有識者との意見交換会(2015年7月)

社員座談会

SCSKでは「働きやすい、やりがいのある会社」を目指して、ワーク・ライフ・バランス、ダイバーシティ、健康経営、人材育成の4つの観点で働き方改革を進めています。今回はこれらの取り組みをさらに進化させるために、 人的資源管理の専門家である中央大学大学院戦略経営研究科(ビジネススクール) 教授の佐藤博樹氏と法政大学キャリアデザイン学部教授の武石恵美子氏をお招きし、SCSK人事グループ副グループ長河辺恵理との意見交換を行いました。

トップ主導と組織が一体となった取り組みで、残業時間、有休取得率は目標をほぼ達成

佐藤氏
近年多くの企業で、在宅勤務や裁量労働制といった、柔軟な働き方への対応や、時間ではなく成果による評価の仕組みを導入しつつあります。こうした取り組みを成功させるためには、一人ひとりの自己管理能力の向上が必要であり、そもそもフルタイム勤務で適正な働き方ができるかどうかが重要になってきます。SCSKではまずフルタイムでの働き方を改革し、残業時間の大幅な削減だけでなく、きちんと有給休暇も取得できるようにしたうえで裁量労働制の対象者を拡大しており、正しいアプローチによる成功モデルとして注目しています。
武石氏
2013年から始めた「スマートワーク・チャレンジ」(以下、「スマチャレ」)の取り組みでは、やるべきこと、その価値、あるべき姿を共有したうえで、具体的な施策は現場で考えていますね。ぶれない理念を軸にした進め方が良かったのではないでしょうか。
河辺
座談会現場で実際に行っている取り組みは、上司と部下のコミュニケーションを密にして、仕事の効率的な配分をするなど基本的なことです。部長や課長が経営トップからのメッセージをしっかりと受け止めて取り組んでいる部署は、成果も上がっており、結果として品質や生産性の向上に直結していると感じます。
佐藤氏
トップがメッセージを出しても、部長や課長が動くとは限らないと思いますが、どのような仕掛けをつくったのですか。
河辺
まず、スマチャレでは残業時間の削減だけでなく年次有給休暇の完全取得をセットにしました。全員が有給休暇の完全取得を維持しつつ、お客様へのサービスレベルを維持するためにはメンバー間でのワークシェアを徹底するなど業務の見直しを行う必要があります。また、削減した残業代を原資に、特別ボーナスとして社員に全額を還元しました。これは、残業削減施策がコスト削減の目的でなく、真に社員の健康な働き方のためであることを示すものとして社員の心に響いたようです。また、公表している残業時間や有給休暇取得日数は、部課長などの管理職も全て対象にした集計値です。部課長も自分自身の業務の効率化を考えながら、組織全体の業務効率化に取り組んでいます。社員全員が一体感をもって取り組めたことが非常に良かったのではないかと考えています。

キャリア自立を目指し、一人ひとりへきめ細かいキャリア支援を実施

武石氏
人材育成では、本人が、仕事に対するやりがいや、成長しようという気持ち、ある程度の目標感を持つことが重要だと思いますが、SCSKではどのように取り組んでいますか。
河辺
当社の社員の8割を占めるIT技術者全員について、経済産業省が策定したITスキル標準(ITSS)に基づくレベル1からレベル7の認定を行っています。レベル4以上の中級者には、全社の高度IT人材から選出された300人の審査員が審査を行っていますが、その審査員から各自の強み、弱み、今後必要なスキルについてきめ細かいアドバイスをしています。それを受けて、本人が3 ~ 5年後、10年後のキャリア設計を考える仕組みへとつなげています。
佐藤氏
重要なのは、将来の市場環境などに関する予測が難しい時代になり、企業から求められる能力も変わっていくということを、社員自身がしっかり認識することです。これをやっていれば安心、というものはなく、変化に対応できる柔軟性、高い学習能力、幅広い能力を持つことが求められます。そのためには、社員が学び続けることが重要です。会社が仕事以外に使える時間を提供するとともに、勉強する社員を評価してあげることが大切です。そして、5年後、10年後のために役立つ勉強があるのだということを社員に理解してもらう取り組みが必要ではないかと思います。
河辺
確かに、将来に備えて学び続けることは非常に大切です。当社では働き方改革で生まれた時間を、自身の成長のためにも活用してもらいたいと考えています。2015年度から、キャリアを考える機会と具体的な方法を提供するキャリア研修の対象を広げ、内容も強化しているところです。また、これまでの研修や資格取得だけでなく、社外の技術交流やボランティア活動も含めた、広い意味での自己成長の機会を促す仕組みの導入を検討しています。こうした施策に、今後重点的に取り組んでいきます。

