福岡3大学のICT教育を支える
SCSKの学生向けPC販売サービス
あらゆる分野でICTの知識と技術が求められるようになった現代。これは、将来の社会を担う人材を育成する教育機関も例外ではない。こうした情勢に合わせ、我が国も官民一体となって教育におけるICT環境の整備に取り組んでいるが、その行く手にはいくつものハードルが存在しており、なかなか思うように進んでいないというのが実態だ。
中でも、教育機関によくある課題の一つに、学生が学習や研究に使うPCをいかにして供給するかという課題がある。機種選定、調達、販売、ソフトウエアのセットアップなどの工程が必要で、さらには故障時のサポートなどにも対応しなくてはならず、学生一人ひとりに手厚いサポートをしたい思いと裏腹に、通常の業務で多忙な教職員が行うには負担が大きいのだ。
本事例では、福岡県にある3つの大学を舞台に、これらの大学が教職員の負担を増やすことなく、学生へ要件に合ったPCを安定して供給できる仕組みをどのように検討し実現していったのか、見ていこう。
「“大学の中でPCを使うのは当たり前”という意識が醸成され、自主的に学ぶ意欲の高い学生が増えています」
福岡工業大学 情報基盤センター長
利光 和彦 氏
福岡工業大学(FIT)が新入生に対し、推奨するPCを販売する「大学推奨ノートPC販売事業」を開始したのは2001年度のことだ。その狙いはPCを “文房具感覚”で使いながら、普段の授業を受講したり、授業外学習で利用したりすることで、情報活用能力を醸成させたいという点にあった。
だが、当時は職員が数名しかおらず、システム対応などの業務を行いながら、大学側で推奨PCを選んで調達、設定、販売、その後のサポートまで対応するというのはノウハウやリソースの面で難しいと考えていた。
そこでFITは、推奨PCの企画から販売、保守までをSCSKに委託することを決断。その決め手はサポート窓口を学内に設置する提案にあったという。学内に窓口があればPCが故障してもすぐに持ち込むことができ、職員にも負担がかからない。
こうして同大学では、新入学生の約4割、400人近くが推奨PCを購入するようになったのだが、2020年のコロナ禍の影響により、その運用体制は大きく変化した。福岡県でも緊急事態宣言が発出され、同大学でも遠隔授業を実施することになったのである。これをイノベーションのチャンスと捉えた同大学は、DX推進計画「FIT-DX」を新たに策定。教育のデジタル化に対応するため、2021年度の新入生から実質的なPC必携化に踏み切った。
FIT-DXでは、デジタル教育資産や高度情報化ソフトウエアの拡充を図りつつ、対面とオンラインのハイブリッド授業を展開している。これによりペーパレス化やオンライン化が進むなど、FIT-DXとPC必携化の効果は徐々に現れ始めているという。
SCSKの対応については、サポート力の高さとさまざまな要望に応えてくれる柔軟な姿勢を高く評価。最初の導入以来、20年以上の長きにわたって契約を継続している。中でも、PC関連の業務をすべて委託できるため、教職員が本来の業務に集中できる点が大きいという。
今やFITではPCを使う授業が“当たり前”となっている。こうした中、同大学が力を入れようとしているのがビッグデータの活用だ。教育効果や大学運営の可視化に向けて、学内の各種教育活動で得られるデータやAIをはじめ先端技術を駆使した戦略を検討していくという。
「学生は、PCの動作がおかしくなったらサポート窓口で対応してもらえますし、すぐに直らないときは予備機も用意してあるので、授業で使うPCがなくなる心配もありません。またサポート面をご支援いただくことで、教職員の負荷は大きく軽減されました」
九州産業大学 総合情報基盤センター所長
田中 康一郎 氏
九州産業大学(九産大)が、学生用PCの活用を本格的にスタートさせたのは2002年から。情報科学部が新設され、貸与PCとして新入生に配布したのが始まりだ。その後、2017年に理工学部が誕生。貸与PCの対象が理工学部の全学生に拡大され、現在は新入生に毎年約400台(4学年で1,600台)を配布している。
