価値創出型ビジネスへの挑戦

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ユーザーの集合知で、日本の金融資産を守る

「次世代BankSavior」は
こうして生まれた。

メンバー

『スイミー』をご存知だろうか? 大きなマグロに身の危険を感じる小さな魚たちが、ひとつに集まって大きな魚のように見せて対抗。大海原でもおびえず、強く生きていくというレオ・レオニ作の絵本の名作である。

このお話で、他と体の色が違うため大きな魚の目の役割を担い、ひとつにまとめたのが 主人公"スイミー"だ。

マネーロンダリング(資金洗浄)、特殊詐欺、テロ資金供与――。金融機関の大きなリスクとなる不正取引を、AI(人工知能)とクラウドを活用した情報共有で防ぐ『次世代BankSavior』は、あたかもスイミーのように誕生したサービスだ。活用いただいている地銀を中心とした各ユーザーとSCSKが、知見を寄せ合い、ひとつになって生み出したものであるからだ。

一体どういうことなのか? 誕生のストーリーを、BankSaviorの専門部署である金融営業・ソリューション本部 金融ソリューション第一部 第五課のメンバーに聞いた。

お客様と共に創った、ムダなく
精緻なディフェンス手段

特殊詐欺などで不正に得た収益を、複数の金融機関に転々とさせて正当な収益に見せかける「マネーロンダリング」。その推定金額は世界全体GDPの約2~5%にも相当するとも言われる。

SCSKの『次世代BankSavior』は、このグローバルな社会課題を阻止するため、各金融機関のシステムに配するサービスだ。

機能とシステムは3つに分かれる。

1つ目が「BankSavior Filter(フィルター)」だ。金融機関の顧客情報を照合して、反社会的勢力や経済制裁者に該当していないか、各国の公的地位にある要人ではないか(PEPs)、などをチェックして"フィルタリング"する。

2つ目は「BankSavior ScoreBoard(スコアボード)」。前工程の「BankSavior Filter」でチェックされた情報や顧客属性をもとに、マネーロンダリングのリスクを点数化して、4段階のリスク評価に振り分ける。

最後の3つ目が「BankSavior Monitor(モニター)」だ。BankSavior ScoreBoardのリスク評価を踏まえ、疑わしい取引がないか取引内容をモニタリング。不正を認識した場合は、顧客対応や当局に届け出るわけだ。

『BankSavior』概要図

『BankSavior』概要図
赤坂 武彦
金融営業・ソリューション本部
金融ソリューション営業部 金融ソリューション第一部
赤坂 武彦

「マネーロンダリング対策の国際機関であるFATF(金融活動作業部会)が各国に促してきたリスクベースアプローチというスキームに従ったシステム。最大の特徴はメガバンクだけではなく、地銀や信用金庫といったリソースの限られた金融機関にも精緻な対策をしていただけていること」と『BankSavior』の全体統括を担う赤坂武彦は言う。

「クラウド化とAI活用に踏み込むことで、さらなる高度化を実現させました」
(赤坂)

通常、こうしたマネーロンダリング対策システムは自社のサーバーで管理運用するオンプレミスが主流だった。しかしクラウド化してSaaSにしたことで、利用各行の情報共有を可能とし、さらに導入コストも下げられた。

『次世代BankSavior』は個人情報には当たらない統計情報を共有化する仕組みを取り入れた。将来的には他行が手に入れた新たな不正手口や、検知ルールの情報などを共有することで、利用各行のノウハウ向上に貢献し、さらにAIが、各行のモニタリング結果を教師データとして学習することで、精度の維持・向上を図ることを考えている。

こうした検知精度の向上やノウハウ共有のコンセプトが支持され、ローンチ1年目にもかかわらず、『次世代BankSavior』はすでに16社(2022/8現在)で採用されている。オンプレミス型とあわせれば、地方銀行を中心に80社以上が『BankSavior』を採用し、国内トップクラスのシェアを得ている。

高橋 航大
金融営業・ソリューション本部
金融ソリューション第一部
高橋 航大

「うれしいし、誇らしい」と2021年入社し、金融ソリューション第一部の中で『BankSavior』部署ともいえる金融ソリューション第一部 第五課で同システムの導入を手掛ける高橋 航大は胸を張った。

「特にお客様と一緒にサービスを創り、磨き上げていく共創を形にしたのが、『次世代BankSavior』ですからね」(高橋)

赤坂が言葉をつなぐ。

「加えて言うと感慨深い。その共創も10年以上前に始めて今も続くユーザー向けの"情報交換会"、ここで得たユーザーとのリレーションシップが礎になっていますから」(赤坂)