女性の活躍を推進する基盤の整備により、女性自身の意識・意欲も向上

武石氏
日本全体を見渡しても、女性の活躍は非常に停滞していると言わざるを得ません。SCSKでは、この課題にどのように取り組んでいますか。
河辺
当社では、女性管理職の人数が2015年に50名を超えました。育児と仕事を両立させて活躍する女性も着実に増えてきています。これまで試行錯誤を重ねてきましたが、働き方改革の取り組みにより残業時間も減少して、女性が活躍しやすい職場環境が整えられてきたことの成果だと思います。また、女性自身の意識・意欲がとても高まってきていることを感じています。これは、女性向けのキャリア研修やロールモデルとなる先輩社員との交流などの取り組みにより、多様な活躍の姿に触れることで、出産しても安心してチャレンジできる、という理解が広がってきているためだと思います。
佐藤氏
多くの企業では、育児時短などの制度を導入し、制度を使えば仕事と子育てが両立でき働き続けられるものの、フルタイム勤務には残業が多くて戻れない、ということが起きています。SCSKでは全社をあげて働き方改革に取り組んでいますので、復職後に早くフルタイム勤務に戻れるのではないでしょうか。また、女性が働き続けられる職場が特定の部署に偏らないことも必要です。
河辺
座談会そうですね。育児休業から復職し、早いタイミングでフルタイム勤務に戻る社員も徐々に増えてきています。今後、それぞれの専門性をさらに高め、一層活躍してもらいたいと考えています。そのための研修なども充実させていきますので、今後の成長がとても楽しみです。

社員一人ひとりの健康を大切に考えた働き方を徹底

河辺
当社では以前から社員の健康増進には積極的に取り組んできましたが、2015年度から新たに「健康わくわくマイレージ」制度を導入しました。これは健康への意識の向上と健康的な生活習慣を促す施策で、健康に良い行動の実践状況や健康診断結果とその改善に応じて特別ボーナスを支給するものです。
佐藤氏
さらに、健康をより広義に捉え、仕事以外の生活も含めて人生全体がいきいきしているかということも見据えて取り組んでいくとよいのではないでしょうか。
武石氏
社員意識調査で、「仕事とプライベートの調和を実現できていますか」という問いへの回答が、「そう思う」「ややそう思う」の二つで80%(P.49参照)というのは平均的な日本企業と比較しても驚異的な数字だと思います。
河辺
これは、「スマチャレ」の実施前と後とで確実に変わってきています。取り組みの成果として嬉しく感じています。
佐藤氏
働き方改革を進められたことにより、次の展開への条件が整いましたので、女性の活躍、ダイバーシティ経営、そして社員の生活改革を継続的に進めていただき、社員全員が仕事も生活も楽しんで、いきいきと充実した人生を送る方向を目指していただければと思います。
武石氏
まずはこの2~3年、SCSKの改革が相当なスピード感で大きく進んだことを非常に評価しています。IT業界というのはまだまだ残業も多い厳しい業界と見られていると思います。SCSKの取り組みがなぜこれほどうまくいったのかを共有し、IT業界全体の改善につなげていただければ、非常に社会的に意義のある取り組みになると期待しています。
河辺
働き方改革をしっかりと定着させ、働きやすい、やりがいのある会社とするためには、まだまだ取り組まなければならないことがたくさんあると考えています。本日いただいた多くのアドバイスや示唆を活かして、より良い会社にするようさらに努力を続けてまいります。
佐藤 博樹 氏
佐藤 博樹 氏

中央大学大学院戦略経営研究科(ビジネススクール) 教授

Profile

人事労務管理の専門家であり、日本におけるワーク・ライフ・バランス推進の第一人者。民間企業との共同研究として「ワーク・ライフ・バランス&多様性推進・研究プロジェクト」を2008年10月から開始し、ワーク・ライフ・バランスやダイバーシティ・マネジメントと企業経営の関係に関して理論的、実証的、政策的な研究を行う。

武石 恵美子 氏
武石 恵美子 氏

法政大学キャリアデザイン学部 教授

Profile

人的資源管理論、女性労働論の専門家。労働省(現・厚生労働省)で男女雇用機会均等法の施行などに携わった後、民間のシンクタンクなどを経て法政大学キャリアデザイン学部へ。現場の視点を大事にしながら、企業の人事管理と女性のキャリア形成、ワーク・ライフ・バランスと働き方改革などに関する実証研究を行う。