有識者との対談(2014年7月)

社長対談

「夢ある未来を、共に創る」という経営理念のもと、「人を大切にします。」を第一の約束として掲げるSCSKが、なぜこれほどまでに人材マネジメントを重視するのか。その意義と成果について、これまでの取り組みを外部からの視点で見つめ直し、今後の発展につなげていくため、SCSK 代表取締役社長 兼 COO 大澤 善雄が人的資源管理の専門家である東京大学社会科学研究所 教授 佐藤 博樹氏をお迎えし、対談を行いました。

働き方を見直し、事業に革新を起こす「スマートワーク・チャレンジ20」

大澤
2011年の合併を経て、当社では働き方改革「スマートワーク・チャレンジ20(スマチャレ20)」を推進してきました。原点にあるのは「健康経営」の考え方です。社員が心身ともに健康で、いつもクリアな頭で仕事に臨むことは、私たちの業務の品質と生産性を高めるために欠かせません。禁煙やメタボ対策などにも取り組みつつ、全社で働き方を徹底して見直し、効率化を進めて、業務時間の短縮に力を注いできました。その結果、2013年度の月間の平均残業時間は約22時間、有給休暇取得率は95.2%まで改善しています。
佐藤氏
業務時間を短縮しつつ、SCSKが順調に増収増益を続けていることは注目すべき点です。日本企業の労働生産性の低さがしばしば指摘される中で、これは極めて先駆的なケースだと思います。働き方の改革は仕事以外の生活にも大きな変化をもたらします。社員が自分の暮らしを見つめ直し、余暇を楽しむようになれば、そこで得た新たな発想が仕事の上でプラスに働くといった好循環も生まれてきます。
大澤
私もその通りだと思います。かつて私がドイツに駐在していたときの話ですが、現地の社員は毎日定時に帰るんです。その代わり、その間の仕事に対する集中力がすごい。そうやって決められた時間で成果を出して、仕事が終わったら社員の家族や家族と夕食、その後、友人とテニス、サッカー、サイクリングなどのスポーツやコンサートを見に行く。さらに年2回のバカンス(2ヶ月間)もしっかり取る。本当に豊かな人生を送っているなと実感しました。残業削減で生まれた時間の使い方ですが、家族との夕食に加え、趣味やスポーツ、さらに資格を取得したり語学力を磨いたりする社員も増えてきました。終業後の時間を活かした社員の多様な活動を社内報などでも紹介し、他の社員が参考にできるようにしています。
佐藤氏
そういった工夫は素晴らしいですね。家族で一緒に夕食を取りたい、やりたい勉強や趣味があるなど、動機が明確であるほど残業削減はいっそう進みます。
大澤
社員が自分で時間をマネジメントし、集中して働くことは、仕事のクリエイティビティを格段に向上させます。当社では年に一度、社内ビジネスアイデアコンテスト「イノワングランプリ※1」を開催し、当社ならではの新たなサービスモデルを生み出す取り組みを進めていますが、社員が目の前の業務締切にひたすら追われるような状況では、イノベーションを起こすような優れたアイデアは生まれません。
佐藤氏
「イノワングランプリ」は、働き方の改革が事業の革新にもつながるという分かりやすい事例だと思います。さまざまな社会的課題が山積される中、それを解決するようなITサービスが生まれてくることを期待します。

