有識者との対談(2021年6月)

社員座談会

(所属、役職は2021年6月時点)

SCSKグループは、「共創ITカンパニー」を2030年の目指す姿と定め、成長戦略としてサステナビリティ経営を推進しています。ここでは、日本におけるサステナビリティの有識者である後藤敏彦氏をお迎えし、会長の田渕と、SCSKグループのサステナビリティ経営について語っていただきました。

変化する社会と、SCSKが果たす役割

DXという観点から、日本企業を取り巻く環境変化をどうとらえていますか。

田渕
最近、お客様と接していて実感するのが、産業の垣根が消えつつあるということです。各企業が生き残るために異業種と連携し、競争のアリーナを大きく変化させています。この変化のキーワードは、「デジタル」です。デジタル技術が進歩したことで、プラットフォーム内で多種多様な情報がつながるようになりました。日常のあらゆるデータがデジタル技術で利活用され、境界線が曖昧に溶け合う時代になっています。企業には、この新たな産業構造の変化に合わせたビジネスモデルの変革、いわゆる「DX」が求められるようになっています。
後藤氏
世界的にデジタル化が加速する一方、日本はデジタルをうまく活用できていないと思っています。なかでも伝統的な大企業ほど遅れているのではないでしょうか。デジタル化に追従できない企業は、資本主義のならいで消滅していくおそれもあり、先行きが厳しいと感じています。
田渕
全くの同感です。コロナ禍は、リモートワークが当たり前になるなど、社会におけるデジタルの普及を一気に後押ししましたが、その変化の過程で日本社会は、政府も企業も含めてデジタル面で世界に後れを取っていることが露呈しました。
2018年に経済産業省が発表した「DXレポート」でも“2025年の崖”という言葉があり、DXの重要性が指摘されていましたが、コロナ禍を機に現実味を帯びてきたわけです。政府はデジタル庁を創設するなど、成長戦略としてデジタル化に注力しています。企業においても一気に危機感が高まり、デジタル分野への投資が加速しています。こうした環境下で企業が競争力を高めていくにはDXが不可欠ですから、当社のようなITサービス企業が果たす役割やその重要性は、ますます大きくなっていると認識しています。
後藤氏
デジタルはあくまでも手段であり、それをいかに活用して経営や社会を進化させるのか。まさに、それこそがSCSKに対してお客様や社会が期待していることではないでしょうか。大半の企業がデジタル化に後れを取るなか、SCSKはITプロフェッショナルとして企業に寄り添い、一緒になって変革をやり遂げていっていただきたいと思います。
田渕
はい、それが私たちの目指す「共創」です。以前の当社はお客様からの要件に応じて仕事をする受託開発型ビジネスが中心でしたが、現在、お客様やさまざまなパートナーと共創しながら、自らも事業主体となって新たな価値を創出する価値創出型ビジネスにシフトしていこうとしています。共に価値を創るパートナーとして、企業あるいは社会の課題に対して、力を合わせて解決していくことが、当社に求められる役割だと思っています。

世界的な潮流である気候変動や脱炭素については、どのようにお考えですか。

後藤氏
人類の活動が大きくなりすぎたことが、森林を破壊し、気候変動を加速させ、生物多様性の毀損につながっています。大量生産・大量消費・大量廃棄に象徴される従来の経済・社会システムが続いていくと、人類が存続できなくなる可能性が見えつつあります。
そうさせないために今、世界の経済活動の主眼は、人類の活動を地球のキャパシティ内に抑え込むことへとシフトしています。コロナ禍からの経済復興や社会の発展を考えていく上でも、脱炭素などの環境問題に取り組みながら復興を目指す「グリーンリカバリー」に世界が動き始めています。
田渕
日本政府が「2050年カーボンニュートラル」を表明し、日本でも省エネルギーや脱炭素社会に向けた技術開発やビジネスが脚光を浴びています。今後、さらにヒト・モノ・カネが集中していく領域だと見ていますが、ここでもキーワードとなるのはデジタルです。特にエネルギー消費の効率化や最適化にはデジタル活用が不可欠ですので、当社の事業においても注視していくべき市場だととらえています。
後藤氏
EUや米国でもグリーンリカバリーや気候変動対策に大規模な投資を計画しています。再生可能エネルギーの推進、エネルギーシステムの脱炭素化や輸送の効率改善とクリーン化などがその具体的施策として挙げられています。これら以外の領域においても、ITは効率化・省エネ化・全体最適化という観点から、企業および社会の環境負荷低減に不可欠な要素です。新しいビジネスモデル展開やグリーンリカバリーにおいてもSCSKは大きな責務を負っておられると思います。

