真の処方動向をDXで解く
ファーマシースコープのスゴみ

真の処方動向をDXで解く ファーマシースコープのスゴみ

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2021.10.13

製薬メーカーに向けて調剤薬局の流通・処方情報を提供する『Pharmacy-Scope(ファーマシースコープ)』。

類似サービスはあるが、処方箋情報のみならず、各調剤薬局の最新の出庫・在庫状況までを紐付け。そのうえ前日のデータが翌日には分析データとして反映されたスピーディな情報を提供できるのは『Pharmacy-Scope』にしかできない、最大のウリだ。結果、製薬メーカーは、これまでよりぐっとスピーディに効果的なマーケティングができるようになる。

挑戦的で画期的なDXサービス。
実はSCSKが流通業界のPOSシステムで培った知見が活きたという。
起伏ある起ち上げのストーリー、その裏側と狙い、未来へのビジョンに迫った。

SIerだから生み出せた。

ヘルスケアセンター 営業部 寺元 一道

ヘルスケアセンター 営業部 寺元 一道

固定観念は、時に真実を曇らせる。

例えば、先を予測するフォーキャスト型のこんな経営戦略。
『1月~3月に商品Aは右肩上がりで爆発的に売れた。どう考えても4月~6月は生産を増やし、積極的に売り込むべきだ!』

一見、シンプルで正しい判断にみえる。しかし“医療用薬品業界“でこの数字の見立ては、ミスリードになる可能性が高い。
「医師が処方する医療用医薬品は、国が定めた“薬価”がありますからね」とSCSKヘルスケアセンター営業部 企画課の寺元一道も言う。
「薬価は2年に一度改定され、その区切りが年度末です。要は4月に急激に売れた薬があっても、それは前月の薬価改定による値下げを見据えた『買い控え』の影響にすぎないことがある」(寺元)

それなのに目の前の数字と固定観念だけで予測して増産したら、翌月からは受注が激減。大量の売れ残りを出すかもしれない。調剤薬局の現場が見えないと真実は見えない。正確なフォーキャストはできないわけだ。

ではどうすれば“現場のリアル”を的確に捉え、分析できるか。

その解をDX(デジタルトランスフォーメーション)でクリアにしたのがSCSKの『Pharmacy-Scope(ファーマシースコープ)』だ。

これは、処方箋薬局の医薬品流通情報を、製薬メーカー向けに提供する新しいサービス。

以下のように数百に及ぶ調剤薬局に蓄積された「処方の情報」「薬局が入庫した状況」「在庫した情報」といった“現場”のデータをすばやく統計化。6種類の標準パターンにしたうえで、クライアントである薬剤メーカーのニーズに沿って分析情報を提供する仕組みだ。

データ提供範囲

『Pharmacy-Scope』を使えば、薬ごとの「入庫・処方・在庫分析」や「処方推移&シェア分析」「一日平均処方量分析」などを正確に推し量れる。フォーキャストの経営戦略の精度が高まる。

「たとえばある月の処方量が膨大に増えても、在庫として調剤薬局にあることが一目瞭然で分かる。買い控えであると読める。製薬メーカーのマーケティング戦略や効率化に寄与するだけではなく、年間500億円にものぼる“残薬”の問題まで解決できるかもしれない」 そんな寺元の言葉に頷きながら、彼と『Pharmacy-Scope』を企画段階から手掛けてきたヘルスケアセンターの開発部の大内陽介が、胸を張って言う。

「しかもSIerだからこそ実現できた。競合はここまでのデータ解析をスピーディにはできない。SCSKらしいDXサービスになったと自負しています」(大内)

