現在進行中のGHGプロトコル(スコープ2)の改定で大きな議論となっている「24/7カーボンフリー」について取り上げます。このテーマは、4月に開催されたREC Market Meetingでも注目を集めており、会計手法の観点では「時間単位マッチング(hourly matching)」がその核を成しています。
前後編に分けてお届けする本シリーズでは、前編で「24/7カーボンフリーとは何か」「なぜいま必要とされているのか」を整理し、後編では、GHGプロトコル改定における最新の議論や、日本でトラッキングシステムに関わる立場としての導入可能性について独自見解を交えて解説します。
24/7カーボンフリー(CFE)とは? 時間単位マッチングとは?
成り立ち
24/7 CFE(Carbon-Free Energy)とは、「すべての場所で、すべての時間帯に、電力需要をカーボンフリーなエネルギーで満たすことを目指す」という考え方です。2021年には、国連とNPOのSustainable Energy for Allが共同で「24/7 Carbon-Free Energy Compact」を立ち上げ、国際的な枠組みとして推進を開始しました。さらに2024年10月には、CDP(カーボンディスクロージャープロジェクト)を運営する英国のNPO「The Climate Group」も、「24/7 Carbon-Free Coalition」という新たなイニシアチブを発足させています。
こうした動きを牽引する存在の一つがGoogle社です。2017年に再エネ100%を達成した同社は、2030年までに全世界のオフィスやデータセンターにおける電力消費を、事業を展開するすべての地域で24時間365日、カーボンフリー電力でまかなうという、極めて意欲的な目標を掲げています。
この24/7 CFEを支える会計手法が「24/7 hourly matching(時間単位マッチング)」あるいは「Granular Accounting」と呼ばれるものです。従来の「年単位マッチング」では、その年に消費した電力のうち、どのくらいの割合がカーボンフリーであったかを、1年間を通じて平均的に算出します。
一方、「時間単位マッチング」は、毎日・1時間ごとに、実際の消費電力量と調達したカーボンフリー電力量を突き合わせていく手法です。

実現すること
ご存じのように、電力の使用量は季節や曜日、時間帯によって大きく変動します。たとえば、昼間は外出していてあまり電気を使わないが、朝晩に集中して使用するというケースは一般的です。年単位マッチングでは、こうした時間ごとの差を反映することができません。
「時間単位マッチング」は、「何月何日の何時に、どれだけの電力を使い、それに見合うカーボンフリー電力を調達したか」を、きめ細かく把握・記録することで、時間ごとに使用している電力の状況を認識できるようにします。
なぜ必要なのか?
議論されている背景
24/7カーボンフリーエネルギー(CFE)が注目される背景には、気候危機への迅速な対応が求められているという現実があります。電力系統の脱炭素化を急ぐなか、年単位マッチングは初期のアプローチとしては有効でしたが、現状の課題を解決するには限界があるという認識が広がっています。これに代わる、より精緻な手法として時間単位マッチングが登場したのです。
では、年単位マッチングにはどのような問題があるのでしょうか? 先述のとおり、年単位での算定では、1年間に消費した電力量と、その間に調達したカーボンフリー電力量(再エネ証書を含む)をマッチングして、全体としての排出量を計算します。
この手法では、実際の排出実態を過少に報告してしまうリスクがあります。たとえば、「100%再生可能エネルギーを達成した」とする企業の主張が、実は太陽光や風力の供給が不安定な時間帯(夜間や無風時)には化石燃料に依存していた、ということがあり得ます。
さらに、議論は"時間"だけでなく"地域"にも及んでいます。これまでの制度では、実際には電力供給が不可能な遠方地域で生産されたカーボンフリー電力に基づく再エネ証書も使用が認められていました。
しかしそれは、物理的にはその地域の電力網に流通していない電力を「使った」と主張することになり、整合性を欠くと指摘されています。
このように、時間・地域の両面で整合性を重視する流れのなかで、より正確で信頼性の高い排出量の算定を可能にする手法として、時間単位マッチングが求められているのです。
時間単位マッチングを実施することのメリット
ここまで、年単位マッチングの限界と、それに代わる時間単位マッチングの必要性について見てきました。では、時間単位マッチングを導入することで、具体的にどのような効果が期待できるのでしょうか。
- 排出量算定の正確性と透明性の向上
時間単位で電力の消費と調達を照合することで、「その時間に実際に使った電力」がどの程度クリーンであったかを正確に把握できます。これにより、報告内容の信頼性が高まり、対外的な説明力も強化されます。
- 排出削減行動の促進
時間ごとのマッチングでは、脱炭素化が難しい時間帯への対応も避けて通れません。これにより、企業はピーク時間帯の消費を抑えたり、新たな再エネ調達手段を模索したりと、具体的な削減行動を取るようになります。実際に研究でも、追加的な再エネ導入や排出削減につながる効果が示されています。
- 適切な技術への投資を後押し
電力の時間単位でのトラッキングと認証を推進しているNPO「EnergyTag」は、Granular Certificates(時間単位証書)の導入を進めています。これにより, 価格変動を通じた需要のシグナルが市場に届き, 企業や投資家が蓄電池や柔軟性を持つ電源技術への投資を進めるインセンティブが生まれるとされています。
おわりに
今回は、24/7カーボンフリーという考え方と、それを実現するための時間単位マッチングという手法の基本を紹介しました。この手法は、排出量の算定をより正確かつ透明にし、電力系統の脱炭素化を加速させるとともに、持続可能な技術への投資を後押しする可能性を秘めています。
後編では、現在進行中のGHGプロトコル改定においてこのテーマがどのように議論されているのか、また、4月にアムステルダムで開催されたREC
Market Meetingにおける具体的な議論内容について、さらに深掘りしていきます。
(執筆者:SCSK株式会社 EneTrack事務局 西谷)