Trust Base株式会社 様

AWSを基盤に、通貨オプション取引の自動プライシングシステムを
アジャイル型開発手法で短期に実現

顧客接点の高度化

三井住友信託銀行、Trust Base、SCSKのスクラムチームでDevSecOps体制を構築
日本の金融機関の競争力強化と金融市場全体の持続的な成長に向け挑戦
※DevSecOps体制:開発とセキュリティと運用を統合して行うことで高品質かつ迅速にサービス提供する体制のこと

事例のポイント

お客様の課題


【業務面】

  • 取引中に発生する煩雑なコミュニケーション、リードタイムを削減し、三井住友信託銀行やその顧客の事務負担を軽減したい
  • 地方銀行へもサービス提供し、金融業界の生産性向上に寄与したい

【システム面】

  • アジャイル型開発手法・DevSecOps体制で開発するノウハウが不十分
  • AWSを活用したサーバレス開発の知見が不十分

課題解決の成果


【業務面】

  • 通貨オプション取引の価格提示までのプロセスが自動化され、正確で素早い価格提示が可能となり、事務負担が減少した
  • サービス利用者は全国の地方銀行へと拡大、利便性向上の声が寄せられた

【システム面】

  • SCSKが提供するアジャイル型開発とテクニカルエスコートサービスの組み合わせにて、サーバレスかつ延べ20回のスプリントで短期間に開発、期待通りのサービスインを実現

導入ソリューション

  • AWS技術支援「テクニカルエスコートサービス」
  • アジャイル型開発(スクラム開発)支援

Trust Base株式会社
取締役CEO

田中 聡

Trust Base株式会社
デジタルテクノロジーセンター
センター長

山下 祐介

Trust Base株式会社
デジタルテクノロジーセンター
シニアマネージャー

白河 龍弥

「三井住友信託銀行の開発ルールを熟知し、
アジャイル型開発とAWSの知見にも長けたSCSKがプロジェクトに加わったのは自然な流れでした」

Trust Base 取締役CEO

田中 聡

背景・課題

通貨オプション取引の自動プライシングを実現する
「FX-OPTrust」をゼロベースで構築

 Trust Baseは、従来の枠組みにとらわれないDXを推進するため2021年4月に設立された三井住友トラスト・ホールディングス株式会社の デジタル戦略子会社だ。2023年10月に地方銀行などの取引先での利用を想定した通貨オプションの自動プライシングWeb サービス「FX-OPTrust」を三井住友信託銀行(以下、SuMiTB)へ提供開始した。

 通貨オプション取引とは、特定の通貨を、特定の期日に、あらかじめ定められた価格で売買する“権利”を取引することを指す。通常の為替先物予約では取引の実行を確約しなければならないが、通貨オプション取引では実際に権利を行使するかどうかをあとから選択できる点で大きな違いがある。例えば買い手にとって不利益となるような相場の変動があった場合、買い手は権利を行使しないことが可能だ。

 こうした特殊性もあって、通貨オプションのプライシングには多岐にわたる条件が必要で、取引前の試算段階では条件毎に数十パターンにも及ぶやり取りが電話やメールで行われてきた。簡潔に言えば、このコミュニケーションを自動化するのがFX-OPTrustだ。

 Trust Base 取締役 CEOの田中 聡氏は、その概要を次のように説明する。

 「お客様から受けた価格提示依頼に対して、SuMiTBの為替ディーラーは詳細な条件をヒアリングし、複雑な計算を経て検討した後に返答することになるため、それなりに時間を要します。また人間同士のやりとりでは、聞き漏らしや聞き間違いなど、意思疎通の齟齬が発生する場合もあります。これに対してFX-OPTrustでは、通貨オプション取引条件をシステムに入力すれば、データがバックエンドのプライシングエンジンやデータベースと連携して自動的に計算が行われ、正確で素早い価格提示をすることができる」

 まさにFX-OPTrustは、SuMiTBと顧客の双方の為替ディーラーの取引慣例を打破するシステムといっても過言ではない。ただし、その実現に向けては高いハードルがあった。

 Trust Base デジタルテクノロジーセンター センター長の山下 祐介氏は、「まったくのゼロベースからシステム提供に臨まなければなりませんでした。SuMiTBおよびその先にいる地方銀行などのお客様にSaaSによるサブスクリプションモデルでサービスを提供する基本方針を定めたものの、Trust Baseが本番サービスとして提供するプロセスや、具体的な開発規約、各種ドキュメントのフォーマットも当時はまだ確立されていませんでした。また、どんなUI/UXを提供するのか、システムの実装や運用方法はどうするのか等、全てがゼロからのスタートでした」と振り返る。

解決策と効果

AWSを開発・運用基盤に採用し
アジャイル/スクラム開発を推進

 銀行をはじめ金融機関におけるシステム構築では、徹底した要件定義に基づき仕様を確定した上での基本設計から詳細設計、システム実装へとプロセスを進めていくウォーターフォールモデルが一般的に採用されている。しかし前述したとおり、ゼロベースで臨まなければならない上、最短でサービスインを目指す事を考慮すると、今回のFX-OPTrust開発にその手法を適用するのは最善ではない。

 そこでアジャイル型開発手法の一つであるスクラム開発および DevSecOps体制を採用。初期開発からサービスリリース後の利用者ニーズを踏まえた追加サービス・機能開発までを含めて、Trust Baseが主導的な役割を担っていくことになった。

 Trust Baseはこのプロジェクトを確実なものとするため、スクラムチームの中心としてサポートの依頼をしたのがSCSKだ。

 「SCSK側のスクラムマスターをはじめとする中心メンバーは、もともとTrust Baseの設立当初から参画し、SuMiTBのさまざまなシステム開発にも携わっていました。SuMiTBにおける開発ルールを熟知するとともにFX-OPTrustのシステム化についても背景から理解しています。私たちにとって身内同然の間柄でありアジャイル/スクラム開発とAWSの知見にも長けたSCSKにプロジェクトに加わっていただいたのは自然な流れでした」と田中氏は語る。

