セキュリティコラム

vol. 08 2020年10月 GIGAスクール構想で学校はどう変わる?

【vol.08】GIGAスクール構想で学校はどう変わる?

2019年12月に文部科学省から発表された「GIGAスクール構想」によって、教育のあり方が変わろうとしています。ICT技術が発達し、ICTを利用した業務が一般的になって久しい今日ですが、学校教育ではいまだ浸透しているとは言い切れない現状です。

昨今の新型コロナウイルスの感染拡大の影響もあり、GIGAスクール構想はより早期実現が求められているといえるでしょう。しかし、そもそもGIGAスクール構想がどのようなものなのか、何が変わるのかがわからない、という方も多いのではないでしょうか。

そこで今回は、GIGAスクール構想の概要から、OECD諸国と比べた日本の現状に鑑みながら今後の学校教育がどのように変わっていくのか、実現のために何が必要なのか、を解説します。

GIGAスクール構想とは「児童生徒1人1台のコンピュータの実現」を目指す政府の施策

GIGAスクール構想とは「児童生徒1人1台のコンピュータの実現」を目指す政府の施策

GIGA(Global and Innovation Gateway for All)スクール構想とは「児童生徒1人1台のコンピュータと高速大容量の通信ネットワークの整備の実現」を目指す政府の施策です。子どもたち一人ひとりに個別最適化され、創造性を育む教育ICT環境の実現を目的としています。

GIGAスクール構想では、学習者用端末や校内LAN整備の標準仕様が示されており、環境整備のためのスキーム(枠組み)も考えられています。国(文部科学省)から補助金を受けた補助金執行団体(補助事業者)に各市区町村、リース事業者などが申請を行なうことで端末の購入・リースによる負担軽減が実現可能です。

また、都道府県レベルでICT環境の標準化が図れ、この枠組みに参入することで知見の少ない自治体でも容易に整備が可能となります。

GIGAスクール構想が実現することで、従来は児童・教員ともに学校という現場でのみ行なわれていた学校教育を自宅からも行なえるようになります。

校務支援システムや学習用ツールをクラウド環境上に構築することで場所を問わずに教育を行なえるようになり、児童向けには家庭学習の実施や保護者への情報共有が実現可能です。

また、教員の働き方としてテレワークが導入できるようになり、働き方改革にもつながります。日本の教員の勤務時間は、OECD加盟国のなかで最も長いことが国際教員指導環境調査(TALIS2018)でわかっており、対策が必要とされています。

児童・教員ともに多様化が進む令和時代におけるスタンダードな学校教育の構想が、GIGAスクール構想なのです。

日本はOECD諸国に比べるとICT教育が遅れている

日本はOECD諸国に比べるとICT教育が遅れていることをご存知でしょうか。政府の統計データをもとに、OECD加盟国との現状の比較を行ない、児童にとってもGIGAスクール構想が必要とされる背景を見ていきましょう。

学校の授業におけるデジタル機器の使用時間はOECD加盟国で最下位

日本の学校教育では、国語・数学・理科の3教科におけるデジタル機器の使用時間は、OECD加盟国のなかで最下位となっています。

教科 使用しない割合(日本) 使用しない割合(OECD)
国語 83.0% 48.2%
数学 89.0% 54.4%
理科 75.9% 43.9%

出展:文部科学省「GIGAスクール構想の実現へ」を元に作成

日本の学校教育においては、デジタル機器はほとんど使用されていないことがわかるでしょう。OECD加盟国では、「週に30分未満」「週に30分以上」「週に1時間以上」のデジタル機器の使用はおよそ半数という結果ですが、日本では1割~2割強しかありません。

OECD加盟国のなかでは、日本の学校教育におけるICT活用は非常に遅れているのです。

地域間での整備状況の格差が大きい

日本国内においても地域間の格差が大きいことも現状の問題点の一つです。都道府県別の教育用コンピュータ1台あたりの児童生徒数を比較してみると、最高1.9人/最低7.5人と差が大きいことがわかります。

これはコンピュータ1台に対して、最高でも児童が約2人で利用している状況であり、ICT環境が整っていない自治体では1台に対して7人強の児童が利用していることを表します。

最高でも1人1台を実現できておらず、学校のICT環境整備状況は脆弱であるとともに地域間での整備状況の格差が大きいことが、日本のICT教育が遅れている要因の一つでしょう。

子供は学習面でICTを活用していない状況

子供の学校外でのICT使用に関する調査結果もあります。この結果では、学習面ではOECD平均以下であり、学習外ではOECD平均以上であることがわかりました。

項目 日本 OECD平均
コンピュータを使って宿題をする 3.0% 22.2%
学校の勉強のためにインターネット上のサイトを見る 6.0% 23.0%
ネット上でチャットをする 87.4% 67.3%
1人用ゲームで遊ぶ 47.7% 26.7%

出展:文部科学省「GIGAスクール構想の実現へ」を元に作成

日本においては、児童はICTを「学習用途」で利用する認識が高くないことがわかります。

GIGAスクール構想で学校教育がどう変わる?