SCSKのサステナビリティ経営

サステナビリティ経営を推進する上で重視していることを教えてください。

田渕
当社が成長戦略として推進する「サステナビリティ経営」は、社会の課題に向き合い、当社のコアコンピタンスであるデジタル技術を活用して、お客様や社会と共にさまざまな社会課題の解決に貢献していくことであり、社会が必要とする新しい価値を創出しながら、同時に経済的価値も創出するというものです。
当社はこれまで、約8,000社のお客様企業の課題解決を通じて間接的に社会に貢献してきましたが、これからはもっと主体的に社会に貢献できるのではないかと考えています。新しいビジネスにチャレンジする上でも、最終的には社会に貢献することが大切ですので、サステナビリティの視点は欠かせません。それが、「成長戦略としてサステナビリティ経営を推進する」と掲げた背景にある思いです。お客様企業や異業種企業と手を携え、互いの強みを活かし、「共創」を通じて課題解決に取り組めば、社会を変革する大きな力になります。自らが、事業主体として「共創」の輪を広げ、社会課題解決に挑む「共創ITカンパニー」を実現することは、当社の「サステナビリティ経営」そのものです。
後藤氏
世界の経済活動にパラダイムシフトを起こし、サステナブルな発展を遂げていこうというのが、現在の主流の考えです。環境・社会課題の解決にはイノベーションを伴った新しい仕組みや工夫が不可欠であり、デジタルの活用が欠かせません。企業にとって非常に大きな事業機会であり、SCSKがサステナビリティ経営を成長戦略の根幹に据えたのは極めて正しいことだと考えます。
田渕
世の中が複雑につながり合う時代において、サステナビリティ経営を実践するために重要なのは、私たちのビジネスがどのような社会課題の解決に役立っているかをしっかり認識することです。私たちが良いと思っても、結果として社会の役に立っていないということがあってはなりません。また、環境や社会に与えるネガティブ・インパクトをできるだけ抑えることが必要です。その羅針盤として、7つのマテリアリティ(重要課題)を定めています。
後藤氏
SCSKのマテリアリティは、「社会課題解決を通じた持続的な事業成長」(攻め/事業機会視点)と「持続的な成長を支える基盤」(守り/リスク抑制視点)の二つで構成されています。世の中には、攻めの部分だけを強調して守りの部分を疎かにしている例もありますが、SCSKは攻めと守りの両面をバランス良く押さえていると思います。

「共創ITカンパニー」の実現に向けて、どのように取り組んでいますか?

田渕
2030年の「共創ITカンパニー」を見据え、未来を起点に、社員がありたい姿を語りあう場・機会をつくるプロジェクトや、社会課題解決を目指した全社的な新規事業開発プログラムなど、特に次世代を担う社員が議論を重ね、考えを深め、意識を高めていくための全社的な取り組みを進めています。
マテリアリティの策定にあたっては、若手社員を中心とする「未来を創るプロジェクト」を立ち上げて議論を重ねました。そのプロジェクトを発展させ、2020年度に「Beyond2030」「みらい創造プログラム」という二つのプロジェクトを立ち上げました。「Beyond2030」は、次代を担う世代が、SCSKグループの将来や事業を通じて社会に果たすべき役割、成長戦略などについて議論するプログラムです。議論の結果は、トップマネジメントに直接伝え、意見交換を行います。一方、「みらい創造プログラム」は、社内から社会課題を起点としたビジネスプランを募り事業化を目指すものです。「2030年に向け、数十億円規模の売上目標を掲げる事業」を応募要件に実施しました。これらの取り組みは共創する企業文化やサステナビリティ経営の意識醸成につながっています。
後藤氏
長期ビジョンやマテリアリティの浸透には、どれだけ若い世代の声を取り入れるかがポイントです。これからの社会をつくるのはミレニアル世代やZ世代ですから、その人たちの意見を引き出して受け止めない限り、本当の意味での理解・納得は得られません。
ちなみに以前、私がミレニアル世代やZ世代の人たちと「2050年のビジョン」を議論した際、若者たちのキーワードだったのが「ウェルビーイング」と「環境」でした。SCSKのマテリアリティにも、それらの観点が盛り込まれていますね。その意味でも、若手社員の意見を採用したことは非常に素晴らしいと思います。
田渕
もう一点、社内外での「共創」を促すために行ったのが組織改変です。先に申し上げたように産業の融合が進む今日においては、業種別の組織は徐々に意味を持たなくなります。業種ごとの個別最適の視点ではなく、市場全体を見ながら柔軟かつ迅速に社内外との共創を促すことを目的としています。ポイントは二点あります。一つは業種別であった事業部門を集約統合し、より大きな枠組みに再編成しました。それにより部門の壁がなくなり、社内横断での共創を行いやすくしました。もう一つが、「ビジネスデザイングループ」という新規事業開発の専門部門の新設です。社内に分散していた社員をヘルスケアやCX(カスタマーエクスペリエンス)といったテーマごとに集結させて、新しい事業開発に専念してもらっています。今まで別々の部署だった社員たちが同じテーマで集まるので社内的な共創が生まれますし、新しいビジネスには社外との連携も必要になるためパートナーとの共創も広がっていきます。この組織変更によって、これからもますます「共創」が進んでいくことを期待しています。

