給与体系、人事制度、退職金制度…。
会社員に寄り添って運用をアシスト

DX事業化推進部長
福田 裕一
「人生100年時代」と言われて久しい。
医療の進歩などで平均寿命も健康寿命も伸び続けているからだ。
もっとも、長寿化は"おカネの心配"も長引かせた。金融庁も「老後には2,000万円が必要」と警鐘を鳴らす。安心して100年生きるため、個人資産をいかに増やすか。今や誰しもの命題である。
「それを解決するために、我々がつくったのが『エフクリ』と『人生100年ラウンジ』なんですよ」とSCSK金融事業グループ統括本部 DX事業化推進部長の福田裕一は言う。
"我々"とは、SCSKだけを指すのではない。
SCSK × 三井住友海上。
『エフクリ』『人生100年ラウンジ』は、畑の異なる両社が共創によって生み出した職域向け金融仲介プラットフォームだ。
導入企業の社員は個人の収入や世帯構成などを反映させ、生涯収支を予測した最適な資産運用を提案される。プラットフォームに載るのは三井住友海上だけではなく、多種多様な各社の金融商品。AIシミュレーションも使い、運用法をレコメンドされるのも特徴だ。
もっとも、そこまでなら他社にもすでに似たサービスがある。
ユニークなのは、導入企業ごとに違う人事制度や給与体系、退職金や年金制度までの緻密な「社内データ」を反映させることだ。
個人からみると、リアルなライフプランを組み立てられ、人生100年時代の安心に直結する。企業からみると分厚い福利厚生の一環となり、良い人材の確保にもつなげられるわけだ。
高度なITの知見だけではなく、金融知識、さらに多くの企業が認める信用がなければ生まれ得なかったシステムといえる。
「エフクリ」「100年ラウンジ」
サービスイメージ


企画チーム 課長代理 大平 拡 氏
「だからこそ、SCSKと私たちは共創させてもらった。三井住友海上一社、あるいは別のパートナーとつくったのなら、とても1年という短期間にローンチなどできなかった」。そう振り返るのは、三井住友海上 個人金融サービス部 企画チーム 課長代理の大平拡氏だ。

イノベーション室 課長
鈴木 智洋 氏
「本当にそう思う。"ライトパーソン"でしたよね」と、同じく三井住友海上サイド。MS&ADホールディングス デジタルイノベーション部 イノベーション室 課長の鈴木智洋氏は言葉をつなげた。
「ライトパーソンは直訳すると"正しい人"ですが、想いを持って組織や既存の枠組みを超えて挑戦する"志ある人"の意味で使う。オープンイノベーションには、そんなライトパーソンが不可欠。勝因はそんなライトパーソンが集まる座組ができたこと、それに尽きます」(鈴木氏)