GIGAスクール構想で学校教育がどう変わる?

ここでは、GIGAスクール構想で学校教育がどのように変わるのかを例を示しながら見ていきましょう。

学習方法の変化

従来の学習方法は、紙に印刷された教科書を用いて黒板に書かれた内容をノートに書き写す、といったようなアナログな学習方法が一般的でした。この学習方法では、児童一人ひとりに合わせた教育は難しいでしょう。

GIGAスクール構想では「すぐにでも」「どの教科でも」「誰でも」使えるICTの実現を掲げており、大まかには次のような活用方法が挙げられます。

・検索サイトを活用した調べ学習
児童が自らさまざまな情報にアクセスし、情報を収集・整理して主体的に情報を選択する。

・文章作成ソフト、プレゼンソフトの利用
児童一人ひとりが考えをまとめて発表、共同編集を利用して考えを共有しながら学び合える。

・一斉学習の場面での活用
児童一人ひとりの反応や考えを即時に把握しながら、双方向に授業を進めることができる。

・一人ひとりの学習状況に応じた個別学習
デジタル教材を活用することで児童一人ひとりの学習進捗状況を可視化し、個別にきめ細やかな対応を行なう。

教科別の変化

GIGAスクール構想では、学校教育の教科別にも変化が起きます。その例として、いくつかの教科を挙げてみましょう。

・社会
収取したデータを加工して可視化したり地図情報に統合したりするなどして、より深い情報の読み取りや分析を行ない、分析情報をプレゼンソフトで発表する。

・理科
観察、実験を動画などで記録することで、現象を科学的に分析して考察を深める。考察結果をレポートやプレゼン資料にまとめて発表する。

・外国語
児童一人ひとりが海外の子供とつながることで、「本物のコミュニケーション」によるインプットとアウトプットの質と量を高める。

ここで紹介した例はほんの一部ですが、ICT活用によって従来の学校教育では行なえなかった新しい教育が実施できるようになります。

GIGAスクール構想の実現のために必要なこと

GIGAスクール構想を実現するために、学校側が必要なことを簡潔にまとめました。

学習用端末の導入

GIGAスクール構想を実現するためには、児童1人1台のコンピュータが必要です。パソコンやタブレットなど、学校のカリキュラムや予算と照らし合わせながら入念に検討を行ないます。

用意した学習用端末に「使いたい教材やソフトが導入されていなかった」「児童にとって使いづらい端末だった」とならないように、しっかりと検討した上で導入を進めなければなりません。

校内LANなどの通信環境の整備

学習用端末を準備するだけでは不十分です。コンピュータはネットワークにつながってこそ効果を最大限に発揮できます。GIGAスクール構想のなかでは、動画教材を使った授業や遠隔授業なども増えるため、高速なネットワークが必要です。

また、すでに校内LANなどを整えた学校であっても、Wi-Fiの通信が弱く途切れてしまったり、特定の場所でしか使えなかったりする事例もあります。校内のどこにいてもWi-Fiがつながる高速な校内LANを構築することが望ましいといえるでしょう。

ツールの活用

学習用端末にはプレゼンソフトや文章作成ソフトなど、学習内容に合わせてツールを用意する必要があります。また、学習用端末に直接インストールするソフトウェアだけでなく、Webブラウザ経由で利用できるクラウド型のツールの活用も検討するとよいでしょう。

さらに、児童用だけでなく教員の業務効率化も視野に入れ、校務システムの導入も検討するべきです。文部科学省は教務・学籍・学校業務などを一括管理する、クラウドを活用した「統合型校務支援システム」の導入・運用を想定しています。

セキュリティ対策

教育の現場であってもICTを活用する以上は、通常の企業と同じようにセキュリティ対策が求められます。サーバーなどの管理や通信回線装置の管理といった物理的なセキュリティ、不正プログラム・不正アクセス対策といった技術的なセキュリティ対策が必要です。

また、それらだけでなく、教員に対するセキュリティ教育・研修・訓練などの人的セキュリティ対策も必要となります。詳しくは「教育情報セキュリティポリシーに関するガイドライン」にまとめられていますので、こちらを参考に安心安全にICTを活用できる環境を整備しましょう。

まとめ

GIGAスクール構想は、「児童生徒1人1台のコンピュータと高速大容量の通信ネットワークの整備の実現」を目指す政府の施策であり、子どもたち一人ひとりに個別最適化され、創造性を育む教育ICT環境の実現を目的としています。

日本はOECD諸国と比べるとICT教育が遅れており、国内でも地域間でのICT整備状況の格差が大きい現状にあります。しかし、多様な子どもたちを誰一人残すことなく、公正に個別最適化され、資質や能力が一層確実に育成できる教育ICT環境は、これからさらに必要とされることでしょう。

GIGAスクール構想が実現することで、児童生徒だけでなく教員の働き方にも大きな変化が訪れます。新型コロナウイルスの影響により、私たちの生活に大きな変化が訪れたように、学校教育においても大きな変化が必要とされているといえるでしょう。

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