CAE(デジタル)から成形技術・金型技術(アナログ)開発のヒントをつかむ(前編)

6月7日、SCSK株式会社は『SCSKモノづくりCAEセミナー2018』を開催した。
SCSKには、長年にわたり培ってきた、ものづくりに関するCAE技術の経験、知見がある。セミナーではその集大成として、鋳造、塑性加工、樹脂複合材、ケーブル ハーネス設計などを中心に弊社CAEソリューションを紹介。講演とセッション、展示が行われたが、本稿では基調講演『CAE(デジタル)から成形技術・金型技術(アナログ)開発のヒントをつかむ』と展示の模様をお届けする。

登壇したのは、日進工業株式会社 専務取締役であり、最高技術責任者でもある竹元茂氏。日進工業株式会社は、射出成形によって樹脂の部品、製品を量産するメーカーだ。単に量産を担当するだけでなく、さまざまな技術開発、研究開発にも取り組んでいる。
近年ではMoldflowを利用することで、さまざまな現象を可視化。成形技術のアナログとMoldflowのデジタルを融合した取り組みを紹介した。

 

日進工業における流動解析

日進工業は解析の受託、射出成形や金型の技術サポートなども行っている。数多くの顧客とのコミュニケーションにおいて、よく話題となる解析の課題が〝解析と実成形が合うか合わないか”というものだ。実成形を主と考えれば解析が間違っているとも言えるし、解析を主とすれば実成形が間違っているとも言える。
そこで日進工業の流動解析は「解析と実成形の双方から合わせていく取り組み」を実践している。竹元氏はいくつかの実例を紹介した。

CAEセミナー-MPa

1つ目は、ウェルド強度の向上事例だ。使用しているのは引張長繊維強化樹脂で、ウェルドなしでのカタログスペックは引張強度280MPaとなっている。
ところが両端に樹脂の流入部となるゲートを設けると、中央に会合面が発生する。会合面ができた状態で引張試験を行うと、強度は57MPaまで低下。非常に優れているが、課題も多く使いこなすのはなかなか難しい材料だという。
日進工業の技術では同じ条件で288.63MPaと、カタログスペック以上の数値を達成している。竹元氏はどのように流動解析を利用したか解説した。

 

CAEセミナー-ダンベルの流動

動画で紹介された、ダンベル試験片+長繊維強化樹脂の解析結果。真ん中で流動が会合し、ウェルドラインができる。

実物の写真で注目すべきポイントとして挙げられたのは、樹脂の流動先端の形状だ。樹脂は左右両方から対称の形状で流れて真ん中で会合する、というわけではなくバラつきが発生し形が崩れる。
原因はフローフロントに大量の繊維が絡み合った層が形成されることにある。繊維が絡み合った層は相対的に樹脂の成分が少ない〝繊維リッチ層”になってしまう。繊維の絡み合いは強い部分、弱い部分が生じ、樹脂は選択的に絡みの弱いところから流れ出す。結果、流動の先端の形状が変わるというわけだ。

CAEセミナー-流動の特徴1

CAEセミナー-流動の特徴2

CAEセミナー-流動の特徴3

流動先端の形状が左右のサンプルで異なる。左右の繊維の絡みが均一ではなかったためウェルドラインがずれたものだ。

ウェルドライン以外の部分は、繊維の向きは流動方向と平行になる。一方ウェルドラインでは繊維は流動に対して直交方法を向く。樹脂が収縮する際に繊維が突っ張り、隆起してしまう。正面を向き合って配向すると、会合面は密着不良が出やすく強度も落ちやすい。
改善するための技術としては、中心部にくさび状に流動を起こして強度を上げるアンダーフローが存在する。ただ長繊維強化樹脂は、フローフロントに大量の繊維が絡み合う層が存在するので、アンダーフローを起こしても繊維リッチ層はそのまま残存してしまう。アンダーフローを起こすにしても、どのような形に改善していくかが非常に難しい問題になってくる。

CAEセミナー-Under_Flow

 

解析でシミュレーションした流動は実際の流れと異なるし、繊維リッチ層の存在も出てこない。日進工業はここで「合わないから使えない」と考えるのではなく「わからないものはわからないもので置いておこう」という方針で進んでいく。わかるものを徹底的に追求するという方針で解析するのだ。
竹元氏はそのなかでも最も特徴的な動画を紹介した。ウェルドラインに対してアンダーフローを起こしてやる。その結果ウェルドラインが平滑になり、繊維の配向がすべて改善されている。

CAEセミナー-Under_Flow2

 

繊維配向に対する取り組みでは、さまざまな知見が得られた。配向制御の技術を応用したのが、PP+Talc系材料の事例だ。ウェルドラインでは可視光が通っていたが、配向を変えることで完全に平滑になり可視光が通ることもなくなった。
もう1つの応用例は、塗装レスのメタリック樹脂材料。こちらは配向を改善することで、ウェルドラインの黒い筋が消えている。

CAEセミナー-Under_Flow3

CAEセミナー-Under_Flow4

 

続いての事例は、谷沢製作所。谷沢製作所は安全用品の総合メーカーで、設計から開発、製造、販売までを自社で行っている。その独自ブランド製品の1つが、ヘルメット『エアライト』だ。
一般的な熱可塑性樹脂を用いたヘルメットは、内装に発砲スチロールを使用している。発砲スチロールによって落下してきたものの衝撃を吸収し、頭部を保護してくれる仕組みだ。それに対して谷沢製作所のヘルメットは、発砲スチロールを使用しない。内装部に搭載されている衝撃吸収部材が、すべての衝撃を吸収する。発泡スチロールがないので非常に通気性も良い。

日進工業は衝撃吸収用の内装部品において、金型の設計や開発、製造、設計条件の構築で協力している。
充填のポイントはランナー設計。解析で同時充填にこだわったのは、衝撃吸収構造部の充填安定性を完全に確保することが必要だったからだ。

 

CAEセミナー-充填アニメーション

谷沢製作所の快諾により公開された、製品の充填アニメーション。各充填末端部まで、ほぼ同時の充填が達成されている。

 

(後編へ続く)