シリコンバレーでの出会いと
以前からあった「DNA」
共創の着火点は4年前、シリコンバレーだった。
2018年から2019年にかけて、福田は米国シリコンバレーに毎月のように出向いていた。
「SCSKはシリコンバレーにある有名なインキュベーション施設『Plug and Play』にブースがあった。会社として『新たなビジネスモデル、サービスのタネを探す』というミッションがあり、現地に入っていました」(福田)
福田はとにかく自由に動き回ったという。
Plug and Play内を積極的に歩いて回り、ランチは必ず誰かと一緒。現地のスタートアップ企業や異業種の方をつかまえては、フィンテックやビジネスモデルのアイデアを聞き入った。週末も同様。自宅のアパートにあったテニスコートに誘い、友人を増やした。
「『やっぱりSCSKは違うな』って思いましたよね」
そう明かすのは、前出の鈴木氏だ。
すでに2017年から米国に駐在。子会社のCVC立ち上げと運営のため、Plug and Playに出入りしていた。そこで福田と意気投合。一緒に食事しながら情報交換したり、フランクに仕事の相談もできる仲になった。
「シリコンバレーに来ても日本企業の担当者は、自分の知り合いとだけつるむ方も少なくない。けれど、福田さんはどんどん友達を増やしていましたからね(笑)。実はSCSKさんとは個人的にはずっと前からシンパシーがあって」(鈴木氏)
2010年頃、三井住友海上でIT企画部門にいた鈴木は、当時、立ち上がりはじめていたクラウドに注目。出始めたAzureなどを触り、可能性を感じていた。しかしITベンダーに声をかけ「保険業界でのクラウド活用について論議したい」とアプローチしても、ほとんどが「まだ早い」「金融機関では難しい」と、慎重な反応。ただ一社、SCSKだけ「面白いですよね」と前向きに相談にのり、他社に先んじたクラウドサービスの紹介までしてくれたという。
話を受け、福田が答える。
「SCSKは最大手などと比べれば、まだ規模は小さい。新しいことに貪欲にチャレンジしていかなければ、溺れてしまうような意識はもともと強かった。また個人的にはシリコンバレーで鈴木さんとも仲良くさせていただいて、なおさら『外に出なければ』と思いが強まりました」(福田)
思いは1年後、東京で芽吹く。
「お前は営業を敵に回す気か?」。
箸にも棒にもかからなかったアイディア
一つのスマホアプリにグループ会社および競合他社の金融サービス・商品がスマホにフラットに並び、ユーザーが自由に選べ、気軽に自分にあった金融サービスの利用ができる――。
2019年、今回の資産形成プラットフォームにつながるような企画を、三井住友海上社内に提案したのが、前出の大平氏だった。
2018年に米国現地の資産運用実務を学ぶための海外研修として、渡米。2019年に新規事業を求めてシリコンバレーに出張し出会った鈴木氏や現地のオープンでフラットな空気に感化されていた。現地にて先述のフラットに金融商品を選べる、真にカスタマーファーストな金融サービスの存在に感動した。「これを日本のユーザーにも!」と会社に提案した。
ところが、だ。
「正論だけど実現性がない」「うちは金融本丸の銀行ではなく保険会社だよ」「ただ競合の営業をするだけでしょ」「営業を敵に回す気?」。最初は散々の言われようだったという。
大平氏は少し声を大きめにして言う。
「『その考え、古いんじゃないですか?』とまた正論をぶつけていましたけどね。僕は幼少期から、正論を振りかざして敵をつくるタイプだったので(笑)。2019年当時は、若手の戯言のように流され企画は流れてしまった。ただ1年後、風向きが変わったのです」(大平氏)
そもそも損保業界はどこも人口減などから、新たな収益源となるようなサービスを模索していた。さらに金融庁による「老後資金2,000万円が必要」といった報告書が話題になった。個人向けの金融サービスのニーズが、これまで以上に高まり、機が熟した。自社の新たな魅力的な金融サービスとして、大平氏が起案した金融サービスをワンストップで利用できるプラットフォームの企画がようやく日の目を見た。こうして、消え去っていた大平氏の企画は新規事業として立ち上がった『人生100年ラウンジ(職域向け総合金融サービス)』に活かされる、運びに。

個人融資チーム 課長 岩井 和範 氏
「ただ、そこからも問題は山積みでね」と言うのは三井住友海上 個人金融サービス部 個人融資チーム 課長の岩井和範氏だ。かつて社内システムを手掛け、資産運用とITシステムの両方に明るい稀有なキャリア。大平氏は「正論だけぶつけがちな自分と上をうまくつなげてくれる不可欠なプロフェッショナル」だとも評す。
「ただ、その"上"が、『システムは社内で、低予算で作る』という方針だったのです」(岩井氏)
しかし職域で販売するとはいえ、ユーザーはあくまで個人。UI/UX含めて完成度の高いシステムでなければ立ち行かない。低予算かつプロジェクトに係わる人的リソース、保守メンテナンス等の負担を鑑み「自社だけでできるはずがない!このままでは後世の負の遺産になりかねない!」と確信のあった大平氏は海外を含む複数のベンチャー企業等にコンセプトだけ説明し「一緒に開発しないか」と打診するも、「そんなもの流行る訳がない」「コンサルとしてお金を出してくれるなら手伝っても良い」とそもそも共創という発想に行きつかず、手詰まりを感じていた。
途方にくれた大平氏の援軍となったのが、鈴木氏だった。2020年に任期を終え、シリコンバレーから帰国。久しぶりに再会した大平氏からプロジェクトに必要なのは同じ目標を持つ仲間を見つけるべきとの話を聞き、即答したという。
「『SCSKならやれるんじゃない』と。あそこは違うと知っていましたからね」(鈴木氏)
『ちょっと会わせたい人がいるんですよ』
ある日福田が、鈴木氏からのメッセージを受け取った。あくまでもカジュアルでフレンドリー。シリコンバレースタイルでの共創への誘いだった。
それぞれの場所から、
「同じ山」を登っていた