この情報交換会を軸にした共創こそが、『次世代BankSavior』とスイミーの物語の交差点である。

ユーザー情報交換会の様子 ユーザー情報交換会の様子
 

「日本の対策は、
求めるレベルに達していない」

『BankSavior』の歴史は古い。誕生は2005年。当時、盛んになり始めた「振り込め詐欺」の対策システムとして、不正な取引をモニタリングする「Monitor」部分だけをリリースした。

SCSKの戦略的なプロダクトでもあった。

マネーロンダリング対策は、その当時からメガバンクはすでに海外のシステムをスクラッチで導入済み。しかし資金も人員もメガバンクに比べて少ない地銀は、コスト面で導入に尻込みする銀行が多かったからだ。

「一方で、その当時メガバンクの案件はありましたが、地銀へのチャネルがほとんどありませんでした。そこでドアノック商品として『BankSavior』を掲げ、2008年頃から営業をかけたのです」(赤坂)

もっとも当初は鳴かず飛ばず。年間1~2行採用されるか否かといった程度でしかなかった。理由は明白だった。『BankSavior』のようなマネーロンダリング対策は直接収益につながるようなシステムではないため、投資の優先順位が常に最後尾にされていたからだ。日本語の壁が、天然のファイヤーウォールになっていた面もある。特殊詐欺のきっかけのひとつであるメールは、巧みな英語も日本語になると違和感のある文体が多かった。

「要は多くの金融機関が、まだそこまでリスクヘッジする必要性を感じづらかったのです」(赤坂)

ただ導入企業が少ないからこそ、すでに採用いただいているユーザー企業によりじっくりと向き合うことができた。他パッケージソフトでも導入後、実際に使われていない機能があったり、サポートに不満を抱かれていたりし、リプレイスされる例も多かったためだ。

そこで2010年から始めたのがユーザーを集めた年2回の"情報交換会"だった。当時8行ほどだったユーザーの担当者を招き、最新の金融犯罪に関する情報や業界動向などを各社で持ち寄り共有。同時に各行がどのように『BankSavior』を活用し「どのように疑わしい取引をモニタリングしているか」「どう判断しているか」といった知見を共有する機会をつくった。人的リソースに限りある地銀ユーザーを、情報交換会を通じた"集合知"によってフォローしたわけだ。

「普段、他行と交流する機会の少ない地銀の方々にとって、情報交換会は今も貴重な場と感じていただいています」と言うのは、情報交換会では『BankSavior』の操作説明についてファシリテーターをつとめる金融ソリューション第一部 第五課の岩﨑 瑠依だ。

「マネーロンダリング対策は競争領域ではないからこそ、ユーザーの方々同士はオープンに知見を共有しやすい」(岩﨑)

こうして少しずつSCSKを中心に、各地銀が知恵を結集していった。スイミーが目となり、小さな魚が集まり、大きな魚になるように、集合知が形になろうとしていた。

岩﨑 瑠依
金融営業・ソリューション本部
金融ソリューション第一部
岩﨑 瑠依

とはいえ、アフターフォローが充実したからといって、劇的に導入企業が増えるとは限らない。前出の「Filter(フィルター)」機能を追加するなどの動きはあったが、相変わらず『BankSavior』は年1~2行ほどのユーザーが増える程度だった。

潮目が変わったのは、2015年前後だ。

『日本の対策は求めるレベルに達していない――』

2013年にFATFが名指しで、日本の金融機関のマネーロンダリング対策の脆弱さを批判。金融当局もこれを問題視し、地銀を含めた金融機関にマネーロンダリング対策の徹底を強く求めるようになったからだ。

この頃から、パッケージソフトであるため、安価にマネーロンダリング対策ができる『BankSavior』の引き合いが急激に増えた。2015年だけで7行が新規ユーザーに。2016年には15行が…と急角度でユーザー数が増えたのだ。

しかし、同時に課題も見えてきた。

「当局が求めるマネーロンダリング対策"リスクベースアプローチ"に沿った形にまだ添えていなかった。より強固な対策が図れるように『BankSavior』をアップデートさせる必要があったのです」(赤坂)

次世代BankSaviorは、このとき動き始める。

 

手探りのアジャイル開発と
長年のユーザー情報交換会で得た、高い視座

菊池 青史
金融営業・ソリューション本部
金融ソリューション第一部 第五課長
菊池 青史

アップデート、最初のピースは「BankSavior ScoreBoard(スコアボード)」だった。

先述通り「BankSavior Filter(フィルター)」での判断結果や顧客属性をもとに、マネーロンダリングのリスクごと4段階に格付けするパッケージソフトだ。

開発のため2018年の夏にアサインされたのが、いま金融ソリューション第一部 第五課長を務める菊池 青史。「手探りでしたね」と振り返る。

「国内で同様のソフトが存在していなかった。それでいて、1stユーザーと2ndユーザーがすでに決まっていましたからね。当局のガイドラインとユーザー2行の要望を汲み取って、試行錯誤してモックアップをつくり、またすり合わせて……と」(菊池)

