対談記事 ~笛吹けども、なぜ踊らず?~
DXが進まない
本当の理由とその打開策とは
多くの企業がDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進しているが、成功してい
る企業はまだ少ない。その大きな要因の1つが、企業が抱えているレガシーな既存シス
テムだ。いくらクラウドやAI(人工知能)といったデジタル技術を活用しても、“大きな
荷物”が残ったままでは思うようにスケールさせていくことは難しい。当然、効果も限
定的なものになる。
人材不足も深刻だ。経済産業省の調査によると、IT人材は2030年に最大で79万人不
足するという※。人材は限られるのに、オンプレミスにある既存システムの保守に貴重
なリソースとコストが費やされている。
こうした状況のままDXを推進しても成功はおぼつかない。既存システムのお守から
抜け出せないまま、結果だけを求められるからだ。技術もコンセプトも異なるオンプレ
ミスとクラウドという別々のインフラを運用・保守しなければならず、負担ばかりが増
えていく。
しかし、オンプレミスのシステムが悪いのではない。そこには長年ビジネスを支えて
きた自社の強みとなるナレッジとノウハウが凝縮されている。問題はそれが“レガシー
のまま”であることだ。
経営・マネジメント層は、まずこの事実を直視する必要がある。具体的に何が足かせ
になっていて、それをどう変えていけばいいのか。多くの企業のDXに携わってきたグ
ローバル企業、レッドハットの日本法人と、大手ITサービス企業であるSCSKのキー
パーソンに話を聞いた。
※出典:経済産業省「IT人材需給に関する調査 調査報告書」
この対談記事は、日経ビジネスオンラインにて掲載された記事を媒体の許可のもと再掲載したものです。
対談
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レッドハット株式会社
常務執行役員
パートナーエコシステム事業本部長
三木 雄平 氏
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SCSK株式会社
常務執行役員
プロダクト・サービス事業グループ グループ長
小峰 正樹
既存資産を捨てない
脱レガシーのもう1つの道
―日本企業のDXが進まない理由をどのように見ていますか。
小峰 正樹 <以下、小峰(SCSK)> そもそも人材が足りないのに、レガシーの保守には多くの人手とコストが取ら
れています。レガシーのままだから、新しいテクノロジーを取り入れるのも難しいし、開発にも時間がかかる。レガ
シーのままでも業務は回っているから、経営層はあまり問題意識を感じていない。現場は新しいことにチャレンジし
たいのに、経営の理解が得られない。経営と現場のギャップも大きな問題です。
三木 雄平氏<以下、三木(レッドハット)> 同感です。インフラや既存システムの運用・保守の負担を軽減し、IT人
材はビジネス価値を生むアプリの開発、業務を革新するサービスの開発などに注力すべきです。
―レガシー脱却がカギになるわけですね。
三木(レッドハット) よくそう言われますが、既存システムは長年にわたってビジネスを支え続けています。これを
全部捨て去るのは簡単ではないし、それが正しいとも限らないということもあります。セキュリティーやコンプライア
ンス面から、どうしてもクラウドに出せないデータやシステムもあるでしょう。オンプレミスにはオンプレミスのメ
リットがあるのです。
小峰(SCSK) カギを握るキーワードは「クラウドネイティブ」だと思います。それが結果的にレガシー脱却につながります。
クラウドネイティブとクラウドはイコールではありません。使いたい時に使いたい分だけITリソースを調達したり、
新しいテクノロジーを取り入れやすい柔軟性や機敏性を備えたりすること。つまり既存のインフラを、クラウドの
要素を取り入れたインフラに変えていくことです。これにより、オンプレミスやクラウドを意識せずに、システムを
利用できるようになります。
これを支援するため、SCSKは2023年12月から「NebulaShift®(ネビュラシフト)」の提供を開始しました。
長年の協業による実績と信頼が
「NebulaShift®」の原点
―NebulaShift®とは、どのようなサービスですか。
小峰(SCSK) これは、これまでSCSKが蓄積してきた有形無形のノウハウや資産を基に体系化したもの。パートナー