DX事業化推進部
東野 和彦
2020年12月18日。コロナ禍もあって、オンラインミーティングだった。三井住友海上側は鈴木氏に大平氏、そして岩井氏の3名。SCSK側は福田に加えて、同じDX事業化推進部の東野和彦が同席した。以前、RPAビジネスの立ち上げなども手掛けてきた東野は、新たな挑戦にふさわしい、とアサインされた。
「ただ正直、想像以上の話で驚きましたよね」(東野)
職域向けの資産形成プラットフォーム『人生100年ラウンジ』をつくりたい。そのために、SCSKと組みたい――。
三井住友海上の3名からの言葉はすべて真っ直ぐに響いた。
「いい話ですね」「おもしろい!」。DNAがそうさせるのか、挑戦に対して前のめりなマインドセットを、福田も東野も垣間見せた。
しかし答えは保留した。
「実はSCSK側、我々もまったく同じサービスの立ち上げを準備しはじめていたんですよ。『うわ…競合になる!』とその意味で心底驚いていた(笑)」(福田)
『エフクリ』の事業開発責任者である金融システム第三事業本部 本部長付 江藤文昭が言う。
「SCSKには、単なるSlerを脱し、事業のサービス化を進めるという大きな命題があった。金融事業グループがそれをするならば、それこそアメリカでは主流である資産運用のプラットフォームサービスを実現できれば価値があると考えた。導入する企業にはすでに保険はもちろん、証券、銀行と数多くの金融関係の企業もいる。中立な立場ですべての金融商品を紹介できるサービスを作りたい、と『エフクリ』の準備をすでに進めていましたからね」(江藤)

江藤 文昭
サービス名の『エフクリ』とはFuture(未来)やFortune(財産)などの「F(エフ)」と「福利」をあわせてつくった造語だ。冒頭から同じサービスを『エフクリ』『人生100年ラウンジ』と併記しているのはSCSKと三井住友海上の2社が偶然、同じサービスを考えていから。
別の道から、同じ山を登っていたわけだ。
「だから、すぐに『共創を!』とはならなかったのです」(江藤)
金融各社に参画してもらうプラットフォーマーになるならば、三井住友海上のような巨大な金融系機関と組むことは、一社の"色"がつきかねない。またパワーバランスからも「いいように取り込まれるのではないか」との危惧もあった。
それでも、2021年のはじめに、江藤は共創に舵を切る。
理由はいくつかあった。
「やはり我々はITには強いけれど金融に関しては三井住友海上の皆さんが図抜けて知見がある。事前に座組とビジネスモデルを協議して進めれば、SCSK単体よりいいサービスを社会に提供できるのは目に見えて明らかでした。それに最も大きいのは……大平さんが、真っ直ぐ"正論"を言ってくれたことですね」(江藤)

何度も言い合いを重ねながら、
ビジョンと志も、重ね続けた
何度目かの両社のミーティングで、画面越しに大平氏は明言した。
『サービスにはうちだけじゃない、他の金融機関のサービスもフラットに並べたい。ユーザーの方々のことを考えたらそうあるべきだ』
「本気の志を感じた。あの言葉をしっかりといただいたことで、これは一緒にやるべきだと意思が固まりました」(江藤)
もちろん共創のゴーサインを得るまで、裏では苦労もあった。
三井住友海上側は大きく3つ。
1つ目は「やはり他社の商品を扱うのはどうか」との声があったことだ。これは大平氏が声を大にして説得したという。
「しつこいくらいに『皆さんは家族や友達に当社の商品だけを紹介するのですか?そんなことをしていたら全く信用されないし、誰も当社の商品は選んでくれない。その人に合った複数の選択肢を提示するのでは?その中に当社商品があれば『こんないい提案をしてくれたんだから』と結果的に当社の商品を選んでくれる。金融商品は差が大きくないからこそ、フラットな提案で顧客との信頼関係を大事にしなきゃいけないのでは?』と。カスタマーファーストの意思を伝え続けました」
得意の"正論"が、ユーザー目線を手に入れて力強さを増した。
2つ目は「システムの権利をどちら側が持つか」という綱引きだ。自社の持ち物にしたい気持ちが強かったが、大平氏や岩井氏は明確に「そこにこだわる必要はない」との見解だった。
「保守管理はどう考えても我々では難しい。餅は餅屋でSCSKさんにお願いするのだから、むしろシステム面は渡して、それ以外の部分でのサービスの磨き上げやアップデートに尽力するのが美しいと考えました」(岩井氏)
結局、サービスのベースがSCSKの『エフクリ』、三井住友海上はそのOEMとして『人生100年ラウンジ』がある座組となった。
その分、システム開発はすべてSCSKが負担。ただし金融面の作り込みは全面的に三井住友海上の知見が活かされているため、『エフクリ』の売上フィーは事前に決められた配分で、三井住友海上にも入るレベニューシェア型の契約となった。
3つ目は「新規事業にリソースを割いてくれる仲間が見つけにくかった」ことだ。新規事業ではよくあることだが、既存事業を進めながら、新しい取り組みに挑む必要があるからだ。
もっとも、ここで頼りになったのが、昨年から三井住友海上 個人金融サービス部の企画チーム長に就任した林慎一郎氏だった。