貸与PCとしている理由は、学部全体でPC環境を統一するためだ。PCが同一ならOSやアプリケーションとの相性を考慮する必要がなく、サポートが楽になる上、アカデミックライセンスのソフトウエアを安価にインストールできるというメリットもある。しかし、大学自身が数百台の貸与PCを調達し、設定・配布・販売後のサポート、故障への対応を大学教職員だけで行うのは大きな負荷がかかる。
九産大に対し、貸与PCの調達から販売、設定、サポートまでを一貫して提供しているのがSCSKだ。同社をパートナーに選んだ理由は、学内にサポート窓口を設け、運用業務を代行する提案にあったという。たとえば学生のPCが故障したとき、教員が対応していたら授業が回らなくなる。しかし学内に専用のサポート窓口があれば、教員も安心して授業に専念できる。
同大学がSCSKの販売・保守代行サービスを採用したことで、PCの運用にまつわる一連の作業をアウトソーシングでき、教職員には大きな負荷がかからずにすんだ。
同大学における貸与PCの運用がスタートしてから20年。理工学部以外でも学生がPCを利用する機会が増えてきたため、他学部の学生を対象に推奨PCの販売を開始。2021年度には、コロナ禍によるオンライン授業の推進に合わせ、理工学部を除くすべての学部に販売対象を拡大。初年度の実績として590台を販売したが、これについてもSCSKに委託している。
九産大では貸与PCについて、Windows11へのバージョンアップも念頭に置きながら現状の体制を維持していく方針だ。一方、推奨PCは学生ごとに環境がバラバラのため、全学生必携化も含めて方針を検討したい、今後もSCSKと共に販売・保守体制を考えていきたいと語り、これまでのSCSKの対応を評価した。
「販売、保守、分割払い、保険など、SCSKの用意したサービスの枠組みに丸ごと乗っかるだけで、スムーズにPC必携化が実現しました。実績あるSCSKに依頼して正解でした」
久留米工業大学 工学部 情報ネットワーク工学科 教授 博士(芸術工学)
河野 央 氏
久留米工業大学(久留米工大)は2018年度の入学生からPCの必携化をスタートさせた。その背景には、近隣の大学でPC必携化が進められ、一定の教育効果を上げられていたこと、産業界からPCの使える学生が要望されていたことの2つがあった。そこでPCを必携化し、講義や予習・復習などで使う環境を整備することで、学生のスキルを向上させるとともに、ITリテラシーを身に着けてもらおうと考えたのである。
この際に問題となったのがPCの導入と運用だ。大学側にはPCの調達から販売までを行うノウハウはなく、故障や問い合わせなどに対応できるリソースもない。そこで同大学は、一連の作業を外部のパートナーへ委託することにした。
久留米工大は複数のベンダーに相談。慎重に検討したのち、多くの大学で学生用PCの導入・運用を手がけてきた実績や、学内に常設のサポート窓口を設け、故障や問い合わせに対応するという提案を評価し、SCSKをパートナーに選定した。SCSKの担当者は週1サポート窓口に常駐し、教職員への負荷を減らす一役を担っている。
現在ではおよそ240台、新入学生の6割から7割が大学推奨のPCを購入している。その導入効果だが、大学側の狙い通り、学生のPC利用が大いに活発化しているという。学生が校内のあちこちでPCを使っているのが当たり前の光景となり、プログラムを組む学生、自作PCを組み立てる学生なども出てきた。加えて、コロナ禍において遠隔授業をスムーズに実施できたというメリットもあった。
今後、久留米工大ではLMS(学習管理システム)を活用し、eラーニングの学習履歴データを取得・集約。その成果を可視化し、授業の内容にフィードバックすることを検討している。
SCSKについては、他の大学での経験をもとにしたアドバイスが受けられる点を評価。調達コストの削減や、今後同大学が目指すAI教育の充実に向けて、高スペックPCの提供などにも期待しているとのことだ。
かくして3大学はSCSKの支援のもと、大学教職員の負担を増やすことなく、それぞれの学生向けPC環境を安定して供給する仕組みを実現している。今後も両者は連携しつつ、教育のデジタル化を推進していくことだろう。
(2021年9月 初版)