「OSSユーザーのための勉強会」の取り組み

5年目を迎えた『OSSユーザーのための勉強会』
多くのリピータに支持され続ける理由とは

Part.1

Part.2

Part 1

『OSSユーザーのための勉強会 <OSS X Users Meeting>』は、大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構 国立情報学研究所(以下、NII)が運営する教育事業「トップエスイープロジェクト」と、NIIの研究センターのひとつのGRACEセンター(先端ソフトウェア工学・国際研究センター)の協力の元、SCSKが中心となって年3~4回、参加費無料で開催している勉強会です。

毎回注目のOSSをテーマに選び、その分野の第一人者をお招きして講演を行っています。その目的のひとつは、開発コミュニティの当事者とOSSを学びたい人に多数ご参加いただき、座学だけではなく懇親会も用意して、参加者同士の交流・相互理解を通じて共に見識を高めあえることです。

2012年10月開催の第1回から今年は5年目を迎え、直近の2017年6月で19回目の開催となりました。

そこで今回は、『OSSユーザーのための勉強会』(以下、勉強会)のこれまでの歩みと成果について、R&Dセンター 技術戦略部 OSS戦略課 シニアプロフェッショナルITアーキテクトの渡邊 範尚と、R&Dセンター 技術戦略部 OSS戦略課 プロフェッショナルビジネスクリエータの湯川 栄治に話しを聞きました。

旬なOSSを取り上げ、ライバル関係にあるOSSを比較する“対決シリーズ”
— この勉強会をスタートさせた経緯について教えてください。

渡邊: 勉強会の運営母体であるR&Dセンター 技術戦略部 OSS戦略課は、サービス/システムの構築、運用におけるOSSの利用促進と、OSSの適正利用の啓蒙活動/仕組みづくりを目的に立ち上げられました。また、OSSを取り扱って活動する以上、OSSを開発しているOSSコミュニティへの貢献、そして広く社会におけるOSSの利用促進にも努める必要があるという思いから、NII様に相談をしたところ、今旬なOSSをテーマにした勉強会を開催したらどうかというアイデアが浮かび、一緒にスタートさせました。

図1 SCSKが主催する『OSSユーザーのための勉強会』< OSS X Users Meeting >の概要

図1 SCSKが主催する『OSSユーザーのための勉強会』< OSS X Users Meeting >の概要

湯川: これまでの5年間で24本のOSSを取り上げ、40を超える企業や組織の方々に講師を務めていただきました。過去19回に取り上げたテーマはこちらです。

— 勉強会で取り上げたOSSのテーマはどのように選定していったのでしょうか?

湯川: 勉強会の基本方針は、“旬な、注目のOSSを取り上げる”ということにしているので、当社のもうひとつの取り組みである『OSS Radar Scope®』に掲載しているビジネス利用を目的とした品質が安定し、成熟したOSSとは対照的なものになります。そのため、巷で話題となっている最新のOSSを中心に年間のテーマを選定しています。

テーマの選定にあたっては、海外のオープンソースコミュニティサイト「opensource.com」が毎年発表する“Top10 OSSプロジェクト”にランキングされたOSSも参考にしています。また、勉強会に参加された方のアンケートに記載されたご要望や、勉強会のリピータや常連の方々とのメーリングリスト経由でのご意見なども参考にして、最終的にはOSS戦略課のメンバーで協議して選定しています。

テーマが決まったら、講演を担当していただく識者・組織を探すのですが、最初の頃は身近な社内の技術者やグループ会社の専門家、またはお付き合いのある企業の方にご紹介いただいたケースもありました。8回目の開催くらいからは、ネットで識者・組織を探し、直接イベント会場に押し掛けお願いしたり、SNS経由で講演依頼の交渉をすることが多くなりました。

図2 『OSSユーザーのための勉強会』で取り上げたテーマ

図2 『OSSユーザーのための勉強会』で取り上げたテーマ

渡邊: そのうち、ひとつのOSSを取り上げる勉強会だけでなく、バリエーションを拡げ2014年の第6回の「MySQLの優位性」×「PostgreSQLの優位性」のRDBMS対決や、第8回の「Plone」×「Drupal」のCMS対決というように、ライバル関係にあるOSSの違い、長所を分かりやすく比較する“対決シリーズ”も企画するなど工夫も行ってきました。

湯川: “対決シリーズ”は、それぞれの応援団も参加するので盛り上がりました。しかし、総合格闘技のようにガチンコ対決にしてしまうといささかギスギスして後味が悪くなってしまうので(笑)、相手の技も受け、相手の良さも際立たせた上で勝利を目指すプロレスのように、聞いていて楽しめるような”対決”にしていただきました。

渡邊: また、2015年 第11回は、トップエスイープロジェクトからのご要望で、特定のOSSではなくOSSを利用した開発のプロジェクト管理をテーマに開催し、2017年 第18回はいま最も注目されているAIを取り上げたりするなど、テーマ選定は型にはまらず柔軟に行ってきたつもりです。

リピータが3~4割を占めるなど常連が多いのも当勉強会の特徴
— テーマが決まったら講演者の招聘が重要になりますが、苦労もあったのではないですか?