※1 イノワングランプリ:社員からイノベーションを起こすようなビジネスアイデアを募集し、優秀な企画に対して会社が事業化を支援するコンテスト。

ビジネスパートナー、お客様にも理解をいただく

佐藤氏
残業削減がかなり進んできた今、今後さらに求められるのは、社員を通してその家族の意識も変えていくことです。例えば、一般に子どもの保育園のお迎えは母親の役割と考えられがちです。最近では、女性社員の夫を会社に招いて家庭での協力を要請する企業も出てきており、SCSKでもそうした対策は有効なのではないでしょうか。
大澤
ワーク・ライフ・バランスの推進は、当社の社員を通して少しずつその家庭にも浸透してきたようで、第二子を授かった社員が2011年度比36%増となったことなどにそれが表れています。これは、働きながら子ども二人を育てることが可能だという認識が、当社社員とその家族の間に広がってきたということでしょう。
佐藤氏
もともとIT業界は、長時間残業など労働環境の厳しさが長らく指摘されてきただけに、そうした変化は大きな意義があります。SCSKがリードし、業界全体を変えるような動きを起こしていっていただきたいですね。
大澤
現状ではまだ、当社の取り組みに対して業界内から「こんなのはうちでは無理だ」という声が上がります。しかし実際には、社員にとっての働きやすさの実現は、優秀な人材を採用しやすくなるといった大きなメリットを会社にもたらすのです。また、IT業界では情報漏えいなどが重大なリスクとなる中、劣悪な労働環境では社員の倫理観やロイヤルティーを育てることはできません。お客様のオフィスに常駐して働く約2,100名の社員をフォローするため、お客様にも当社の方針を説明し、ご理解いただくよう努めています。もちろん、これらは労働時間に関わらずパフォーマンスをきちんと上げることが大前提になります。
佐藤氏
そこは誤解されやすい点かもしれませんが、残業削減や有給休暇取得を推進しつつ、あくまで成果にこだわるということは重要でしょう。業務時間の短さは、単に仕事が楽なことを意味するのではありません。
大澤
その通りです。私たちが追求する働きやすさはぬるま湯的な経営とは無縁であり、生産性・効率性を可能な限り高めることで、社員の暮らしを充実させながら業務品質を向上させていくものです。

働きやすい職場、やりがいのある仕事のいっそうの深化に向けて

佐藤氏
有給休暇取得率でも現状ですでに高い数値が出ていますが、次のステップとしては年に1 ~ 2回の連続取得を目指すことだと思います。ある社員が数日間職場を離れることになると、その間の情報共有をどうするか、周りはどう対処すべきかなど体制づくりが進みます。これは、いずれ親の介護などで休業者が出たときに備える良い練習にもなるのです。
大澤
確かに介護をめぐる問題は、当社でも今後より真剣に考えていかなければなりません。親の介護を気にする世代には、管理職など重要なポジションを任された社員も多く、その人が突然職場を抜けることになっても業務が滞らないような仕組みを構築しておくことが不可欠と考えています。
佐藤氏
介護による休業は突然発生しますが、長期間必要なものではありません。介護休業は自分で介護するための期間ではなく、各種介護サービスを利用しながら仕事と介護を両立していくための準備に費やす期間と考えた方がよいでしょう。どんな制度があり、どういう対応をしていけばいいのか情報を発信するなど、企業としても早め早めの対策をとっていくことが大切です。
大澤
ご意見、大いに参考にさせていただきます。また、今後に向けたもう一つの課題が、社員にとってやりがいのある仕事をどのように創出していくかという点です。これは働きやすい職場づくりと並ぶ重要な柱で、現状でもさまざまな評価制度を用意していますが、社員が仕事のおもしろさを肌で感じて毎日イキイキと働くためにできることは何か、さらなる検討が求められます。
佐藤氏
難しい課題だとは思いますが、ポイントとなるのは社員と会社の成長をいかに結び付けていくかでしょう。目の前にある仕事に全力で取り組んだ結果、社員が自分の成長を感じ、さらにはそれが会社の発展に貢献していると感じられれば、そこに達成感や充実感が生まれます。
大澤
来年度から開始する新たな中期経営計画の策定に向けて、現在社内でいろいろなチームをつくって議論を重ねています。次の3年間でどのように会社を育てていくか、社員総出で話し合っていく過程で、トップダウンとボトムアップが交わり、会社の成長と社員の成長がシンクロするような道が見つけられればと思います。そのためにも、社員には「夢ある未来を、共に創る」という経営理念を常に忘れず、当社のDNAとして一人ひとりの心に浸透していくよう、またそれを通して当社が高い価値を社会に提供できるよう、最大限に力を尽くしてほしいと願います。
佐藤 博樹 氏
佐藤 博樹 氏

Profile

東京大学社会科学研究所 教授人的資源管理、人事労務管理の専門家であり、日本におけるワーク・ライフ・バランスの第一人者。民間企業との共同研究としてワーク・ライフ・バランス推進・研究プロジェクトを開始し、ワーク・ライフ・バランスと企業経営および人材活用の関係に関して理論的、実証的、政策的な研究を行う。