマネージメントシステムの開発・提供にも力を注ぐ予定です。ニチガス版デジタルツインについては、LPガス託送の基盤として全国1万7000以上あるLPガス事業者様にご活用いただき、エネルギー業界全体の効率化に役立てていく計画です」と、ニチガスの代表取締役専務執行役員でエネルギー事業本部長の吉田恵一氏は展望を示す。
このようにDXを強力に推進していくうえでは、そのための人的リソースの確保が欠かせない。その課題解決の一手として同社が選んだのが、これまで自社で構築しオンプレミス環境で運用していたEDIシステムをクラウド化し、その運用をアウトソースすることだった。
(*1)DX銘柄:デジタルテクノロジーを業務プロセスやビジネスモデルの変革に生かし、新たな成長・競争力強化につなげている企業を、東京証券取引所に上場している企業の中から選定する制度。経済産業省と東京証券取引所、および独立行政法人情報処理機構が共同で2020年から展開している。前身は「攻めのIT経営銘柄」(2015年~2019年)。
ニチガスによるスマクラ導入のきっかけは、ISDN回線サービス「INSネット」(デジタル通信モード)が2024年1月で終了することで引き起こされる「EDIの2024年問題」への対応を迫られたことだ。
同社ではスマクラの導入以前、契約者の利用料金が収納される各銀行やコンビニ収納代行と基幹システム上にある売上管理や入金管理のシステムをつなぐために、自社で構築したEDIシステムによってファームバンキング接続を行っていた。言うまでもなく、その障害・停止は、お金のやり取りの停滞・停止に直結し、経営に大きな影響を及ぼすリスクがある。そのため、EDIシステムは事業の根幹をなす重要なシステムとして位置づけられ、その運用管理の業務負担は、IT担当者に重くのしかかっていた。
そうした中で2024年問題への対応を迫られた同社が選んだのが、システムをクラウド化し、保守・運用管理業務を全面的にアウトソースすることだった。その判断の理由について、同社エネルギー事業本部 エネルギーシステム開発部 マネージャーの河口宗人氏は次のように明かす。
「EDIの業務運用とシステムをアウトソースすることで、社内のIT人材を使うことなく専門家による安定した運用が実現され、かつ、法制度の変更などの新たな情報を、私たちがアクティブに動かなくてもアウトソース先から提供してもらえるという期待がありました。IT人材はそう簡単に採用・育成できるわけではなく、その中でIT人材をシフトさせていくうえでは、自社でEDIシステムを維持・運用し、法制度の変化などに対応するための情報収集を行い、最新化させていくことは大きな負担になります。そこで、EDIシステムの運用保守にかかわってきた人材の負荷を軽減し、新しい攻めの領域にシフトさせようと考えました」
こうして同社は、EDIシステムの運用を安心・安全に任せられる会社・サービスであることを前提に複数のアウトソース先を検討し、その結果として選ばれたのが、高機能・高品質でさまざまな通信プロトコルや法制度にも対応したEDIサービスで、金融機関の間で標準的に使用されている「AnserDATAPORT(*2)」接続も可能なスマクラだった。
「スマクラを選んだ大きなポイントは、開発・提供元のSCSKがEDIに関する深い知見を有していたことと、EDIシステムをニチガスの基幹システムに適合させるための提案が最も優れていたからです。そもそも、クラウド環境にある基幹システムとEDIシステムとの接続に関して、しっかりとした提案が行えるベンダー自体が少なかったなか、SCSKはどのように接続させるかを分かりやすく提案してくれました。おかげで、何をどうすべきか、という私たちの理解も進み、経営層への説明もしっかり果たせました」(河口氏)
さらに、EDIの2024年問題や法改正などの将来を見据えた提案や、300社以上の導入実績を誇り、接続端末3万端末以上、年間数10兆円を超える商取引を支えているという実績、SCSKの会社としての信頼性なども評価のポイントになった。
スマクラの導入にあたっては、金融機関との連携、会計システムとの連携などニチガス側の担当者だけではわからない部分は、SCSKの担当者が随時フォローすることで、しっかり着実に進めることができた。
「スマクラを採用したことで、新しいEDIシステムへのファームバンキング接続の移行が実にスムーズに進展し、2024年問題への憂いもなくなりました。EDIシステムの保守・運用管理の業務負担を大幅削減しながら、その可用性を高めることにも成功しています。改めてスマクラの選択は正解だったと感じています」(河口氏)
(*2)AnserDATAPORT:株式会社エヌ・ティ・ティ・データが金融機関向けに提供する、企業・自治体と金融機関との安全な取引を実現するINS後継回線ファイル伝送サービス。
図:ニチガスにおけるスマクラ活用のイメージ
河口氏によれば、スマクラの採用・活用を通じて、システム運用管理に関するSCSKの知見の豊富さとスキルの高さに感心させられる場面が多くあったという。そうしたSCSKの知見・ノウハウを、他の基幹システムの運用管理にも役立てていく計画だ。
「ガスのシステムは、24時間現場で確実に使わなければいけないシステムが多数あります。今後は、SCSKのEDI運用の知見を参考にシステムの安定化を図っていくつもりです。また、EDIのような守りのDX領域を切り出して疎結合することで、システム全体の長寿命化を実現したいと考えています」(河口氏)
また、吉田氏は攻めのDX領域でのSCSKの貢献にも期待を寄せている。
「DXの推進には、社内のIT人材をより創造的な業務にシフトさせることが大切です。その人材戦略を遂行するうえで、EDIシステムとクラウドサービスに関して高度な専門知識を持つSCSKに、EDI業務をアウトソースできた意義は大きいと感じています。今後も、新規システムの開発やシステム間の連携など、さまざまなDXプロジェクトが計画されています。そうした幅広い分野でSCSKによる支援を期待しており、新しい事業や仕組みをSCSKと共創していければと願っています」
日本瓦斯様においては、利用者の利用料金が収納される各銀行やコンビニ収納代行とのデータ連携基盤としてスマクラをご利用いただいており、事業の根幹をなす重要な役割を担っております。今後は、EDIデータ連携の拡充や、クラウドサービスに関する開発、運用など様々な面で日本瓦斯様のDX推進に貢献していくことができるよう、引き続きご支援させていただきます。
北原 惇也
所在地:東京都渋谷区代々木4-31-8
U R L:
https://www.nichigas.co.jp/ja
1955年創業の総合エネルギー企業。1997年のエネルギー自由化に伴い業容を拡大させ、創業当初から展開しているLPガスの小売事業に加えて、都市ガス、電気などの小売事業も手がけ、2022年5月時点で約200万(件)の顧客を擁する。デジタルトランスフォーメーション(DX)に先駆的に取り組む企業としても広く知られ、経済産業省と東京証券取引所などが展開している「DX銘柄(旧:攻めのIT経営銘柄)」に7年連続で選ばれ、「DX銘柄 2022」ではグランプリを獲得している。
2022年8月初版