湯川: いまとなっては、苦労も忘れました(笑)。みなさん、技術者として自分が“押している”OSSの紹介ということなので、自ら進んで情報発信されることが多かったです。スケジュールや海外出張などの業務都合でお断りされることはありましたが、講演を断られるケースは少なかったですね。反対に、情報発信の場を与えてもらって嬉しいという方が多いように感じました。

渡邊: 全くその通りで、協力企業の中の数社からは、OSSを開発する立場として、これからも勉強会に講師派遣などで協力するので情報交換を継続していきましょうと申し出ていただきました。大手企業はさまざまなOSSを扱い、最新のトレンドをキャッチアップしているので、大変ありがたい存在です。

企業のみならず様々な団体からも、自ら開発したOSSを広くアピールしたいという思惑もあり、そうした形でこの勉強会をご利用いただくことも歓迎しています。

湯川: さらに、ITエキスパート向け専門メディア「@IT」(アットマーク・アイティ)を運営するアイティメディア株式会社様より勉強会の主旨にご賛同いただき、メディア協賛と言う形で協力していただいています。

— どのような参加者が多いのですか。その中にはリピータもいらっしゃるのですか?

渡邊: 勉強会への参加者は、ほとんどがエンジニアといっていいでしょう。平日の業務時間外の時間を勉強会への参加に当てるので、テーマに興味がある方や実際にそのOSSを利用している方はもちろん、新しい技術を貪欲に吸収しようという意欲がある方も多いようです。リピータの方が3~4割を占めることも多く、常連が多いのも当勉強会の特徴です。

懇親会とLTはOSSユーザーのための勉強会の魅力のひとつ
— リピータがそれほど多いとは驚きです。理由はなんでしょうか?

湯川: 理由のひとつは懇親会にあります。懇親会は講演者と参加者の交流と意見交換の場であり、OSSを利用する上で苦労されている方の本音を聞くことができるほか、講演者が普段ネット上でしか知り得ないOSS開発者本人の場合、直接会話して刺激を受けることができる貴重な場にもなるので、大いにご利用いただきたいと思っています。また、懇親会を利用して、リピータの方に次回はどのようなテーマを選べばいいのかアドバイスやご意見をいただくこともあります。そうした常連の方は知的好奇心が強く、情報の“引き出し”が多いのでとても参考になります。

渡邊: さらに、懇親会ではライトニングトーク(LT)も名物となっており、講演で取り上げたOSSと同分野のライバル製品の紹介がされることもあり、それを楽しみにしている方もいらっしゃいます。OSS開発の成果を発表者がプレゼンする時間帯は皆さん飲食も忘れて聞き入り、刺激を受けて意見交換や質疑応答が続くなど、大変盛り上がっていますね。

湯川: つけ加えると、自画自賛になりますが懇親会の料理も美味しいというご感想が多いです(笑)。特に新規で参加された方は、参加費無料なのに用意されている料理の質と量には驚かれるようですね。料理にこだわるには理由があり、講演の全セッションが終了する頃は夕食の時間帯になっているため、難しい話の後においしい食事とお酒が提供されれば皆さんの心も開きやすくなり、講演の時間内ではできなかった質疑応答や突っ込んだ話もざっくばらんにできるのではないかというわけです。事実、毎回懇親会まで参加される方も多く、皆さんリラックスして活発に交流されているのを見れば、毎回どんなメニューにするか頭を悩ます甲斐があるというものです(笑)。

渡邊: まさに、懇親会とLTはOSSユーザーのための勉強会で不可欠な要素になっているといえるでしょう。

図3 常連の参加者も多い勉強会。普段交流のない技術者同士で情報交換できる懇親会も楽しみのひとつ

図4 食事も美味しいという評判(?)の『OSSユーザーのための勉強会』

— ここまでの話で勉強会に興味をお持ちになった読者も多いと思います。
勉強会で取り上げた過去の講演資料は入手できますか?

湯川: 第1回からの講演資料はこちらからPDFファイルで入手できます。

では、次回Part 2では記念イベントとなった第18回の概要と、普段勉強会に参加しているOSSユーザーの生の声について話を聞きます。ご期待ください。

(インタビュー実施時期:2017年7月)