 さらに、従来からSuMiTBが優先的に活用しているクラウドサービス、Amazon Web Services(AWS)を本システムの基盤として採用するにあたり、サーバレス開発の専門知識を補強する必要があった。そこでSCSKのAWS技術支援「テクニカルエスコートサービス」を活用し、SCSK社内のAWS専門エンジニアがスクラムチームに対して全面的な技術協力を行いFX-OPTrustの開発が進められていった。

 「AWS Lambda(コンピューティング)やAWS Step Function(分散アプリケーションのワークフロー)、Amazon Cognito(ユーザー管理)などAWSが提供しているサーバレスのサービスをはじめ、IaC(Infrastructure as Code)の技術を積極的に活用しながらアプリケーションの短期開発を目指すアジャイル/スクラム開発を実践してきました」と山下氏は語る。

 具体的には2022年7月から約半年をかけて、まずは利用者をSuMiTBに限定したPoC(概念実証)を実施。そして2023年1月から、実際に地方銀行のサービス提供を見据えた本番システムの開発に着手し、延べ20回近いスプリントを繰り返してきた結果、同年10月にリリースに至ったというのがここまでのプロジェクトの大まかな経緯だ。

 Trust Base デジタルテクノロジーセンター シニアマネージャーの白河 龍弥氏は、「SCSKのスクラムマスターの発案のもとで毎朝デイリースクラムを実施し、各自が抱えている課題点を皆で共有するなどチームビルドの一体感を高めてきました。こうした地道な取り組みが、短期間でのプロジェクト成功につながったと実感しています」と語る。

 続けて田中氏も「初のシステム化という難しい開発ながらUI/UXのデザイン面にもこだわり、ユーザーが使いたくなるレベルに仕上がったと自負しています」と、手応えを示す。

図:三社によるスクラムチームで本番リリースされたシステムイメージ
図:三社によるスクラムチームで本番リリースされたシステムイメージ

今後の展望

積極的なアプリケーション展開を進め
金融機関のDXと持続的な市場成長に貢献

 実際にFX-OPTrustの利用を始めたある地方銀行からは、「従来よりも圧倒的に短時間で通貨オプション取引の価格提示を受けられるようになり、非常に便利になった」といった声が寄せられている。このようにFX-OPTrustはSuMiTBと顧客の双方の業務効率化に貢献しており、利用者は全国の地方銀行へと広がりを見せている。

 もちろん取り組みはこれで終わりではない。「DevSecOpsの体制をそのまま現在も維持しており、利用者の声を取り入れながら、FX-OPTrustの機能や使い勝手、セキュリティのさらなる改善を進めていきます」と白河氏は語る。

 一方で、そもそも通貨オプション取引のプライシングは、それ自体が新たな価値を生み出すわけではない。そうした中で発生していた煩雑な手間やコミュニケーション、リードタイムを削減することで、SuMiTBと顧客の双方の為替ディーラーの負担を軽減し、本来の専門性を生かした業務に専念することが可能となる。「FX-OPTrustがもたらすこのメリットを、広い市場に訴求していきたいと思います」と語るのは山下氏だ。

 また、今回リリースにこぎ着けたFX-OPTrustは、今後より積極的なアプリケーション展開を進めていこうとしているTrust Baseにとって、あくまでも最初の一歩である。

 「SuMiTBが手掛けているインターネットバンキングや資産運用、ローンといった幅広いサービスの中には、私たちが技術的な側面から改善に貢献できる余地は、まだまだたくさん残っています」と田中氏は語っており、SCSKとのスクラムチームを強化しながら多様なアプリケーション開発に臨み、金融機関のDXならびに金融市場全体の持続的な成長に向けたチャレンジを続けていく考えだ。

集合写真

SCSK担当者からの声

今回のスクラム開発では二週間単位でスプリントレビューを行い、SuMiTBのユーザー様に新機能の提供を繰り返し行いました。マイクロサービス、サーバレス構成、CICDパイプライン、自動テストを組み合わせることにより、インフラも併せてブロックを組み立てていくような感覚で、品質を担保しつつ着実にシステムを構築することができたと考えております。知見を活かしつつ、今後もTrust Base様における「従来の枠組みにとらわれないDX」の実現を目指し、引き続き尽力していきます。

金融事業グループ 金融システム第一事業本部 銀行システム第四部

久世 和人

Trust Base様初の本番システム開発に携われた事、大変光栄に思います。今回のプロジェクトでは、お客様のスクラム開発へのご理解とご協力のもと、弊社のAWS技術支援サービスを活用した総合力を発揮する事で短期間に顧客満足度の高いシステム構築が実現できたと考えております。今後もTrust Base様の革新へのチャレンジにご協力できると幸いです。

金融事業グループ 金融システム第一事業本部 銀行システム第四部 副部長

寺島 雅祐


お客様プロフィール

Trust Base株式会社

所在地:東京都千代田区大手町1-6-1 大手町ビル2F
設 立:2021年4月1日
U R L:
https://trustbase.co.jp/

従来の枠組みにとらわれないDXを推進するために設立された、三井住友トラスト・ホールディングスのデジタル戦略子会社。「共創と革新」をビジョンに掲げ、「UXデザインセンター」「ビジネスデザインセンター」「データサイエンスセンター」「デジタルテクノロジーセンター」「デジタルオペレーションセンター」「セキュリティインフラセンター」の6つのセンターを軸とした事業を展開している。

2024年3月初版