各社の協力を得てエコシステムを作り、多彩なツールやプラットフォームなど幅広いポートフォリオを備えています。
その特徴は、オンプレミスをクラウドネイティブなインフラに変え、様々なパブリッククラウドとシームレスに連携で
きること。オンプレミス、クラウドというインフラの違いを意識せず、統合的に運用できるようになります。
ちなみにネビュラとは、星雲のこと。クラウド(雲)の上位であるネビュラへのリフト・アンド・シフトを推進していくと
いう想いで名付けました。
―そのパートナーの1社がレッドハットですね。両社が協業に至った経緯と狙いを教えてください。
小峰(SCSK) SCSKは2009年にレッドハットのミドルウエア製品の販売を開始してから、15年にわたり協業を続け
ています。ポートフォリオの拡大に伴い、当社もその技術を活用し、お客様のアプリケーション開発を幅広く支援してき
ました。長年の協業に基づく信頼と、NebulaShift®のコンセプトに欠かせないソリューションを数多く有することが決
め手になりました。
三木(レッドハット) 日本企業のITシステムはSIベンダーに構築や運用を委託するケースが多く、レッドハットの日本
でのビジネスも、その約8割はパートナー経由によるものです。特にSCSKは業務やビジネスを支えるアプリ開発ベン
ダーとして、ユーザー企業と直に接し、その業務知識や抱えている課題・要望を理解されています。私たちのソリュー
ションの価値をお客様に提供するベストなパートナーです。
長年の協業の中で、SCSKのエンジニアのトレーニングをお手伝いさせていただいているほか、共同セミナーなども
開催しています。経営層レベルのコミュニケーションの機会も多いです。
2024年4月に、SCSKの実績、技術レベル、サポート体制などを鑑みて、レッドハットのパートナープログラムの国内
最上位「Premier Business パートナー」に認定させていただきました。この認定でパートナーシップがより強固になり、
私たちが目指すオープン・ハイブリッドクラウドの実現にも、これまで以上に協業を推進し、より幅広いレンジのお客様
に、新しい価値を届けることが可能になると考えています。
NebulaShift®サービス全体像
-
提案領域 ビジネス
アプリケーション
ミドルウェア
コンテナ基盤
H/Wプラットフォーム
セキュリティ
モニタリング
-
提供サービス - ビジネス共創
- マネジメント改革
- 組織改革
- アジャイル導入
- DevOpsコーチ
- モダナイゼーション
- アーキテクチャ
- アプリケーション開発
- リフト&シフト
- マイグレーション
- OPEX提供
- アーキテクチャ
- 導入構築
- 基盤運用
- 監視
- マルチクラウド対応
- ハイブリッドクラウド対応
- オンプレミス対応
- OPEX提供
-
ツール
-
ビジネス
- ビジネス共創
- マネジメント改革
- 組織改革
-
アプリケーション/ミドルウェア
- アジャイル導入
- DevOpsコーチ
- モダナイゼーション
- アーキテクチャ
- アプリケーション開発
- リフト&シフト
- マイグレーション
- OPEX提供
-
コンテナ基盤 / H/Wプラットフォーム
- アーキテクチャ
- 導入構築
- 基盤運用
- 監視
- マルチクラウド対応
- ハイブリッドクラウド対応
- オンプレミス対応
- OPEX提供
NebulaShift®は、SCSK、レッドハットのツールやテクノロジーを活用し、クラウドネイティブなインフラを実現する。アジャイル開発のコーチングから自走化まで伴走支援し、組織や文化の変革も促し、共創によるビジネス価値の創出を目指す。
クラウドネイティブ化だけでなく
アジャイル開発も支援
― NebulaShift®では、具体的にどのようなサービスを提供するのですか。
三木(レッドハット) レッドハットはコンテナ基盤「Red Hat OpenShift」や「Red Hat Application Services」な
どのミドルウエアを提供しています。
小峰(SCSK) SCSKはアプリ開発基盤「S-Cred+」、DevOpsサービス「DevCond.」、クラウドサービス
「USiZE」などを提供しています。クラウドネイティブな環境を提供するインフラ基盤として、各種パブリッククラウドベ