中長期的な企業価値向上に向けて

社員の働きがい向上のための取り組みについて教えてください。

田渕
「共創ITカンパニー」を実現するのは“人の力”です。当社の経営理念でも「人を大切にします」と掲げているように、当社はITサービス業でいち早く働き方改革に取り組み、残業時間削減や有給休暇取得を促進してきました。私が責任者となって健康経営も推進しています。後藤さんの先ほどの話にも通じますが、職場が働きやすくなることで社員の士気も上がり、業績の向上にもつながっています。そして、今後は「働き方改革」から「働きがい改革」への進化を目指します。心身共に満たされ、働きがいを得るには、仕事を通じて「自分が成長している」「社会課題の解決に貢献している」、この二つを実感できることが重要です。「サステナビリティ経営」を実践するなかで、社員がこれらを感じることができる仕組みも整えていきます。心も身体も、そして社会的にも満たされた状態を維持し高めていくことが、私たちの目指す「ウェルビーイング経営」につながっていくものと考えています。
後藤氏
日本も今後は雇用の流動性が高くなり、働きがいのない組織は人材の流出で淘汰されるでしょう。若い世代は、終身雇用の考えに縛られず自らの価値観に合う組織を求めて転職していきます。「社会課題解決を戦略の中心に置いた経営」、「自ら学び成長する機会を最大限提供しようという企業姿勢」は、社員の共感やコミットメントを引き出すものであり、SCSKならではの素晴らしい個性だと思います。

ニアショア拠点における人材活用についても教えてください。

田渕
長期的視点で日本経済を考える上で、地方創生は重要なテーマだととらえています。ニアショア拠点拡充は中期経営計画の施策の一つですが、当初はオフショアの代替手段として地方のITエンジニアリング活用に着眼し、加えて社員のIターンやUターンの希望にも応えたいという考えでスタートしました。コロナ禍の影響で都心集中から地方分散への移行が進み、地方の都市にいながら世界の仕事ができるようになりました。こうした状況は、当社のニアショア戦略にとって追い風です。地方での雇用も拡大できる上、働く場所の選択肢を社員に提供しやすくなります。
後藤氏
時代にマッチした取り組みだと思います。子育てや自然に親しむという観点から地方の暮らしを望む人たちにとっては、ウェルビーイングにもつながりますね。
田渕
ニアショアへの拠点拡充は、雇用という側面だけでなく、地方創生にもつながります。地域の抱える課題に対して、地方自治体や地元企業、大学などの教育機関と産官学連携を進めることは課題解決につながり、IT産業の振興にも貢献できるはずです。2021年6月には、沖縄県と「首里城復興におけるDX推進に関する連携協定」を締結しました。首里城復興に伴い、DXを活用した首里城公園および周辺地域のさらなる魅力の向上や、暮らしと観光が両立したまちづくりなどさまざまな企画を検討中です。これも共創の一例であり、他地域にも展開していきたいと考えています。
後藤氏
高度成長期に大都市に人が集中した結果、地方が大きく衰退しました。SCSKのニアショア戦略によって、地方に人が残り、外から人が来て、人の交流が活発になれば、今後の地方発展に良い影響を与えそうですね。

最後に、2050年までにカーボンニュートラルの目標を設定した意図を教えてください。

田渕
サステナビリティ経営を成長戦略としている当社が、カーボンニュートラルについてコミットメントを出すのは当然のことだと認識しています。「2050年までに温室効果ガス排出量をゼロにする」という目標を設定し、SBTイニシアチブの認定を取得するとともに、TCFD提言への賛同を表明しました。
後藤氏
気候変動は世界が最優先で取り組むべき重要課題です。私は以前から、長期ゴールとしてカーボンニュートラルを宣言すべきだと企業に訴えてきました。ところが日本では未達成を恐れて躊躇する企業が多かったのです。SCSKにはカーボンニュートラルはもちろんのこと、2030年のさらにその先に向けて、お客様や社会との共創、独自の価値創出によって世の中の変革をリードし、持続可能な成長を果たされることを期待しております。
田渕
気候変動をはじめとするさまざまな社会課題の解決に貢献することを通じて、企業としても成長していく。社員、お客様、パートナー、株主、地域社会など、多様なステークホルダーの期待に応えることで、社会から必要とされる存在でありたいと思います。
本日はありがとうございました。