玉田 悠太
金融営業・ソリューション本部
金融ソリューション第一部
玉田 悠太

振り返れば、SCSKとしては初めてのアジャイル開発となった。菊池に呼ばれて「Score Board(スコアボード)」の開発メンバーに抜擢。今も『次世代BankSavior』の技術面でのコアメンバーである玉田 悠太は言う。

「実はこのスコアボードをアジャイル開発で進めるうえで、大きなヒントを得たのも"情報交換会"でした」(玉田)

菊池に先立ち、2015年から金融ソリューション第一部 第五課にジョインしていた玉田は、当然、年2回の情報交換会でファシリテーターを務めていた。そこでは「各行がどのようにリスクを設定しているか」のルールを共有することが多々あったからだ。

「自然と『こんな条件でリスク設定できたら便利だ』『こんなパラメーターで設定したい』といったリアルな声を拾える。大いに参考にさせてもらいました」(玉田)

こうして使い手であるユーザーに寄り添う形で作られた「BankSavior ScoreBoard」は2019年に完成。「BankSavior Filter」「BankSavior ScoreBoard」「BankSavior Monitor」の三位一体でマネーロンダリング対策ソリューション『BankSavior』が完成した。

完成と前後して、3つのソフトをクラウド化してSaaSにする"次世代BankSavior"へのシフトも動き始めていた。

玉田が最も頭を悩ませたのは、このクラウド移行だったようだ。

「AWSの知見を持つ人間が、当時はまだそれほど多くいませんでしたからね。これも社内の有識者のもとに足繁く通いながら、学び、手探りでつくった。ただ、何よりのハードルとなったのはセキュリティ面でしたね。オンプレミスではデータは各行の手元においていましたが、クラウド化するとこちらが触る必要がありますからね。金融機関はこれほどまで細かにセキュリティチェックしているのか、と心底驚くほどでした(笑)」(玉田)

ユーザー情報交換会の様子ユーザー情報交換会の様子2

加えて、次世代化するタイミングで、最も古くなっていた「BankSavior Monitor」をフレームワークから改修する作業も進めていた。

実はこの改修でも情報交換会の存在が際立つ。金融ソリューション第一部 第五課全員がファシリテーターなどで全員参加しながら、情報交換会で聞いた「お客様の声」を保存してきた。100以上にも及ぶ「追加機能の要望」を玉田らが精査。40ほどの要望を、新たに実装したからだ。

「本当に10年以上前から情報交換会、そして回を重ねることで積み上げてきたユーザーの皆さんとのリレーションと知見は私たちの財産です。要望を取り入れて次世代化を進めたことで、既存のお客様の満足度も上がったし、新規のお客様にも使い勝手の良いサービスに磨き上がられましたからね」
(赤坂)

実現したクラウド化は、さらにその磨き上げを高みにつれていきそうだ。

各行が『BankSavior』でどのように活用して、不正取引を防いでいるか。スコアボードをどのように設定して、格付けしているのか。どんな新しい脅威が見つかっているか。それを匿名情報にして活用。ユーザー全体の使い勝手と、不正対策の精度を上げていく。先に述べたように「共同利用」型の仕組みの実装を準備しているからだ。さらにそこにAIまで活用していく。

いわば、これまで情報交換会というリアルの場で行われてきた、ユーザーの知見の集積がクラウド上でごく自然におこなわれていくわけだ。

加えるならば、プロジェクトに参画するメンバーの磨き上げも尋常ではないようだ。2020年入社。「受注業務ではなく、パッケージソフトの開発に携わりたい!」と希望して金融ソリューション第一部 第五課に配属された松田 充基は「言葉を選ばずに言えば、日々、ストレスでした」と笑う。

松田 充基
金融営業・ソリューション本部
金融ソリューション第一部
松田 充基

「開発にも携わりましたが、入社1年目から導入も改修も機能説明も、また情報交換会の準備やファシリテーションまで何もかも挑戦してきましたからね(笑)。ただ、そのおかげで誰よりも短期間に幅広い経験を積ませてもらい、高い視座でストレッチできていると実感している。それをさらに『BankSavior』、そしてお客様に還元させていきたい」(松田)

『BankSavior』はこうしてユーザーとサービス提供者が渾然一体となって、完成度を高めてきた。目指す高みは、またその先だ。

「国内シェアを伸ばして、マネーロンダリング対策のデファクトスタンダードにまでしていきたい。さらにその先は、世界にまで足を踏み出したいですね」(赤坂)

共創と挑戦は続く。

「求めるレベルに達していない」と言われた日本の地位を逆転させるべく、これからも進化を続けていく。