ンダーや従量課金型のハードウエア・プラットフォームを運用する体制を整えこれらを統合的に利用することが可能で
す。当社としては、これらのサービスを提供することで、お客様のリソースを、ビジネス価値を生む業務へ集中してい
ただき、有効に活用できるお手伝いをさせていただくことを目指しています。
それだけでなく、クラウドネイティブなアプリの開発も支援します。開発手法にはアジャイルを取り入れ、柔軟で迅速
なアプリケーション開発が可能になるコンテナ技術も用いるわけです。そのためのコンサルティングやコーチングのほ
か、お客様の開発チームに当方のメンバーが参加し、アジャイル開発を伴走支援します。
開発して終わりではなく、アジャイル文化の定着と自走化まで支援し、開発したアプリを動かす最適なインフラの設
計・構築、運用・保守のフルマネージドサービスも提供可能です。
―インフラだけでなく、開発文化の変革までサポートしてくれるのは心強いですね。
小峰(SCSK) アジャイル開発支援ではレッドハットの「Red Hat Open Innovation Labs」というビジネス共創
サービスが大きな強みになります。
当社は、以前からアジャイルの社内浸透を図っていますが、レッドハットと組むことで、お客様のアジャイル開発を
より強力に支援できます。当社のエンジニアもRed Hat Open Innovation Labsに参加し、スキルやノウハウを強
化していきます。
ビジネス共創
AIによるデータ活用も支援していく
―サービスリリース後の市場の反響はいかがですか。またNebulaShift®の活用で、どんなメリットが期待できますか。
小峰(SCSK) 問い合わせは非常に多いですね。「こういうサービスを待っていた!」という声も多く、ニーズの高さを
実感しています。既に金融、製造業や通信のお客様がクラウドネイティブ化に取り組んでおり、ノウハウの蓄積も進んでいます。
三木(レッドハット) 最近の大規模システムの傾向として、開発はより柔軟でコスト効率の高いパブリッククラウドを
利用し、本番はより規制順守性が高くコントローラブルなオンプレミスを利用されるパターンが増えてきています。
しかし、インフラが異なると移行に大変な手間がかかります。コンテナ技術などの活用でクラウドネイティブ化すれば、
スムーズに移行できます。オンプレミスからクラウドという逆のパターンも然りです。オンプレミスとクラウドをまたい
だ、ハイブリッドクラウドの実現が可能になるわけです。
小峰(SCSK) クラウドネイティブなインフラの設計、PoC(概念実証)、構築、さらにクラウドネイティブなアプリの開
発も、最新の技術とベストプラクティスを基に容易に実現できます。その運用も効率化できるので、貴重なIT人材を
DX推進などの付加価値の高い業務に充てられます。
アジャイルに関してはアプリの開発だけでなく、ビジネス共創のスキームにも活用する計画です。重点施策に人と予
算を集中することで、新しいサービスやビジネスモデルの創出が期待できます。
―最後に今後の展望を教えてください。
小峰(SCSK) クラウドネイティブ化の次のフェーズで重要になるのがデータの活用です。クラウドネイティブ化すれば、
多様なデータを集約しやすくなるからです。今後はデータドリブンなビジネス支援機能を強化していく方針です。その
一環として、NebulaShift®の提供サービスの中にAIを実装する検討をレッドハットと共に進めています。
三木(レッドハット) ユーザー企業と接する機会の多いSCSKには、お客様の生の声が入ってくる。それを開発に
フィードバックし、より価値あるサービスを提供していきま
す。
小峰(SCSK) レッドハットのPremier Business パートナーに認定されたことで、より幅広く、深い技術支援が可能
になりました。この強みを生かして、エコシステムパートナーの拡大と深化を図り、NebulaShift®のサービスポートフォ
リオと提供価値の向上につなげていきたいですね。
クラウドネイティブ化により、クラウドとオンプレミスそれぞれのメリットを最大限に生かすことが可能です。クラウド
ネイティブはこれからのITにおける大きな潮流になるでしょう。
今後もレッドハットをはじめとするパートナーとのエコシステムを軸に、NebulaShift®の活用によるクラウドネイティ
ブ化を幅広く支援し、お客様のビジネスの変革と持続的な成長に貢献していきます。