はじめに
生成AIブームの追い風を受けて、企業のAIに対する期待は膨らんでおり、将来的に本番業務へのAI適用が見込まれます。しかし、本番業務への適用へは多くの課題があるのも事実です。
本記事ではまず、企業が直面するAI時代の3大ボトルネック(PoC止まり・GPUコスト・データサイロ)を整理し、続いてOpenShift AIがそれらをどう“仕組み”で解決するかを具体的に解説します。
「AIを作るだけでなく、育て続けて価値を生む」——その実践的な道筋を、OpenShift AIを例に紐解いていきます。
1. 企業が抱えるAI時代の3大ボトルネック
生成AIのブームは「まずやってみよう」という追い風を生み、PoC(概念実証)案件の数は爆発的に伸びました。
しかし実際には多くの生成AI技術がPoCだけの実施にとどまり、本番導入前に頓挫しているという事実もあります。
実証実験と事業化の間には深い谷があります。要因はモデルの精度不足だけではなく、ステークホルダー間で評価指標が共有されない、セキュリティやガバナンスの審査に時間がかかる――といった“組織的摩擦”が色濃く表れます。
その一方でインフラコストは右肩上がりです。たとえばH100クラスのGPUをクラウドで借りると1時間あたり2.99〜9.98 USD、月換算で数万ドルに達するケースもあり、開発チームが気軽に「もう1ジョブ回そう」と言えない現実があります。
さらにAIの“燃料”であるデータも簡単には集まりません。多くの企業が「データの統合がAI成果に不可欠」と理解はしている一方で、部門ごとに倉庫やETLが乱立し「サイロ化された構造を壊すだけで半年」という声は珍しくありません。
このように生成AIの活用には
- 「PoC止まり」
- 「インフラコストの高騰」
- 「データ統合」
の3つの大きな課題があります。
2.OpenShift AIとは?‐‐企業のAI活用における3大課題を解決する統合プラットフォーム‐‐
Red Hatがリードして開発しているオープンソースフレームワークOpen Data HubはAI/ML開発に必要なコンポーネントをコンテナ型のサービスで提供するオープンプラットフォームで、オープンソースのAI/MLツールの開発・運用を自動化・セルフサービス化を実現します。
Red Hat OpenShift AI は、Open Data Hub をベースに「データ取得→学習→サービング→監視」をワンストップで回せるエンタープライズ向け AI プラットフォームです。自己管理型(セルフマネージド)とフルマネージドの両エディションがあり、オンプレミス/各種クラウド/エッジをシームレスに跨ぐハイブリッド構成を前提に設計されています。実験用 Notebook、CI/CD パイプライン、モデルレジストリ、vLLM ベースの推論基盤、そして監視・ドリフト検知までが同一 UI/API に統合されている点が最大の特徴です。
2.1 「PoC 止まり」をどう乗り越えるか
PoC で精度を確認したものの、本番環境への移行でつまずく企業の多くは「データサイエンス/アプリ開発/運用」の手続きやツールチェーンが分断しています。OpenShift AI では GitOps & MLOps のテンプレートが標準提供され、Notebook 上の実験コードをそのままパイプラインに載せてステージング→本番へと昇格できます。セキュリティスキャンや監査ログも同一 YAML に含まれるため、社内稟議やガバナンスチェックを短縮し、“実験で終わらない”フローを制度化します。
2.2 GPU コスト高騰への処方箋
GPU は AI 予算のボトルネックですが、実際には稼働率 50 % 未満で遊んでいるケースが珍しくありません。OpenShift AI には Run:ai オペレーターが公式サポートされており、ジョブの優先度や分割(fractional GPU)を考慮してクラスタ全体の空き GPU を自動スケジューリングします。さらにOpenShift AIはKueueの機能によりGPU、CPU、メモリリソースを割り当てます。実行ジョブに優先度をつけて、優先度の高いジョブへのリソース割り当てや、クォータの貸し借りによるリソースクォータで割り当てられたリソースを超えた割り当て、ギャングスケジューリング(必要リソースがそろってからのジョブ開始)が可能です。
これらの機能により「追加で H100 を買う」前に、まず既存資産の稼働率を高める選択肢が取れるわけです。
2.3 データサイロとモデル運用の一体化
“モデルの燃料”となるデータが部門ごとに散在している課題には、Data Connections 機能が効きます。S3、DB、Kafka ストリームなど多様なソースを宣言的にマウントし、特徴量パイプラインに直接流し込めるため、データエンジニアが個別に ETL を組む負担を軽減できます。
データプレップ領域や再学習のためのデータ連携についてはNebulaShift diで詳しく紹介していますので、こちらをご参照ください。
3. AI開発の全体像
OpenShift AIでは、AIモデル開発からアプリケーションへのサービングを、以下の図のようなソフトウェアスタックにより実現できます。
3.1 開発者によるモデル開発
ワークベントイメージとしてMinimal Python、Standard Data Science、PyTorch、TensorFlowなどのイメージがあり、カスタマイズされたワークベンチイメージを作成してインポートすることも可能です。
データサイエンスパイプラインには、Argo Workflows および Kubeflow が使用され、Elyra GUI を使用して視覚的に作成することが可能です。
事前にイメージやデータを準備すれば、開発環境を数クリックで払い出し可能です。
3.2 モデルサービング
OpenShift AIではモデルサーバ、モデルサービングランタイムにより開発したモデルを自動的にデプロイすることが可能です。
生成 AI 向けには AI Inference Server がバンドルされ、vLLM を最適化した高速推論を “どのモデルでも・どのアクセラレータでも” 実現し、マルチクラウドやエッジへの展開も同一ワークフローで統一できます。
モデルストアからモデルファイルをダウンロードし、標準の REST または gRPC API を介してモデルを公開します。
KServe をモデルサービングプラットフォームとして使用し、OpenVINO や vLLM などのモデルランタイムをサポートします。
vLLMは、大規模言語モデル(LLM)をGPU上で高速かつ高効率で推論するためのエンジンです。特徴としては、GPUメモリの断片化を劇的に削減することにより、複数の推論リクエストを同時に処理する際のバッチ処理スループットを最大化し、応答時間を短縮します。今後のブログでもご紹介予定です。
3.3 モニタリング
サービングしたモデルに対して、Prometheusなどを用いてモニタリングを行います。
4. 次回予告
次回はOpenShift AIを実際に使いながら、機能や使い方を解説していこうと思います。お楽しみに。