流通のPOSシステムがヒントに。

ヘルスケアセンター ヘルスケアサービス部 大内 陽介

ヘルスケアセンター ヘルスケアサービス部 大内 陽介

なぜスピーディに調剤薬局の入出庫データが分析できるか。

起点にはSCSKが運用する既存のシステムがあった。

『CHOIS(チョイス)』。

2011年からSCSKが調剤薬局チェーン向けに提供しているクラウド型の基幹システムだ。

仕組みはこうだ。患者さんが調剤薬局各店舗に持ち込むと、薬局では必ず処方箋データをレセコン(レセプトコンピュータ)に打ち込む。このとき『CHOIS』を導入している調剤薬局チェーンは、クラウド上の在庫データベースにもすぐさま同じデータが連動。自動的にリアルタイムな在庫状況が反映され、店舗はもちろん、調剤薬局チェーン本部も把握できるという仕組みだ。
「薬局は業務の省力化ができ、棚卸しもしやすい。薬の期限切れもすぐにわかる。本部は店舗間で薬の在庫を融通できるなど、チェーンオペレーション全体の効率化も図れます。これが好評で『CHOIS』はすでに17企業・約2,000店舗で稼働していたんですよ」(寺元)

2013年、この『CHOIS』システムに新たなバリューを加えようと、寺元は画策し始めた。この頃から大手ドラッグストアや異業種などが積極的に調剤薬局チェーンを買収する動きが活発に。調剤を併設するドラッグストアが増え、全国に6万店舗あるとされる調剤薬局は競争が激化し始めていたからだ。
「『CHOIS』の導入先の多くにあたる既存の中小調剤チェーンは、生き残りを図るための武器が求められるようになる。『CHOIS』データ各調剤薬局のCRM(カスタマーリレーションシップマネジメント)に活用してもえれば、新規の競合に負けない強い経営ができるのでは?と考えたわけです」

ヒントになったのは、POSシステムだった。実は寺元は『CHOIS』を扱う前、流通小売業、特にパパママストア向けに商品管理のPOSシステムを販売&運用。POSをもとに仕入れや陳列を変えたり、特売品をつくったりとマーケティングに活用していた。
「この手法を、そのまま調剤チェーンでも活用できないかと考えました」(寺元)

時を同じくして、電子カルテや処方箋、あるいは人々のバイタルデータなどもあわせたビッグデータ「リアルワールドデータ」の活用による意義と可能性の議論が、製薬業界で活発になっていた。

世の中の潮流にもハマる、そう確信したわけだ。

ところが、このアイデアはすぐにとん挫する。

立ちはだかったのは、医薬品ならではの“特殊性”だ。

先述通り、医療用医薬品には薬価がある。しかも、顧客(患者)の好みで、自由に薬を選ぶことはほぼない。医師の処方箋に従い、指示された薬を購入するしかないからだ。
「いくらどんな薬が導入されているかのデータがとれても、スーパーがPOSをもとに売れそうなお菓子や生鮮品のキャンペーン、客寄せの特売などの施策ができない。施策に反映できないわけです。調剤薬局の現場をヒアリングするうちに、『これは意味がないな』と気づかされました」(寺元)

走り出してすぐの挫折。

しかし寺元は、すぐ次の案を持ち出す。

POSデータのもうひとつの用途。クライアントを違う側に求めるそれを調剤の世界でも使えるのでは、着想したのだ。
「売る側を変える。調剤薬局に商品を卸す製薬メーカーに向けたビジネスモデルにしたらどうかと」(寺元)

ビジネスモデルコンペで最終選考まで残る。が……。

2015年 社内ビジネスモデルコンテスト『イノワンチャレンジ』でのプレゼンの様子

2015年 社内ビジネスモデルコンテスト『イノワンチャレンジ』でのプレゼンの様子

この地域のスーパーではどんな商品がどの層に売れているか。季節や時間によってどんな特徴があるか。POSデータではそんなユーザーの「傾向」や「予測」が見える。

これらを解析して分析。「新商品のマーケティング・リサーチ」や「プロトタイプのテストマーケティング」の貴重なデータとして、POSデータを食品メーカーなどに活用してもらうのがPOSのもうひとつのビジネスモデルだった。
「同じスキームを医療用医薬品にもあてはめようと考えたのです。『CHOIS』で蓄積した処方情報を最終形して、製薬メーカーのマーケティング課題に活用してもらう。最終的には残薬問題や医療費削減といった社会課題解決にもつなげてもらう」(寺元)

