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REC Market Meeting 2025 参加レポート

2025年4月アムステルダムで開催された「REC Market Meeting 2025」に参加しました。EAC(Energy Attribute Certificate)の専門家が世界中から集うカンファレンスの模様をレポートします。

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REC Market Meeting 2025

REC Market Meeting とは

2025年4月7~9日にアムステルダムで開催された「REC Market Meeting 2025」に参加しました。この国際カンファレンスは、エネルギーの属性証明制度(EAC:Energy Attribute Certificate)に関わる世界中の専門家が集い、制度の現状と未来について議論する場です。

今年のテーマは「Investing in Impact」。再エネをさらに増やすために、制度・市場の信頼性とインパクトをどう高めるかが、全体を貫くメッセージでした。

今年の会場は昨年と同様でしたが、参加者はさらに増加し700~800名が参加したようです。日本からは当社を含め2社にとどまりましたが、世界の潮流を肌で感じる貴重な機会となりました。

電力から多様なエネルギー源へと広がる属性証明

今年の最大の特徴は、再生可能ガスに関するセッションが全体プログラムに組み込まれた点です。カンファレンス全体の構成は開会と閉会のキーノートセッション以外は常に複数のセッションが並行して開催されており、その一枠が必ずガス関連のテーマで埋められていました。

水素の属性証明に関するセッションも設けられており、エネルギー属性証明の対象が電力から多様なエネルギー源へと広がっていることを実感しました。

個別セッションは多岐にわたりましたが、このコラムではカンファレンス全体を通じて、印象に残った2つのテーマをご紹介します。

① 需要側への規制・消費者の力

再エネ普及の鍵は需要側への規制強化か

これまでエネルギー属性証明(EAC)は、自主的な取り組み(ボランタリー)として発展し、再生可能エネルギーの拡大に大きく貢献してきました。近年では、国家制度の一部として位置づけられるケースも増えており、制度としての枠組みが強化されつつあります。

このような状況の中で、さらなる再生可能エネルギーの導入を促進するには、「規制の力」が必要なのか、それとも「自主的な力」がより重要なのかという問いが投げかけられました。

あるパネリストは、自主的な取り組みや自由意思によって再エネが選択されることの意義を強調し、その力を信じていると語りました。この意見には、他の登壇者からも賛同の声が上がりました。

一方で、「インパクト(=より早く、より多く再エネを導入する)」という観点からは、やはり規制の力が必要であるとの見解が主流を占めていたのが印象的でした。多くの地域ではすでに何らかの規制が存在していますが、それらの多くは供給側に対して適用されており、今後さらに再エネを拡大していくためには、需要側への規制強化が重要な鍵を握るという考えが示されていました。

もっとも、需要側への規制は景気への影響が大きいため、慎重に設計・導入する必要があるという点もあわせて指摘されています。そうしたリスクを踏まえつつも、再エネの導入を大きく前進させるインパクトある施策として、需要側への規制が注目を集めていたのが印象的でした。

完全な情報開示が消費者の選択を支える

この議論と呼応するかたちで浮かび上がったのが、「消費者の力」です。再エネを本当の意味で拡大させるには、消費者に選ばれる必要がある。たとえ価格がやや高くても、環境負荷の少ない(あるいはゼロの)商品を選びたいという消費者の意識が、企業の再エネ選択を後押しし、その結果として再エネの生産が拡大していく----そんな因果関係が語られていました。

この流れを支えるためには、電力がどのように生産されたかという情報を、供給者だけでなく需要者も開示し、最終的には商品のラベルにまで反映させることが重要です。つまり、消費者が"選べる状態"をつくるための情報基盤の整備が求められているのです。再エネに限らず、火力や原子力を含むあらゆるエネルギー源について、その生産由来を開示する「完全な情報開示(Full Disclosure)」が、消費者の選択行動を支える鍵になるという議論が交わされていました。

また、来年以降は規制当局との連携を一層強め、制度設計の議論をより進めていく方向性が示唆されていました。

② マッチングの粒度 ~ アワリーマッチング ~

24時間365日(24/7)の時間単位でのマッチング

現在進行中のGHGプロトコル改訂においても重要なテーマとされている「24時間365日(24/7)」の時間単位でのマッチングについて、多くの議論が交わされていました。

エネルギー属性証明制度の信頼性を高めるには、電力を消費した時間と、再生可能エネルギーが発電された時間(証書のタイムスタンプ)を可能な限り一致させることが必要とされています。この取り組みによって、制度の透明性と信頼性が向上するだけでなく、再エネの導入拡大にもつながるという考え方が共有されていました。

立ちはだかるインフラ面の課題

一方で、この考えを実装に移すには、インフラ面での課題が大きく立ちはだかります。データ取得方法やマッチングの仕組みを整備できる地域は限られており、むしろ整備が難しい地域の方が多いのが現状です。そのため、「理想」と「現実」のギャップをいかにして埋めていくかが、議論の中心となっていました。
とはいえ、昨年の会議と比べてこのテーマへの注目度は明らかに高まっており、今年は単なる理想論ではなく、具体的な導入課題として取り上げられていた点に大きな変化を感じました。

なお、「アワリーマッチング(hourly matching)」については、別のコラムであらためて取り上げたいと考えています。

おわりに

エネルギー属性証明(EAC)は、単なる再生可能エネルギーの証書ではなく、エネルギーそのものや、それを用いて製造される製品(商品)の「信頼性」を担保する社会インフラとしての重要性が、これまで以上に高まっていると感じました。

さらに現在では、電力にとどまらず、ガスや水素といった他のエネルギー源にも同様の属性証明が求められています。加えて、アワリーマッチングのように、より高い精度での証明が必要とされる中で、こうした仕組みを手間とコストの両面で持続可能なかたちに設計していくことは、ITに携わる私たちに課せられた重要な責務であると、改めて強く認識しながら帰国の途につきました。

これからもEneTrackは、企業の脱炭素の取組みや日本の再エネ推進の一助となるため、日本I-RECの普及に取り組んでまいります。

(執筆者:SCSK株式会社 EneTrack事務局 西谷)

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