日本のさまざまな企業で長時間労働が問題視されていますが、社会の重要インフラである情報システムを24時間365日提供し続けるIT業界は特に長時間労働が当たり前といったイメージをもたれているかもしれません。実際、SCSKにも長時間労働につながるたくさんの課題がありました。
当時の経営トップは、この状態を見て「この労働環境はありえない!お客様の経営課題を知識と創造性をもって解決する仕事のはずが、その実、まったく違うではないか」と一念発起。
覚悟をもってSCSKの働き方改革を断行したのでした。
まずは労務環境から変えなければと、新社屋へ移転。ワークスペースを広げ、食堂や診療所、薬も出せるように設備を充実させるなど、環境整備からスタートしました。
次に、残業の多い部署に対して、期間限定で「残業半減運動」を展開しました。まだまだ「働き方改革」などの言葉が世の中に浸透していない2012年のことです。
当初社内から「いきなり半減ではなく2~3割減からスタートしてはどうか」との声もあがりましたが、経営トップは「気合や我慢だけでは達成できない困難な目標にチャレンジしてこそ抜本的な改革を考えることができる」と、半減を宣言。
結果的に約半数の部署で目標が達成できました。さらに同年11月には、「有給休暇取得率90%」を目標に設定し、有給休暇取得を推進。現場は混乱しながらも、お客様や関係部署との調整を図りながら、ほぼすべての部署で達成することができたのでした。
成功したかと思われた「残業削減」施策でしたが、年度末になると逆戻り。残業削減を定着させる難しさを感じることになりました。
しかし、経営トップには分かっていました。「やれる」と。
まだまだ「つき合い残業」「ダラダラ残業」など非効率な働き方はいたるところにあるということを。
ただ、働き方改革を進めるにあたり、大きなネックがありました。
それは、社員自身の心の中に。
それでも長時間労働を解消し健康で働くことができなければ、「働きやすい、やりがいのある会社」にはなり得ないと、経営トップの「健康経営」を推し進める本気と熱意と覚悟を伝えながら、さまざまな取り組みを矢継ぎ早に行なっていったのでした。
その取り組みのひとつが、「削減できた残業代はすべて社員に還元する」というもの。
残業削減で浮いた金額は、「社員の健康の原資」として、特別ボーナスとして全額返金することにしたのです。
この取り組みが会社の姿勢や本気度、さらには覚悟を伝え、改革の歯車が回りはじめました。
2013年4月に全社・全部署を対象にスタートしたのが「スマートワーク・チャレンジ20(略称:スマチャレ20)」。
より賢く効率的(=「スマート」)に働いて(=「ワーク」)、目標(=「20」)を達成しようというものでした。
「20」には、平均月間残業時間を前年度平均比20%削減する「20時間以内」を達成し、「20日」ある有給休暇をすべて取得しようという意味がありました。取り組み単位は1,000名を超える人数を要する部門ごととなっていて、目標数値を達成できないと特別ボーナスの支給対象にならないこともあり、各部門の社員が一丸となって取り組む流れができました。
「残業半減運動」実施の際にも、社員の自らが各部署の特徴に合わせて、仕事の進め方を抜本的に見直すアイデアを話し合い実践していきましたが、「スマチャレ20」のときも同様。社員自らが積極的に取り組み、役員とともに、チャレンジ実現に向けて取り組んだのでした。
「スマチャレ20」を進めていくにあたり、解決しなくてはならなかったことの一つに「お客様の理解」がありました。
SCSKの約5,900人のIT技術者のうち、2,000人ほどがお客様先で開発や運用保守を担当しています。
SCSKの他にも複数の同業他社がサポートのため常駐するケースもあります。そのような中で、「残業できません」「お休みをもらいます」と言っても、なかなか理解を得られるものではありません。
そこで、お客様にご理解いただこうと、経営トップ自らお手紙を書き、各役員がお客様の役員層のもとへ持参して協力を仰いだのです。
これをきっかけに、お客様においても少しずつ働き方改革への理解は広がり、今では「うちも働き方を見直さなくては」「一緒にやろう」と共感してくださるお客様もいらっしゃいます。
2008年度当時の月間平均残業時間は35.3時間でしたが、スマチャレ20の1年目である2013年度は22.0時間、2年目の2014年度は18.1時間と、ついに目標の20時間をきることができました。
有給休暇取得についても、2008年度当時は13.0日でしたが、2013年度は18.7日、2014年度は19.2日に。
取得率にすると97%と、ほぼ100%といってよいくらいまで改善することができました。
これも経営トップの旗振りと共に役員・社員が自ら考え行動を起こす、まさに全社一丸となって取り組むことができたからです。
経営トップは、「社員一人ひとりと話すことはできないけれど、役員50人の気持ちを変えることができたら、会社全体が変わっていく」と信じ、役員会を実施するたびに繰り返し改革の必要性を熱く語り続けたのです。
進捗報告で達成が思わしくない部門に対しては、なぜそうなのか、どこに問題があるのかをとことん議論することも。その結果、改革を妨げる問題点や課題には、追加施策や人事制度を見直すなど、素早い対応を求めました。
役員会でのそのやりとりは、イントラネットにそのまま掲載。その閲覧数はどのページよりも高く、自分たちの部門は他部門と比較してどうなのか、経営トップは役員に対して何を語っているのか、社員も注目していたのです。同時に、会社の本気度を目のあたりにすることができたことも、全社員に広く浸透していった大きな理由でした。
このように推し進めた「スマチャレ20」ですが、一番変化を感じたのは社員自身でした。最初は「できない」と思っていたけれど、やってみたら「できた」という自信。そして、早く帰ることができると身体が楽になり、子どもとも遊べて、なにより家族みんなに喜ばれる…「これはいい!」そう実感できたのです。現在では、各部署での創意工夫や発想の転換が、それぞれの職場で文化として定着してきました。さらには自らの得意領域であるITを最大限利用し、生産性や質の高い働き方を推し進めようという自発的なムーブメントが広がっていったのです。
私たちは、「社員一人ひとりが身も心も健康で、やりがいをもって最高のパフォーマンスを発揮してこそ、お客様の喜びと感動につながる最高のサービスが提供できる」とした経営者の熱い想いのもと、働き方改革に臨んできました。
SCSKでは働き方改革を通して、ただやみくもに残業削減だと声高に唱えるだけではなく、生産性を高め品質を向上させる体系化したノウハウ標準「SE+」もつくり出しています。
働き方改革では、SCSKだけでなくビジネスパートナー企業とも協力しながら歩んできました。
そして今では、お客様からも「一緒にやっていきましょう」と言っていただくこともあります。SCSKは、ビジネスパートナー企業の皆様、お客様企業の皆様とともに、業界全体、ひいては日本全体の改革にもつなげていくことで、一人ひとりがいきいきと活躍できる、夢ある未来に貢献できればと考えています。
SCSKの働き方改革はまだまだ道半ば。
社内外を問わず、この活動が広く浸透し、定着し続けていくように、これからも「改革」を推し進めていきます。
※健康経営は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。