今の『Pharmacy-Scope』の青写真だ。調剤薬局から患者へのCRMは難しくても、製薬メーカーから調剤薬局へのCRMは大いに可能性がある。製薬メーカーも競争が激化するなか、経営を磨き上げる必要性が高まっていたからだ。すでに先行して類似サービスを展開する企業がすでに数社あったことからもニーズは明らかだった。
「しかも先行するそれら競合との大きな差別化要因もあった」と、SCSKではCRM領域でキャリアを積んできたヘルスケアサービス部長の西谷友宏が言う。
「スピードです。『CHOIS』によってリアルタイムで動く処方箋データを翌日には分析、解析できる素早さがある。競合他社は処方箋データを外部から買って解析しているため、使うデータが一ヶ月前のものだったりしますからね。まさに私たちSIerだから、SCSKだからこそできること」(西谷)

産声をあげた『Pharmacy-Scope』のアイデア。寺元がそれを企画にまとめるうえで声をかけたパートナーが、前出の大内だった。

流通向けのPOSデータ分析事業を手掛ける際に、データ分析を一緒に手がけた頼れる人材だったからだ。
「声をかけられたのは光栄でしたね。データ分析の仕事ならではの醍醐味を知っていた。しかもヘルスケアに携わることは社会的価値もある」(大内)

2015年、モチベーションの高い2人は、企画書をしたため、社内のビジネスモデルコンテスト『イノワンチャレンジ』に提出した。

そこでは約200の応募の中で最終選考まで残る高評価を得る。ヘルスケアを重点領域の視野に入れつつ、サービス提供型へと変革中だった経営陣にも刺さった。すぐにでも使えるデータが目の前にある、実行可能性の高さも好印象を残したに違いない。

ただひとつ、痛いところも指摘された。
『本当にそのデータを使って製薬メーカーが求めるデータがつくれるのか?製薬メーカーのベネフィットを満たせるのか?』

清水央子特任助教授との協働でブレイクスルー。

ヘルスケアセンター ヘルスケアサービス部長 西谷 友宏

ヘルスケアセンター ヘルスケアサービス部長 西谷 友宏

指摘されたツメの甘さからビジネスモデルコンペのグランプリは逃すことに。しかし投資対象として事業部で検討を続けることが決定。事業化のアクセルは、静かに踏み込まれることになった。
「コンペに出たことで超えるべき課題も見えた。そこでSCSK単体ではなく、リアルワールドデータの知見を持つ方との協働事業にするべく、パートナー探しからリスタートしたのです」(寺元)

そのために2人はいくつものリアルワールドデータ関連のセミナーに通い詰めた。そのなかで、東京大学 大学院特任准教授である清水央子氏と出会い、パートナーシップを組む。
「ラッキーでしたね」と大内は振り返る。清水氏はグローバルな製薬企業グラクソ・スミスクラインに所属経験があり、データを利用する側のニーズを知っていた。と同時に、ヘルスケアデータサイエンスの大手IQVIAに在籍した経験もあったからだ。
「要は我々が提供しようとしているリアルワールドデータの利用者側と提供側、どちらの知見もある稀有な存在だった」(大内)

2017年3月からの1年間は清水氏と、寺元、大内2名とのチームのミーティングが、毎週1回必ず豊洲本社でひらかれた。

議題はもちろん『Pharmacy-Scope』サービスのデータをどう使えば、製薬メーカーのベネフィットになるか。ニーズが満たせるか。

ガラス張りの会議室で定例を重ねる中で、清水氏から出てきたアイデアが「処方箋だけではなく、“在庫と入庫の業務データ“が重ねて見られるなら、それは欲しい」ということだった。

その瞬間、いつも以上にガラス戸から明るい陽光が差し込んだ。
「目からウロコでした。POSデータの分析は商品の販売データのみを活用するのが基本。競合他社の医療用医薬品のデータ分析も、処方箋データのみを扱っていた。だから、『処方箋データだけをどう活用するか』と、まさに僕らは固定観念で見てしまっていた」(寺元)

しかし処方箋だけではなく、実際の薬の在庫のイン・アウトを重ねてみれば“薬価改定を踏まえた買い控え”に代表される医薬品ならではの見えにくい薬の真の動向が見える。『そこまでのリアルな処方状況なら欲しい製薬メーカーは多い』というわけだ。
「道が開けた感がありましたよね。業務データをリアルタイムで分析できるのは、それを扱う『CHOIS』を運用しているからこそ。SCSKならではの差別化要因が、実は身近にすでにあった」(寺元)