次長 兼 企画チーム長
林 慎一郎 氏
資産運用部門を16年経たのち、経産省に出向。その後、広報部などを経た林氏は「スタートアップ的なビジネスマインド」と「社内外をどう巻き込むか」両方の勘どころを熟知した、唯一無二の人材だった。
「大平さんは当初、真正面から周囲に『新規事業を皆が手伝うべき』『もっと協力してほしい!』と言っていました。一方、限られたリソースを活用するという制約と、確実に事業化を図るというミッションを同時実現させるためには、社内外の理解や協力を得ることが不可欠です。そういった点では、私の経験や人脈などを活かすことで、スムーズな事業化に向け多少は貢献できたのではないかと思います。」(林氏)
SCSK側も、むしろ裏側、自分たちの社内調整に苦労したという。
『やはり単独でやったほうがいいのではないか』との声が根強かったからだ。
江藤が、動いた。
「『いや。三井住友海上との共創でなければ、質もスピードも担保できません。絶対に共創の形は作れます。やらせていただきます!』と役員にタンカを切って進めましたね(笑)」(江藤)
実は江藤はこの悶着から一度プロジェクトから外されたが、すぐ返り咲き。その心意気に、チームの士気は上がったという。
「江藤さんの男気のおかげで、プロジェクトのギアが確実に上がりました。ビジネスモデルやテクノロジーも大切ですが、やっぱり情熱みたいなものが人を動かすのだなと実感しました」(福田)
頷きながら、東野はもうひとりの熱い男について語った。
「両社の窓口は、私と大平さんで行ったのですが、まあ……頻繁にいつもガンガンにやりあう感じでした(笑)。毎回、どんなに話がモメたとしても、最後は『世の中にいいサービスを届けましょう』という言葉で締める。グッときたし、気持ちを奮い立たせてくれました」(東野)
出自もカルチャーも、理念やパーパスも違う会社同士が、同じ方向を向いて並走する。何もかもが違う共創という場だからこそ、愚直なほどにビジョンを口にし、高い志を共有する。いわば「正論」を掲げ合う作業が大事だったのだろう。それがSCSK×三井住友海上の共創の"熱"になったわけだ。
そして熱は、伝播するものだ。
サービスができる前に
「導入したい」企業が現れたワケ
『エフクリ』『人生100年ラウンジ』は三井住友海上の社員に向けて実証実験をしながら、サービスを磨き上げたのち、実装された。
「共創が決まってから1年強、2022年4月にローンチしました」(岩井氏)
注目すべきは、実証実験も始まっていない2021年秋から、導入したいと打診した企業がいたことだ。大平氏が営業職の同期にプロジェクトについて話すと「そんな保険以外の切り口で提案できるサービスを待っていた」とすぐに取引先へ。当時は何の実体もなかったのでプレゼン資料だけをもって、「顧客に対しフラットな金融サービスを提供したい」と事業コンセプトを話すと、まさに熱が伝わるように、「こういう顧客ファーストな提案を待っていた」と早々に導入内定にまで至ったのだ。

ライトパーソンは方々に潜んでいる。
この共創について社内論文にした大平氏が、最優秀賞を受賞したのも象徴的だ。あれだけ正論を振りかざし、多くの敵をつくったのに、だ。
カスタマーを思い、社会のために、本当に価値あるものを届ける。そんな心意気を形にしようと走り出せば、共創ならぬ「共走」する仲間たちが現れるのかもしれない。シリコンバレーでも、東京でも、どこでも同じだ。
「半径10mの人間に嫌われようとも顧客にとって正しいことをブレずに貫き通していると、組織を超えた志の高い仲間ができる。これが私の考える"ライトパーソン"であり、その意志は後世に引き継がれる」(大平氏)
「また今回のSCSK×三井住友海上のようなオープンイノベーションが社内外のいろんな持ち場で生まれるのを期待しているし、そうさせていきたい。我々のこの火を絶やさないつもりです」(鈴木氏)
"我々"とは、SCSK×三井住友海上だけを指すのではない。
あなたも御社も、私たちも入っているのだ。

「人生100年ラウンジ」プレスリリース
三井住友海上様との共創 ~人生100年ラウンジと エフクリ~YouTube SCSK GROUPチャンネル