道筋が立った後は要件定義に向けて、大内が中心となって清水氏とのミーティングを進めた。

注力した要件は「マスターデータをどうつくるか」だった。
「たいていの商品についているJANコードだけで管理すると無理がある。たとえば薬の処方の仕方も医師の考え方によって違っている。30mg処方するのに15mgを二つにするか、30mgを一つにするか。やはり医療用医薬品ならではの慣習があるので、これを加味してデータベースに組み込めるように」(大内)

同時に寺元らは扱うデータに法的に問題はないか弁護士と何度も詰めていた。製薬メーカーは、なるべく粒度の低いロウデータに近いものを当然求める。匿名加工すれば法的には問題ないとわかるが、レピュテーションリスクを鑑みて、経過したデータ形式で分析、解析する方針に定めた。

こうして約1年の期間を経て、2018年半ばにはとりすすめの決裁がおりることに。
『Pharmacy-Scope』はこうして起動した。

鳴り物入りの新規事業。あえて『CHOIS』の運用部隊の多くをスライドさせて、開発に取り組ませたのも挑戦的だった。
「調剤の現場により近いほうがやり易いというのが一つ。あとはやはりエンジニアの皆も新しい領域での仕事の幅を広げて欲しいと」(大内)

2019年末。ローンチ直前になって、『Pharmacy-Scope』開発のアクセルを力強く踏み足したのは、2019年の10月から今の部長職に就任。このプロジェクトにもコミットし始めた西谷だった。
「開発期間が思った以上にかかったこと、競合が伸びていたなどの外的要因もありましたが、このときに私が感じたのは『マーケット・リサーチの情報が古いな』ということ。1~2年、ものづくりに没頭していたと同じ。お客さんの状況は日々変わるなかで、それではまずいなと」(西谷)

そこで西谷は、プロトタイプを実際の想定ユーザーに使ってもらうよう指示。ヒアリングなどの協力を仰ぐとともに、当初から興味を抱いてもらっていた大手製薬企業にテストも兼ねて、導入してもらう手はずとなった。

フィードバックは的確、かつサービスの自信になった。
「『速報性はとても助かる』『季節によって実際にどの薬がどれくらい動いているか手に取るようにわかる』『在庫と処方数の掛け合わせで実際の薬の状況が見える化できるので、上層部への提案がスムーズになった』――。

やはり、前日のリアルな処方箋の現場のイン・アウトが分かることは、実感をともなって支持された。

また新型コロナウイルスの感染拡大から、意外な角度からニーズが高まることもわかった。
「昨年から医療期間に頻繁にMR(製薬メーカーの営業職)が商品の売り込みをかけられない状況が続いている。その中で『Pharmacy-Scope』があれば即時性と独自性のある鮮度の高い処方箋薬のトレンドや、分析データをともなって情報をともなった新しいスタイルの営業ができますからね」(西谷)

今はユーザーとの二人三脚でサービスを磨きながら、さらなる顧客獲得に邁進中だ。
『CHOIS』導入とあわせた分母となる店舗数の拡大にも精力的に取り組む。データベースが充実すれば、分析データの精度は磨かれ、製剤メーカー、調剤薬局、そしてもちろん患者の方々に大いなるメリットを提供できる。
「さらにこのデータベースの用途を磨けば、もっともっと医療業界のベネフィットに貢献できる。たとえば店舗で処方箋データの取り扱い枚数を過去と比較しながら提示できれば、店舗業務のスピードアップやモチベーションアップにつながるかもしれない。あるいはもっとドクターとのコミュニケーションツールとして使えるようなアップデートも考えられる」(西谷)

寺元と大内も大きな未来を思い描く。
「健康診断のデータやリアルタイムのバイタルデータとつなげた新しいサービスができるのではないかと期待している、それこそ医療費削減などの社会課題にまで必ずつなげる」(寺元)
「病気を未然に防ぐ未病の領域まで踏み込む。そうした日本の未来をよりよくするところまでできたら、本望ですね」(大内)

後発なのに大きく出たな、と思われるだろうか?

しかし、固定観念は真実を曇らせるものだ。

SCSKは本気でやりきる。